MIKOTO NO TUTAE 休日編

 
「あっ…やっ……あっ………」

 薄暗い部屋の中で、白い影が揺れる。ふわり、ふわりと、良い香りが漂う。フローラルの、リンスの匂い。

 ベットに膝立ち、女の感覚に身を揺るがして喘いでいる少女が一人。頬や首筋を伝う汗は、まだあどけなさの残る胸の谷間へと、雨垂れのように滑り落ちる。水々しい若い肌は新たに生まれる快感になお一層輝きを増し、忙しなく通う血流と膨れ上がる興奮で、今にもはちきれそうだ。

「あう………うぅ………ぅう………」

 ひく、ひくと、腰がぜんまい仕掛けの動きを見せる。股間の間には、同性の顔が埋もれていた。少女は、彼女によって女にされ、女として開発された。そして女で無ければ達せないように調教されている。たとえ如何なるイケメンであろうとも、隆々たる体躯の持ち主であろうとも、呪力の込められたか如きペニスの持ち主であろうとも、悦びは真冬の紅茶のようにアレよと言う間に冷め切ってしまう。

 柔らかな胸が無ければ、艶やかな肌でなければ、丸みを帯びた臀部でなければ、そして秘密を帯びた蜜壷でなければ、少女の体は熱く燃えることは無い。感度はすでに熟女の域に達し、逢瀬を待ち焦がれるのは亭主の帰りを待つ若妻にも似ていた。可憐な少女をそうさせた張本人は、偏執的と言えるほど、未熟な蕾に舌を這わせている。

「やっっ………そっ、そこっ! あっ、良いッ!」

 秘所に口付けるのは、八重垣魅琴。両手は乙女の腰にまわし、自我を失わんが如き歓喜に逃げぬよう、また心神を喪失し倒れこんでしまわぬよう、しっかりと支えながらも、桃のようなヒップの手触りを楽しんでいる。

 彼女自身は裸ではなく、下着姿だ。レースのついた白のブラと、パンティ。そして同じく真っ白なガーターベルト。気分を出すには持って来いの装束だ。相手に着せるつもりだったが、気がつくと自分が着て、少しばかり大人の気分。成熟した自分が、少女を責める、そんな幻想に少し浸っている。

 床の上に、同年代の女の子が、二人転がっている。少し大柄で、グラマーなマユミは一時間前に、活発そうな容姿のユリカは二時間前に魅琴によって昇天させられて、そのまま眠りに着いていた。魅琴の舌はかれこれ3時間ばかり働き続けていることになるが、疲れは感じなかった。楽しみ中の運動に、どうして倦怠が起こるものだろうか。

 今宵、コン=ロンは、紅葉と美耶子とで徹夜カラオケに出かけている。魅琴も行くとは云っておいたが、体調不良と偽ってバッくれた。タマにはゆっくりと、仔猫たちの美蜜に舌鼓をうちたかった。このところ、普通のHはご無沙汰である。魅琴も少女に飢えていたし、少女たちもまた、魅琴に飢えていた。

「や、はぁ…ああ…… 魅琴さまぁ………」

「なぁに?」

 聞き返しながらも、吉舌を舐るのは止めない。色素が沈殿する前の、晴れやかなピンク色の粘膜は魅琴の長くて良く動く紅の舌に良く合った。右周りに旋回したかと思うと、1分はその回転を止めない。余りあちこち刺激を与えると集中力が分散してしまうが、一点ばかり集中すると、今度は感覚が麻痺してしまう。付かず離れず、それで居て官能的に、魅琴の舌は動きを止めない。

 どんなバイブレーターよりも、魅琴の舌はいやらしい性具である。コンと格ゲーをやっていたときに、「魅琴、指で連射するより舌でやったほうが速くないか?」と言われて、ほんとに速かったことがある。さらに、指よりも何よりも柔らかでいて、望めばしっかりとした硬さを保つこともできる。例を挙げれば、象の鼻の器用さなど問題にならないほど、魅琴の舌は器用である。

