MIKOTO NO TUTAE 邂逅編(後)

 「あう、コンを呼んだのアナタね。古き盟約を知るものある!」

 彼女のよく澄んだ声は、魅琴の耳に優しく響いた。星の様に輝く金色の髪、魅力的な両の瞳、大きいながらもしっかりと前を向いた乳房と胴から腰に流れるくびれの妙。太すぎなずやせすぎない、太ももや二の腕は魅琴でさえ思わずむしゃぶりたくなるほど、完璧なプロポーションを誇っていた。しかも絶世の美貌の持ち主。

「ミコト、言うか? コンは超絶美麗的中華風仙娘、コン=ロンある! “金”の“龍”と書くある!」

「私は魅琴、八重垣魅琴。」

 でも、バカだな、名乗りを交わしつつ魅琴は思った。コンは“金”と“龍”の文字を空にすらすらと書いてみせた。全く、幼稚園の園児がお遊戯しているような実に愛らしい仕草だ。これが世界中で恐れられている邪悪な存在とはとてもじゃないが信じられないぐらいだ。しかし、魅琴は感じていた。コン=ロンに内包される、度を越えたエネルギーを。それは宇宙そのものの息吹、いかなるものよりも古くからある存在。ソレがどうして、選りに選ってこんなバカなのか魅琴には想像がつかない。

 気が付くと、巨大な女陰のダメージは回復してしまっていた。触手をワサワサと広げ、新たな敵の出現をむしろ喜んでいるように見える。

 触手がひょいとコンの頭を通過した。

 首が飛んだ。魅琴にはそう見えた。が、次の瞬間にはコンの首は元に戻っていた。何事も無かったように平然と。

「無問題ね。」

 ちっちっち、とコンは指を振っている。感心するほどころころと、表情が変わる。ところで首はどうなっていたのだろう。気が付かないほど早く再生したのだろうか。それとも首だけ瞬間移動でもさせたのだろうか。首があっても無くても、特に関係ないのだろうか。

 魅琴はそう思いながら、こっそり服を集めていた。さすがに下着だけでは辛い。ボロには成っているが、寒さをしのぐには無いよりマシだ。敵はすっかり、コンに集中しているらしかった。唸りを上げて触手を突き出してくる。コンは触手の連撃を全く無視して悠々と相手に近づいていった。引き裂かれようが突かれようがなぎ払われようが、痛くも痒くもないらしい。

 相手の攻撃は単純に物理的ではない。いわば霊的、異次元的とも言える。普通の人間ならその毒気に当てられただけで絶命しかねない物だ。だがしかし、コンに傷を負わすには至らない。煙が人に傷をつけられないのと同じように。

「振動的心臓、焼尽的体熱、刻打的血音・・・」

 コン=ロンは何かを呟きながら、拳を握って構えを取る。その文句は魅琴にも理解できた。いや、ワケがわからない。発音が完璧に日本語だ。さすが中華“風”だと感心する。

「あう! 黄金色的波紋疾走っっっっっ!!」

 どぎゅぅぅぅぅぅん。

 コンの拳が景気良く放たれた。鉛弾が鋼鉄の壁にブチ込まれた様な大きな音と金色の光がほとばしる。たった一撃であるが、相手の全ての触手が勢いで広がりきって行った。大きなドラを鳴らしたように、衝撃が隅々まで広がった。

「マレーシアに行たとき、マンガで読んだある! 立ち読みしたね!」

「それ、日本の漫画だよ。しかも海賊版。」

 自分のほうを向いて解説を入れるコン=ロンに、魅琴は知らないうちに笑いかけていた。心の奥から湧き上がる笑いの衝動を堪えることが出来なかった。この程度のバケモノ、自分が真面目に成長すれば、本当にザコなのだ。この、コン=ロンという怪物と(バカさは除いて)張り合える、それだけの潜在能力を自分は秘めているのだ。そう思うと嬉しさで体が諤々とふるえる。

「・・・でも、まだ来るみたいね」

 先の一撃の衝撃がやんだ。一度は黄金色に染まった陰部は再び肌色、いやドドメ色に染まりあがる。校庭に強く、淫の臭いが吹き荒れた。女陰が怒りを表しているのを魅琴は初めて見た。彼女は喜ばせたことはあっても、悲しませたことは無いからだ。

