MIKOTO NO TUTAE 変貌編

 夜の阿根子市はベットタウンの常として大きな繁華街が在るわけでもなく、さりとてコンビニは四六時中控えめな看板を照らし出しているわけで、頗る中途半端な暗闇が辺りを覆っている。大きな通りは結構明るめなのであるが、ビルの谷間は小さな路地には街灯はない。人と自然のバランスが危ういと、どうしてもこの世ならざる物が紛れ込むこととなる。特に阿根子市ではその傾向が強かった。

 人間の残した恨みつらみ、憤り。行き場の無い澱んだ感情は異界の物を核として形を成し、その欲望の赴くままに振舞うこともある。特に性欲は鬱積しやすい。

「あ・・・やっ・・・」

 一人の女性が、走りにくいハイヒールを引っ掛けながら、異常なほど人の居ない駅前通りの路地を走っていた。OL風の彼女はタイトのミニスカートとカーディガン、肩までのストレートで飲み会の帰りらしく、少し酒気の混ざった吐息であるが、酔いは汗となって全て噴き出している。

 彼女に迫るのが人間ならばココまで慌てはしない。走りながら携帯で110をかけるぐらいの分別はある。だが、人ならざるものに追われて平静を保っていられるものが居るだろうか。テレビの特撮にしか存在しないはずの人ならぬモノ、怪人が彼女を追いかけていた。俗にそれは淫魔と呼ばれる。

 服というものは一切身に付けていない、だからといって“裸”とはいえない。何十にも布の様に爛れたミドリやアオやアカい皮膚が重なりあり、辛うじて人と分かる姿であるが、その股間には姦淫の一念が大きく膨らんでいる。その発散する雰囲気が語っている。彼がヤル事は一つしかない。

 ハァハァハァ、と彼女は逃げる。ハアハアハアとその存在は駆ける。女の足はもつれ、次第にその速度は落ちていく。魔は彼女が弱るのを待っている。観念し、絶望し、屈服する事を待っている。そして一生消え得ぬ敗北の烙印を、ゆっくりと押し込もうとしているのだ。それはほら、もう少しである。

「待ちなさい!」

 一人と一匹は声のする方へと振り向いた。声の主の後ろから光が差して、シルエットのみが浮かび上がる。しかしその光はやがて緩やかに成り、輪郭と色彩が一人の少女を形作る。その瞬間、彼女は声を張り上げた。

「S級退魔士! 八重垣みこぽーん!」

 魅琴は右手で天を左手で地を指差して左足上げたまま高らかに台詞を言い放つ。戦隊ものならバックで爆発が起きても差し支えないだろう。が、現在、彼女の思考は完全に停止している。いや、追われていた女性も、そして妖魔さえも動きを止めている。早く終わってくれ、そんな気持ちすら起こる余地すら魅琴の中には存在し得なかった。

 学校帰り、コン=ロンとゲーセンに寄ったのが間違いだった。目まぐるしく変るディスプレイの光と音、絶え間なく聞こえるはしゃいだ声、騒がし物好きのコンにとってそこは非常にお気に入りの場所である。魅琴は黙って脱がしマージャンに興じていたが、後一枚というところでコンが邪魔をした。魅琴の不機嫌な視線を物ともせず、とてててと、向こうのほうへと走りゆく。

「あう、コレしたい!」

 コンはエアホッケーの台にバーンっと倒れこんだ。その可愛らしくも子供っぽい動作につられて辺りに失笑が広がった。

「負けたほう、ポーズ付きで決め台詞吐くヨイね!」

「・・・いいよ。」

 たまにはコンに敗北というものを教えてやろう、魅琴はそう思いながらのっそりと立ち上がる。こう見えても、魅琴の運動神経はかなり良い。それに幾らコンが歳古びたる邪仙といえども、所詮素人、魅琴にはかなり勝算があった。

 おおよそ十分後、敗北を知ったのは魅琴のほうだった。敗因は一つ、まさかコンが本気になるとは思わなかったところである。だが、コンの反射神経はさすが邪仙と思わせるほど人間のものを超えていて、ギャラリーから十重二十重に囲まれて、ウワーッと歓声が上がったものである。ちやほやされてご満悦であるが、魅琴はいつもの仏頂面が久々に一般的な感情と一致していた。

 偶にしか見せないコンの恐ろしさを垣間見た気がした。もちろん、こう言う時以外に本気になられてもマズい。下手すると地球を滅ぼしかねない。だが、冗談ならもう少し可愛げのある方が良い。まさか魔の前でやらされるとは思わなかった。 クールに決めるのが信条の魅琴にとって、コレは大変な屈辱である。

