MIKOTO NO TUTAE 学校編(3)

「秋だねぇ・・・」

 校舎の窓から外を見て、魅琴はふと呟いた。阿根子市立第六カゴメ高校の校庭の木々もすっかり紅葉に染まり、雲ひとつ無い高い空にはトンビが輪を描いて飛んでいる。ブレザーとブラウスの間に、偶に割って入って来る肌寒さがまた移り行く季節を感じさせて彼女の心に黄昏の寂しさが浮かび上がっていた。

「魅琴? 何見てるの?」

 急に現実に引き戻されて魅琴が振り向くと、二人の少女が並んでいた。一人は手を振りながら駆け寄って、もう一人は彼女の後ろに隠れるように引っ付いている。

「よっ、テル。ミヤも一緒?」

 魅琴も片手を軽く上げる。駆け寄った方、お下げで胸の大きいほうが照山紅葉、冗談のような名前であるが魅琴の親友である。非常に溌剌として少し影のある魅琴とは好対照であった。

 もう一人は行橋美耶子。ロングヘアーですらりと背の高い、少々険のある美人である。美人ではあるが少々奥手であまり自分から話すタイプではない。まぁ、一言口にするとそれはとんでもないボケだったりするのだが。

 魅琴は彼女らに、自分の性質は明かしていない。彼女らはあくまで友人。友人と恋人は別なのである。もちろん、恋人は奴隷やペットとも違うのだ。

「一緒に帰らない? 」

「んー、ごめん。ちょい用があるんだ。」

 現実に戻ってきたついでに片付けねばならぬことを思い出した。朝から懸念していたのだが、やはり自分が動かなければならないだろうこと。この清々しい秋の日に相応しくない、非現実的な現実のこと。魅琴は残念そうな顔をしてみせる。

「魅琴っていつも忙しいんだね。」

 紅葉がそういうと、魅琴は表情も変えず頬杖をつきなおして窓の外を向きなおった。

「青春だからねぇ。」

 紅葉達が声を立てて笑う。魅琴はフッと溜息を吐くと重い腰を上げて廊下へと歩き出す。生徒たちを何人もすれ違う。同じ校舎の中で生活していながら殆どの生徒の顔も名前も知らない。普段にしていれば彼女もそんな、平凡な一般生徒の一人。彼女はテクテクと階段を登りガラガラと生物室のドアを開けた。

 かすかに標本のホルマリンの臭いが篭っている部屋。それだけでない、空気が澱んでいる。本当にかすかではあるが、男と女の淫臭が魅琴には感じられた。一度や二度ではない、いや今も見えないところで行為が行われているはずだ。

 数日前から魅琴のコネコの一匹が姿を見せないでいた。気にはなっていたのだが、特に用も無いので放って置いたのが甘かった。教室を覗いても、どうも雰囲気がおかしい。彼女が居た形跡が失せてしまっていた。ようやく不安になって彼女の親に電話をしてもそんな子は知らない、と言われる始末。そう、初めから居ない事に成ってしまっている。神隠しと言えるだろうか。この世界に縛られた普通の人間なら同じように彼女のことを忘れてしまっていただろう。不思議の力を持つ魅琴だからこそ、その存在を記憶していられたのだった。

 魅琴ほどになると、そういう術の幾つかには心当たりがある。程度の高い妖魔ともなるとこの世界という織物から一人の人間の運命の糸を引き抜いて異世界に編み混んでしまうことが可能だ。そうされた人間はこの世界での存在が忘れられ、異世界に生きることになる。竜宮に行った浦島太郎や、仙界に遊んだ中国の名士達は一時的にこの世界から抜けてまた戻ってきた例である。

 何にせよ、相手は手ごわい。そんな手口が使えるのはよほど高級な連中に違い無い。なおかつワザワザ結界を張ったこの学校を選んでくるとは罠を張っている気もする。魅琴は慌てて自分が張った学校の結界を調べて、事の中心が生物室であると当たりをつけたのだ。強い力を感じる。やはり自分を八重垣の者と知っていながら誘っているらしい。

