宇宙の中心で「ファックしてお兄様!」と叫んだ膣口




(いろいろあって、咲耶と燦緒は航を巡って争ってますよ)



「神の胤だっ! 存分に味わえ!」

 燦緒が放った精虫は、その一体一体が太陽をしのぐ巨大さであった。その数、おおよそ三億。尻尾を震わせ重力場を揺るがしながら進む巨大なおたまじゃくしの群れ。宇宙を白濁させながら、彼らはすべて一人の少女を目指していた。咲耶は避けようともしなかった。ミサイルや核兵器すら性感帯を喜ばせる刺激とする彼女である。精子ならばなお更だ。十八番、得意分野である。

 咲耶が受け止めたのは口だった。空間を歪ませながらずずずずと、鯨飲する様はあたかもブラックホール。放たれた一匹たりとも逃すまいという貪欲なまでの決意が彼女の瞳に宿っていた。燦緒という虚空より産まれた精液は咲耶という完全なる虚無の中へと還っていった。

「なんということだ。本当に味わいやがった」

 壮絶なガブ呑みに、燦緒は色を失う。全てのヤマガミを吸収し切った燦緒の精はまたヤマガミの塊でもあった。あらゆる物に取り憑き、あらゆる存在を眷属とする。高次のミナカミを持つ咲耶も例外ではないはずだった。だが、咲耶にとっては精子はどこまで行っても精子だ。例外はない。

「精液は別バラよ」

 彼女は平然と言い放つ。すでに物理の法則の通用しない世界であったが、彼女の異能は燦緒の理解すら超えていた。互いに時空に溶け込み、レベル4を超えて神霊の領域に達した者たちの貸りていた。燦緒にはヤマガミが、咲耶にはミナカミが、それぞれ、ハルマゲドンもかく在らんかと言うばかりの勢いで互いの力を競っていた。それでもなお、咲耶の力は際立っている。また、人間としての意識による理解が困難とはいえ、燦緒の力もそれに劣っているわけではなかった。

 ヤマガミ、ミナカミの両者が善悪も無く、己の欲するものを得ようとする、本能じみた獣同士の戦い、快感と絶頂のせめぎ合いを行ってる。ヤマガミ・ミナカミが天地開闢以来溜め込んだ、全ての性技と淫術を駆使していた。息を吹いただけでイかせる。睨んだだけでイかせる。その空間を共にするだけで全ての感覚がアクメへ転化される。そんな外道の戦いであった。

 だが、咲耶も燦緒も平然としていた。"超悦者"たちの必死の攻防すら彼らにとっては児戯にも等しかった。水無島までの攻防により、かつてこの世に存在したあらゆる性感レベルを彼らは突破していたからだ。

 人外の存在が、人外の快楽に狂喜し、溺れ、飲み込み、飲み込まれている。咲耶と燦緒の間では沸き立つ泡のようにヤマガミとミナガミが互いを喰らい、情報を共有し、そしてまた喰らい合う。咲耶と燦緒は対峙して動かない。いや、動けなかった。互いに喰らい合えば相手の意識を共有することになる。あまりに似ているがため互いを嫌っている二人であるからこそ、間接的にしか触れ合おうともしなかった。

 永劫に続くかと思われた戦いであるが、不意の気配が水をさした。彼らの周りに充満したヤマガミ・ミナガミも動きを止める。燦緒もそれに気がついた。咲耶ももちろん愛しき兄を紛う事など無い。自分らに差し出されていた力が、ある一点、宇宙の中心へと向き直り、その命令を待っている。

「お兄様!」

「む、航………ようやく戻って来たか」

 ミナカミの力、いや、ヤマガミと別れる前の存在であるから"カミ"と言った方が適切だろう。すでに形を持たず、質量を持たず、エネルギーというには人智がついに届き得なかった力が宇宙の端々から集っているのがわかる。世界に普遍に存在していた暗黒の物質、暗黒のエネルギーが、意思というにはあまりに儚い、習性とも法則とも呼びうる定めに従っていた。

 彼らの核となるのは海神航。すべての"カミ"が彼を王と仰ぎ、付き従い、その姿かたちを別次元に横たえていた彼らは物質として顕在化していた。時空の果てに吹き飛ばされた航が帰巣本能に基づき地球へと戻りつつあったのだ。いや、燦緒と咲耶を懐かしがり、恋しがっているのかもしれない。そして愛ゆえに、喰らい、溶け込み、混ざり合いたいという欲求に駆られているのだろう。

