四時間目:自慰




 鳴き声というか、泣き声と言うか、周りから聞こえてくる得も言われぬ切ない声に新里響子は目を覚ました。三時間目の数学がかっるくてそのまま寝入ってしまった、と言う事は分かったが、今の状況を把握するには、少し余計に時間がかかった。

「ゲッ!?」

 今日日の女子高生らしいといえばらしいが、はしたない声をあげてしまう。いや今日この声がはしたなかったら、目の前に広がっている光景と音声を表現する事が出来ない。聞こえていたのは自分以外の全員のクラスメイトたちの喘ぎ声であった。

 桐沢女園、3−Cの学友達は皆机の上に思い思いに横たわり、思う様自らの身体を貪っている。制服の上をすっかり肌蹴ている人もいれば、上は全く着崩れてないものもいる。しかし、パンティはみな、足首に引っ掛けていた。汗と女の匂いが教室中に満ち溢れていた。

―どうせヤルなら、椅子に座った方が―

 全く変な方向に頭が働いた。誰も彼も、自分自身に埋没していた。自らが自らの身体に生じさせる愉悦に頬を紅潮させ、体内に渦巻く圧力が、声となって弾け飛んでいた。あるものは絶叫し、ある者は耐えるようにすすり泣き、思い思いにその歓びを表現している。

 一人二人なら、響子もゆっくり観察したり、自らも欲情して自然とその仲間には入れたかもしれないが、教室の中全員、37名もの少女たちが自慰に耽っている光景は圧巻であり、圧倒されるものがあった。響子はその様に恐れおののいて、全く呆気にとられてきょろきょろしていると、教壇から声が掛った。

「新里さん? 何をしているの?」

 教壇の上には、M字型に足を立てて、つまりは大事なところを観音開きに広げている由宇子先生の姿があった。その美貌と大きな胸は響子の憧れの的で、少しレズっぽい想像もしたこともあるぐらいだ。憧れの人の秘所は乳房の盛り上がりと良い勝負だった。

 むしろ、ソコに顔をうずめてみたいという欲求よりも先に響子が驚いたのは、彼女の土手には一本の毛も生えていなかったことである。要するに、真っ白な太ももの間の赤く濡れた器官は丸見え。むしろ生徒たちの見本とするためにワザと剃ってきたようだ。

「じゅっ、じゅっ、授業ですよねっ」

 メールなら(^^;とか(汗)とか、普段はそんなのをつけたりしないのだが、響子の頭の中では、自分の文末語尾はたくさん引っ付いていた。由宇子先生は溜息をつきながら言葉を継いだ。

「もちろんですよ。 新里さん、してなかったのですか?」

「はっ、はぁ」

「教科書の98ページですよ」

 膨れ上がった大陰唇と、ビラビラが外まで飛び出した小陰唇を外気に晒したまま、恥じらいの一つも見せずに由宇子先生は指示を出す。蛍光灯の照り返しでそこが十分に湿っていることが分かった。

―これって、“ぱられるわーるど”とか言う奴だよね―

 響子は兄の本棚から分捕ってきた小説を思い出していた。たしか、日本が戦争に勝っている世界がどうのこうのとか言う話だ。昨日眠れなかったものだから夜更かしして読んでしまったが、そのせいで、自分もパラレルワールドに入り込んでしまったのではないかと直感的に感じた。もちろん根拠は無い。

 教科書・・・と言われても、見慣れた物しかカバンには入っていない。仕方が無いので隣の笹倉理沙に声をかける。小柄な彼女は胸と腰をせわしく探りながら、はっはっはっ、と子犬の様に息を荒げていた。

「…理沙、ごめん、教科書貸して?」

 楽しみを中断され、理沙は非難めいた視線を響子に投げかけるが、その戸惑った表情は色っぽくて可愛かった。すまないと思う気持ちといじらしさの両方を感じながら手渡されたのは、保健の教科書だった。

―保健の実技っスか―

 響子はなんとなく納得した。ひときわ甲高い声が教室の前のほうから上がると、それに連れるように何人かの声があがる。

「体力のある人は、もう何度か挑戦してね」

 由宇子先生は教卓から降りて、声の上がった生徒に近づいていた。一番前の席で、クラスで一番の秀才の岸野さやかは、息を切らしながら首を横に振っていた。だが隣の細野遼子は首を縦に振って、再び、しかしゆっくりと焦らすように自分の身体をまさぐり始めた。同じオナニーにしてもずいぶん違うものだと響子は感心していた。

 恐る恐る教科書を開いてみた。目次をざっと読んでみたが、性器に関する事柄だけでなく、よく見るとSEXに関する事までも触れられていた。そのページへと一気に捲る。

 曰く、
―女性の歓びは開発されるべきものです。しかし、男性に任せているといつまでたっても真の歓びを知ることが出来ません。そのため、女性は自ら歓びを知る必要があります。完全な歓びを知ることで女性は人間として自立する事が出来、男性と対等に付き合うことができるのです。・・・―