 魅琴はまず、生物標本から眺めてみる。卵から次第にヒヨコの姿になっていく鶏の発達標本。ミミズや魚。猫の神経標本。人間だって、一皮剥けばこんなもんだ。魅琴は嫌と言うほど人間の体組織については頭に叩き込んでいるので標本ぐらいなんと言うことはない。

 さてと、違ったか。魅琴はふうと息をついて生き物の方へと向かう。教室の奥の方にはメダカやモルモットがガラスケースの中で飼われていた。ざっと見渡す。ネズミが十匹ばかり騒いでいる。入り乱れて交尾をしている。気にする程のことではなかったかもしれない。しかしその余りに忙しない様子に魅琴は表情を曇らせる。

 幾ら人間と同じで、年がら年中発情しているとは言っても程度というものがある。自慰に熱中するのはサルと人間ぐらいなのにね。順番待ちをしてまでネズミは子供を創ろうとはしないものであるはずだ。

 魅琴は心の目を凝らした。それは霧の様に見えにくくなってはいたが、思念を凝らした魅琴の瞳を曇らせることはできなかった。施された幻術の網を通り抜けてしっかりと像が結ばれる。魅琴の目にはもう、ネズミの姿は無かった。男が六人、女が五人。この小さなケースの中で乱交に興じている。もちろん、全員全裸だ。あられもない姿で交尾に耽っている。

「キッキイッキィキィキィ!」

 女が叫ぶ。四つんばいになった彼女らに対し男たちは振りつづける。あぶれた男が一人だけ、女の口に猛った性器を差し込んでいる。年の頃からして高校生、おそらくこの学校の生徒だろう。自分に気取られず、よくもコレだけ集めたものだと魅琴は少し感心した。このケース自体が異界というわけだ。

 性欲に憑かれている、と言っても過言ではない状態だ。彼らの目の色は快感にどんよりとしてなお果てぬ欲望にギラギラと乱反射している。女の三人は孕み腹だ。一人はもう臨月に近そうだ。まだ歳若いため腹だけ膨れて手足が異常に短く見える。動きにくそうな身体を捕まえて男たちは嬲る。女は嫌がるどころか、喜びに打ち震えている。大きく張った胸が痛々しげに円を描く。

 魅琴はその場に埋もれている記録を掘り起こすと、眉をひそめた。三人は既に出産済みで、一人はまた妊娠しているのだ。
この中では胎児の時間がすぐに進むらしい。それこそ二十日ネズミが鼠算的に子供をひり出すように。彼女らも児を産出している。

 男たちは滑稽なほど同じペースで腰を振っていた。ここには性の技巧など存在しない。まさに獣。淫獣である。女もまた、めいめい勝手に喘いだり叫んだり、胸や陰部をまさぐったりして勝手に快楽を貪っている。ぱこぱこぱこぱこ。男たちは絶え間なく腰を振り続ける。相手にはお構いなしのペースで、素晴らしく自己中心的な行為であった。

「きぃっ!」

 男は一声無くと、少し痙攣して女から離れる。射精したのだろう。

「きっきぃ!」

 それを女がなじった。女も女だ。そう思っていると別の女に咥えさせていた男が寄ってきて女の尻に張り付いた。ぱこぱこぱこぱこ。同じペースで腰を振り出す。倒れていた男は暫くすると今度は別の女の口へ行ってもう復活する男根をねじりこむ。女は待ってましたとそれを舐め始めた。良く見ると、先ほど男のものを咥えていたのは自分が探していた娘である。

「きぃぃぃっきぃぃぃっきいっぃっ!!」

 頭を大きく振って、自分にすら見せたことも無いいい乱れッぷりだ。魅琴は少し羨ましくなった。今彼女を狂わせている状況と、色欲に狂っている彼女自身に。

 魅琴は人差し指で餌をすくうと、臭いを嗅いでぺろりと舐める。少量であるが亜鉛と、精液の味、お茶の風味が感じられた。前者の二つは言わずもがな強壮剤、後者はおそらく妊娠中の栄養素である。子供を産ませることは前提、ということだ。という事は彼らは家畜ということに成る。二十日ネズミというぐらいだから子供も既に大人になっているかもしれない。しかし、それらは何処へ?

