番外編〜人気投票バーンが一番スペシャル!
ウェンディーとデート、氷龍乱舞編!〜


「やっほー!バーン、おっそーい!」

 良く晴れた日曜、透き通る青空、雲一つ無い良い天気なのは2人の 人徳の賜物だろう。今日のバーンはウェンディーとデート。 公園で待ちあわせてこれから街に出発である。 時計の支柱に寄りかかっていたウェンディーは バーンの姿に嬉しそうに手を振る。

「わりぃ、髪の毛セットしてたら時間かかってさ。」

「もうっ、でもバーンってその髪型じゃないとバーンじゃないもんね。」

 息を切らしながら駆けてきたバーンはいつもと寸分違わぬ格好。 ウェンディー以外の誰かなら洒落にならないセリフだが、バーンも陽気に笑う。

「じゃぁ、行こか。」

「うん!」

 早速、二人は手を繋いで公園を後にする。 そんな、幸せげな彼らの後ろ姿を見下ろしつつ、一人の男が忌々しそうにつぶやいた。

「むぅ・・・あの2人、この私をわざと無視したとしか思えん!」

 先程まで彼らが寄りかかっていた公園の時計。その上にキースはいつものように直立不動で立って居た。 無視したくなる2人の気持ちも分からないでもない。と言うか、無視したい。

「・・・制裁を加えねばならぬな・・・とぉ!」

 景気良く飛び降りるキース。景気良すぎて目測を誤り、池に飛び込んだ。 大きな音を立てる後方を、バーンとウェンディーは振り向かずに立ち去った。

「あっ。」

 商店街を行くその途中。パチンコ屋から一人の女性が出てきた。レジーナだった。 両手に抱えた紙袋には一杯、ぬいぐるみが入っている。が、それぐらいはまだ得心行くものだったろう。 二人は彼女の姿に硬直する。

「・・・ピンクのフリル・・・」

「真っ赤なリボン・・・」

 レジーナの服装は普段のワイルドな物ではなく、 桃色を基調にレースやフリルを多用したいわゆるピンクハウス系と言う奴である。 さらに、頭には大きなリボンをあしらっている。 レジーナの方も、二人の姿を目の前に焦りの色が隠せない。

「見たね・・・」

 グラマーなレジーナには可愛い系の服装はアンバランスで賛否両論あるだろう。 赤が似合う彼女であるので、そんなに変ではない。 が、普段は見せない姿を見られたレジーナとしては恥ずかしいこと限りない。 当然それは二人も同じ、他人の意外な一面に逢うと人間混乱してしまう。

「見たわね・・・」

 可愛い格好ですごむレジーナ。不気味な怖さを秘めている。 バーンとウェンディーは、全く無表情でくるりと背を向けて駆け出した。 レジーナはさすがに、追いかける気はなく、そそくさとその場を後にした。 あの二人が今後保健室を利用することはないだろうが。
 余談ではあるが、パチンコ屋店内にて。

「出ねぇなー」

「がっはっは、まだ修行が足らんぜ。」

「うっせー!」

「はっはっは!!ぶざまだな!」

 と、エミリオ御一行様が居たのは秘密である。 悪い事を教える事でガデスの右に出るものは居ないだろう。 パチンコは18歳から、よい子は真似しちゃいけない。

 レジーナから逃げ果せたバーンとウェンディーがウインドショッピングを楽しんでいた頃、 キースはデパートの屋上の、広告塔の上に立っていた。

「・・・はっ!ここからでは声が届かぬ!」

 それ以前にバーンたちの姿は見えるのだろうか? 自分の失敗にようやく気がついたキースは別の高い所を求めて再び下界に降りていった。

 しかし、彼らに気が付き、その動向を見守っていたのはキースだけではなかった。 建物の陰に隠れてじっと様子を伺うのは、誰であろう、ソニアであった。

「そんな!ウェンディー!!まだ高校生なのに・・・男と付き合ってるなんて!」

 きぃぃ、と唇をかむソニア。男じゃなくて女と付き合ってたら、それはそれで問題だと思うのだが。 自分の恋が成就してないというのに妹がラブラブだと、 姉としては嫉妬も入り交じって複雑な感情になってしまうようだ。 ソニアの場合、そのもやもやとした行き場の無いエネルギーは妄想として転化する。

「これから2人で何処に行くつもり・・・やっぱり買い物したり映画見たり眺めの良い場所で 二人の愛を語り合ったりするのだわ。もうキスも済んだのかしら、 あのこの柔らかでしっとりとした、甘い唇をあの男がもう味わっているの!? そんな!ウェンディーの唇は私だけのものよ!」

