MIKOTO NO TUTAE 追難編

 

「たまにはお茶も良いもんだね。落ち着くって言うか、なごむって言うか」

「魅琴、コーヒー飲みすぎね。そのうち胃がどうかなるある」

「あなたに身体の心配されるとはねぇ」

 苦笑しながらお茶を飲み干す魅琴。今日は日曜の昼下がり、魅琴とコンは差し向かって台湾茶を嗜んでいた。30×20cmほどの竹の盆の上に、小さな茶器が並んでいる。茶壷と呼ばれる小さな急須から、公道杯という大きめの器に茶を移してお茶の濃さを均一にし、それから茶杯に移して、飲む。手間はかかるが、お茶は手間も込みでお茶の時間である。ちなみに魅琴はコーヒーを淹れる時には豆を煎る所から始めるので、この程度は手間だとは思わない。

「忘れてるかもしれないけど、コンは仙女ある。魅琴もへるしーに、中国茶に転向するヨイ」

「カフェイン量はお茶の方が多いんだよ」

 お茶請けのドライフルーツを齧りながら、二人はたわいない話に花を咲かせていた。コンは別のお茶を淹れ直している。一杯目は茶器を暖めてから、香聞杯という細長い器で香りを楽しむ。魅琴の問いをナチュラルに無視したコンは、鼻先を突っ込んで、まるでクスリでも入ってるんじゃないかと勘ぐるほど熱心に香りを味わっている。そしていい加減、魅琴が次の話題を振ろうとした刹那、プハーっと大きな息をついた。

「やっぱりお茶は中国に限るネ。中華五千年の歴史が凝縮してるある」

「中国の歴史より、アナタの方が年上じゃないの?」

「それは秘密。でも、あの頃はよかたなぁ。カネと権力さえあれば、何でも出来たね」

「ふーん」

 と、魅琴は曖昧に返事をしておいた。突っ込むと収拾がつかないと判断したからである。だが、お茶には疎い魅琴でも、舌の上で玉の様に転がるようなまろやかさと、晴れ渡った青空を思わせる爽やかさ、深い海のように豊かな喉越しを持つお茶が庶民の手に届くものとは思わなかった。茶器にしてもそうだ。どれ一つとっても普通のサラリーマンの生涯賃金ぐらいしそうな感じが漂っている。どこから手に入れたのか知れないが、コンにはまだ、それだけの力が備わっていると言う事だろう。

「なんだか、昔を想うとウズウズしてきたね」

「思った通りのリアクションだぁねぇ」

 コンは身体を準備体操をするように、身体をぐっぐっと捻り始める。魅琴が呆れたように呟きながらヤカンに手を伸ばそうとしたとき、彼女の携帯が『クックロビン音頭』を奏ではじめた。ちっと舌打ちをする魅琴。コンの目が好奇心で輝いた。

「妙な曲入れてるね」

「トラブルメーカー用だよ………」

 魅琴は茶壷にお湯を注いでから、気だるそうに携帯に手を伸ばす。

「はい、魅琴ッス。 ………んーあーんーーーんー」

 “んー”と“あー”しか言わない魅琴をコンはジゲシゲと見つめながら、コンは茶杯に並々と注いだ濃いブラウンの烏龍茶をちびちびと舐めている。舐めてはいるものの、もうお茶の味などどうでも良かった。コンのうずうず感は“トラブルメーカー”という願っても無い台詞に食らいついていた。これから起きるだろう、お茶よりも楽しい時間に期待を寄せているのだ。

「ぅあー。ぅあーあー……あーちょっと………………切れちゃった」

「面白そうね」

「んー…あー、あなたも無関係な話じゃないよ。結城麻衣って知ってるよね? 同じクラスの」

「はう?」

「ほら、前に蟲使いとヤったでしょ。病院の霊安室で」

「………あーあ、思い出したね。あの話持てきた娘ある! 彼が看護婦とヤたからヤ(殺)ってくれとか言てたね」

 魅琴は皿に残っていたドライフルーツを少し多めに摘むと、口のなかに放り込んだ。そして不機嫌そうに噛み締めながら、飲み込む前に口の中に何度も、摘んでは放り込む。

「ん…で、今度は別の彼氏が浮気したからって私に愚痴言ってきたんだわ」

「あう? 別の? 前のは?」

「別れたらしい。実の所、これで10人目だったりする」

 咥内に一杯になった果物の欠片をゴクリと一気に飲み干すと、不機嫌そうだった魅琴の顔はほんの少しだが綻んできた。すっかり冷えた杯の中のお茶を流し込むと、普段の表情に戻っていた。コンはじっと、目をキラキラさせながら魅琴が話を継ぐのを待っている。

「話を整理しよう。前の彼とは別れたけど、今キープしてるのが三人。10人目っていうのは別れた人数ね。で、今キープしてる中の一人が麻衣の絶倫と言うか貪欲と言うか、まぁ、嫌気がさして別の娘に手を出してって感じでさ」

