飛頭蛮




 えー、夏となると怪談話が相場ってことに相成りまして、 お菊さんやお岩さん、鍋島の化け猫なんてハナシが この時期喜ばれるわけでございますが、ここではちょいと趣向を変えて、 飛頭蛮なんて噺でご機嫌を伺おうって寸法でございます。

 聞きなれない言葉かと思われますが、この飛頭蛮、 唐よりも遠い、熱帯雨林の覆い茂る未開人の呼び名でございます。 この一族、昼間は我々と何ら変わることはありませんが、 夜になると、不思議なことに首が抜ける。 抜けた首は宙を舞い、夜な夜なご近所連中で化け物同士騒いでまわり、 また朝になるとフラフラと胴体と引っ付いて人間の暮らしをやってるって訳で。

 物書きの小泉八雲は『ろくろ首』って題名で飛頭蛮の話を書いておりますな。 が、ろくろっ首だと首はつながってなきゃなりません。 ややこしいのは、本朝でも実は飛蛮頭も居るんですなぁ、ろくろ首とはまた別に。 まぁ何故だかは知りませんが本朝だとどちらも女に多い様で、 しかも親子代代抜け首の家系って訳でもなくて突発的に生まれてしまう。 これがまた器量がよかったりする。

 親に似ずきれいな子が授かった、いいところに嫁にやれると思っていると、 年頃になって夜な夜な首が抜けるようになる。親御さんは堪ったもんじゃありませんな。 幾ら器量がよくても首が飛ぶ娘では嫁に出す事が出来ません。 かといって何時までも家に置いておくことも出来ない。 娘の方が気を使って家から出て行ってしまう。 すると身を持ち崩して、苦界に身を沈めていたりとかで。

「よう、八つあん! 聞いたかい?」

「おう聞いたぞ。」

「さすが八つあん、情報通だねぇ。」

「お前が聞いたかいって言うのを聞いた。なんだい?」

「どおりでこっちも何もしゃべってないわけだ。
いや、実はね、梅屋に出るってウワサなんだよ。」

「出る? 出るというと何かい? 月でも出るのかい?」

「バカ言っちゃいけねぇや。月ぐらい夜になればどこにでも出りゃ。」

「ちげえねぇ。で、何が出るんだい?」

「バケモノだよ。女のバケモノ。」

「お? 妙なことを言うな。
 オレは女はハナからバケモノだと思ってたけどな。」

「それがそうじゃねぇんだ。正真正銘、本家本元、交じりっ気なしのバケモノだよ。」

「交じりっ気が無いのに、どうして梅屋に居るんだ? あそこは遊び場だぞ?
 交わらない奴が居ても詰まらない。」

「すまねぇ、それは言いすぎだ。なんせ人が交じってないと女かどうかも判らない。」

「で、女って判る程度に交じってるのがどうしたんだい?」

「凄く、良いらしいんだ。」

「ナニッ? おい、そういうことなら早く言え! もっと詳しく聞かせろ!」

「乗り出してきたね。いや、千早太夫って花魁なんだけどね。 ほっそりした色白の器量良しで、コイツは何度も身請けはされるんだが、 すぐに追い返されちゃうんだ。なに、旦那がすぐ、腎虚で逝っちまうんだ。 言ってみりゃ、やりすぎなんだな。」

「で、遊び女だから家も継げねえって訳か。だが、それだけじゃ男食いなだけで、 バケモノって程でもあるめぇ。」

「それが、見たって奴が居るんだよ。順に話すがね、ある晩、千早を買った客がふと便所に行きたくなった。 それでちょいと千早の顔を見ると、無いんだよ、これが。」

「無い?出る話じゃなかったのか?」

「そうじゃない、無いのは顔だけじゃなくて、首が丸ごと無いんだよ。 奴さん、魂消て逃げ出したんだが。翌朝に気になって戻ってみたら、 千早太夫は済ました顔で恨み言を言う始末。。 寝ぼけて見まちがえたかもしれねぇ、と思ったんだが、 よく話を聴いてみると、見たってのは、そいつだけじゃないんだな。」