 暴走するソニア。ちなみにライアン姉妹にそんな事実はない。

「いいえ、キスなんてもう当たり前なんだわ。 もう何度も何度も、それこそ全てを知り尽くしてるのよ。 私と最後にお風呂に入った時にはまだ小さかった胸も今では一人前に 発達して、それがあんな男に蹂躪されているなんて! そう、もちろんその先も・・・私が居ない事を良い事に、あの子の部屋のベットで・・・ そんなっ、淫らよ、ふしだらよ!」

「やぁ、ソニア。こんな所で何を?」

 ひぃ!後ろから声をかけられ、それがキースだったもので更にびっくりする。
ああ、もう私の恋は終りね・・・。流れる涙をそのままに、ソニアは明日に向かってダッシュしていった。 キースは首をかしげ、そして再びビルの裏路地に消えた。

 その頃、バーンとウェンディーはらぶらぶで街の通りを歩いていた・・・が、 喧嘩なれしたバーンは突然の殺気にも敏感に反応した。

「危ないッ!」

 とっさに、ウェンディーを庇う。彼女も反射神経は良いのでさっと身を引いて難を逃れる。 そこには、赤毛の辻斬り少年、マイトが居た。

「デートなんかやる奴は、全て斬る!」

 威勢良く啖呵を切るが、只のひがみであることは一発で見て取れた。 やや涙目のマイトに、不意打ちを仕掛けてきた事も忘れて、バーンは可哀相になった。

「何言ってんだよ、お前にはパティが居るじゃん。」

「今度、デートのお誘いでもしてみたら?」

 二人の言葉に、マイトの顔が即座に真っ赤になる。

「しっ、、しかし、、、パティは何考えてるか分からないし・・・」

「大丈夫だ、頑張れ。」

 ポンとバーンが肩を叩くとマイトは照れしまって声も小さくなっていく。 バーンとウェンディーはそんなマイトをそのままにその場を去っていった。 と、入れ違いに自転車をこぎながら血相を変えたゲイツがやってくる。

「フリーズ! カップルに暴行を加え続けている奴は貴様か!?」

 むしろ武器の携帯が問題だと思う。マイトは小声で何かぶつぶつ言って、聞いちゃいない。 ゲイツは銃を構えたままじりじりとマイトに近づいていく。 するとマイトは突然、ゲイツの銃を持っている手を取って、囁いた。

「君が好きだ!」

 はっと我に帰ったマイトは隣に居るのがパティではなく ごついゲイツであることに真っ青になる。突然告白されたゲイツは、思わず頬を染めてた。

 街の中心のテレビ塔、二人のいつものデートコース。 ここの展望台から街の夕日を見るのが、二人の大切な時間だった。 暮れ行く町並みを眼下に、バーンはウェンディーの肩を抱き、 ウェンディーも彼の胸板に頭を預ける。時間だけがゆっくりと過ぎていく。

「はっ、ここにいては彼らに気がつかれるどころか、私も彼らが見えないではないか!」

 キースはテレビ塔のてっぺんに居た。ご存知の方も多いと思うが、 テレビ塔の展望台から更に塔が建っている。例によって、どうやって登ったのかは謎である。

「あー、今日は変な一日だったな。」

「ん? でも面白かったよ。」

 帰り際、手を取り合っている幸せそうな二人。 街の雑踏も気にはならない。が、余りまわりを見てなかった事が後になって悔やまれる。 突然、聞き覚えのある声が辺りに響いた。

「一言言わせてくれ。」

 キースの声だ。ぎょっとして二人は声のした方を見やる。 街頭インタビューの光景が、ビルのプロジェクターにでかでかと映っている。 そしてそこには、優雅にもマイクを受け取るキースの姿が有った。 巨大な画面に、キースがアップになる。

「バーン!愛してるぞ!!」

 キースの叫びが街の隅々までこだまする。 画面に気を配っていなかった人々も一斉にプロジェクターに注目した。 黙っていればばれないのだが、バーンもウェンディーも真っ赤になった。 ここは誰にも知られず、こっそりと逃げ出す方が良いだろう。

「はっはっはっは!ばーんにうぇんでぃなのだ!」

 後ろから声をかけられて、二人はすくみ上がった。 無邪気なせつなはこんな時にも遠慮しない。エミリオが更に冷やかしを入れる。

「おーおー、あついねぇ。ひゅーひゅー。」

 バーンだって、彼がバーンですってよ。周りの群集がざわめきたつ。 冷や汗が瀧のように流れるバーンを、ウェンディーは引っ張っていった。 エミリオはそれを、冷ややかに見つめていた。 そしてせつなは、プロジェクターに大きく映し出され街のみんなに注目されているキースが羨ましくて仕方なかった。

 余談であるが、翌日バーンはキースと大喧嘩をかまし、却って痴話喧嘩の噂が広まってしまった。 そしてその噂の原因が賑やかし好きのパティであることは結局誰にも知られることはなかったのだった。


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