「やっぱり、女はハジライが肝心ね」

「で、それが麻衣が知っちゃって、勢い余って私の所にTEL入れたってワケ………さてと」

「どうするか?」

 すくりと立ち上がる魅琴を、ワクワクしながらコンは見上げている。思わず、クラっと逝ってしまいそうな上目遣いであるが、あくまで魅琴は素気ない。

「すぐに来て欲しいんだって。……行かないなんて言わないよね」

「モチのロンある!」

「まっ、詳細はおいおい説明………って、彼女を視れば判るかもねぇ〜」

 魅琴は茶器を片付けながら、自分の喉元を軽く摩っていた。思索を張り巡らせているときの彼女のクセである。コンはコンで片付けなんかもうどうでも良くなって、というのは今日に限ったことでは無いが、魅琴をせわしく突っついていた。両の目には「期」「待」の文字をアリアリと浮かべながら。


「あーもう、魅琴遅いぃぃ! すぐに来てって言ったじゃない。どこで何してたのよ! 私のこと嫌いなの? 嫌いなんでしょ!」

「折角来たのに、そんな事言うと帰るよ?」

 いつものペースで、かったるそうに話す魅琴に対して、結城麻衣は頗るエキサイトしていた。麻衣の部屋は建売住宅の二階にあって、ベッドと机とクローゼットのそれぞれが淡い暖色。壁には若手のアイドルグループの等身大ポスターが貼ってあるわ、本棚にはキャラ専門のファンシーショップのぬいぐるみが並んでいるわ、いわゆる年頃の女の子の部屋であるのだが、魅琴はこっ恥ずかしくて蕁麻疹が出そうだった。

 結城麻衣は学力は下の上あたり。軽く外に向いたブラウンのショートカットで、可愛らしくはあるのだがちょっとキツい印象がある。暖色でまとめられたカラーブロックのセーターと、厚い生地のダークブルーのミニスカート。魅琴よりはやや背が高く、体つきも、大人びて見える。

 特に、ヒップの発達っぷりは目覚しく、程よいくびれがグンと大きく突き出る曲線のたおやかさはOLのお姉さんたちと比べても遜色は無く、男子同級生達の股間を熱くさせてる。

 ちなみに魅琴のお召し物は、白のワイシャツに黒いコットン地のロングパンツ、同じく黒のガウンジャケット。胸には小さくシャレコウベがあしらわれている。小柄な魅琴であるから、美少女というより美少年に見える。あぐらをかいて座っているから、なおさら、ボーイッシュな魅力を振り撒いている。実際、この色気で何人のいたいけな少女及びお姉さんを惑わしたか知れない。

「で、なんでコンさんも居るの?」

「ついて着ちゃった。追っ払うのも無碍だし」

「コン=ロンある〜」

 コンは何を勘違いしたのか、季節を全く無視して黄色を基調にしたアオザイを着ている。一部の方はそれだけで『萌えーッ!』と一声叫んだ声を友人知人両親等に聞かれて残りの人生フイにしかねない程の逸品であるが、そうでない人にも、身体の線がキッチリ出る服の色香に惑わされ、もっと酷い犯罪行為に走らせかねない。事実、麻衣のうちに辿り着くまでに好色げな視線がどれだけ投げかけられたことか。一緒に歩いてきた魅琴の方が痛くて恥ずかしいぐらいだった。

「まぁいいわ。あのね、キヤマ君がね。こんな私がいるのに、小娘に手を出してね。私、いっぱいいっぱい彼のこと愛して、彼も私のことを愛してくれているって感じてたのに、彼って、私だけじゃ足りないなんて、そんな彼じゃないと思ってたのに! でも、ホントに愛してるから…」

「考えた順に口に出るタイプね」

「思いついた順だよ、考えてない」

 コンと魅琴はEyes to Eyes。目から目へと思考が移るテレパシーに近いものだったが、声を出した所で麻衣は気が付かなかっただろう。自分の台詞とシチュエーションに完全に酔ってしまっていて、他人の声など耳に入っていない。

「とりあえず、この娘設定だと愛=SEXというのは解説無くてもいいよね?」

「こんなにウルサイと、オトコ寄って来ないと違うか?」

「こんなのに限って男の前だと大人しいんだよ」

「なんか言った?」

「いや、この紅茶なかなかだねぇって」

「もう! 紅茶の話なんてしてないでよ! 私の話を聞いてッ!」

 プリプリしながら、断片的でつじつまが合わない、愚痴なのか創作なのか希望なのか理想なのかすら判らない言葉の羅列を麻衣は垂れ流しにする。何か一つでも詩的で心を打つような台詞が入っていれば、魅琴やコンもいつ出てくるかいつ出てくるかと待ちの楽しみを味わえるのだが、そう思っているのは本人だけでどれも平凡で月並みで、誰もが考えられるような言葉でしかない。高校生ならでわのうぬぼれの特権である。

 鬼の娘も18、という言葉もある。その頃は内外問わず女と言う性別であるならばどうであれ可愛らしく見えてしまう魔の年代である。中身がないと、この時期をピークに後はオバサンヘの道を転げ落ちるのみ。高校のときには見苦しくなる前に死ぬ、なんて過激なことを日記につけていたとしても、三十も過ぎれば日々の特売と週刊誌とお喋りさえあれば後は何でもいい人生が待っている。