「そうか、話は読めたぞ。 千早は亀のバケモノって訳だ。」

「いやいや、その魂消て逃げ出したのは家の長屋の熊公よ。おいらぁご隠居さんとこに たまたま居合わせたから、知ってんだが、そういうのを飛頭蛮というらしい。 夜になると首が抜けて、飛ぶからそう名が付いているそうだ。」

「ヒトウバン? そんな、火の当番じゃあるまいし。いや、おいらぁ絶対、亀と見たね。 千早太夫の首は、身体に引っ込んでただけさ。 ご隠居さんも大切なことを忘れてるよ。首がトンじゃァどんな生き物でも死んじまわぁ。」

「そりゃ、生き物だと死ぬだろうが、そこで死なねぇのがバケモノだ。 世の中の条理の外の生き物だからな。」

「何言ってやがる、生き物は生き物だよ! それに、亀だから旦那のイチモツを咥えたっきりはなさねぇ。 ポックリ逝っちまうって訳だ。」

「そいつはぁ理に適ってるけどなぁ」

「ソコまで言うならおいらがひとっ走り、千早太夫に問い詰めてやるぜ!」

 よせば良いのにこの男、梅屋までひとっ走り掛けていって、 たまたま居合わせた千早太夫に食って掛かります。むさくるしい男から いきなりバケモノ呼ばわりされるのですが、この千早太夫、胆の太いところを見せて眉一つ動かしません。 ただ一言。

「夜にまた来てくんなまし。」

 と言うと引っ込んでしまいました。八つあんのほうとしても、怖そうな兄さんたちが じっとこちらを伺っておりますので手荒なことも出来やしない。いったんはすごすごと 引き下がりますが、夜になるのを待って再び梅屋へと足を運びます。

 千早のほうはすっかりもてなしの準備を済ましておりまして、 遊びもそこそこに、禿たちもさっさと追い出してさしで二人っきりになります。 きっと口を結んだ千種の顔は凛として、目鼻立ちもこぎれいでなかなかの美人。 八つあん、内心いい女と当たったとほくそえんでおりました。

「どこでそのことを知りんしたかぇ? わっちの顔に泥を塗るつもりでありんすか?」

「いや花魁、悪気は無かったんだ。ただ、アンタが亀なのかなんなのかハッキリさせたくてさ。」

「亀? オツことを言いんすね。 気に入りんした。」

 そういうと千早の首がぽーんと飛んだ。

「わっ・・・たっ・・・おぅ・・・。」

 驚いた八つあんが腰を抜かすと、そのさまをしげしげと、中に舞う頭が見つめます。

「これでもわっちは亀でありんすかぇ?」

「・・・驚いたね。ほんとに首が飛んだよ。飛頭蛮とはよく言ったね。」

「ほほほ、飛頭蛮。知ってありんすとは珍しい。ますます気に入りんしたよ。」

 ひゅうと空をきると、花魁の首、自分の着物を肌蹴るとまず自分の乳房に口付けます。

「オツものをお目にかけんしょう」

 そういうと、次第に寝転んでいく自分の肢体を舌で持って舐めていきます。 身体にはゆっくりと朱が刺して、両の手は切なげに、何か掴むものを探します。 千早の首は口で帯を解いて、すっかりさらされた太ももを舐めあげていきます。

「良く嘗めるねぇ・・・やっぱりこれはシロウトじゃないよ、玄人の嘗め方だよ。 自分の体は自分が一番良く知っているというけどさ、ほらもうこんなに濡れてきた。」

 千早はゆっくりと、自分の饅頭の様に柔らかくむっちりとした玉門を開くと 舌と唇を使ってさねわれを啜り始めます。その度にソコから生じているだろう愉悦に、 首の無いからだが身を震わせるのです。

「うわぁ、じゅるじゅる音を立てて、下品だねぇ。ここまで下品だとこっちがげんなりしてくるよ。」

 そういいつつも八つあん、ご自慢のモノは天を向いて張って張ってしかたがありません。 そんな様子をちらりとみると、流し目で千早は誘ってきます。

「よござんす。しかし覚悟はありんすか?」

「覚悟?何のだい?」

「わっちの技は外道の技。知ってしまうと元には戻れぬでありんすえ?」

「おうおうおうおうおう! 舐められるのはこの一物だけで結構よ、べらぼうめ! さっさとやってもらおうじゃねぇか!」

 そういうと八つあん、ばっと自分の着物をかなぐり捨てます。 八つあんのイチモツはまさに逸物というに相応しく、 臍まであろうかという太い竿が黒光りしております。

 千早は満足そうにそれを見ると、ぽーんと八つあんのソコに飛びついて、 ぱくりと口に咥えました。八つあん、なんだい、ただの尺八かい、なんて思っていましたが、 女の首が竿を咥えたまま、ぐるぐるぐるーっ!と回転し始めた。

