みどりいろ




 典子は後悔していた。やはり教授の言う事は正しかった。倫理委員会なんか くそ食らえと思っていた今までの自分に腹が立った。

 研究室はすっかり、新種の苔に占拠されていた。彼女自身が作りし新たなる生物、 そして創造主への反乱。いや、彼らには創造主などと言う高尚な存在を理解などしないだろう。 なんせ植物であるのだから。遺伝子によって伝えられた蛋白質合成パタンに則って増殖するのみである。 その遺伝子を弄ったのは彼女、自業自得とはこの事である。

 緑色の苔が部屋中に増殖していた。彼女の身体は既に壁から生えた苔で固定されていたのだ。 生物以外のものを腐食し、全て養分としてしまうそれは彼女の白衣を、 それだけではなく下着までも溶かしつつあった。体中が苔に埋め尽くされる。 彼女の垢を食らっているのだ。生きた細胞以外は全て彼らの養分となる。

 自分の実験が完璧である、そこまでの自信はなかった。 万一の場合、自分の死は覚悟していたのだが生き地獄を味わうとは思ってもいなかった。

 彼女の肢体が顕わになった。衣服は全て剥ぎ取らされ、体中を苔が覆ってしまっている。 逃げようにも異常に強固な繊維は人間の力で引き剥がせるものでは無い。 衣服だけでなく、体中の垢をもその細い繊毛で吸い付くそうとしている。

「えっ・・・」

 彼女の股間にも苔が侵入していったのだ。苔は湿った所を好む。 体中に張り付いた苔と緊張の余り汗が出ていたのだ。 当然水分は彼らにとって貴重である。

 体が疼く。

 肌のキメを柔らかく、何億何兆もの繊毛が蠢いているのだ。 流れる涙に誘われて目の中にも苔は侵入する。痛みは感じなかった。 何よりも優しく眼球をくるんだ。今までされたことがない感覚に弄ばれる。 口の中、鼻の中にも苔が詰まっていった。それでも苦しくなかった。 酸素は苔を通じて体内に補給されしい。苔自体が痛みを和らげる鎮痛剤か麻薬のようなものを発しているのかもしれない。 しかし彼女の頭はそんな事に気が付ける状態ではなかった。

 気持ち良い・・・

 気が緩むのと同時に、快感が溢れ始めた。
助からないだろうと覚悟した絶望感が現実ばなれした愛撫に理性が狂ったのかもしれない。 全てを投げ出した彼女の吐息が熱く漏れる。 身を震わせると、それを放すまいと苔は押し返す。その力加減が何とも言えず甘美だった。 身体全体を同時に刺激されているのだ、典子の全身が朱に染まる。

 身体が昂揚する、熱くなる。噴き出る汗をまた苔が吸い取ろうとする。 なお一層刺激が強まる。たわわな胸も丸く苔が覆い被さり、どんなテクニシャンも真似出来ない 絶妙の愛撫を繰り返していた。厚い繊維から押し返され、こね返される。 動けば動くほど、その刺激は強くなる。

 既に勃起したクリトリスの包皮にさえ苔は侵入していた。男の舌など嘲笑うように 一番敏感な部分が舐め尽くされる。秘所から溢れる燃え滾る吹き零れも一滴残さず吸収しようと触毛が蠢く。

 「うぅはっ!あはっ!!」

 一度目のオルガスムを感じた。絶頂へと駆け上がる典子の身体全体が打ち震える。

 しかし苔は容赦しない。余韻に浸る間もなく、更に敏感になり汗や愛液やゆだれを垂らす彼女の身体を 責め続ける。苔は彼女をいかせようとしているのではない。彼女の全てを貪ろうとしているのだ。 何度でも、何度でも、彼女の命が尽き、養分として利用出来なくなるまで苔は休みを与えてくれない。

 甘い陶酔が得られない彼女は次第に激しさを増す攻撃に翻弄され続ける。 イクしかないのだ、ただそこへ押しやられ、休む間もなく更なる高みへと押しやられる。

 典子は胎の粘膜と苔が同化するのを感じていた。 養分を吸い取られ壊死して行く細胞に、苔の細胞が取って代わった。 細胞が食われる痛みの替りに快感が生じていた。神経に直接働きかけていくようだ。 このまま総べて溶かして欲しい。自分自身も甘く禁じられた快感に埋没していきたい。 彼女の脳は桃色に染まり、その外の刺激には反応しなくなっていた。

 彼女の意識は次第に植物化する身体をすんなり受け入れた。 そこには激しい快感の混沌が待っていた。


???