 少女の体は、魅琴の舌に支配されていた。魅琴の味覚も、彼女の甘酸っぱさに支配されていた。味覚は原始的な本能を刺激する。快楽の泉は少し、潮の香りが漂う。母なる海の記憶がよみがえるかのような、うっとりとした陶酔感に淀んでいく。

「いい………気持ち良いですぅ………あああぁ………」

「そう、ミカちゃんが気持ちいいなら………」

「ああっ、はうっ!?」

「私も気持ちいいのよ」

 魅琴の指が、彼女の乳首と菊座を捉えた。一つステージの上がった少女は、更なる嬌声を上げながら、ふわふわの太ももを魅琴の頬に押し付ける。喜びの痙攣は喜びを与えた方を挟み込んで止まない。

「あっ、あっ、いきます、ミカコ、いきますっ!」

 イクときには必ず報告するように、魅琴はミカコに仕込んでいる。色の白いミカコが達する様は、白魚がピチピチと跳ねるのを彷彿させる。胸の上で乳房が跳ねる。彼女は悲痛なまでの表情を浮かべる。その顔を見るたびに、魅琴の背筋はゾクゾクして仕方が無い。緊張から安堵に移る時など、魅琴のほうが達しそうになる。

「まだ、いけるよね?」

 ぐったりとうなだれるミカコに対し、妖絶な笑みを魅琴は浮かべる。彼女は自分をSだと思っている。相手が理性を失い、普段抑えられた獣性を奔放なまでに解き放たせる。そうせざる得ないように、導いていく。最初は恥らっていたものが、次第にそのタガを外し、流れ出す快感に溺れて行く様が好きである。幾重にも繋がれた鎖から解き放たれ、自由に飛び出す様が好きである。その過程が楽しい。

 魅琴は一方的な愛撫を、いや性感への攻撃を続ける。

「っ、つっ、イ、イク、イクぅ…イっイっイっイっ……」

 ミカコは名器の持ち主である。熱い粘膜は良く動く筋肉で包まれ、イッた時に見せるしごくような動きは、やわなペニスなら、2〜3回連続で射精させてしまうほどだ。例えそれが指の一本でも、得も言われぬ幸せな気分になれる。

 だが、魅琴は挿れてやらない。敢えて膣での快感を、今日は与えてやらないつもりだ。女は陰の獣。行けば行くほど、陽物が欲しくなる。性欲を超えた、挿入欲に身悶えるのだ。それが果たせられないと、切なさと貪欲さに押しつぶされる。先の二人はそうして果てた。白目を剥いて、まるで窒息するかのごとく。快感が酸素と同じく、無ければ生きていけないものであるかのように。

「今、いったでしょ?」

 ピク、と喜びに咽んでいたミカコの体が少し引きつった。魅琴は他人の気を読める。常人には難しい、絶頂の判別などたやすく出来る。ミカコの顔は、次に来るだろう魅琴の責めに困惑と期待と恐怖が入り混じっていた。

「おしおき」

 ずるるるる………。淫臭が一気に濃くなる。

「っ! っつぅっ!? うぅふっっ!?」

 魅琴は、音を立ててすすり始めた。唇を、鼻を、頬を使いながら、暴力的なまでに愉悦の中心を穿り出す。こうなると、ミカコは声を上げることも出来ない。ぶしゅぶしゅと潮を吹きながら能面のように表情すら失う。

 快感が一定量を超えると、顔や体へ命令を送ることすら出来なくなる。こうなると後は、失神という終わりを迎えるしかない。甘いエクスタシーとは対照的な、自我を奪われるような強制的なアクメはまさに罰に相応しい。数え切れない絶頂の果てに、少女の肉体は柔らかなベットへ沈み込む。

「ごちそうさま」

 魅琴も、どろどろになった下あごを拭いながら、やり遂げた仕事の達成感に満たされていた。久しぶりのご馳走に満腹気分である。

 とはいえ、自分の肉体にも寂しさを感じる。それは少年が母親の温もりを求める感情に近かったが、せっかくなので気持ちよくなっても罰は当たるまいと魅琴は考える。実際、魅琴が座っていた場所は、彼女が垂らした愛液で濡れている。ついでなので、デザートを洒落込むことにした。床の上で寝転んでいる少女を脚で突付いて、目を覚まさせる。