「スゴッ…」

 その思想に響子はもろ手を上げる勢いだった。この世界ではすっかりフェミニズムが根付いているらしい。もちろん男子への教本もまた別に存在するのだろうと見当をつける。それも普通のエロ本に載っているような小手先の技術ではないものなのだろう。余談であるが、フェミニズム文化が日本を席巻し、今の首相が女性だと知ったら、彼女はひっくり返っただろうか。

―恥ずかしさを克服し、自分自身を解放することがSEXを楽しむ秘訣です。愛している男性とは言っても、それは他人です。もし他人の視線が気になるならば最高のSEXは楽しめないでしょう。―

 98ページの始めにはこんな事が書いてあった。だから、教室で皆でオナッているんだと響子は納得した。

「楽しまないと」

 響子は勢いよく、パンティを引き下した。

「新里さん!」

 その瞬間、由宇子先生はゆっくりとした足取りで近づいてきた。響子は身を竦ませた。

「もう、ホントに貴女ったら! ちゃんと教科書は読んだの?」

「えっと・・・あのぉ・・・」

 由宇子先生は口調からしてかなり怒っている。何かやらかしたのだろうかと響子は見当がつかないが、周りの視線も、熱っぽく濡れた視線であるけれども作業を一時中断して、じっと響子を注目している。なにかしでかしてしまったことは確かのようだ。

「今は授業中よ。 性欲に流されるだけじゃ、ただの“牝”でしか無い事を覚えてないの?」

 響子は“牝”といわれて胸を抉られる思いだった。その語感だけでショックを受けてしまったが、この世界では理性とケジメをしっかり併せ持って初めて、性の喜びは“良し”とされる。性欲を貪る者は“牡”“牝”と蔑称されていた。パンティを脱ぎ捨てるなんて、それは恥じらいも分別も無い“牝”のすることだった。

「罰として、皆さんのお手本になってもらいますよ」

「あー・・・」

 響子は何か言いたかったがそのまま手を引っ張られて、教壇に乗せられた。クラス全員の瞳とアソコがこちらを向いていた。由宇子先生は響子を教壇に座らせると、スカートを脱がせる。思わず内腿に力が入り、恥ずかしい部分を隠そうとするが由宇子先生は何処からか取り出した縄を手馴れた手つきで足首や太ももにかけて、彼女を完全に固定した。

 全員に見られている恥ずかしさと、全員のものを見ている恥ずかしさの両方が響子を居た堪れなくさせる。もちろん、今すぐココでヤれと言われても、響子は露一つ出せはしない。だが、やらされるのは普通のオナニーではなかった。

「専用のスティックによる尿道オナニーです」

 げっ!? 響子は驚いて逃げようとするが、足に少しでも力を入れると縄が締め付けた。もがけばもがくほど絡まっていく感じだ。

「尿道は膣とは違い、粘膜が薄く傷のつきやすい器官ですが、その点を気をつければ肛門や口に負けない性感に成りえます」

 由宇子先生はちゅっと取り出したスティックに唾をつけ、動けない響子の前へと屈みこんだ。するすると、真っ白なストローのようなスティックは彼女の体内へと挿入されていく。

「やっ! なんか変っ! 変な感じッ!」

「最初はくすぐったいだけで感じにくい場所ですが、男性の肛門から前立腺が刺激できるのと同じく、女性の尿道はクリトリスと膣の裏側を刺激することが出来ます」

 響子の陰部に走ったのは、それは奇妙な感覚であった。今まで感じたことの無い場所にむず痒い感触が広がっていく。初めての場所を侵されるのは、処女喪失とはまた別の、新たな感覚の目覚めであった。

「男性の尿道オナニーはペニスの中を刺激する事になりますが、勃起したペニスの尿道に何かを出し入れする事は熟練を要し、毎年の様に事故が起きています。それに引き換え女性の尿道は市販の柔らかいスティックを使うことでより手軽に愛撫することが可能です。しかし、性感は入り口に集中していますし、膀胱を傷つける恐れがあるので、感極まって深く刺さす事のないように注意が必要です。目安として、女性は5cmぐらいですね」

 由宇子先生はあくまで教師として、他の生徒たちに分かりやすく説明をしつつ、その手は的確に響子のツボをついていた。一気に押し込まずに、少しずつ、緩急をつけてインサートしていく。そしてつぅーっと引き抜こうとして、また少しずつ中に入れて行く。

「あっひゃっ、やっやっ!!」

 半分ほど入ったところで、響子の秘所がまくれ始めた。皮一枚隔てたところには最も感じる部分が存在しているのだ。身体は的確に、そして否応無く反応を返してしまう。実のところ、クラス中の視姦の力が彼女の心にもゆがみを生じ始めていた。