「食用?」

「ご名答。」

 魅琴が呟くと、耳元で声がした。ぶんと腕を振ると声の主は一躍して机の上に降り立つ。

「いい度胸してるわ。」

 にやり。先ほど見た顔が笑った。にやり、魅琴も笑い返した。行橋美耶子、その目は赤く燃え引き裂かれんばかりに釣り上がり、その口元も見事な紅に染まっている。元の彼女の造形とあいまって、不自然ながら凄惨なまでの美しさも感じさせた。

「八重垣の血統がまだ存在したとは、潰さざる得まい?」

「この子達は?」

「精をつけねば成らぬゆえ、糧を造らせた。御主を誘う餌でもあるがな。」

「そう。美味しく頂かせてもらうわ。」

 言葉が終わらぬうちに魅琴から黒珠が放たれる。

 バシっ!
 美耶子に届く前に大きな音を立てて、それは空中で四散した。

「濡場魂(ヌバタマ)か。」

「よくご存知で。」

 黄泉の穢れより生まれし禍津日之神の化身、濡場魂は黄泉の穢れを結び鎮める。負のエネルギーを吸収して、生のエネルギーと転化するのだ。しかし魅琴はそれを召喚し、飛ばすことしか出来ない。その強力な力を娑婆に顕在化させるためには種を下ろして成長させなければ成らない。

「くくく、我が結界の中では古神の力は及ばぬぞ?」

 どうやら、相手もかなり古い存在らしい。確かに、外したはずの種が発芽してくれない。完全に封じ込められているようだ。力が拮抗してしまうと人間であるが為に魅琴には歯が立たない。魅琴は渋い顔をして見せた。そう、見せただけ。魅琴には策があった。先ほど生物標本を見ているうちに・・・

「フッ、探して居るのはコレか?」

 美耶子が一枚の紙切れを見せる。絶望。魅琴の表情が暗転した。邪を払う為の札を隠していたのに、この結界を破るためのまさに切り札だったのに・・・。歳古びた魔物には子供だまし、自分がどれだけ子供であるか見せ付けられた気がした。悠々とする美耶子に対し、ぺたり、魅琴は床に座り込む。

「我が槌蜘蛛の一族の無念、晴らさせて貰うぞ!」

 美耶子は容赦なかった。見開かれた目が更に大きく皿の様に魅琴を射すくめる。彼女のが髪が大きくたなびいた。その手刀に目で見える程の気念がまとわり付く。胸の前に交差していた両腕をおもむろに広げる。魅琴はまさに蛇にのまれる前の蛙に等しかった。にやり、魅琴は力なく微笑んだ。

「あまーい。」

 彼女の後ろから蔓が何本も飛び出して、構えていた彼女の手足や波打っていた髪の毛を掴み取った。

「なッ? バカな!?」

 シュルシュルと容赦なく、蔓は美耶子を縛り付けた。どんな存在であれ、一度絡まれると二度と外れること無い外神の戒め。魅琴は三文芝居に飽きたようにぐっと伸びをする。

「詰めが甘過ぎるよ。それこそ、子供だましなんだからさぁ。」

 先ほどの短い間で、魅琴は実に十箇所に札を仕込んでいた。壁の間、机の中、窓の桟、床、天井、等。実のところその他にも切り札はある。八重垣。幾つもの縛めを持つからこそ名づけられたその名前。

「施術のため、脱衣致しまーす。」

 蔦は器用に、そして機械的に美耶子の服を傷一つつけずに剥ぎ取っていく。魅琴も思わず見とれるほど、美耶子の身体は白く澄んでいた。見目麗しいとはこういうのを言うのだろう。大き過ぎず小さすぎもしない、思わず手に収めたくなる胸と油断無く締まった腰。ちょっと土手の高い女の子の部分から下は少年の様にすらりと足が伸びている。高校生でこの体格は反則だと、魅琴は少々妬ましくなった。