「あう、もう一発行くか?」

「その必要はないよ。既に種は蒔かれて居ル!」

 コンが再び拳を握った瞬間、黒い蔦が女の門から噴出した。何本も噴出したそれは内部から外部へ、ひゅるりと伸びて陰門の裏側へと伸びていく。陰部が一瞬にして、ネットに掛かったみかんの様に不気味な風に歪んでいた。

「はう、すごいエッチね。 肉が縄にハチキレソウある!」

「縄じゃなくて、蔦よ。」

 魅琴は力を集中する。今度は大丈夫だ。コン=ロンが攻撃してくれたお陰で、奴の力は格段に弱まっていた。濡場魂の蔓はその力を取り戻していた。ずるり、ずるりと膣をせり上げ、裏側へと捲り上げていく。ラビアが次第に後ろに競りあがっていく。ピンク色の内壁が段々と大きく口を開いて女陰そのものを飲み込まんとしていく。

「外ばかり見てたわ。中だってあるのよね。」

 魅琴が触手に玩ばれる前に、既に種は蒔かれていた。膣内の内側は淫液に塗れていたが今度は油断はない。どんどんと奥へと進んでいき子宮に根を下した濡場魂の根の感触に魅琴は勝利を確信した。思ったとおり、内側はそんなに強くない。

 魅琴はどんどん、性器を裏返していく。コン=ロンですら一撃で破壊出来なかったのは、本体が存在したからだ。それを、表に出すことができれば、勝てる。ギリギリと相手も全力で反抗しているが、魅琴の精神力はソレを上回った。

 ぽこり、最大まで開いた子宮穴から一人の女性がまろびでた。その勢いで陰部の全てが裏返しになる。胎児ではなく、成熟した女性だ。ヘソからは臍の緒がふわりと空に浮いた胎盤と繋がっていた。

「はう! 女の子に成たある! 印度人驚愕的ある!」

「・・・この人、見覚えない?」

 魅琴はコンに尋ねてみる。顔立ちは魅琴に似ていた。瞳は閉じられているが、その顔かたちは魅琴に似通ったものがあった。

「見たことあるね! コンと最初に盟約結んた奴ある!」

「己の身を以って、私への遺産を守っていたのか・・・」

 魅琴は自分に伝えられた血の濃さを、今もって感じていた。自ら人柱となって、コン=ロンという存在を次の世代に繋いでいたのだ。

「八重垣は垣根。魔を囲い込むための垣根。八重垣の女はその身に魔を孕み、男は母体・・・よりそれを滅ぼす。要するに堕胎師(おろしや)。」

 母体ごと、と言いかけて言い直した。荒金の血として、八重垣の血が忌み嫌われた理由だ。魔を孕みすぎると、却って母体が邪鬼となる。相手の力が強いならなおさら。おそらく、“コン=ロン”を封ずる為に、他にも何人もの犠牲者を出したと思われる。そして、そのために自分を邪悪へと転化し得る。恐るべき宿業だった。

 魅琴は彼女にそっと口付ける。哀れみと、労いを込めたキス。

「んん・・・」

 彼女は反応した。目は瞑ったままであるが、暖かい触感が帰ってきた。魅琴は彼女の胸に手を這わせる。プルんとした乳房。自分の物よりも大きいが、自分の手触りに近い気がした。それをゆっくり揉み解していく。少し堅かった果実は、次第に蕩けて柔らかくなっていく。

「感じてる・・・のね。」

 魅琴は指を、ヘソに繋がっている組織に這わせ、そして、彼女の中心をなぞる。不思議と懐かしさがこみ上げてきた。

「コンもしたいなー 混ぜて欲しいね。」

「・・邪魔しないで、見てて。」

 コンは素直に、ひょいと座って二人の絡みを見物していた。両手は頬に当てて、少し膨れ面だが。

 魅琴は彼女と、二人だけの世界に陥っていた。もっと指を大きく使ってみた。受け入れてくれる。吸い込もうとする。相手の想いが伝わってくるようで、思わず、涙が零れそうに成る。