「Gスポットの検査も行ってみましょう。女性器に指を挿入し膣口から4〜5センチ入った膣前壁辺りに、胡桃のような器官が感じられればそれです。しかし、形状よりも自分が気持ちイイ所という方が体験的に分かりやすいですね。」

 ぬるり、と綺麗にそろえられた由宇子先生の指が響子の胎へと入り込んだ。反射的に仰け反るが、それは余計に入れられた部分をクラスメイト達に晒す事になる。響子は両手で体を支えて腰を振った。意識した動作ではない。火照った身体が癒しを求めてうねうねと悶えているのだ。

「響子さんのは、非常に発達しているようですよ」

 一部の生徒たちは羨望の声をあげた。Gスポットが存在するのは全女性の3割に過ぎないという統計もある。だが、響子はそれどころではない。尿道と膣の間の薄い部分へ刺激が加えられている。つまりGスポットは表と裏の両方から責められているのだ。彼女に最高の絶頂が近づいていく。

「ひゃっ・・・ああああんっ!」

「折角ですので潮吹きを観察してみましょう」

 ぐちゃぐちゃぐちゃ、と音を立てて由宇子先生は指をかき混ぜ始めた。それと同時に響子の頭もグチャグチャとかき回される。性感のスイッチといわれるGスポットが立て続けにONになる。扉のチャイムを連打するように、音が頭に響き渡る。それが不快な人造音なのではなく、妙なる調べである事が大きく違うところであるが。響子は口を大きく開いて、声をあげるのが精一杯だった。

 雑多だった渦は次第に一つの流れとなって、響子の全身のリズムと同調し始めた。喘ぐ声、漏らす吐息、今挿入されている部分も、今回は触られては居ない後ろの部分も、上にある二つの乳房さえ疼いている。何もしなくても段々桃色に染まっていく。

 自分の身体を登ってきたピンクの霧は、頭を風船の様に膨らませていく。理性はギリギリと音を立てて破裂する寸前の痛みを伴っていた。そう、その一瞬前までは。

「やあぁんっ! ひくひくっ! いくぅっ〜ぅ〜ぅ〜ぅ〜ぅ〜!!」

 その瞬間、ぴゅぅぴゅーと爆ぜて噴出したのは股間のどこかであった。薄れかけた意識の中で響子はそれが兄のAVを盗み見して“潮吹き”という事をおぼろげに感じていた。確認するより早く、意識は真っ白に染まりあがってしまったのだけれども。

「潮には二種類あり、一つは膀胱に圧力がかかりろ過される前の薄い尿の場合、もう一つはGスポットの、つまりスキーン腺の分泌物です。スキーン腺は副尿道腺ともいわれ、女性の尿道の両側に存在し尿道と並行して走っています。これは男性の前立腺に対応します。普通は小さなものですが、前立腺の様に大きく発達した物が見られ、それをGスポットと呼んでいます。響子さんのは後者の、スキーン腺からの分泌です、尿道に差し込まれたスティックは動いてない事から分かります」

 響子にとっては何腺だろうと、潮を吹いてしまった事には変わりない。由宇子先生の講義を上の空で聴きながら、今の気だるい気分なら皆の前でも平気で放尿できるような気がした。

 きゅっ、と膣の中が収縮した。指の一本では物足りない。もっと、もっと欲しい。

「も・・・もう一回していいですかぁ?」

 潤んで霞んだ眼差しをじっと、由宇子先生へと向けた。

「響子さん!? そんな、本当に“牝”なのですか!?」

「牝でイイのっ! 私は・・・私は無様な牝犬ですっ!」

 驚く由宇子先生を尻目に、縛められた身体に縄が食い込むのも構わず、彼女は大きく下腹部を振りはじめた。もう耐えられない。いや、もうどうでもいいのだ。別の世界に飛ばされて、みんなの前でイカされて、自分はこれから、ずっと由宇子先生から手本として、実験台として扱われるのだ。クラス全員の性技の糧となるのだ。そのうち彼女らからも、何処をどうすれば気持ちよくなるか教えてもらえるかもしれない。響子の思考は急に飛んでいった。

「私は無様な牝犬ですっ、私は無様な牝犬ですぅ、私は・・・」

「響子さンっ!」

「はっ!? ・・・ふにゃ?」

「なっ、なっ、なっ、なんて破廉恥な寝言を!!」

「何だ夢か・・・」

 今は四時間目、保険体育の時間だ。周りの生徒が少し引きつった笑いをしているのに対し、由宇子先生はさっきと同じく驚いて、むしろ怒った顔で彼女を見下ろしている。響子は、少し涎で汚れた教科書を慌てて机の中に突っ込んだ。開いていたのは98ページ、夢の中で見たのと同じ内容だったからだ。


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