「あう! 違うある!! 色気が足りんね!」

 魅琴が凍り付いていると、ビルの陰に隠れて様子を見ていたコン=ロンがしゃしゃり出てきた。少しお怒りのようだ。また変なのが出た、と一人と一匹は追われることも追うことも忘れて成り行きを見守っている。

「お尻はばーっと出さなきゃタメね!」

 コンは自ら見本を示す。ポーズを決める勢いで、スカートがまくれるのが良いらしい。

「胸の切れ込みが甘いッ! ほらほら、グズグズせずに脱ぐある脱ぐある!」

 ハメラレタ・・・魅琴は上着を脱がされながら少し空ろになる瞳をどうにもすることが出来なかった。

「あう、折角だからヘンケイしなきゃダメネ! コンが変えてやるね!」

「マヂかー!」

 変形って何だ、魅琴には悪い予感しか浮かばない。ちなみにコンさんは普段はグータラしているにも関わらず、日曜の朝は早起きして、朝6時半の再放送から始まって10時まで、特撮やアニメを梯子して見るタイプである。そしてさっさと布団に戻ると夕方5時頃まで寝てるのだ。

「やだっ! 何ッ!?」

 魅琴の腰が引けた。ゾクゾク感が骨盤や仙骨に走っていく。パンティの中で何か起きている。女性自身の門が癒着し何かが垂れ下がっていく。クリトリスが尿道を包みながら、包皮と共に伸びていく。それは胎児の陰部が男性器を形作るのと同じ過程を辿っているのだ。その間、訳の分からない感覚が魅琴の股間を支配していた。

「まっ! まさかっ!?」

「正常に機能するか、試用運転してやるね!」

 コンがまだ小さなソレをなで上げる。指をこまめに動かしているから、余計くすぐったい。

「あっ・・・やっ・・・やっ・・・」

 魅琴は思わず声を上げてしまった。くすぐったさは心地よさになり、感覚は物理的に大きくなっていく。自分の意図を全く無視して、ソレは風船の様にパンパンに膨らんでパンティからはみ出した。女物のそれに勃起したオトコのモノが入る余裕は無い。

「こっ・・・こんなもんを!」

 と、言いつつ心の底ではYes!と思っている複雑な魅琴。男役をやることの多い彼女にとってペニスは永遠の憧れだったのだ。今夢が叶った。しかし、その夢の主は悪夢の主である。女の指がどれだけ繊細か魅琴も知っていたつもりではあるが、

「この前コンがしたから、お返しある。 かもんべいべーね!」

 コンは躊躇い無くパンティを引き下すと、いきり立つそれを口に含んだ。魅琴はその瞬間ぺたんとしりもちを突く。あまりの良さに力が抜けてしまったのだ。

 ぺろり、ぺろり、コンは丹念に出来たてのそれを舐めあげる。ひと舐め毎に太ももが引きつり、おなかの中に痺れが走る。内性器もすっかり男のものに取って代わられているらしい。

「こっ・・・こんなのちょっと・・・」

 コンの頬の裏側は適度に湿って、そしてまた適度に艶やかで、出来立てのソレには少々刺激が強すぎる。女の複雑で繊細な感覚ではなく、非常にシンプルでストレートな感覚だ。コンが緩やかに唇を使い、そして優しく噛みほぐすと、そのたびに身体が打ち震え、瞼がヒクヒクと痙攣してしまう。

 与えられた刺激に素直に反応し、階段を一歩一歩確実に踏みしめていく。行き着く先が何処にあるのか魅琴には見当もつかない。絶頂へのペースが掴めないのだ。ただ、心臓がばくばくと音を立て、情けなくも口はパクパクと開閉するだけである。

「やっ!?」

 何か出た。間の抜けた表現だが、いきなり高みへと押し上げられた魅琴にはそれが何であるか判断する余裕は無かった。潮を吹くなんてそんな生易しいものではない。びゆうびゅうと勢い良く自分のエネルギーが放出していく。残るのはただ、気だるい満足感のみ。

 コンは慣れた風に上顎で受け止めて、ゴクリと飲み込んだ。彼女にとっては極上の滋養なのだろう。

「あう、魅琴早すぎ? そっか、いきなりコンだと刺激強すぎるか。」

 なんかすげェ。魅琴はぼおっと霧の掛かった頭で今の快感を反芻していた。すっかりダラけてしまって、やる気が起きない奇妙な感じ。男はあっという間に醒めてしまうとは聞いていたが、実際体験してみないと分からないもんだ。ホントに一瞬だけの快感だ。確かに忘我の世界に漂う女の歓びも捨てがたいが、壁に叩きつけられるような暴力的な没我。弾けとんだ残滓だけがこびり付いているような意識で魅琴は在った。区切りは付いたが、もう一発いける、と魅琴は思っていた。

