アザトース賛




 巨大なる獣はウェル・シンバである。

 彼は銀河よりも長き角を

 6千と6百、頭に頂き、

 その咆哮は宇宙の隅から

 隣の宇宙の端まで鳴り響くと言う。

 だが、あぐらをかく神

 シールデ・ハン・グヴァは

 でっぷりと太り、

 その厚く温厚な掌は、

 ウェル・シンバの百頭の群れが

 やがて増えゆきて、

 万の群れになってもなお、

 一頭もその端に至ることはない。

 だが、いと長き腕を持つ

 バルグ・ゴンズは

 シールデ・ハン・グヴァが伸び上がり、

 その巨体を揺るがし、

 いくつもの宇宙を破壊しながら、

 大いに喚き騒いだとしても、

 彼にとってはノミかダニが

 飛び上がっているようにしか見えるまい。

 いと長きハルグ・ゴンズの腕は、

 彼の体の数千倍の長さをもつ。

 しかし、その端から端まで、

 我ら人類が歩き切った時間を一秒として、

 百億年の寿命を持つ鳥の神、

 スーセル・ファンバにしてみれば、

 ハルグ・ゴンズの五千を超える眷属が

 おのおの手をつなぎ、

 その腕を引きちぎれんばかりに伸ばしたとしても、

 スーセル・ファンバのくちばしのはもちろん、

 羽毛の最も細い部分すら

 取り巻くことすら出来はしない。

 だが、スーセル・ファンバが

 その長い長い、悠久の一生を、

 その偉大な翼で、

 全力で飛び抜いたとしても、

 宇宙竜、サスラステファンの

 卵から生まれたばかりの。

 目も開かぬ幼獣の鱗の半径すら、

 飛び行くことは適わない。

 だが、そのサスラステファンが、

 七千と七百と七十と七回、

 一度脱皮するごとに

 倍の長さになり続けて、

 成獣となってなお、

 一度に五倍の長さになる脱皮を、

 八万と八千と八百と八十と八回、

 繰り返したとしても、

 狂おしき超神、

 アーサラ・マーサラの、

 眉毛にすら、

 満ちることは無い。

 このような比較を何千、

 何万と繰り返した果てに、

 沸騰する混沌の核、

 偉大なる魔王アザトースが、

 ゆったりと幽閉されたその場所、

 白痴で盲目の従者たちが、

 心地よい狂気に浮かれ踊るその場所、

 幾重にも折り重なった

 時空の門と比較することが出来る。

 だが、聞け、人間よ。

 それはまだ、

 彼の王都の外の、

 小さな小屋の扉にも等しく、

 最も卑しい者ですら

 恥じて入らぬほどの、

 つまらぬ窓でしかない。

 そして、肝に命ずるが良い。

 束の間の夢を見る

 魔王アザトースの

 汚らわしき玉座まで

 たとえ辿り着けたとしても、

 王の投げかけた、

 有害極まりない一瞥すら、

 広大極まりない、

 王都の全てと、

 王都の最も端から、

 最も背の高き神が見渡せた、

 全ての場所を焼き払い、

 沼地にし、

 二度と命が生まれ得ぬ、

 呪われた荒野にしても、

 なお、余りある、

 と言うことを。





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