後背位




「後ろから、して。」

 彼女はそう言うと、くるりと背を向けてベットの上に倒れこむ。

 僕の愛撫で一度絶頂に達した彼女の体はうっすらとピンク色に染まり、 汗ばんだ皮膚はメッキでもされたように鋭い光沢を放っている。 彼女はゆっくりと、自分の両足を広げながら同時にその小高い尻たぶを 僕のほうへと突き出してくる。

 両膝だけで体を支えているので、彼女は自分の大切な場所を 僕に向かって捧げているかのような錯覚を覚えてしまう。 事実、普段は小鳥の巣の様にささやかに鎮座しているはずのそこは 決壊した堤防かダムの様にトロトロと愛液を垂らしている。

 丸く整った彼女の秘所。ふっくらとしたその部分が 真っ赤に腫れ上がって僕が入ってくるのを待っている。 じっと見つめていると手招きをされている錯覚に陥ってしまう。 鼻に来る匂いに僕の頭はクラクラする。

「はやく・・・」

 彼女のオブジェの様な美しさに思わず、 ややかすれ気味の声が催促するまで見とれてしまっていた。 着やせする彼女のスタイルのよさを眺めることは僕の特権であるが、 後ろから、下から見上げる形で彼女を見るのは初めてだったからだ。

 愛らしい彼女が震え始めたので、僕は彼女の臀部に顔をうずめた。 彼女の尻は大きく、両の手では掴みきることが出来ない。 辛うじて細い腰と繋がっていて、痛々しいぐらいだ。 力を加減して、痛くない程度に揉んでやる。丹念に、そしてじっくりと。

 しなやかなパーツが動き始める。腰を中心に彼女の身体がうねるのは 彼女が感じてきている証拠である。僕は顔を双殿に埋めたまま彼女の菊座に舌を這わせる。 洗ったばかりのすぼまりは決して汚らわしいものではなくて、 不思議なぐらい懐かしい感じがした。

 丸く放射型に広がった皺をなぞるように舐めてやると 両頬を挟む尻たぶが揺れて心地良い。少しだけ湿って、強く弱く収縮している。 そのタイミングだ。彼女の肉体が、普段彼女を支配している理性という仮面に 真っ向から反逆している。貞淑で凛とした彼女が淫らに狂う様は良い。

 ぽってりと膨らんだ花弁へ唇を近づけていく。彼女の身体が緊張していくのが分かる。 だが、期待しているだろう所を素通りし、内股にキスをする。それはそれで、 彼女の喜びになるのだろうが、強い刺激を求めてやまない彼女は腰を動かして、 僕の唇を求めてくる。

「やん・・・ぃやぁ・・・」

 彼女の懇願はいつ聞いても良い。また肛門に戻ったり 膝の辺りを指で突付いたり、骨盤のおうとつに掌を押し当てたりして 散々、焦らしてやる。彼女もそれを望んでいるのだ。 そのほうが気持ちよくなることを彼女の身体が知っている。

「やっ・・・はやくぅ・・・はやく舐めて・・・」

 まんじゅう、なんて呼び方もあるそこはほかほかと出来たての湯気が立ち上るようだ。 人差し指と親指で優しく摘むとむしろ餅の様な手触りが楽しめた。 僕の好きな感触が手の中一杯に広がっていく。 玉門なんて呼び方もあるが、言いえて妙だ。 肉の玉、その内部は暗く薄く、石に近い光を放っている。

「んぁーん んん・ん・んん・・・あぁんー」

 くぐもった、それでいて切ない泣き声が聞こえてくる。 僕は彼女が欲しいところを知っている。プルプルした指触りの意外に大きな襞を 耳たぶの様に玩ぶと彼女の身体は意外なほど大きく痙攣する。

 指を彼女の湿った洞窟へと進入させる。何処に何があるか知り尽くしつつも 僕をひきつけて止まない秘密の場所。僕だけの甘い楽園。 コンコンと湧き出す快楽が僕の指を、手を濡らす。 彼女の声が掠れてくる。もう、耐えられなくなって来たのだ。 よく我慢したね、偉いね。僕は愛情を混めて下の口にキスしてやる。

 ビクン。彼女が魚の様にはねる。シーツは彼女の海、彼女の草原、彼女の宇宙。 彼女はゆらゆらと漂う。僕が与える口つけは最初は優しく、次第に強く。 洞窟は溜息をつきながら僕の唇を貪る。お返しに僕の鼻を濡らしている赤いルビーをついばんでやる。

「あっ! やっ・・・いやっ・・・」

「嘘吐き。」

 酸っぱい、雌の味だ。しかも最高の雌。僕の前では彼女は一匹の獣。 手の負えないじゃじゃ馬、手ごわい女豹、しかし僕は雄だ。 彼女を今から散々に、泣き喚かせてやるのだ。 後悔するぐらいに、女であることを思い知らせてやるのだ。

 僕は体を起こして、僕の息子を彼女の娘に付き合わせる。 粘度の高い彼女の愛液と弾力のある襞の感触を確かめ、 彼女の腰を両の手で抱き寄せる。彼女の身体が再び緊張する。

「入れるよ。」

「・・・来て・・・あっ・・・」

 ぐっと腰を入れる。僕の身体が彼女を貫いた。 その瞬間に思わず出しそうになってしまうのを、歯を食いしばって堪える。 指を潜らせるだけで快感を生じるそこに僕の一番感じる部分を差し込んで 感じないわけがない。指の何倍もの愉悦が綿飴の様に絡みついてくる。

 僕は意識を外に向ける。目に映るのは彼女の裸体。 シーツを掴む腕が体を支えて這いつくばった彼女の背中は見事なほどにしなっている。 枕に顔を埋めて、彼女の表情は伺うことは出来ない。 彼女の暖かさに溺れないうちに、僕は身体を動かした。

