番外編〜バレンタイン(過ぎたけど)企画!
チョコの乱舞と氷の男のバースデイ!〜


「マイト・・・これ・・・」

 体育館裏、パティはマイトに、ささやかな包み紙を渡した。 もじもじと恥じらう彼女の表情に、いつも(表面だけでも)クールなマイトも慌てふためく。

「チョコレート、私が作ったの。」

 今日は2月14日、バレンタインデー。女の子が好きな男の子にチョコレートを渡す日である。 ご存知の方も多いと思われるが、元はと言えばお菓子メーカーの策略なのであるが 一度行事として定着してしまうと、何はともあれ慣習になってしまう好例であろう。 日本人は年1行事に弱い。

 それにも増してマイトは女性、特にパティに弱かった。メロメロになりつつ、 手だけは包装紙を手に取る。その重みからして、貰ったのが確実にチョコレートであることを確信する。

「食べてもいいかな?」

 にこり、パティは微笑んだ。
 チョコの舌触りを確認する前にすっかり溶けてしまっているマイト。
 青のリボンを外すし、ピンクの紙を破らないように丁寧に開いた。それも いとおしそうにポケットにしまう。小さな箱に入っていたのは小さなハート型のチョコレート。 マイトの心既にここにあらず、天空高く飛び回っている。

 見つめるパティの前で、大事そうにチョコを口に運ぶ。そして、一口、齧った。 そして、パティの方を真っ赤な顔で見つめる。パティも彼をじっと凝視していた。

 げふっ!突然マイトは卒倒した!
泡を吹きながら地面を転げまわる。暫く苦悶の表情を浮かべていたが、それも静かになった。

「ん・・・間違えたかなぁ?」

 アミバ様もビックリの表情で足元に転がったマイトを一瞥し、足で突ついた。 悶絶した彼はどうも動こうとしない。パティはくるりとその場を後にした。 彼はブラド辺りが処理してくれるだろう。実験台の末路に彼女は意を介さなかった。




「やっほー!ハッピーバレンタイン♪」

 ウェンディーが“可愛い物好き”の感性を存分に生かしたラッピングの贈り物。 さしものエミリオも喜びの表情を浮かべていた。

 エミリオには山ほどのチョコレートが贈られていた。 机の中、下駄箱の中。下履きの中に詰めているのはどうかと思ったが。 しかし、モテナイ組の人間からは幾らちゃぶ台を引っくり返しても返し足りないほどであるが、 意中の人以外からいくら貰った所で彼は全然嬉しくなかった。 ま、ちょっと見恐い彼に直接チョコを渡そうとする勇気あるファイターが 箱船高校には居なかったというのも有るが。

 エミリオは、それでもマメな質なのでとりあえず手紙なり何なりは一通り目を通した。 そして、チョコはせつなに放り投げる。彼は貰う端から食べてしまう。 せつなの口元はチョコレートでベタベタである。

「はい、せつな君にも♪」

 エミリオが完全に悦に入っているその側で、ウェンディーはせつなにもチョコを渡した。 エミリオは一気に正気に戻った。 そうなんだね、僕だけじゃないんだね、ってことはバーンにもあげてるんだろうね。 エミリオは目の前がかすんで来るのが分かった。思わず上を向いてしまう。

「あーそうそう、エミリオ、バーン知らない?」

「あれ?居ないのか?・・・どうせキースにでも付きまとわれてるんだろ。」

 ウェンディーの心配げな声は、エミリオには吉報であった。




 エミリオの期待通り、バーンはキースに付きまとわれていた。

「バーン、どうして僕に愛のチョコレートをくれようとしないのだ! おりしも今日は僕の誕生日!!まさか忘れたわけじゃあるまい!」

 キース・エヴァンス、2月14日が誕生日である。彼が早生まれと言うことになるのだが、 どうもタ○トーさんはここら辺無頓着のようで各キャラクターの年齢差がややこしいことになっている。 彼の誕生日からバーンの誕生日(7月25日)までは彼らは同じ歳はなずだが他のキャラが絡むとどうもヤヤコシイ。 ので、“マジせつ”もこの件に関しては余り考えないことにします。