 彼の意思が残っているかどうか、そんなことは二人にとって、既にどうでもよいことだった。愛する人と一つになる。それ以上の楽しみが、愉悦が、他にあるだろうか。

「ほら、みろ、あれが、航の、ミナカミの真の・・・」

 彼の片鱗が見えた。燦緒はいつものように、尊大に解説しようとした。だが、言葉が出なかった。さしもの彼も宇宙的な存在の威圧感に息を呑むしかなかった。咲耶ですら、感動よりも畏怖の念に駆られて言葉を発し得なかった。常人のままでは、その大きさを知覚しただけで魂すら破壊されていたかもしれない。

「あんなの、こわれちゃう」

 咲耶は生まれて初めて、泣き言を言った。背筋を伝う怖気が震えを呼び、奥歯が噛み合わない。彼女は生まれて初めて、挿入の恐怖感を感じていた。

 それは螺旋であった。巨大な、巨大な螺旋であった。銀河よりもなお大きく、多くの銀河の連なる銀河団を超え、さらに数千の銀河を集めた超銀河団すら、小さな瞬きにしか感じ取れぬほどである。宇宙の端から端まで、いや、それ以上。余った分は平行宇宙に押し出され、多次元世界に干渉しつつ、のたうち、歪み、捻り、捩れ、止め処なく形を変え続けていた。

 疣の隆起した部分はなだらかになったかと思うと突然枝別れ、珊瑚のように節くれ立ったかと思えば鞭のようにしなり、波打ち、泡立ち、滑っていた。見るものの精神を害するその様は破壊的であり、冒涜的であり、破滅的であった。

 地球以外にも、生物の住む星もある。彼が近づくだけで、総てのオスは射精し、総てのメスは妊娠した。草木は冬だというのに花が咲き誇り、たわわな実りを生み出した。化学変化は触媒を得たかのように急激に進み、あらゆる存在が生み、殖え、地に満ちた。

 彼らは死ぬことすら許されなかった。老いた身は若返り、ついた傷は直ぐに癒えた。四肢を失ったものは、完全な形で再生した。腹は減らず、喉は渇かず、性欲以外の欲望は消え失せた。

 それは楽園と言ってもよかったのかもしれない。ただ、生殖だけが彼らの全てとなった。渇ききった飢餓よりも濃厚に、子を作り孕むことが彼らの第一優先事項となった。生れ落ちたものはすぐさま成熟し、新たな子供を産み落とした。やがて全ての生き物が幾重にも積み重なり、地面にもっとも近いものは身動きすらままならなくなり、星の全てが絶頂に達したとき、星ごとカミの中に堕ちていった。

 知恵を持つ種族もいた。彼らは突然の異常に対し、何かしらの手を打とうとした。しかし、いかなる力を持ってしても、太古の昔より存在し、あらゆる情報を取得し続け、またあらゆる物に普遍に存在するカミである。星の上に産まれたものがいかに太刀打ちできようか。

 ゆっくりと、そして確実に、彼らは生殖の狂喜に翻弄されていった。理性と引き換えに不死を手に入れた者をどのように阻むことが出来よう。知恵の全ては、性の技術に費やされ、カミの福音を広げていく。他の何事も行う必要はないのである。淫欲が理性を駆逐した。彼らもまた、魂魄をが絶頂感に擦り切らせながらカミの元に帰した。

 "カミ"をすでに知る種族もあった。"カミ"の力を利用することで危機を乗り越えようとした。だが、彼らの世界もまた"カミ"に溢れていたので、たやすく拒否は喜びへと転化し、自ら進んで青白い輝きに飲み込まれていった。

 特筆すべきは、それまで生命の気配すら無かった惑星ですら、命の萌芽を見出したことである。光届かぬ極寒の彗星、核分裂によるエネルギーで燃え盛る恒星、毒ガスに覆われた巨大な惑星、人智では思いもよらぬ生物が思いもよらぬ組成、思いもよらぬ生命活動で産まれようとしていた。だが、それもカミに引き寄せられるただそれだけのために産まれ出でたのだった。

 荒れ狂う"カミ"の奔流は星を、恒星を、恒星系を、銀河を、空間を、時間を、総てを飲み込んだ。"カミ"はその影響の薄かった場所も強力な力の波動に感応させ、自らの領域へ引きずり込んだ。