「オネーサンちょっと来るヨロシ。 このコに女を教えてやるネ。」

 魅琴が余韻に浸っているうちに、コンは呆気に取られていた女性を引っ張ってきた。彼女はおろおろとしつつも、招かれるままについてきてしまった。その場のノリというものは恐ろしい物である。

「おい、堅気の人間をだな・・・」

 と言っては見たものの、心は裏腹に好奇心と期待でいっぱいの魅琴。この新しい器官をキチッと試してみたいのは山々だが、コンを抱くだけの度胸は無い。ドロドロに溶かされて吸収されても文句は言えない。

 OL風の彼女の方も、この異常な状態に興奮してしまっている。異常なシチュエーションが積み重なっている為、恐らく夢だと自分で納得しているのだろう。淫魔はすでに取り残されて、ぽかーんと口を開けて彼女らの動きを見つめるだけだった。

 魅琴は彼女の顔をまじまじと見つめた。ツンと澄ました表情を泣き顔に変えてやって、哀願と歓喜の両方の悲鳴を挙げさせたくなるタイプである。しかし今日は、魅琴が弄ばれるのだ。魅琴は少しゾクゾクした。

「高校生?」

 魅琴はいつに無くしおらしく、そして恥じらいながらコクリと頷いた。夢を夢だと納得したときの人間は大胆になる。この可愛らしいフタナリちゃんを犯せる期待に彼女の目は輝いていた。ふわりと、麝香が薫った。大人の女の匂い。魅琴の香りはまだ幼く、彼女の匂いに飲み込まれる。

「おねぇさんが教えてあげる。」

 舌が入り込んでくる。普段なら魅琴の方が積極的に入れて行くのだが、魅琴は抗わず彼女に任せる。なかなか上手いキスだ。情熱的かつ繊細。良い恋愛と良い遊びを両立させて初めて出来る接吻であることを、魅琴はすぐさま悟った。

 ボリュームのある胸に魅琴は手をやった。自分の年齢ではまだ到達し得ない成熟した乳房はブラの上からでもしっとりと掌になじむ。ぐにゅぐにゅと自在に形を変えながらも、安心できる質感が魅琴に圧し掛かってくる。

 精通が起きたばかりのペニスは女性がそばに居るというそれだけで再び立ち上がっていた。女は自分でパンティを脱いだ。フリルのついたピンクのパンティは魅琴には少し早過ぎる。速く大人になりたいと魅琴の中でほんの少し、嫉妬の心が芽生えてきた。

「もうこんなになっちゃって」

 ぎゅっと握られて、魅琴はビクリと身を強張らせる。先にコンに触れられたときと同じく、女の指のしなやかさを自分ながら感じ取った。嫌になるほど、身体は正直だ。脈動する男根はもっと直接的な刺激を求めて戦慄いている。

「私が、欲しい?」

 魅琴は思わず頷いた。

 女は魅琴を寝かせると、勝ち誇るかのように跨った。そして、艶やかに濡れた女陰をあてがってくる。魅琴も良く知っている場所ではある。何人もの娘とその秘貝を合わせるのが彼女の悦びだ。だが、クリトリスなら強力な刺激が襲ってくるところだが、今は熱いゼリーを被せられたような心地よさが感じられ、魅琴はうっとりと目を細める。

「入れるわよ。」

 妖艶な瞳が魅琴を見下ろしている。魅琴はまな板の上の鯉、ちょっと幸せ気分である。

「うわぁん・・・」

 素っ頓狂な声を上げてしまった。吸い込まれる。吸い付いてくる。魅琴も他人のアソコに指をはわせたことがあるし、自分のにも挿入したことはある。しかし、指では物足りない、彼女の能力である闇の植物、濡場魂を代理に突っ込んだのことは全く違う、やはりしかるべき場所にはしかるべき物が合わさるべきなのである。

「ああん・・・」

 女はゆさゆさと身体を振るわせ始める。魅琴は泣き出しそうな、耐えているような中途半端な顔をして、ただされるがままに成っていた。下手に動くと、直にでも出してしまいそうになる。男の苦労が少しは分かった気がしたが、それでも彼女は容赦なく責めたてる。

