後背位 〜Another Side〜




「後ろから、して。」

 私はそう言うと彼に背を向けると、純白のベットに倒れこんだ。

 フワリとしたお布団の中、彼の愛撫でイかされた身体は普段よりも敏感になって、 彼がどんな顔で私を見ているのか、それすら感じ取れるように錯覚する。 私の心も、普段よりももっと大胆になっているから自分でも卑猥じゃないかと 思うぐらい腰をくねらせて彼を誘う。

 私は彼に良く見えるように高らかに私の中心を差し出した。 私の壷は傾いたから、そこから蜜が流れつづけている。 彼がさっきまでずっと触っていてくれていたから。 彼だけに捧げる、私の宝物。

 私は手入れを忘れない。デートの前は念入りに心と身体を磨いておく。 彼が一番好きなその部分は特に念入りに。 見られ、触れられ、そして挿れられる部分。私の一番大事な場所。 彼が見ている。パクパクと開け閉めしている入り口をじっと見つめている。 彼の吐息が早くなるのを感じる。

「はやく・・・」

 でも、堪え性の無い私は急かしてしまう。 視線の愛撫も感じるけれど、やっぱり彼の肉体が良い。 よく鍛えられた彼の身体に翻弄されたい。彼の肉のパーツで、つき壊されたい。 私の、まだ見たことの無い角度に、彼の息遣いが荒くなっているのが分かる。

 震えてきた私のお尻に手が触れて、それだけでも ビクンと反応してしまったのに彼の顔が割れ目に収まっていく。 恥ずかしい、そう思う間もなく力強い指先が私の肉に食い込んでいく。 ゆっくりと私の恥ずかしい部分を揉みほぐしていく。

 私の体が、私の意識から抜け出していく。 期待が次第に実感になって、待ちきれなくなった体がうねり始める。 腰の辺りがむずむずとして、じっとしていられない。 でも、彼はお尻の奥へと進んでくる。私の、入れるべきではない方の穴を、 彼の舌が這っていく。汚いのに・・・そう思いながらも、私は彼のサービスで優越感に浸って行く。

 彼の愛撫は、私の見えない部分をの襞に沿って、じっくりと繰り返される。 お尻に力が入って、彼の頬を挟んでいるのが分かる。この感じ、このタイミング。 私の中で、普段は隠しているはずの感情が少しずつ沸き立ちはじめる。 獣の心。私の中に居る淫欲の野獣が、私という理性へ噛み付いてくる。

 彼は私の丘に咲く、薔薇の花弁へと近づいていく。まるで蜜蜂の様に、 私は彼を受け入れられるように、身体を預けようとする。 ああ、でも、いつもそう。いつも彼は別のところへ留ってしまう。 そこじゃないのに、そこは違うのに・・・。 獣に取り込まれかけた私は、腰を揺すって彼を促す。

「やん・・・ぃやぁ・・・」

 お願いの声が零れてしまう。でも彼は、別の穴へ潜り込もうと位置を変える。 無防備の下半身は、全て彼のもの。彼は私の身体で遊ぶ。 私の心はそんなことは望んでいないのに、私の身体は、そうされることを望んでいる。

「やっ・・・はやくぅ・・・はやく舐めて・・・」

 私の心は待ちきれなくなって、恥ずかしい言葉も平気で口にしてしまう。 彼はその言葉を待っていたかのように、熱を帯びたソコに触れる。 私の頭に電気が走る。意地悪く、御餅でも捏ねるように、それがどれほど私を狂わせるか 知らないかのように、彼の掌が私の全てを包んでいる。

「んぁーん んん・ん・んん・・・あぁんー」

 泣くしかなかった。声のトーンが上がっていくのを抑えることが出来ない。 彼が私のスイッチに触る。私を人から、獣に変えるスイッチ。 もう戻れない、彼がイかせてくれるまで、私は電気椅子に座る囚人の様に声を張り上げるしかない。 彼は私の、もう一つの唇を耳たぶの様に、プルプルと玩ぶ。 それは腕まで突き抜ける電撃になって、私の体が痙攣する。