 キースの話に戻るが、生徒会総帥として名も知られファンクラブも存在する彼は バースデイ&バレンタインデーと言うことで山の様にプレゼントを貰う。 混乱を避けるため、生徒会室に特別にプレゼント受付所を設置し、 毎年部屋の片隅が贈り物で埋まると言う羨ましい生活を送っていた。

 しかし、彼も例に漏れず、意中の人は一人。

「だーから!なんで男の俺が男のオメーにちょこなんぞやらなきゃならねーんだよ!」

 バーンの必死の抗議に、キースはやれやれと肩を竦めた。

「甘いな、カルロは全く気にしては無かったぞ。」

 彼の聞こえた区域、半径約20メートルが凍り付いた。




「カルロまでもキース様に・・・許せない。」

 キースを想う女性が一人、名をソニア。箱船高校事務のおねーさんである。 しかし、学生と事務では立場が違う。そのスキャンダルを恐れて なかなか彼に声をかけられない。

 しかし、カルロはやった。自分の内気さを恥じ入りつつ、 もしかしたらキース様は私よりもカルロを取るの?と不安が広がる。 性別は考慮の外らしい。

「ええ、歳の差なんて分かっているわ。でもカルロの方が年上じゃない。 私の方が若くてぴちぴちじゃない。 あんな近親相姦男よりも純粋な私の方がキース様にはお似合いですわ! 第一あの分厚い眼鏡はなんなの? 多分あの眼鏡が本体なのよ。眼鏡を付けた人間が乗っ取られるのだわ。 ああっキース様は謎の眼鏡に狙われているのね!やっぱり美しいことは罪なの? キース様、目を覚まして下さい!貴方の双肩に地球の未来がかかっているのよ! そして私がヒロインになって最後にキース様の胸に抱かれて・・・ああっ」

 ちょっと妄想気味なのが彼女の欠点である。

 ちなみに数分後、怒りに燃えるレジーナの嫉妬を抑えるのにカルロは懸命になっていた。




「おぉ!ぜんぽうにちょこれーとのおとしものはっけん!」

 エミリオとせつなが廊下を歩いていると、これ見よがしに小箱が落ちていた。 リボンはもちろん、手紙付であった。

「『せつな様へ、エミリオ様もどうぞ』・・・奇特な奴が居るもんだな。」

 エミリオがそれを拾い上げ、名前が先に書いてある以上せつなに渡す。

「これもおれさまが、かぎりなくかっこいいからだ!」

 明後日の方向へポーズを取るせつな。エミリオは思わず苦笑した。 しかし、肝心の名前が書いていないのが気にかかる。 彼らは気がついていなかったが、影からじっと様子を窺う一人の少女の視線があった。

「ま、折角だから食って見るか?」

 せつなから箱を取り上げるエミリオ、しかしそれは更にブラドに取り上げられた。

「おうおうおう!がきが色気ついてんじゃねーよ!何様のつもりだぁ?」

 しまった!悪だ!!エミリオもさすがに表情が固まる。メンチを斬る彼に遠慮して、 せつなを掴んでじりじりと後退した。

 パティは悔しがるしかなかった。 ヴードゥ教の秘薬“ゾンビパウダー”配合のチョコである。彼らを操って自分の下僕にしようと思っていたのだが・・・ 諦めるしかなかった。

 そして夜半過ぎになって一人の男が病院に担ぎ込まれた。 一人寂しそうにしていた鈴木正人(仮)に善に戻ったブラドは 貰った記憶の無いそのチョコレートを彼に渡していたのだ。

 そして、せつなとエミリオ、そしてバーンにウェンディーが手渡した物を無理矢理奪い取ったキースは “砂糖と塩間違えちゃったのチョコレート”の毒気にすっかり当てられていたのであった。


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