「舐めて、くれない?」

 マユミは起されたにも拘らず、神妙な顔になって魅琴の足元に跪く。眸で確認して、おずおずと柔らかな太ももへと舌を這わせる。魅琴は滅多に、肌を他人には晒さない。時には着衣のまま、責めに責め続けて終わることもある。そんな彼女が求めているのだ、マユミにとっては初めての経験であるから、緊張するのも無理は無い。

 先ずは、こそばゆさが走る。遅れて、むず痒いような電流が。魅琴は、男の脂ぎった顔など、触れさせたくない。ふわふわの頬を持つもののみが、自分の花弁に相応しいと思う。しかしマユミの舌は、まだそこまでは届いていない。ユックリと生え際のあたりを行き来している。

 魅琴ははそんなに毛深くないが、恥ずかしいとは思わない。むしろ、可愛らしいと自分で思っている。ようやく、開ききってない蕾までたどり着いた。マユミは、露を啄ばむ。

「あーずるい、私も、私も」

 淫欲が騒いだのか、ユリカも起きだした。屈託のない表情が愛らしい。他の娘よりも、積極的に魅琴の素肌に触れたがっている。コンも彼女のように無害ならば、可愛らしいのにと魅琴は常々思う。

「じゃぁ、私のおっぱい、吸って?」

 魅琴が命じると、ユリカは満面の笑みを浮かべてそれに従った。ブラジャーが取り外されると、魅琴の小ぶりながらも形の良い乳房がまろび出る。いきなり乳首を舐めさせるような、無粋な事は教えていない。まずは胸の輪郭を、ゆっくりと揉ませていく。

「んっ………」

 ふんわりと甘い快感が、魅琴の上半身を捕らえる。この感覚を、この子達に与えていたのだと思うと、魅琴は改めて、満足感を覚える。

 いつの間にか、ミカコが背中にしな垂れかかっていた。何をするでもない。ただ、肌のぬくもりを感じていたいようだ。起きているなら、彼女にも手伝ってもらおう。空いている胸へと、彼女をいざなう。夢うつつのミカコは導かれるままに乳首を含む。まるで幼児のようだと魅琴は思った。

「可愛いわ、みんな」

 魅琴の乳首が、ユリカの舌で転がされる。絶妙の技術を与えられているものだから、魅琴の物まねでも、なかなか乙なことをやる。魅琴も思わず目を細める。

 逆に、ミカコは余韻が取れていないらしく、もぐもぐと口を動かすだけである。それはそれで可愛くあるのだが、顔を上げさせ、唇を重ねてやった。ふわりとした唇は思ったよりも熱く、舌先は思ったよりも敏感でぞくぞくした。

「あふぅ………」

 ミカコの口からため息が漏れる。その間を潜りながら、粘度の高い唾液が、二人の間で行き来する。

 マユミの一身の奉仕は、魅琴に下半身の存在を忘れさせていた。ベットともシーツとも、何とも溶け合って混ざってゆくような開放感と、愉悦。圧縮なべで一気に加熱するような快感は他人用だ。しかし、自分自身はというと、じっくりと時間をかけて、性感を高めるのを好む。ゆっくりシチューのように気長に煮込まれる事を好むのだ。

 鼓動が、早くなっていく。じっとりと汗ばんでいく。体が、別のものに支配されていくような、甘美な敗北感に浸っていると、自分が人外のモノであることすら、どうでも良くなっていく。

「あぅ………いい………」

自分で出した声に、自分で驚いてしまう。喉の奥から搾り出すような声だ。いつの間にか、全身が布団に沈んでいた。目も半開きになって、周りが良く見えてこない。ただ、自分に六本の手が絡みつき、三枚の舌が、ゆるやかな愛撫を繰り返しているのは判る。

「あっ、はっ、はっ………いいよぅ………」

 普段絶対に出すことの無い、愛らしい声を魅琴は上げている。自分の声で、子宮がキュンと疼く。ぴくっ、ぴくっと、絶頂への階段を一歩ずつ歩んでいるのを実感していた。全てがブラックアウトする。