 彼の指が、私の胎内へ入っていく。とめどなく溢れてシーツを濡らしてしまっている。 いつもなら恥ずかしくてこのまま外に出てしまうかもしれない。 でも、もっと、私の中で欲望が膨れ上がる。頭がガンガン打ち付けられるようで、もう声が出ない。 私の全身がぎゅっと浮かび上がった。彼が私の下の唇にキスしたのだ。

 体が跳ねる。白いシーツが波の様に、風の様に、宇宙の様に、私を包み込む。 優しい彼のキスが私を漂わせる。熱っぽくなった下半身が、かってに息づいて行く。 そして、彼は私の中心の突起をついばんだ。

「あっ! やっ・・・いやっ・・・」

「嘘吐き。」

 彼の前では私は仔猫、どんなに抵抗しても、彼の前には折れるしかない。 それでもいいのだ、彼は幾らでも甘えさせてくれる。 私は幾らでも反撃していいのだ。彼は私を、屈服させることを望んでいる。 女である悦びを教えてくれる。

 彼は、私から離れた。いよいよだ。彼は私の入り口に、彼のジュニアを押し付ける。 逞しい彼の子供、そう、来て、私の中に戻って来るの。 彼の手が私の腰に回る。彼とは何度も肌を重ね合わせているけれど、 このときはいつも、緊張する。

「入れるよ。」

「・・・来て・・・あっ・・・」

 彼が私に潜り込んだ。みぞおち深くまで、その衝撃が木霊した。 私は枕に顔をうずめて、それに耐えた。それだけで行ってしまいそうになっていた。 彼のペニスが脈打っている。それが私の中にある襞に絡んで、 甘い愉悦になって全身に運ばれる。

 私はシーツを掴んで、身体をしならせる。彼も私を見ているのだろう。 表情が見透かされているような不安。快感に歪む私の顔を、そんな風に見透かさないで。 彼は本当に私の心を読んでいるのかもしれない。彼は私が望んでいる、次の動作に移った。

「はっ、うん・・・はっ、うん・・・」

 彼の肉の楔が、一度取り出され、そしてまた、私を貫く。 抵抗する私の傷穴を抉り出し、そしてまたねじ込まれる。その繰り返し。 でも、そこにあるのは苦痛ではなく、焼けるような快感。 愛しくて放したくなくなる、彼の分身。

 その度に、私の心臓は熱く鼓動する。熱い血が、全身に流れていく。 彼もまた感じているはずだ。それを思って、また血が騒ぐ。 連れて行って、もっと高くまで。彼は私の洞穴を、存分に味わっている。

 いつも、当たらないところに当たっている。体位を変えると、当たるところも違うみたい。 いつもと違う感じが、私と彼、二人で分かち合っていることに気がついて、 嬉しくて少し、涙が零れた。

「ぃっ・・・きもちいぃ・・・ん・・・」

 会社では、少し堅物で通っている彼が、私の前では狼になる。 私の裸に興奮し、息を荒げて、突進してくる。とても可愛い。 そして、彼の前では、私も従順な羊になれる。 だから乱れさせて、できるだけ激しく、私ともっと繋がって。

「突いて・・・もっと強くッ! んっ!」

 叫び声の後、少しタイミングがずらして彼が突いて来る。 そのほうが、気持ちいい。彼は私以上に、私のからだを知っている。 少し悔しいけれど、嬉しくもある。次第に高まってくる圧力に、 知らずに力が篭っていく。目の前がチカチカし始める。

 男の性感がどんなものか、私にはわからない。 以前、彼に聞いたところでは、それほどいいものではないらしい。 でも、それよりも、私が感じているところを見ているほうが、彼は好きらしい。 彼も感じている。彼の手に汗が滲んでいるし、指先に力が篭ってきている。