 クちゅ・・クチゅ。

 魅琴の指が直接、彼女の快楽を紡いでいた。

 愛しい、魅琴は初めて自分の血筋に触れていたのだ。自分を育ててくれた爺も婆も、本当は八重垣の血は引いていなかった。初めて会う血縁を、自分が葬らなければ成らないとは、つくづく、因業な家系だと魅琴は思った。しかし、それが自分の運命。魅琴の指が早く動く、彼女の身体が赤くもえてくる。

 一瞬、彼女は仰け反ったかのように見えたが、その刹那彼女の身体は臍の緒や外性器と共に全て輝きとなって零れていった。

「我が糧と成りテ眠り給へ、ご先祖様。」

「消えちゃったある。勿体無いね。」

 消えたのではない、魅琴の中に吸収されたのだ。彼女の記憶の断片と、魅琴の代には失われていた八重垣の忌むべき秘儀を彼女は受け取った。余韻を噛み締めながら、ふうと溜息をついて魅琴はコンの方を向いた。彼女はひょいと立ち上がる。

「あう、コンもう用済みか?」

「いや、盟約を結びなおしたいんだけど。この私と改めて。」

 真剣な顔で、魅琴はコン=ロンに向いた。彼女の封印は魅琴が受け継いだ。次はコン=ロン自身を物にする。

 コンはすこぶる上機嫌で返答した.

「結構ある! すぐやるね!」

 そう言うとコンは突然、自分の服を引っ剥がした。下着という存在は彼女はまとっていなかった。コンの柔肌が惜しげも無く晒される。魅琴は思わず目を丸くした。

「なっ・・・まさか?」

「あう、情を交わす。コレ簡単至極克意味深的約定法ね。 さっき魅琴もしてたある!」

「マジかよ・・・」

 意味深ってなんだ。魅琴は何にせよニ連チャンだ。服を脱いだコン=ロンは先ほどよりもずっと美しく見えた。重力を無視して飛び出した丸い乳房。無駄な肉は何一つ無く、それでいて女として究極なまでに整い、そして柔らかそうな肉体。興奮している自分に、魅琴は改めて気が付いた。

「ちぎれた服が、扇情的ある☆」

 後ずさる魅琴を、コンは両手で抱きしめた。そうされることは悪くは無かった。これから何をされるか、自分はソレに耐えられるか、不安で一杯だったが。

「まずご挨拶☆」

 ちゅっ。唇と唇が触れ合った。

「んんんんん!!」

 電撃が鼻から頭に抜けた。変な喩えだが、練りわさび口に含んだように刺激が口から突き抜けた。スゴイ、いや、マズイ。魅琴はパズルの解き方を誤った気がした。これは危険が大きすぎる。自分の身体をコンに晒さない、別の解法があったのかもしれない。だが、もう手遅れだった。ここは耐えるしか無さそうだ。

「くぅぅっっ!!」

 ギリッ、ギリギリッ。食いしばった歯がきしんだ音を立てる。コンの手が魅琴の乳房をまさぐった。テクニックとしてはかなり稚拙だ。しかし、ブラの上からでも、彼女の指は体中の神経がオカシクなるほどの刺激を生じさせていた。コンの発する気が、魅琴の身体を混乱させているようだ。気をしっかりと持っていればやり過ごせる。

 ひとしきり魅琴の胸を堪能すると、コンはブラに手をかける。

「あぅ、・・・胸小さいなぁ。」

「悪かったな・・・」

「心配要らないね。大きくするある!」

「ばっ・・・? ああああっ!!??」

 魅琴は言葉を疑ったが、コンが直接揉んでいくに連れて自分の胸が膨張していくのを感じた。見た目にも数段大きくなっていく。乳房が膨れていくと、快楽も同じように膨れ上がっていく。