「ん、イク………」

 闇から光への反転。光届かぬ深海から一気に青空に飛び上がるイメージが、魅琴の絶頂感である。この瞬間だけは何物にも換えられない。無防備になるのも結構だ。

 意識が戻ってくると、その分、普段溜め込んでいるシガラミから解放された気がした。少女たちは、魅琴の顔を覗き込んでいる。滅多にイカないから、不安そうな顔もあれば、うれしそうな顔もある。思わず彼女らを抱きしめる。暖かくしとやかな肌に包まれて、やっぱりイクのはイイコトだと魅琴は実感する。

「もうちょっとイイかな………って思ったけど、楽しい時間ってすぐだよね」

「魅琴、寂しくないか? 様子を見に………って、コンに内緒でナニしてるーーーー!?」

 魅琴がつぶやくのと、ほぼ同時だった。バタンと扉が開いたと思うと、金色の風が吹き行って、一人で怒り始めていた。

「ノックぐらいしてよ」

 事態を把握していない三名は別として、魅琴は至極冷静に対応する。コンの気配は察知していたのだが、慌てるのも無様なので開き直ることにしておいた。予想通り、コンはオカンムリである。

「トイレと偽って、様子見に着たネ。 ふーん、コッソリ、チチクリ合ってたんだー」

「タマにはそういう気分にもなるよ」

 女たちを抱き寄せる魅琴に、ぶー、とコン=ロンは頬を膨らます。除け者にされたのが堪えたらしい。天井天下、唯我自分勝手のコン=ロンにしてみれば、自分を差し置いて大人の遊びを行うなど、言語道断以ての外である。

「楽しみは分かち合うべき! コンもイイコトしてやるね」

 一言残すと、コンはランプの精のように、しゅるしゅると、マユミの耳へと潜りこむ。更に鼓膜をすり抜けて脳へと達する。脳への進入は、魂への進入でもあった。

「え? へっ? 何ッ!?」

 一瞬のことだ。現実の世界に生きている人間に、何が起きているかなどわかるわけが無い。それでも、玄妙不思議な作用がマユミの心身を侵食していく。

「うわ、うわ、うあ、ぶば、ば、ば」

 声にならない声と共に、マユミの体は爆ぜ始めた。乳房が震えて、分裂を開始したのだ。大きさはそのままに、二つが四つに四つが八つに、倍に倍にと増えてゆく。それはもう、あっという間の蹂躙だった。

なシーンだ。と魅琴は思った。自分は別段無関心で居られるが、通常人であるユリカやミカコにとっては、突然、ホラーの世界に突き落とされているのだ。傍から見ればクレイアニメのシュールさに近いだろう。自分らが当事者でないならば。

「ほーら、体の中からえくすたしーっ☆」

 顔や腕や、脚までも乳肉に包まれようとする少女からコンは先とは逆の右耳から脱出する。そのとき、たまたまユリカは、コンと目が合ってしまった。テンションの上がったコンが、見逃すはずも無い。

「次はこの子ね!」

 恐怖で身を竦ませ、逃亡を逸した彼女の鼻の穴へと、コンは潜り込む。見開かれた目がぐるりと裏返ると、体中から汗がたぎった。コンは今度は女陰から飛び出した。

「ぷー、えっちな汁でべとべとある!」

 わざと魅琴のほうを向いて、そう告げる。魅琴はそ知らぬ顔を決め込む。ユリカは一見、何もされては無さそうだった。案の定、その考えは甘かった。

「い、ひ、い、いぃ、ひっ、しっ」

 涙をぼろぼろ溢しながら、ユリカの体は赤く染まっていった。病が全身に広がったかのように見えた。クリトリスだった。幾千、いや万に達しそうな勢いで、敏感な神経細胞の突起が生えていく。手のひらにも、うなじにも、背筋にも、脇にも、肘にも、ふくらはぎにも、足の裏さえも、毛穴のすべてが淫核になるかのようだ。