 しかしそれはそれ、後先考えずに居られるのもこの世代の特権。二つばかり下の少女を小娘呼ばわりし、自分には茶の一つも出そうとしない麻衣の話に対して素直に頷いている魅琴自身は、それほど達観しているつもりは無かった。だが、コンのように永遠の美と自分勝手までも欲しいと思わないが、自分の天寿をいい感じでキレイに全うしたいとは常々思っている。

 麻衣は唄うように、彼との思い出やら自分の思い出やらを語り続ける。コンは早速船を漕ぎだしたが、魅琴は大人しく耳を傾ける。産まれた時から堕胎師(おろしや)として育てられ、訓練と言う名の地獄と、堕さなければならぬ人の業を見て来た彼女である、普通の生活というものに少しの憧憬があるのかもしれない。

 話が、少し横道に逸れ、麻衣の性癖に差し掛かると、コンはふと目を覚ました。が、話を聞くわけでなく、本棚から何気なくマンガを取り出してパラパラと捲り始める。が、在り来たりの恋愛モノだったらしく、直ぐに床に置いて、今度はじっくりと背表紙を選んでみる。腕組みをしてみたりして、珍しく黙って悩んでいたようだが、漸く一冊選び出して今度は体育座りで読みふけり始めた。肩を震わせながらドタバタのギャグ漫画を3冊読み終わったが、麻衣の話はまだ終わらない。

「あー、なんか真剣に聞いてないぃー」

 いい加減、適当に8冊ばかり読み進めたところでコンがあくびをした。目ざとく、麻衣は気がついた。律儀な魅琴は黙って聞いていたが、さすがに居辛そうな表情を浮かべていた。ちなみに、麻衣は『彼って酷いけど、私って健気』と言う事を言いたいらしかったのだが、詳細を細々と書き上げてもただの電波文にしかならないので割愛する。

「話、もういいかな?」

 魅琴はコンを気遣うように、麻衣に聞いてみた。麻衣は「仕方ないなぁ」という顔をありありと見せながらも、あらかた喋ってスッキリしてしまったのだろう、扉の方へ目配せをする。

「じゃ、そろそろ帰るわ」

「うん、そうして」

「じゃ」

 そっけない麻衣の反応に、コンは少々むくれ気味だったが、魅琴の意味ありげな口元の綻びを見ると得心したように促されるまま彼女の家の玄関を出る。別れの挨拶を惜しむ間もなく、ガチャリと扉の錠がかかった。どうにも、締め出された感じであるのだが、魅琴は目元が笑っていた。

「さて」

「さて?」

「さてさてさて」

「ここからが本番だよ」

 コンも釣られてニヤニヤしていたが、魅琴は黙って、ひょうと飛び上がる。と、まるで昔の忍者映画のように、今まで彼女等がいた二階の部屋の窓へと張り付いた。もちろん、フィルムの逆回転ではない。彼女の操る幽界の植物、“濡場魂”を張り巡らせたちょっとした芸当である。

「出歯亀あるか?」

「確認したい事があるんだわ」

 いつのまにか横につけているコンがひょこりと窓を覗き込もうとするのを魅琴は両手で嗜める。

「気配、ちゃんと消してよ」

「あーう。魅琴に出来てコンに出来ない事無いね」

 そう言うと、すうとコンは背景に掻き消えた。コンの気配の消し方は見事である。いや、姿まで消している。魅琴がいつも相手にしているのは視覚に映らないのが常識で、“眼”には映らないモノばかりなのであるが、彼ら異界の住人でさえコンの気配は読み取れぬに違いない。だが、コンはいつもの通りハイテンションで、特に変わった様子は見受けられない。

「で、ナニをカクニンするあるか?」

「見てりゃ判るよ」

 そういう間も無く、玄関先の呼び鈴が鳴らされた。見遣るとちょっとカッコイイ感じの青年が玄関に立っている。インターフォン越しの会話のあと、彼は家のなかに入っていく、もちろん、彼女等の存在には気がついていない。コンは微妙に怪訝な顔をする。自分等が部屋から出て行って、こうして張り込みを始めるまでの間に呼び出したらしい。前後関係からして、話に出てきたキヤマ君ではなく、今新しくキープしている男なのだろう。階段を駆け上がった音がして、今度は部屋の中に現われる。

「あ、マイちゃん?」

 締め切られた窓ではあるが、人外に片足踏み込んでいる魅琴と、思いっきり人外なコン=ロンにとって一般人の会話ぐらいならば読みとることは造作ない。中の会話は筒抜けである。

「ケンイチぃ……… ………待ってたの……… 堪らなく、寂しかった…」

「コン達追い出して、すぐ逢引なんて良い度胸してる。お通夜にエッチする未亡人みたいネ」

「うん、ほら、大人しいでしょ?」

「声まで変わてるね。 女は怖いなぁ」

「ウチラもオンナだけどねぇ」

 語尾に甘えの入った言葉使いが彼女の癇に障りまくっていたが、部屋の中の二人は雑談に花を咲かせている。ケンイチは彼女の肩を抱き、麻衣は彼の太腿に掌を預けている。全く、ラブラブなカップル以外の何物でもない。

 やがて、話のネタも尽きてきたのか、急に見詰め合った。魅琴にとっては身悶えするほど痒いシーンであるが、苦い顔をして堪えている。そのうちに、チュっ…チュっ…っとゆっくりと、そして予想通り、甘いキスがはじまった。