「はっ、うん・・・はっ、うん・・・」

 彼女の身体が、リズミカルに振動する。 僕が肉棒を突き入れると彼女は形だけの抵抗を行う。 そして引き出す段になると彼女はしっかりと僕を捕まえて 出さないように吸い付いてくる。

 その度に僕の背筋がゾクゾクと凍える。 彼女が与えてくれる快感はもちろんのこと、 僕が与えている快感に彼女が酔っていることを考えただけで 僕は更なる高みへと彼女を誘いたくなる。 回すように、捏ねるように、彼女の壁に僕自身を擦りつけていく。

 いつもと当たるところが違う。体位を変えることで子宮の場所が動くらしい。 浅く深く、僕は進出を繰り返す。いつもと違う刺激が僕と彼女にもたらされる。

「ぃっ・・・きもちいぃ・・・ん・・・」

 彼女は会社では有能なOLとして、周りから一目置かれている。 そんな彼女の、恋人という関係でなければ見ることの出来ない痴態。 僕を信用しているから乱れることが出来るのだと語ってくれたことがある。 だから乱れさせてやる。出来るだけ激しく、僕を楽しませるほどに。

「突いて・・・もっと強くッ! んっ!」

 彼女が叫ぶ。少しタイミングをずらしたほうが良い事を僕も彼女も知っている。 期待通りでないことが期待通り。彼女の内股に力がこもった。 尻の筋肉が愛しいぐらい引きつっている。

 女の性感がいかなるものか、僕にはもちろん想像がつかない。 前に訊いてみたこともあるが、あまりに気持ちよくて自分でもよく分からない、と言う。 しかし、彼女の膣の熱や濡れ具合、そして微妙な動きが彼女の言葉を代弁する。

「ま・・だァ・・・まだ・・・ダメ・・・いや・・・」

 脈絡の無い言葉を彼女は紡ぐ。理論だった彼女の思考は、 僕がこうしているだけで前後不覚に落ちっている。 バラバラに成りかけた彼女の夢心地の呟きに、 思わず唾を飲み込んで、僕は自分を落ち着かせる。

「もちろんさ。君が耐えられなくなるまで・・・」

 彼女の鍵穴で僕が少し鍵を手繰ってやれば彼女は今にも開かれる。 だが、僕はまだ開くつもりはない。もっともっと狂って欲しい。 そしてもっと狂わせて欲しい。それまではお預けだ。

 シーツに押しつぶされた胸に手をやると擦れ合った摩擦と 僕が送り込んでいるピストンの熱とで熱く滾っている。 脂肪が燃焼されて、胸が小さくなってしまうのではと勘ぐってしまうほどだ。 彼女の中のぬくもりも、いつのまにか火傷をしそうなぐらい 坩堝の様に僕を熔かして行く。もちろん、彼女自身も融けているのだ。

「いやぁん・・・すごぃ・・・すごいよぉ・・・」

 鼻に掛かった声が僕の理性を少しずつ薄れさせる。 どんなに激しく動いても彼女は僕を咥えたままなので、 自分でも驚くほど強く僕は彼女を責めていた。段々ピッチが上がっていく。 彼女が僕にぶつかってくる強さも速さも、段々度を越してくる。

 そんな時 ふと、彼女を壊してしまうのではないかと不安になる。 彼女が絶頂に達した後、正気に戻らなかったら。そんな恐怖が脳裏を過ぎる。 だがそれもほんの刹那。僕は自分の行為に埋没する。 彼女もそれを望んでいるはずだ。

 僕は彼女の感じやすい突起に指を這わせた。二本の指で挟んでやる。 溢れかえった彼女の液体で滑っているので遠慮は要らない。 腕を動かす必要すらない。ぶつかり合う肉体は大きく揺らぎ続けているから。

「もぉぉ・・・イくぅっ・・・イッちゃうぅぅ・・・」

 うわ言のように繰り返される何度も聞いた言葉。 どうしてこうも、耳に心地よいのだろうか。 その言葉だけで達しそうに成るのはどうしてだろう。

 僕ももう、限界が近い。頭痛に似た圧迫感に身悶えするほどだ。 それでもなお、高みを目指して僕らは進む。 もう焦らす必要はない。真っ直ぐにゴールを目指す。

 肉棒を伝って彼女の汁が太ももに流れていく。 その滴に気を取られた瞬間。僕の下半身は燃えるような衝撃に貫かれた。

「うぅっ!」

 一瞬の衝撃は脊髄を伝って脳へと逆流する。 十分昂ぶった圧力が脳の中にガツンとぶつかった。 気絶しそうな程の力が閃光となって弾け飛ぶ。

「うあああああっっっっ!!」

 少し遅れて彼女が反応した。ぎゅっ、ぎゅっと僕自身を抱きしめる。 彼女は僕を受け入れた。まるで彼女の中に、僕の全身が包まれているようだった。 彼女と僕の心が交差する。今同じ気持ちに居る。僕は彼女に、僕の全てを吐き出していく。 彼女は洩らすことなく、全てを吸い込んでくれる。

「はぁ・・・ふぅ。」

 僕は少し小さくなった息子を引き抜いて、彼女の横に倒れこんだ。 そして、彼女を抱きしめる。身体を密着させたまま、顔にかかった髪の毛をかきあげてやると、 少し潤みがちな瞳と目が合った。全てを開放しきった満足な表情だ。それを見ると僕も嬉しくなった。

「好き・・・」

 僕の両腕に手を回し、彼女はそっとそう呟いた。
 今夜もよく、眠れそうだ。


???