 全てが波打っていた。勃起した男性の一物のように、脈動していた。光を発しないがゆえに暗黒物質として科学のメスが入らなかった存在が凝り固まって物質化する。体積はますます拡大し、増強し、興奮し、沸騰していた。

 咲耶も燦緒も、児戯だったのは自分たちであることを知った。この世の初めのなお昔から、何千何億もの宇宙の誕生と崩壊に立ち会ってきた存在に、たかが百数十億年しかたっていない世界の存在など、本当にちっぽけであることを悟ったのだ。だが、悟ってなお、彼らはやらねばならない。

「まずは私が………いくぞ、航!」

 いつもながら、真っ先に体が動くはずの咲耶が尻込みをしていた。これ以上男性的になりえない程の"男"を見せ付けられ、体が震えてとまらなかった。だが、燦緒が尻たぶを押し開きながら、まっすぐ兄に向かっていくのを見て、ようやく事態に気がついた。

「だめよ! お兄様の初めては私がもらうんだから!」

 その祈りが通じたのか、燦緒が触れたのは、螺旋から生える触手の中でもかなり小さな疣の、さらにその産毛にしか過ぎなかった。それでも、まったく比較にならない比較であるが、東京タワーに蚤を乗せたようなものである。

「おおおおおおっ! これほどとはぁ!」

 そう叫ぶのが精一杯だった。燦緒は全身より体液を垂れ流していた。ほんの一瞬間に無尽蔵であるはずの彼の精巣が枯渇した。それでも射精感は止まらない。地球を破壊する前のせめてもの慰みに、世界中の女性にヤマガミの仔を受胎させた彼でさえ呆気なく陥落した。

「バカな話だ………航……… 君はすでに神だったのだよ………」

 燦緒は解れ始めた。ヤマガミの黒い体毛がその全身から溢れ始める。彼が飲み込んだ眞深や山田、アルファベットナンバー、そして吉田たち。ヤマガミの眷属の異形の存在、人や動物、植物や鉱物に含まれていたヤマガミの因子の全てがカミである航へ吸収される。

 蚤ほどの大きさとはいえ、地球という環境で進化し続けたヤマガミである。カミの螺旋は暫く、上等のワインを舌の上で転がすかのように燦緒の残骸を味わっているようだった。

 しかし程なく、"カミ"は、最後のヤマガミを飲み込んだ。次に狙うは、最後のミナカミ。過たず、航は咲耶へと向きを変え、まっすぐ突き進んでいく。

 咲耶は想った。志半ばで散っていった自分の妹たちを。

 兄を想いすぎ、妄想の兄との乱交から戻ってこれなくなった可憐。彼女は最後まで自分の相手が虚構であることに気がつかなかった。

 小さなパンジーと歌われた花穂。他の姉妹がドキリとするほど技を磨いた彼女は自分のドジで自慰に走ってしまい、己の技で身を滅ぼした。

 3本まで増えたペニスを両手で持て余していた衛。彼女も、咲耶が口を使うことを教えなければ、最後まで生き永らえただろうか?

 雛子はサディスティックな性格が祟り、早々に咲耶に還っていった。絶頂の間だけ余命を許された鞠絵は文字通り果てた。ヤマガミに走った白雪は制御不能に陥って性感の暴走。鈴凛はメカ鈴凛との合わせ鏡のようなレズ世界に閉じ込められた。

 千影は自分から生えた触手に犯され続け、春歌も己の妄想に打ち勝つことが出来なかった。

 そして、最後までチェキだった四葉、最後までアレだった亞里亞。思い出すだけでも、うらやましい散り方だった。

 だが、彼女たちは自分の中に生きている。ミナガミの記憶として、そして咲耶の記憶として。この瞬間のために自分は生きてきたのだ。地球上の全てのものと引き換えに。そして今、宇宙の全てを引き換えにしようとしている。

 咲耶もまた、燦緒が地球を滅ぼす前に、全ての生き物を絶頂に達させたのだ。負ける気はしない。そんな想いが昂ぶり、心の奥底に絶対的な自信が持てた。彼女の中の、ミナカミが弾けた。

「ちんぽ! お兄様のちんぽ!!」

 突進してくる原初の存在に、咲耶もまっすぐ突進する。小細工は無しだ。すでに準備は整っている。宇宙空間を溢れさせんばかりに愛液を分泌させながら咲耶は突っ込んだ。

 夢にまで見たドッキング。その瞬間、真っ黒な宇宙が雷光に染まった。

「すごい…お兄様って凄い!」

 小陰子に触れただけで爆発的なエネルギーが流れ込む。性感には慣れきっているはずの体が熱く滾る。呼応して近くの小惑星が破裂した。連鎖的に青白い光が漆黒の世界に稲妻のように走る。それは咲耶に走った快感がこの世界に顕在化したものである。もちろん、ほんの始まりに過ぎない。