 ズルリ。蔦が秘所を狙う。

「グッ?」

 少し引っかかりがあったが、構わず進む。器官を傷つけたのでつっと内腿に一筋の血が流れた。処女だったか。散らして済まない、でも悪いものを払う為だから許してね、と魅琴は蔦が伝えてくる感覚にゾクゾクしながら心の中で思った。思いとは別に魅琴は全神経をソコに集中している。

 蔦は子宮口まで辿り着く。美耶子に憑いているモノが不安げな表情をする。それは唐突に襲ってきた。ぶくり、ぶくり。彼女の腹が妊婦の様に膨れていく。

「おのれェ! 何をシたァ・・・」

「私の友人を手玉に取ったつもりだけど、アダになったね。調査不足よ?」

 柔らかな乳房にツツと蔦を這わせた。黒光りするそれはどうしても男性のペニスを想像させる。乳首をツンツンと突付くと陥没していたそれが次第に頭をもたげてくる。

「あっ、あっ、あっあっああっああっあああっああああっ!!!」

 腹が大きくなるにつれて甘い電撃が彼女を襲った。腹からビリビリと足の先から髪の毛にまで伝わっていく電圧。魅琴はその様子をじっくりと観察する。

「具現化させてもらうわ。そのほうが早そうだから。」

「な・・・ナに・・・」

「知らなかったの? 私は堕胎師(おろしや)。今から施術を開始します。」

 魅琴は死刑を宣告した。魅琴自身、自分の背負った宿業を忘れないために。
 堕胎師、八重垣の者が古より任を受けて伝えていた家業である。堕ろすのは普通の子供ではなく、魔性に犯されて出来た半妖や女に憑いた魔性そのもの。本当は濡場魂の術は男にしか伝えられない。女には別の術がある。それは己が胎に魔を孕む術。魅琴はその家系の最後の一人である為にその両方が伝えられた。女は魔を孕み、男が堕ろす。それはまさに代々伝えられた因業である。

「じっとしてるのよ・・・動くと大事なところ、破いちゃうからね・・・」

 ビクビクと美耶子の体が打ち震える。彼女の身体はネズミとして飼われていた彼女らの様に完全に妊婦のそれとなって行った。腹が膨れ、胸が膨張する。魅琴は今子宮から出てこようとしている胎児をしっかりと受け取ろうとしていた。そう、今の魅琴は自分以外の女に憑いた存在を、嬰児として顕在化させることが可能なのだ。

「噛み締めなさい。女に生まれた悦びを・・・」

 鼻にかかった声で魅琴は呟く。

「うぎぃぃぃぃぃぃいいいいいっ!!」

 ずるり、容赦なく引き出していく。胎児の頭が狭い子宮口を押し開き膣道に来るのを上手に濡場魂がサポートする。蔦から流れる樹液は出産の痛みを快楽へと変えていた。そう、今彼女が息んでいるのは痛みのためではない。脳みそや下腹が引き千切れそうなほどの痛みが全て、気持ちよさに変わっているのを想像してみるが良い。

「ぎぃっ!ぎぎぎぎぎぎ・・・」

 ぷしゅっ、ぴゅぴゅっ!

 彼女の胸から母乳が零れる。蔦は自らの分泌液とそれを捏ねるように混ぜあわせ美耶子の身体になすりつける。先に服を脱がせたのは、体中から飛び散る汁分に服を汚さないためである。もちろん、役得であると魅琴は思っているのだが。

「もうちょっとよ。」

 既に美耶子からは毒気は抜けていた。彼女を支配していた異界のものはただの弱い生まれたてのベイビーに他ならない。

「はっ!うっ!はっ!うっ!!」

「良し、出た!」

「はっ・・・ふぅん・・・ぅぅ・・・」

 安堵と共に、美耶子は脱力した。なんとも換えがたい充実感。生み出したのが魔であろうが、感じていたのが性感であろうが、一労働終えたことは事実なのだ。魅琴はそのなんとも不恰好な物体、いや生き物を取り上げる。槌蜘蛛と称したそのものは胎児の身体に不恰好に、余計な四肢が胴体から突き出ており、その頭部はまるで蛇を思わせる程三角に歪み、かつ幼い肌には鱗が生えかけていた。