 少し嬉しい。しかし、かなり辛い。大きくしすぎだ。まるでドッチボールの様にされた魅琴の胸は重くて前につんのめりそうだ。

 コンはその乳首に舌を這わせ、口に含む。

「やっ・・・やっ! 良すぎる!!」

 チュウチュウと吸われると、出るはずの無い乳が出ているような気になった。実際、何かの汁が出ているようだ。身体を変えられてしまった。魅琴の中で屈辱感が広がる。しかし、コンの指は今度は太ももに滑っていた。それだけで他の余計な思考は、広がる快感に取り残される。指がパンティに潜り込んだ。まだ外回りだというのに、中に突っ込まれたような感覚に襲われる。

「ひぃんっ!」

 二つの指で、乳首を玩ぶように淫核を弄られる。ユダレと涙が流れて止まらない。アソコから、恥ずかしい汁がジクジクと溢れてしまっている。垂れ流し、自分で自分をコントロールできない。身体は完全に、コン=ロンに支配されてしまっていた。少し、彼女の指が自分の膣に押し込まれる。魅琴の頬が震える。食い縛っているはずの口が開いてしまう。奥歯がガタついて止まらない。イっても不思議は無いほどスゴイ感覚だ。

「いっぱい感じる良いアソコある。でもあまり挿れた事ないね。」

 先ほどまでの無邪気さとは一転して、妖艶な顔をコンは見せていた。今の彼女の流し目に当てられれば、気の弱い男だったら、それだけで射精してしまうかもしれない。しかし、再び無邪気な顔に戻って一度魅琴の身体から離れた。

「じゃーん。特大サービスある☆ ヒイヒイ言うて泣き善がるヨロシ!」

 何がおきても驚かない、ソレが取り得の魅琴も、散々に甚振られた今は違っていた。

「マジかよォ!」

 コン=ロンの股間に、男の腕ぐらいはありそうな巨大なペニスが怒張していた。デカく、そしてグロテスクだ。邪仙と呼ばれるコンの事、ただ巨大なだけではないはずだ。エネルギーの視覚化、それだけの“威力”を持っているということになる。

「そーれ、ずっこんばっこん〜♪」

「いやぁ! 大きいっ!! 裂けるっ!?」

 既に濡れそぼった魅琴の秘所に、コンは無遠慮にその巨大なペニスを突き込んだ。ずぶずぶと深く深く、身体全部が膣になったかのようだ。

「やだっぁっ! 嘘だぁっ! やぁん!!」

 魅琴の最奥に突き当たりつつ、内蔵を突き抜けて更に深く、心臓の脇までペニスは辿り着く。四次元的とでも言うべきか、物理を無視したコン=ロンの淫技である。

 心臓にペニスが当たる。心臓が感じている。熱い血が魅琴の全身に流れていく。淫蕩な血が呼び覚まされているかのようだ。血液は手足の隅々にもお湯のような熱気を運んでいく。

「あう、キツクていい感じね。」

「おおおきぃよぉっ! ヤぁっ!! 大きいの嫌ァっ!!」

「何言うてるか、これからが本番ある☆」

 コンが腰を大きく振って、ピストン運動を始めた。魅琴の顔が、快楽で歪んだ。眉をひそめて激快に耐える。脳が豆腐にでもなりそうな、そんな感覚だ。頭の皺が抜けていく。知識も理性も思考も全て。見渡す限りの大海原が全て自分のものであるかのような、不思議な感覚。後一歩前に進めば、永久に喜びに浸っていられる。

 しかし、それでも魅琴は耐えた。耐えなければ終わってしまう。魅琴としての人生は終わって、コン=ロンのオモチャに成り下がってしまう。

「はうっ、気持ち良いね!」

「はっ・・・ああっ・・・感じる・・・感じちゃうよぉ・・・」

 気持ちいい。次第に“自分”という領域が侵されていく。もう二度と身体が元に戻らないほど、身体が溶けてしまって行く。胸はバンバンと大きく揺れている。その拍子に乳が辺りにばら撒かれた。唾や涙と共に、今までの魅琴が外に振り出されていく。

「・・・あう、もう、コン、出るっ! 出ちゃう!」

「出るのか・・・よぉッ・・・!!」

 コンは射精するつもりだ。もちろん、中に出すつもりだろう。魅琴は恐怖と、そして期待を感じてしまった。ただでは済むまい。今ですら常軌を逸した快感が巡っているのだ。彼女の精を受けてしまったら・・・。