「解説のコンさん如何でしょう?」

「稚拙ある。もう少し歯茎をつついてやるのが良いね」

 なんとなく、コンのツッコミで救われている気がする。他人のキスを見ていても、魅琴はツマラナイ。 ンっと、麻衣が首をそらせたのを、ケンイチが耳たぶや、首筋に、舌を這わせている。セーターの上から軽く乳房を弄んでいたが、するりと、服を脱がせてやると、真っ白なブラが、顔を出した。

「あの程度の胸の触り方で感じるとは思えませんが、

「魅琴の解説、相撲の実況みたいに淡々としてて面白くないな。プロレスみたいにやるよい」

「ぇー」

 魅琴は渋い顔をするが、内心、それもまた一興かと思い始めた。“確認”が出来る暫しの間、苦痛を胸に待っているのも時間の無駄だ、少し遊んでみる事にする。そういうわけで、これからは魅琴の心のにバトンタッチしてみよう。

『さぁ、やってまいりました。肉と肉とのぶつかりあい、男と女の異種格闘技、SEX-1の時間がやってまいりました。実況はワタクシ八重垣魅琴、突っ込みは“微笑む災厄”コン=ロンでお送りします。さぁ、前哨戦のキスの応酬からブラを脱がすところに差し掛かったところ。男なら一日一度は揉みたくなるような、見事な乳房でありますが、その全貌が今、明らかになるところです。

 つるりと、無造作にブラが脱がされた! でたぁっ哺乳類の生命線、母性の大雪山、夢見がちなダブルマウンテン! その登頂には夏の夜の虫(おとこ)を誘うように、乳首が赤く耀いている!

 両手で、鷲掴みだぁ! オーソドックスではあるが、効率的だぞッ!

 ケンイチは大きな乳房を、我が物顔で捏ねまわしている。捏ねる捏ねる。ウドンでも練っているかのようだ。練れば練るほど、コシが出てくる女のポイントを責められて、麻衣の顔が徐々に上気し始める。

 おおっとッ! ここでケンイチの手はパンティに差し掛かるがぁ、麻衣は右手でそれを押しとどめる。どうしたというのか? 何か囁きあっているが…おっ、場所の変更だぁ。ここで舞台を移動っ、白いベットのジャングルに突入だァ!

 しどけなぃ! 待ちきれないオンナの表情でオトコを迎えようとする。ケンイチはこの挑発に…のったぁ! ズボンを脱ぎ捨て、青と白のトランクスが宙を待ったぁ〜〜〜っ!

 でたぁっ、男のファイナルウェポンッ。ギンギンに勃起してやがるッ!

 亀頭と言うに相応しく、広いカリはまるでウナギがエラ呼吸をしているところを思わせますっ。しかしッ、スーパーに売ってる中国産のウナギよりも太いッ! 長さは柳包丁ほどもあろうか? コレでお前を料理してやるぞと言わんばかりだぁっ! コレばっかりは生実況の醍醐味。テレビで放送できないのが残念です。

 おっとぉ? さすがに直接突っ込みはしないかっ? ケンイチが攻めあぐねている間にィ、まずは麻衣の先制かっ? 身体をケンイチの方へ向き直ると…… 咥えるぅ!! とりあえず口技で攻めて来たぞッ。とりあえず、ディープストロー! 付け根までしゃぶりこんでぇ…それだけじゃ終わらない、麻衣の顎が動いているぞ。端から端まで甘噛みしている!

 だがぁ、ケンイチの方も負けてはいない! 彼もベットに横たわると…… 先ほど攻めあぐねた麻衣の腹部を、腹筋の間をなぞっているぅ! コレは利くぞ! 思わず身を捩る麻衣に対して、ケンイチはぁ…  腰骨を行くかぁ! 腰の出っ張りを優しく舐め上げる! 麻衣の表情が恍惚としている、いい声で鳴き始めたぞ。

 おっと、麻衣はペニスを離してしまったぁ、コレでケンイチは自由に動けるぞっ、乳首を指で転がしながら、麻衣のくるぶしの辺りを舐め始めたっ、同時攻撃! 左手は脇腹の辺り、ここも麻衣の急所か? 

 寂しそうだった麻衣の左の乳首にぃ、ケンイチの唇が触れるッ! 麻衣の身が爆ぜたっ! 軽くイってしまったか! だが立会いはまだ終わらないっ! むしろ、ここからが本番だぁっ!

 さぁ、漸くパンティに取り掛かるぞ。沁みの向こう側ではエデンの園の扉が、今まさに開こうとしている。男の指が触れるっ、こじ開けるつもりか! 玄関を軽くノック。呼び鈴に触れるッ! 麻衣の声がサイレンのように部屋中に鳴り響くゥッ!

 パンティが今取り外されたぁっ。淫欲のマグマが宿る女体の大火口ッ! ホール・オブ・エクスタシーがその時遅しと待ち構えている! ケンイチが、躊躇無く、花びらを咥えるっ! コレは麻衣は堪らないぞ! 鼻先で自爆装置のボタンに触れてやるっ! 器用な攻めだっ、麻衣はもう為す術なく、横たわるだけかっ?