 ずる、ずる、ずる。

 一ミリ進むだけで全人類が一生に感じてきた快感全てを足し合わせたものを軽く凌駕するエクスタシーが咲耶を襲う。それだけで正気を失い、全身から発情臭を含む汗が噴出した。唾も涙も鼻水も尿も全てが垂れ流しになる。だが、次の一ミリの強烈な感覚に覚醒させられ、再び気絶する。それでもまだ、人類が一生に進んできた距離全てを幾億倍し、光年を掛け合わせてもまだ余りある長さが彼女の胎に入る時を待っているのだ。

 膣道がみしみしと押し広がる。全ての襞が限界まで広がるのを感じる。宇宙膣とも無限膣とも語られた彼女の内部は真に宇宙的存在には、己が人の身であることを思い返さざる得なかった。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」

 だが、咲耶には白目を剥く暇すら与えられなかった。彼女の中のミナカミはすぐさま航に順応する。無限とも言える絶え間なき拡張に耐え、新たなる性感に転換する。航自身が注入してくるエネルギーによって、彼女自身の身体もまたカミとして作り変えられていった。彼のエネルギーに、彼女が耐えたのが奇跡的でもあるのだが、それも彼女の欲望の賜物であろうか。

「ふわわああああっ………すごおぃ………」

 どれだけ絶頂を繰り返していただろうか。どれだけの時間が経ったのだろうか。彼女が言葉を発せられるようになったのは、航が膣道の半ばまで届いたところである。彼の進入は続く、しかし彼女はもう恐れなかった。自分自身が貫かれる感覚を喜びとして感じることが出来た。

「ああん、届いちゃう! 一杯になっちゃう!」

 子宮口まで届いたのは、鈴凛がくれた特製バイブ(釘バット)を挿入して以来ではないだろうか。アレから体も成長した。雛子を全部咥えこんだときにも届かなかったものだ。その上、ミナカミによって身体改造まで行い、皆井の指導で"無限胎道"を極めたのだ。皆には内緒で水無島を咥え込んだ事もあったが、真夜中だったので誰一人として気がつかなかった。

 だが、航の侵入は止まらない。咲耶の最奥、もっとも敏感な場所へと突き当たる。

「あっ、いいっ! そこ良いわ お兄様!」

 ボルチオをノックするこの感覚はもう味わえないものだと諦めていたというのに、もっと奥へ、もっと奥へと兄の螺旋は突き進もうとする。だが、咲耶は兄の全てを飲み込んだのだ。超宇宙の存在を満たすことが出来たのだ。そして彼女は自分に言い聞かせた。自分は気持ち良くなった。次は兄を気持ち良くする番だと。

「うっ、うぅうっ、うぉおおおおお!」

 咲耶は吼えた。空気の無い宇宙では音は伝わらない。だが彼女の咆哮はまだ両者に溶け込んでいない"カミ"を震わせて世界の隅々へと広がっていく。破壊されてなかった物質も壊滅的なダメージを受け、またミナガミの洗礼により覚醒し、あらゆる存在が青白い光を帯び始める。

 こんなにノーマルな行為で、こんなにすばらしい法悦が得られるなんて。咲耶は次第に、快感よりも感動のほうが強くなっていた。

 ずぼり。宇宙が傾いた。

 螺旋の端から端まで、咲耶の腰がグラインドする。もちろん、光の速さを持ってしても悠久の年月が必要な距離である。何億年、何兆年、小学生のときに冗談で覚えたような巨大な桁数が必要だろうか? いや、それでもぜんぜん足りない。時空をゆがめれば可能であるが、それでは螺旋自体を味わっていることにはならない。咲耶の腰は物質世界を不可逆的に破壊していたのだ。

 つまり、物質、物理と言う概念、ルールを彼女は破壊していた。宇宙開闢以来の法則を彼女の腰は歪め、そして改めていた。それは判りやすく言えば、あらゆる存在が、"カミ"の介在なしでは存在し得うる事が出来なくなっている、と言うことになる。

 宇宙の端が、びくりと脈動した。地球から光の速さで遠ざかる星々については、情報が地球に届くことは無いため観測することができない(事象の地平)。だが、その端が見る間に広がっていくのが判る。