「準備はおっけー! さて、きゅーきょくの快感を受け取るヨイ」

 難しい事はしなかった。コンは無慈悲にも、性感の塊を、蠢く乳肉に投げ込んだ。

「ふあぁうおつおおぁつ!?」

 声とも呻きとも、喘ぎともつかぬ音を、異形と化した少女が叫ぶ。声帯にも異常をきたしているのだろう。もしくは脳の髄まで性感帯と化して、言葉を忘れてしまったか。

「むおっふ、おうふぅっ、うふううっ、ふうつっ」

 ブドウのように鈴なった乳房の上で、敏感な感覚器官がリズミカルに踊る。白子の上にスジコが乗って遊んでいるかのような眺めだ。彼女らは次第に、声を立てなくなった。呼吸音すら立てるのを止めた。口や鼻すら存在を失ったのだ。

 真っ白な乳房の上に、少しずつ、桃色の淫核が侵食し始めた。二人の体は境界を失い、新たなる性感増幅装置と融合して行く。すでに理性は無く、むしろ脳と呼べる器官が体の中枢として機能してはいない。貪欲なまでに、刺激を生成するだけの存在である。挿入以外に存在する全ての感覚が荒れ狂う嵐のごとく吹き荒んでいる。更なる高みへ登り続ける、爆発し続けるエネルギーを動力に転換できれば、戦闘機ぐらい飛ばせそうだ。

「私、ノーマルなのが好きなんだけど?」

 そう言いながら、唐突な出来事に放心状態の少女の髪を魅琴は撫でていた。恐怖とも絶望とも狂気ともつかぬ状態の乙女の肉体は冷え切って居たが、魅琴にとっては心地よく感じられた。雨に打たれた小鳥を庇護するような、甘い優越感が沸いていた。

「タマには人生のスパイスある! そして知らず知らずにクセになるヨイ!」

 例によって無責任に言い放つコン。コンにとってはこの程度は日常茶飯事なのだろう。彼女に取って、自分の出来ることは全て「良し」である。正常異常の出る幕では無い。また、責任も不在だ。やりっ放しの放りっぱなし。他者がどうなろうとコンの知ったことではないし、コンに意見できる存在は、とりあえずは、無い。魅琴は拗れるのがメンドクサイので、あえて楯突くことは無い。ただまぁ、時にやんわりと嗜める事はあるけれども。

 外見からは窺い知ることは出来ないが、一つになった二人の膣道は一時も形を留める事はなく、絡み合い、捩じれ合っていた。その様は、蛇の交尾を見るかの如くであった。本能の赴くまま、欲望の突き進むまま、性欲中枢と化した脳と魂の命じるままに、愉悦の中心としてとぐろを巻き続けている。

 この勢いでは、残ったミカコもペニスの塊にでもされそうだ。コンもそのつもりだったようだが、急に吃驚の相を浮かべて慌て叫ぶ。

「あう! もうコンの順番ある。『飛んでモスクワ』歌ってくるね!」

 カラオケの途中だったことを思い出した妖仙は、窓から、ふわりと身を躍らせるとそのまま見えなくなった。空気に溶け込んだようだった。何にせよ彼女のことだから、一曲歌えば今の事は忘れてしまうだろう。膨大な時を経た存在であるがゆえに、彼女の楽しみは刹那にしか無いのだろう。

 まったく、どうするんだよ。と、残された魅琴は軽くうそぶく。だが、勝手に騒ぎ立てて、勝手に事を荒立てて、勝手に帰って行ったコン=ロンに対して、苛立ちは無かった。この状態で可能なのは、敢えてコンの助言に従い、偶のアブノーマルに身を浸すのもよい。二つの肉塊が蠢く様を鑑賞しつつ、手元の娘を絶頂に導くのもよい。すでに彼女らの記憶や理性のバックアップは取ってある。何をやっても構うまい。

 魅琴の基準では、人が出来ることがノーマル。人外なのがアブノーマル。同性愛は人間でもできるので、アブノーマルには含まない。無論、人ならざるモノに足を踏み込んでいる以上、偶のアブノーマルも、アリだと彼女は思っている。


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