「ま・・だァ・・・まだ・・・ダメ・・・いや・・・」

 私の頭に浮かんだ言葉は、溜息と一緒に吐き出される。 そこには私の考えは無い。感情と共に現れる、それは呪文。 彼を恋しく思う気持ちが、まだ弾けてしまわないように、気持ちを結びつける為の言葉。 彼はこのときの私の声が、一番好きらしい。

「もちろんさ。君が耐えられなくなるまで・・・」

 彼の声を聞くと、少し安心した。でも、その声は私をもっと狂わせるもの。 覚めやらぬ熱狂へと駆り立てるもの。それまで彼は、いかなる手段も使ってくるだろう。

 シーツに押し付けていた胸に、彼の掌がもぐりこんで来た。 熱くなって、汗だくのそこは、暖かいはずの彼の手さえ、冷たく感じる。 もう、何をされているのかも分からない。ただ、私の中の激しさが増していくだけ。 彼が起こす熱が、私をどんどん溶かしていく。

「いやぁん・・・すごぃ・・・すごいよぉ・・・」

 彼のピッチが上がってくる。彼の冷静さが少しずつ崩れていく。 荒々しく、私にぶつかってくるのを、同じペースで受け止める。 もう動くしかない。もう少しでゴールできるマラソンランナーの気分だ。 早く、楽にして欲しい。早く、壊して欲しい、何も残らないほどに。

 以前は、イくのが怖かった。壊れたままになったらどうしようと、 本気で考えたものだ。でも、今なら、どうなっても彼が守ってくれる。 絶対に彼を信じられるから、私は彼の前で果ててしまって、 全てを曝け出すことができるのだ。

 ふつふつと燃え上がる私の性感に拍車がかかった。 彼が、私の中心に、また指をはわせたのかもしれない。 もう彼が何をやっているのか、自分の感じ方から推測するしかない。 でも、もうそれも出来なくなってきている。

「もぉぉ・・・イくぅっ・・・イッちゃうぅぅ・・・」

 馬鹿みたいに同じ言葉を繰り返してしまう。 馬鹿になってしまっているのかもしれない。声を上げること自体に快感が走ってしまう。 からだも何も吹き飛んでしまいそうだ。

 彼はまだ、動きを止めない。そして私もまだ、絶頂には達しない。 もう一歩、その足取りが重い。そしてこの感覚が、好き。 でも、もう少しだってことは分かる。

 喘ぐ、ただひたすら喘ぐ。口から唾が、目から涙が、そしてアソコからは 蜜が垂れ流しになっている。声も何もかも、私から出て行ってしまう。 後は心だけ、全ての門が、彼の鍵で開かれようとしている。

「うぅっ!」

 彼の呻き声と同時に、私は彼の熱い迸りを私の一番奥で感じ取った。 私の中の液体と、彼のエキスが混ざり合って、私の中で爆発した。

「うあああああっっっっ!!」

 その勢いで、私は高みへと押し上げられた。ふわふわした、真っ白な世界の中に私は放り出される。 ほんの刹那、彼のペニスが見えた。私はペニスにしがみ付く。ぎゅうっと、恋しさの余り、抱きしめる。 彼と私の心が交差する。今、同じ気持ちに居ることを実感する。 彼の吐き出した思いを、全て、あますことなく受け止める。

「はぁ・・・ふぅ。」

 彼の声が聞こえた。いつの間にか私の横に来てくれた彼が、髪をかきあげてくれている。 彼の優しい瞳と、目が合った。私を慈しんでくれる、満足げな表情。 一仕事したあとの、喜びの表情。それを見ると私も嬉しくなった。

「好き・・・」

 私は彼の両腕に手を回して呟いた。好き、好き、大好き。
彼の愛に包まれて、私はすうっと、深い眠りに落ちていった。


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