 世界は青みを増していた。カミの輝きだけではない、ドップラー効果によるものだった。最新の宇宙物理学では、宇宙の端は存在しないことになっている。それゆえに、世界は永遠に広がっていき、やがて凍りついて動きを止めるか、広がりすぎて引力が届かなくなり崩壊するか、どちらかだと言われていた。

 何かしらの力が働いた場合のみ、ビッククランチと呼ばれる全てが一点に収縮する現象が現れる。宇宙物理学者たちがついに発見できなかった「何かしらの力」はカミの帰巣本能。そして互いを貪り合う愛欲のなせる業であった。赤方偏移から、青方偏移へと世界は移行する。それは滅びへの序曲。そして、新たな世界への助走。

 咲耶の中で官能が燃え上がると、空間すらそれに感応し、青く輝いた。膣からこぼれ出る愛液の雫、肌を濡らす汗。咲耶が知覚するもの、いや宇宙中の全てが輝いていた。物質は咲耶が発する性エネルギーに耐えられず、プラズマ化したのだった(プラズマの原意は「神によって形作られたもの」)。

 咲耶自身はすでに、物質の体を持ってはいなかった。かといって、大気に四散したわけではなかった。燦緒が望んだように、彼女は「カミ」になっていた。世界すら、物質としての形状を失っていた。いや、物質が生まれる以前の状態に戻っていたと言えようか。

 兄もそうだった。いや、世界自体がそうだった。咲耶は気がついていなかったが、すでに兄と彼女を分離する部分は交合している箇所しか見当たらなかった。辛うじて膣とペニスであるところの螺旋の運動のみが残されるのみだった。彼女はウロボヌスの蛇のごとく、自らが自らを貫いているのであった。

 宇宙の末端は、咲耶と航をと包み込んでいた。彼らのほかに宇宙の構成要素は失われてたと言ってよい。彼らが宇宙の総てであり、彼ら以外に宇宙は無い。大きさは意味を持たず、質量も意味が無かった。ただ、兄妹の交合と言う禁忌だけが唯一の宇宙の法則だった。

 自分自身の喜びに飲み込まれそうになりながらも、咲耶は注意深く、自分の胎内の脈動を観察していた。もう少しだ、彼女は微笑んだ。兄の限界が近いのを知ったのだ。

「お兄様、いっぱい出してぇっ!」

 咲耶は思い切り膣全体を蠕動させる。形を失った彼女であったから、それは念波の様なものだったのかも知れない。だが、それに呼応したかの如く、"カミ"が、宇宙を形成していた万物が咲耶の子宮めがけて放たれる。

「うわわんっ! 最高ぅぅうぅぅっぅうぅうっぅぅぅぅうううっっぅうぅぅうぅっ!!」

 膣の奥に感じる熱は宇宙が始まって以来の高熱であった。だが、咲耶にとっては今までに感じたことの無い、心地よい熱気だった。
 
「あああん、赤ちゃん! 私とお兄様の赤ちゃん出来ちゃう!!」

 本能的に咲耶は悟った。そしてその事実に随喜した。航の放った迸りは子宮口を押し広げ、子宮内部へと殺到する。航の全ては精液であり、咲耶の全ては卵子へと転じていた。"カミ"の全てが子宮内の一点目指して収斂したのである。

 咲耶の全ては卵子として凝縮された。航の全ては精子の塊と化した。それらは互いにぶつかり合い、新たなる結合が始まろうとしていた。精子は卵子を突き破って進む。このとき、数式では現す事のできない、論理的には不可能な限界点を突破した。刹那、その密度は無限大に達した。

「いッッッッッ、くうぅぅううぅうぅぅうぅぅううううっ!!!」

 咲耶は爆ぜた。精子と卵子という別種の結合がトリガーとなり、有り得べからざるまでに凝縮した力量が、収束から拡散へ転じたのだ。いわゆるビックバンである。

 咲耶は、いや"カミ"と呼ぶほうが相応しいだろうか。新しく生まれた物質世界に溶け込んで、宇宙と共に広がった。しかし、咲耶の意識は、失ったはずの全身を覆いつくさんばかりの、温もりを感じていた。

 この感覚は…そう、思い出した。一人スカルファックをしたときの感覚だ。

 咲耶は全てを理解した。全ては簡単なことだのだ。

 すべては、自分の子宮の中でのことだったのだ。



???