 さぁ、麻衣はもうまな板の上の鯉っ、とうとうケンイチが料理するときが来たぞっ。 まずは正常位で攻めるかっ? 麻衣のむっちりした太腿を開かせて、ケンイチが今… 挿したぁぁぁっ! 一気に、一気に押し込んだァッ! 素晴らしいインサートだぁっ!スカートを履いたまま、というのが、なんともフェテスティック! 

 沸騰しそうな潤滑油を撒き散らかして、ピストン運動ッツ! 浅く浅く掘り起こすようにッ、Gスポットを的確に狙った攻撃だァ!深ければイイと言う既成概念を打ち破る、テクニシャンの技だぁっ! 女の身体を知り尽くしているのか!

 麻衣も必死に抗戦する! 腰を突き上げて、ケンイチに刺激を送るがぁっ、それは自分も気持ちよくなってしまう諸刃の剣っ! ケンイチをシッカと抱きしめてぇっ、悲鳴を上げているっ! イヤよイヤよもスキのウチとはこのことか!? イヤがオウにもヒートアップするここ阿寝子市三丁目結城邸二階ッ!

 乱れているッ! まさに『傍若無人』ッ、自分の気持ちよさで手一杯で、男のことは考えていないッ! でも、ソレがイイッ!善がり狂うオンナほど、美しいものは無いッ!コレが若さの特権なのかッ! 麻衣のうめきがひときわ大きくなっていたぁ、これは絶頂に達しようとしているのかっ? 果てしなく続く快楽のゴールへと、突き進むだけなのだろうか!?

 ケンイチの息が荒いっ! 彼も果てそうなのかっ? いや、ここは先手必勝、イク前にイカせるのが日本男子の心意気だっ! ピストン運動に拍車がかかるっ! 麻衣の子宮がドンドン突かれていくっ! 女冥利に尽きる感覚だぁっ!

 イッたァァァァァ!! とうとう麻衣がイッたぁっ!

 弛緩しきった、女の一番良い貌を見せつけるッ!

 だがケンイチは体を外さないっ? これからすぐ第二ラウンドを始めようと言うのか? 麻衣はどうだぁ? 呼吸困難に陥っている麻衣であるが、OKの意思表示をしているっ、貪欲なるチャレンジャーっ! 今度は麻衣をうつぶせにしてっ、バックで攻めるつもりか! シーツの上に潰れた乳房が悩ましいぞ! 

尻タブと男の前が、モチを搗くかのようにペタンぺたんと、リズミカルに鳴り響くっ!

 またイクっ? イクのかっ!? 麻衣の瞳に怪しい光が灯っているぞっ!

 二回目がもう来るのかっ! 一度行ったら連続する体質なのか?

 俯いたぁっ! 顔を顰めて快感に耐えるっ! 二回目がキタァァァァッ!

 おっと、まだやるつもりか! 麻衣の体力は化物か!?

 ケンイチは腰を動かしつづけているぞッ! まだ出さないッ! まるで女は生きたダッチワイフだとでも言いたそうだぁッツ!

 三回目ぇぇぇっ!!

「あう、飛沫が顔にかかったね」

「………って、おい」

 魅琴が自分のナレーションに酔っている隙に、コンは部屋の中に潜り込んでいた。しかも交わる二人の交わってる部分にかぶりつきである。コンの隠形の力は先ほどよりも増しており、魅琴はコンの姿を知覚できてはいるが、他のどんな存在も、今のコンを認知する事はコンによって許されては居ない。己が“禁止”の意を示す事でそれを他の万物の定理法則にまで持っていく“禁呪”を使っているのだ。魅琴のみ許されているのは、コンのサービスである。

 油断も隙もありゃしない、魅琴は夢中になっていた自分を棚上げして、コンの自由自在っぷりに舌を巻いていた。が、漸く待っていた瞬間が近づいたようだ。魅琴は急に真顔になる。

「出るよ」

 コンは少し怪訝そうな顔をした。男が射精するのはもう少しかかると思ったからである。が、疑問は瞬時に解消した。麻衣が四回目に達しようとしたとき、ぬっと、彼女の影が起き上がったのである。

 ゆらりと、煙の様に薄く、質感を持たない彼女の写し身は、淫虐な瞳をケンイチに向ける。

「幽波紋て奴か?」

「アナタだから、陽神ぐらい言ってくれるかと思ってたのに」

 陽神とは主に仙道で、己の気を練って意のままに操る術である。その気になればコンなら幾多の陽神の分身を生み出すことができるがそれはまた別の話である。だが、麻衣が出したのは理性で作り出した、己が操作できるような代物ではなさそうだ。彼女の持つ欲望が、ほんの一握りの彼女の才覚ゆえに発現し、幾度となく繰り返された性交によって鍛えられ、やがて実体化するに到ったのだろう。本人はまだ、ソノ存在に気がついてなさそうではあるが。

「あのトシの男の子がさ、こんなに引っ張れるワケ無いじゃん」

「あう、自分が気持ちよくなるノーリョクあるね」

 そんなところだね、と魅琴は頷いた。自分のペースで、自分だけが気持ちよくなるように自慰をすれば、あっという間に絶頂に至る。だが、焦らして焦らして焦らしまくったほうが、格段に快感は増す。ギリギリまで、相手の発射を抑える。男の絶頂ここに極まれるわけであり、その分、性のエネルギーも濃厚に練り上げられる。もっとも美味しい状態にして、味わおうと言う魂胆だ。