「ほほほーうぅっ!!」

 さすがの八つあんもこれには堪らない。 ただ回転しているだけでなくて、花魁の舌がちろちろと、 表といわず裏といわず雁首と皮の間といわず触れるか触れないかで刺激を送ってくるのです。 唇だって強弱をつけます。それで出し入れしていますから気持ちよくないわけが無い。

 ぐるぐるぐる、ほほほーうぅっ! ぐるぐるぐる、ほほほーうぅっ!

 ぐるぐるぐる、ほほほーうぅっ! ぐるぐるぐる、ほほほーうぅっ!

 ぐるぐるぐる、ほほほーうぅっ! ぐるぐるぐる、ほほほーうぅっ!

 八つあんは目を白黒させて、腰もやや引け気味になってしまいます。 絶妙な回転は巧い具合に快感を積み重ねますから、 一度にキャッキャと精をやることが出来ません。だんだん高まっていく圧迫感みたいなものが、 八つあんの背筋を次第次第に、頭の後ろまで昇ってきます。

 ぐるぐるぐる、ほほほーうぅっ! ぐるぐるぐる、ほほほーうぅっ!

 それが頭のてっぺんまでやってくると、八つあん。前後不覚に陥って精をやってしまうが早いか布団に倒れこみました。

「まっ、参った。こりゃすげぇ。さすがに亭主を食いつぶしてるだけあるわ。」

 汗だくの八つあんは息も絶え絶えですが、しかし花魁、にやりと笑いながら、身体が八つあんににじり寄ってきます。

「これからでありんすえ?」

 後ろを向いて八つあんに良く見えるようにぱくりと開いた花魁の玉門は濡れすぎるほどに濡れています。 八つあんは暫くその造化に見とれた後、ゆっくりと入れていきますとこれがすこぶる具合がよろしい。 まさに洞穴の中は桃源郷であるかのごとく、思わず八つあんも吐息が漏れます。

 八つあんがゆっくり後ろから入れていきますと、花魁、くるりと首を背中のほうへ、 つまり八つあんの方を向いてやります。そして八つあんと口を合わせます。 後ろから入れながら口が吸えるなんて、こんな乙なことはございません。

 八つあんは腰を動かしておりますが、花魁は首だけ自由ですから全く関係ございません。 この花魁の舌技がまた絶妙で、それだけで八つあんの喉が渇いてきます。

「おうおう、凄く・・・良いじゃねぇか・・・」

 先も申しましたように、一度に埒をあげてしまえばそれまでですが、 その積み重ねが快楽を大きなものにする秘訣でございます。 百戦錬磨の八つあんですら千早に自分の乳首や臍を舐められると 股間の快楽を程よく醒めさせられまして、それがまた長い間 ねちゃねちゃと擦れあう粘膜の刺激を味わうことができる、そういう寸法になっております。

 八つあんはもうあへあへでございますが、自分の体にまとわりつく女の首という 異常な状況に酔ってしまって、もう気持ちがいいのだかなんだか判らないまま、ただ腰を振るだけ。 もう精をやっているのかもしれませんが、それすら判りません。 部屋がぐるぐると回転し始めたような気もします。ただただ、前後不覚と申しましょうか 花魁の首と一緒に自分も宙を待っているようなそんな感じでございました。

 空からすとーんと落ちて来たような甘い感覚が暫く続いた後、 ふと気が付くと、もう朝になっております。いつのまにか千早も居ません。 布団の中でもぞもぞしていると、禿が花代の請求にやってきます。 八つあん、最初は夢心地で聞いておりましたがその金額に驚いて飛び起きました。

「何だいこの花代は! 高すぎるじゃねぇか!! オレの首まで飛ばす気かい?」

「ええ、花魁、そろそろ連れ合いが欲しいそうで。」

 お後がよろしいようで。


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