 コンの動きが激しくなる。子宮を貫き、臓器をぐちゃぐちゃにして、魅琴の身体を蹂躙する。魅琴も、我慢しつつも喘いでしまう。息が苦しい。血管がまるで爆弾の様に破裂しそうだ。全身が炸裂する五秒前。

「はうっ、もうコン我慢できない! 出るある出るゥ!!」

「うううううんっ!!!!」

 エネルギーの奔流。コンが感じて溜まっていた“快”の感情は彼女のペニスから魅琴の中へと遠慮なくぶちまけられた。魅琴の中で高まった快感がそれを受け入れ弾け飛ぶ。喜びは絡み合って何倍にも高く高く、魅琴を持ち上げていった。ダメだ。自分がまとっていた全てがバラバラと音を立てて剥ぎ取られていく。肉体も心も、今まで培ってきた全て、人生も、命も・・・・

 ほんの一瞬であったが、どれだけの時が経ったのか魅琴には判断できなかった。ゼイゼイと荒い息をついてみた。息をしている?魅琴は不意に、自分がまだ生きていること、そして生きているという事を考えられることに気が付いた。まだ、理性を失っていない・・・という事は自分は勝ち残ったのだと実感した。

「ふぅ・・・はあああ・・・死ぬかと・・・思った」

 自分で分かるほど顔は真っ青だ。立ち上がろうとしたが足がふらついていう事を聞かない。腰が抜けてしまっている。

「感心したある。コンの逸物を咥え込んで正気を保った奴、魅琴が最初ね。」

「・・・そりゃあどうも・・・」

 実は彼女は、濡場魂を、体内で発芽させて、膣壁の内側にみっしりと這わせていたのだ。そして胎内に入ってきたコンの逸物をそれに巻き付かせた。コン=ロンが触れていたのは濡場魂であって、魅琴の身体ではない。それでも恐ろしいほどの愉楽から彼女は襲われていた。もし、一瞬でも気を抜いていたら濡場魂のコントロールが途絶えていただろう。そして万一皮膚に直接接触していたら、その快楽に廃人になっていたことは間違いない。

 もちろん、コンが放った“何か”もしっかり濡場魂を袋状に変えて、そこに蓄えていた。そんな怪しげなモンが一滴でも体に入ったらどうなるか、想像したくもない。

「あぅ、盟約認めるある。コンは魅琴に我愛称〜☆」

「・・・何でやねん・・・」

「はう? 二人は愛で繋がったね。だから愛の盟約ある。キライに成ったらソレまでね。」

「マジかよぉっ!!」

 かなりの論理の飛躍がある。SEXと愛は別物じゃないか?と魅琴は思った。

「あぅ〜。今度はしっぽり、二人の愛を語らうね。第二ラウンド行くある!」

「があっ! 待てっ! 止めろぉっ!!!」

 魅琴がコンを避けようとグラウンドを走り回っているその姿を校舎の屋上から伺う影があった。魅琴の結界も、術者としては数段上を行く彼の存在を拒むことは出来ず、またその所在を主に教えることも出来なかった。

「ああ、こちらは『図書館長』。八重垣魅琴がコン=ロンと盟約を結びました。八重垣魅琴を“裁定者”として推薦します。」

 影はサリーであった。携帯を切ると再び彼女らへ目をやった。

「・・・ふ、もう一花咲かせられそうじゃの。」

 次の瞬間、サリーの姿は失せていた。コンに気取られそうになったからだ。その隙に、魅琴はコンとの距離を広げる。気がついたコンは間合いを詰める。鬼ごっこは暫く、何も見ていなかったかのような月の下で続くことになった。

 ちなみに、やっとの思いでコンを思いとどまらせて家に帰った魅琴はなんとも収まり様の無い複雑な感情に苛つくことになる。コンから大きくされた胸が、いつものサイズに戻っていたのである。突然胸が大きくなるのも不自然だが。一度大きくなったものが元に戻るもの、なんとも癪な気持ちであった。

「・・・やってけるのか、奴と。」

 暗い予感が、魅琴の頭に去来した。


???