 麻衣の“欲望”はケンイチの身体に両腕を突きたてた。ケンイチはぶるりと、本人は快感の一部としてしか認識していないようだが、打ち震えた。薄っすらとした彼の似姿が引き出される。それは彼の“魂”なのだろう。麻衣の“欲望”は、ぺろりと、唇を一周、舐めてやると、がぶりと“魂”に噛み付いた。丸齧りにされた瞬間、男は射精を始めた。意思に反した、突発的な爆発に彼は声を張り上げる。

「ひぃいいっ! ひっ、ひっひっ!?」

「ああっ、麻衣の中にもっと出して! 出して出してぇ! 全部っ、ケンイチの全部出してぇ!!」

 麻衣も声を高めつつ、腰を突き上げる。一滴足りとも逃すまいと、体全体で男の塊を搾り出す。その間も、ガブリガブリと、“欲望”はケンイチを貪っている。現世の肉体は物質の精を喰らい、幽玄の肉体は、精神を蝕んでいる。彼の、生命を全て、食い尽くそうとしているのだ。

「喰われる事でエクスタシーを感じるのよ」

 興味深そうに、唇を指でなぞりながら様子を見ているコンに、魅琴は解説を入れる。相手から取って喰われるというマゾヒスティックな快感が、強制的に発現させられているのだ。今、ケンイチは、快楽のためには麻衣に命をも投げ出せるだろう。

「で、醒めちゃうと猛烈に後悔して、逃げ出しちゃうわけね」

「そー言う事。 コイツの力が弱いうちはね。 強くなると、全部食い尽くしちゃうか奴隷にしちゃうか出来るよーになるだろーねー」

 口調はいい加減だが、そういう手合いを魅琴は多く相手にしてきている。

「あれ? タネはスデにマカれてたりしないか?」

「メンドイ」

 魅琴は鼻で笑った。笑いはしたが、笑いどころではなかった。魅琴は先の緋叉子との戦いでの傷が癒えてないのである。勿論、以前の様に他の人間(主に少女)から大量の気を頂いてはいるのだが、それでもまだ、足りなかった。さすがに腕一本引っ付けるには並みの生気では満足できないのだ。濡場魂を使うにはかなり気を使う、それを堕胎に使うならなおさらだ。さすがの魅琴も、休みどころを弁えていた。いつまた刺客が来るとも限らない今は、無駄な力を使う時期でない。

「今日は確認だけのつもりで来たし… ま、ヒトサマの嗜好にとやかく言う筋愛は無いよ」

「じゃ、コンも食べてみるね」

 へ? と目が点になった魅琴を尻目に、コンはヒョイと麻衣の分身を捕まえた。魅琴ならば濡場魂によって、無理矢理に実体化させて初めて、幽なるものをコチラ側の土俵に引き釣り出す事が可能であるが、コンはこの世のモノも異世のモノも、実在を認識したものは等価に扱えるらしい。コンにとっては何気ないのかもしれないが、多次元世界の奥義に通じていないと不可能な技だ。

 暴れる“欲望”であるが、コンにとっては小鳥でも捕まえているのに等しい。

「あーん」

 コンは大口を開けると…

 ずっずっずっず………。

 蕎麦でも食べるように、音を立てて吸い込んだ。

「うっ、うっ、うっ! うっ! うひぃぃぃいいいいいいいいいいいッッッッ!!!!!!!」

 麻衣は白目を剥いて弓反りになって悶えていた。首を締め上げられているかのような、悲痛な表情だ。陰部からブシュブシュと潮を吹いてなかったら、それが悦びによるものであるとは到底思えないだろう。

 動き暴れる、その震動はケンイチにもじかに響いていた。魅琴の実況には含まれていなかったが、彼女の膣内は小さな粒々で覆われて、いわゆる数の子と呼ばれている名器であり、その上、締まりも頗るよろしい。先にケンイチが発射しなかったのは本当にスゴイことだったのである。“欲望”の恩恵を受けていない今の彼に、耐えられるわけが無い。擦り上げられるような膣の震動に、目を白黒させながら、連続射精の生き地獄を彼は味わっていた。

「美味しくなかた〜〜〜」

 べー、と舌を伸ばして、目をバツの字にしてみせるコン=ロン。キライなピーマンを無理矢理食べさせられた子供の様だ。魅琴でさえ思わぬ愛らしさに、微笑んでしまったぐらい、そして“欲望”を失った麻衣がどうなるのか忘れさせるのに十分だった。断続的に果てさせられたケンイチは泡を吹いて失神している。死にはしないだろうが、二度と、普通のSEXでは満足できなくなっているだろう。


「ん…ま、世の中の悪が一つ消えたってことでエエかな」

 数分後、用事の済んだコンと魅琴は、帰りの住宅街の狭い道沿いを歩いていた。悪と言うには小さく、コンに比べれば甚だ無害なものであるが、とりあえず、一仕事終えたわけなので、魅琴の心は軽かった。彼女の言葉に誉められた(と思った)コンは、急に、ひまわりのような笑顔を見せた。そして、くるっと一回転してポーズをとる。