 じゅりっ、じゅりっと叢が擦れ合い音がする。騎乗位になった女は上手く自らを調節して、一番気持ちよくなれるように陰核や唇を擦れ合わせる。もちろん、彼女の中に収まっている魅琴の分身はくねくねと良く動く生暖かい洞窟の中、溢れる生命の喜びが湧き出す泉にどっぷりと漬かっている。

「いっ・・・いいっ・・・おねぇさん・・・いいっ!」

「可愛い子」

 普段なら魅琴の台詞であるが、そういわれると悪い気はしない。女同士だとどうしても触れ合うこと、擦れ合うことしか出来ない。繋がっている感覚が魅琴の心を安心させていた。

 本当に、男はこんなにいいことしてるんだな、と魅琴の中で沸々と羨望の念が湧き上がった。まるで祭儀を行う巫女のように、恍惚の表情を浮かべながら、ひっきりなしに身を揺さぶるその姿はいやらしくもあり、また美しくもある。初めて会う相手との逢瀬でも、ココまで楽しくやれるかと思うと、そのスリルが心を揺さぶり、更なる情熱に火をつける。

 理知的に観察している魅琴と、そして放出を我慢している魅琴。冷静に何かを考えていないと、実はもう自分を抑えられなくなっていた。彼女の動きがだんだん速く、そして的確に成っていく。自分も相手も幸せになれるダンスにかけて、彼女はかなりの熟練者だと言える。

「イイわ・・・イイのよォ・・・」

「あっ・・・あの・・・もう我慢がぁ・・・」

 声が少し掠れている。魅琴はもう半泣きで、生死与奪を握っている女に懇願する。こんな表情、魅琴は今までしたこと無いかもしれない。

「もう少し・・・もうすこしでイクから・・・あぁ・・・アンっ!」

 女がクッと腰を捻った時、その瞬間、膣が突然蠕動し始めた。

「ハッっ・・・」

 予想外の事態で理性のタガが外れると同時に魅琴のエキスが迸り出た。女の中に射精を繰りかえしながらも、粘膜の動きは止まることなく、魅琴を抱きしめつづける。耐えに耐えた状態の上の事だ、魅琴の頬に涙がぽろぽろと零れる。

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・・ふぅ・・・」

 相手は魅琴にかぶさってきた。エクスタシーに達すると静かになるタイプのようだ。魅琴は荒い息でその余韻と、暖かい体のぬくもりを十分に堪能する。両の手で抱きしめてやると熱い血流が感じられて、生きていることの有難味、いや醍醐味を味わうことが出来る。それを十分多能すると、やがてコンのほうに目をやった。

「いれてから5分21秒。初めてにしては結構もったな。」

 コンは何故か時間を測っていた。女を優しく抱きかかえ、ゆっくりとその場を離れた。魅琴はイクよりイカせる方が好きなタイプである。少し上気して、満足げな彼女の表情を見ていると、それだけで達成感が感じられる。しかし、事後処理はしなければ成らない。彼女の耳へ、濡場魂を滑り込ませた。

「ま、いい夢だと思ってね。」

 脳にちょっと手を加えれば、多少の記憶は操作できる。まぁ、コレだけ馬鹿な話だ。多少なりとも常識があれば、人に話したりはしないだろうが念のため、である。

 魅琴は一息つくとフッと立ち上がる。二度も出した為、小さく縮こまったそれを名残を惜しむように少し触れながらだったが。

「折角だけど、コレ戻させてもらうよ。 水泳出来ないの、ヤだから」

 魅琴が撫でていくと、それとともにペニスは更に小さくなって、彼女の叢に納まってしまった。袋は再び二つに分かれつつ、正面からは見えなくなっていく。コンが弄った部分を“元に戻した”のだ。コンから注入された毒を解毒したと言ってもいいだろう。腫れ物が引くのと同じ事だ。

「あう、さすが魅琴。よく出来たね。でも、そのうちコンともヨロコビを分かち合うヨイ!」

 コンが何を企んでいるのか知らないが、とりあえず今日のところは、深く感謝することにする。もちろん形だけの感謝だ、余り貸しを作ると何をされるか分からない。

 魅琴は何かを思い出したように、クルリと振り向いた。そこには 彼らの姿を見ながら、自慰を行う淫魔の姿があった。

「・・・にこ」

 魅琴はかなりいい表情を見せた。普通ならここからアクションシーンに移るわけだが、間も無くボコボコにしてしまった上、チリも残さず吹っ飛ばしてしまったので割愛する。
 


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