「いたいけな女の子に人肉喰わせるなんて、悪ね。許しちゃおけないわね。」

 魅琴はそれを床にたたきつけた。もちろん、その身体には直接濡場魂を埋め込んでやっているが。奴には快楽なんか感じさせてやらない。痛みを五倍ぐらいに引き上げてやる。

「と、その前にミヤの奴元に戻してやらなきゃね。ちょっと我慢してよ。」

 魅琴はぐったりとした美耶子を縛めたまま、実験用の机に向かった。水道の蛇口をひねる。すると黒い植物は待っていたかのように流れる水の中に浸った。

「洗浄行きまーす。」

「いいぃぃ・・? いやっ・・・いやっ・・・お腹が!!」

 美耶子の菊座にも黒い蔓は伸びていた。可愛らしい彼女のヒップを押し分けてずるり、と腸の中に押し入った。そして一方で吸った水をソコに排出しはじめる。

「心配しなくていいよ。特製混合液だから。」

 通常の水を身体に流すのは危険である。混合液、と魅琴は言ったが普通の液体ではない。半分以上は異世の物質である。彼女の身体に残った毒を全て洗い流すつもりなのだ。

「ひっ・・ひっひっ!! ひぃぃぃぃいっ???」

 ずっずっず、と彼女の中に水が流れ込んでいく。それと同時に、再び秘所にもぐりこんだ蔦が蠕動運動を始めていた。先ほどまでは遠慮がちだった胸への愛撫も今は存分にその感触を味わっている。初めてだろうが何だろうが、魅琴の手腕で開発できない場所は無かった。それ外界のものならなおさらである。

「んあうぅ・・・あうぅぅ・・・あぅぅううんっ??」

 正気に返りかけていた彼女は再び自分を見失った。陶酔、いやそれよりももっと過激で、さらに強い。ぞわぞわと蠢く蔓に身を委ねると彼女の身体に変化がおきていた。

「うひっ!!ひっひっひっいくぅぅっ!!?」

 ぶしゅー。

 バケツ一杯ほどの淫水が美耶子の花弁から噴出した。異常、と言ってしまえばそれまでだろう。彼女の体の中で水はその姿を霊気とし、魂や生命を洗った後に水分は潮という形でこの世に戻ったのである。

「わざわざイかせてあげないと、洗えないのがメンドイのよね。」

 魅琴は手を緩めない。再び彼女を絶頂へと押し上げる。

「ひーぃっぃぃぎゃぁぁああ!!!」

 再び、噴出。
 女は子宮で考えるというが、彼女の子宮は一度水に浸された後全部排出されている。オーガズムが炸裂する度に頭の中まですっかり洗浄されてしまう。身も心も全くクリーンな状態に彼女が戻るまでそう時間は掛からなかった。

「あーあ、ミヤはコレで良いとしてと、野郎はどーでも良いんだけどそうもイカンもんねぇ。
 この子達をこの世界に編み直して、いや堕ろしてやらんとダメだし、
 子宮や膣も再生してやなきゃダメかなぁ・・・あーもうやること多いわ。」

 ひときわ高い嬌声を聞きながら、魅琴は頭を掻く。世界に干渉するのも人体を再生させるのも自分ひとりの力では少々荷が重いのだが、他人の力を借りるのも億劫だ。この業界、Give And Takeが基本であるのだが、一匹狼を気取る彼女にとってそれは少々プライドが傷くのだ。
 そっとと逃げようとする異形の胎児を足で踏みつけた。

「もちろん、アナタの処分も混みで。」
 

 その後、生物室には出所不詳の胎児の標本が四つ並んでいた。どこから出てきたのか、誰も知らない。学校で使われる教材ならば本物というわけはなさそうなのだが。誰も手をつけようとはしなかった。どうせ作り物だろうと皆は決め込むことにした。
 それは、一番奥の標本は人間が孕んでいたモノではなく悪夢から産まれたような姿をしていたからであった。
 


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