「コンは正義のヒロインあるね!」

 苦笑いを浮かべるしか、魅琴にはリアクションが取れなかった。コンには善も悪も無いのだろう。まるで暴風雨、自然の、いや宇宙の猛威というべきか。ただ己の欲望に忠実なだけで、もしも彼女が望むなら悪気無く、人類を全滅させる事ぐらい造作なくやりかねない。

「って、ほのぼのでは帰してくれないのかなぁ」

 振り向けば、一人の男が魅琴とコンを見据えたまま、道の真中でガンをつけてる男が居る。しかも、他に人の気配は無い、すでに彼の結界の中だ。もっとも、結界に気がつきながら暫く歩いたのも、あまり現世に干渉したくはないからだ。存分に戦えるフィールドを用意してくれたのならば、存分に相手をするのが礼儀。

 男は、黒のズボンに黒のロングコートを羽織っただけ、というかなりアブナイ身なりをしていた。身の丈はそれほど高くないが、鍛え上げられたボブ・サップ並の筋肉が、服の前から覗いている。置物になりそうなほどしっかりとした顔と、天を突き刺さんばかりに立てられた黒髪。意外に若いが、その気配はタダモノではない。刀使いの緋叉子の様に小細工を弄するわけでもなく、我が身一つでのご登場である。

 相手の満々のやる気に対して、魅琴のやる気ゲージはピクリとも動いていなかった。今しも男女の絡みを見たばかり、男では食指が動かないのである。

「任せるわ、正義の味方さん」

 魅琴は、コンの背中をポンと推した。ノリノリの彼女は0.5秒で瞬諾する。

「任されたね!」

 ピョコンと一歩前に出るコン。魅琴は、楽が出来たんで喜んでいた。男は構えもせず、“如何して二人で来ない?”とでも言いたそうな顔で待っている。

「アナタのお名前なんてーある?」

「邪仙に名乗るなど無いッ」

 太く、よく通る声だった。対戦の様子のみを見ればどちらがワルモノか判ったものではい。だが、男の禍しき瘴気は存在するだけで世界を侵食する、悪質なものだ。コンのことを邪仙と言った以上、恐らく、魔を狩る者なのであろう。

 悪というのは、こう言うのを言うんだよね。魅琴は一人思った。どれほど強くても、どれほどカッコよくても、苦しむ人間を増やすもの、それが悪なのだろうと魅琴は考える。彼が幾多の魔を討って来たのか知らないが、それと同じかそれ以上は、罪無き人を殺めてきているだろう。そうでもしなければ、彼ほどの邪気を孕む事は出来まい。そして、彼はその邪気を持って、毒をもって毒を征してきたのだろう。魅琴自身も、心当たりが、ある。

 男が動いた。轟と音が立ったような気がした。強姦的に空気を犯して突進する。

「おぉぉおらぁああああああぁぁっ!」

 ど、ご、ん。

 鈍い音がして、地面のアスファルトごと、横の塀が消滅した。横に避けたコンは目を見開いていた。彼女の瞳は、全く童子に打ち出される数十、数百の拳の群れをはっきりと知覚できたからだ。

「萬呪拳(まんじゅけん)か………」

 魅琴は彼の拳を知っていた。お目にかかるのは初めてだったが、噂だけは聞いていた。闘気を極めた拳はついには時空を着き通してしまい、同一時空上に移相することがあると。要するに、同時に複数箇所を殴りえると言う事である。無論、そんな超物理的な事が頻繁に起きては堪らないが、彼は身にまとった邪気、要するに彼に命を奪われた者達の怨念の強さによって、常軌を逸した拳を修めるに到ったのだろう。

 時空を揺るがす禁忌の拳が、逃げ場を与えずに打ち込まれる。

 破壊力だけならばコンを傷つけることは出来まい。問題は彼の発する瘴気にある。彼の腕は一面に、冒涜的で、淫猥で、正気の沙汰ではない邪教の紋章が所狭しと絵描き込まれていた。見るだけで、常人ならばその不吉さ、に身も心も打ち砕かれることだろう。触れてしまえば、条理を超えた力の奔流に、身体は崩れ落ちてしまうだろう。さぁ、それで殴られたらどうなる事か、想像だにしづらい。恐らく、 コン=ロンすら例外では無さそうである。

「墓標がイラないらしいネ」

 だが、震える拳の吼え交う中を、コンは一撃も喰らう様子もなく。悠々と歩を進めた。拳が去り行くほんの一刹那、コンの身体は現世の柵を解き、一切の無の中へと逃げ込んでいた。超物理には超物理である。さしもの彼の拳も、虚無を打ち崩す事は出来ないようだ。だが、それではコンのほうも攻撃は出来ない。

 無駄にエネルギーを浪費するのが悪なのかな、魅琴は考えてみた。人の命を奪うのも、力を乱用するのも、自分勝手の為せる業、判ったような判らないような考えを張り巡らせる。尤も、コンと拳法家の戦いを見ながらの、取り留めも無い観念遊戯である。

「おぅおおおお!!!!」

 ビョウと、狙い澄まされた一撃だが、コンは軽く、掌で受け止めた。だが、一刹那、彼女の身体はこの時空に留まった。

「取ったァ!」

 どれだけの拳が舞っただろうか。至近距離からマシンガンを十丁ほどでしこたまぶち込んだかのような、派手な爆音が響く。マシンガンの弾ならよい。一撃一撃がランチャー並みの破壊力に換算できるだろう。爆走するトラックを真正面から受け止めて、鉄クズにするのも朝飯前、全力で疾走する八両編成の新幹線ですら、今の攻撃ならば彼に届く前に須らく塵に帰していただろう。そう、相手がコン=ロンで無かったならば。

「さすが」

 魅琴が思わず、ヒューと口笛を吹いたときには、衝撃による砂塵から視界が開けていた。煙の真っ只中で立ちすくむ男の肘から先は、ミキサーにでも突っ込んだが如く、痛ましい断片を残して削れ取れていた。魅琴は目撃した。コンの拳が、彼の攻撃をことごとく撃墜したのだ。

「久方ぶりに、コブシで語ったね」

 事も無げにコンは言い放つ。ご機嫌な表情だ、即ち淫惨な色を漂わせている。瘴気をふんだんに含んだ拳は、コン=ロンに内在する瘴気の迸りに飲まれ、競り負け捻り切れたのだ。同じ破壊力を持つならば、有限に対して無限が勝るのは必然である。コン=ロンが冠する『邪仙』の二文字は伊達ではない。

「うがぁっ!」

 男もさるもの、気合の一閃残った二の腕を振り下ろすと、ゾロリとばかりに肘から先が再生した。

「人外の戦いだね」

 魅琴は嘲笑した。だが、彼にはもう魅琴は見えていない。目の前の、小ざかしい、似非中華娘をギタギタにやり込めて、大地に叩きつけてやる。男もかなりの場数を踏み、かなりの魔性を葬ってきたのだろう。だからこそ、戦いを挑んできたのだろう。しかし、コンに挑戦することがいかに不遜な考えであったか、彼は間もなくその身を代償に体験する事になる。

「だぁぁっつしゃぁああああああああああああああっっっっっ!!」

 起死回生の脚技が襲い掛かる。だが、コンはヒョイと仰け反ると、流れるように地を転げて、すり抜けざま彼の軸足を蹴り飛ばした。ちょっと触れただけだが、絶妙のタイミングで男のバランスを崩す。チャンス! 一瞬、コンの両目が光り輝いた。

「あたぁっ!」

「はうっ!?」

 男は尻をすぼめる形で、伸び上がった姿勢のまま前へとよろめいた。コンの両手は胸の前で組まれ、人差し指だけが立てられている。まさか来るはずがないと思われた、カンチョーが炸裂したのだ。尻を突き出したまま、切なげに男は身をくねらせる。

「コンは今、『悶苦喜』と言うケーラクヒコーを突いたある! 全身が快感に膨れ上がって、血を射精しながら昇天するね」

 おごそかな顔で、さらっと言ってのけるコン=ロン。また漫画ネタかよ、と、ちょっと俯き加減の魅琴。とりあえず、主人公が宇宙を破壊するような漫画は一切コンに読ませないよう、魅琴は心に決めた。

 男性器が勃起するのは、海綿体と呼ばれる、スポンジ状の器官に血液が溜まるからである。そして海綿体があるのは全身でも極一部、そうでない場所は血液が鬱血する以外にない。男の皮膚は真っ赤に晴れ上がる。

「うあっ…あっ…ううぅっ………」

 先ほどまでの覇気はどこへやら、内股になって、ヘナヘナと、それでも尻餅をつかないのがさすがであるが、暴走する血流は、彼の全身の細胞間を行き来する際に莫大な快を生み出している。が、男が悶えても、魅琴は嗜虐心しか沸き立たない。

 かくかくと、機械的に震動する男の肉体、まるで巨大なバイブを思わせるその様は、自身が積み重ねた罪の重さに耐え切れなくなり、自重のために潰れ崩れるさまを思わせた。無論、断罪したのが選りに選ってコン=ロンという巨魔である事は、誰しも納得行くことでは無いだろうけれども。

「うっ、ぉおぉっ? おおおおっ!?」

「称己径逝了(お前はもう、逝っている)」

 コンの決め台詞の後、死を宣告された彼は一度、動きを止めた。赤かった顔は蒼ざめたかに見えたが、それは一瞬の事。

 そして、時が来た。

「うぃひいぃぃぃぃいいいいヴゥウウっ!!!」

 男は絶頂の叫びの途中、風船の様に爆裂した。まるで血液がすべて火薬となって、一斉に吹き飛んだかのようだ。チリも残さずとはこう言う事を言うのだろう。

 断末魔が少し気に入らなかったようであるが、コンは笑顔で、喜びに跳ねている。

「あう、コンは慈悲深いな。逝きながら倒してやったね」

 それが本当ならば、絶頂の間際に相手の首を斬り落とす事が許される。

 そっけなく、魅琴は呟いた。

「そろそろ、カオが割れちゃったかな」

 いやに“客”が増えている。土産の無い客は御免被りたいのだが、それはそれで楽しい毎日を送ることが出きる。遠路はるばる着てくれるのだ、どうして歓迎せずにいられようか。

 コレからがホンバン、魅琴ははしゃぐコンを見ながら、胸躍る気分だった。


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