番外編〜夏休み特別企画!
海辺のビーナスと渚のシンドバット?〜
青い空白い雲、そして澄み切った海と白い砂浜、 ありふれた書き出しであるが、海水浴場を描写するにはこれが一番よろしい。 夏休み番外編と言う事で今回は海のお話である。良く発達した大胸筋と腹直筋がまぶしい、 迷彩柄の海パンの男が一人、男の名はガデス。 暫く離れた場所では、エミリオが浮かない顔でガデスを見ている。
彼の不必要なまでに鍛え上げられ隆起した肉体に対して 傭兵をやっていたとは言えそこまで鍛える必要はないんじゃないか? と常々思っていたエミリオであるが、今日、ようやくその理由が分かった。
「キャー、すごぉーい♪」
「きゃーきゃー!! 触ってもいいですか?」
即ちナンパ用である。
女子大生ぐらいの若い女の子を何人も侍らせて、ビーチを闊歩している。 普通の奴なら、グラサンの恐いお兄さん方からガン付けられてもよさそうな物であるが、 厚い肉の鎧をまとうガデスに敢えて挑戦しようというチャレンジャーは居なかった。「どーりで到着次第解散、後は捌行動なんて言い出す訳だぜ・・・」
朝、出発前にせつなとエミリオに、ガデスが神妙に打ち合わせをしたのを思い出していた。 軍隊に居た時の癖なのだろう、時計も彼に合わせてしまった。 ガデスもそれだけ気合いが入っていたのだろう。憂鬱そうにせつなの方を見る。
せつなと言えば、「きゃーっ!!ボク可愛いーっ♪」
「わーっ、尻尾がふかふかだわぁっ☆」
と、OL風のおねーさんたちからもみくちゃにされていた。 海パン(尻尾の穴付き)で、犬耳、浮き輪を持ってうろちょろしてる彼が モテない訳はなかった。半分溶けかかっただらしない顔であるが、 それが又可愛がられる要因になるから幼い男の子は有利である。
が、エミリオ君ぐらいの年齢で、しかも美形とも成ると女性から見ても高嶺の花。 男の方から声を掛けないと、却って彼女持ちだと思われる。 ナンパは男の側が声を掛けて本意とする。幾らカッコ良くても待ってちゃ駄目ですな。 しかし、基本的にシャイなエミリオにはそれは出来ない。
もう一つ、彼の背中の大きな羽根である。余りに目立ちすぎる。 誰も近寄ろうとはせず、賑わう真夏の浜辺の中で彼の周辺は秋風が吹いていた。
自閉症モード全開の彼は体育座りでじっと海をみつめてみた。 沫立つ波がきらきらと絶え間無く形を変えながら輝く。 溶け込んで行く様な夢幻の変化がエミリオの心を安らがせた。 が、端から見てもイッちゃってるのがバレバレなのは秘密だ。
「エーミーリーオっ♪」
ハッと振り向くとそこにはウェンディーが居た。 彼女のイメージカラーのピンクの水着。 派手ではないが彼女の可愛らしさを際立たせている。 バーンも居る。彼もイメージカラーの赤い海パン、 さすがにビーチでは普段の格好ではないようだ。非常にレアな姿かもしれない。
「おっす、さっきガデスを見たからさ。きっとお前も居るだろうって探してたんだ。」
一泳ぎしてきたのだろう、二人とも水が滴っている。 濡れた水着と言うのは往々に艶っぽい。エミリオはウェンディーの体の線に目を奪われた。 それにしてもバーンの髪型が崩れていないのは、 世の中に多々ある知ってはならない事なのかもしれない。
「そうそう、栞ちゃん達もいたんだよ。六道先生と潅頂先生がお守りで。」
「信じられなかったよなー。玄真も玄信も・・・フンドシだったんだぜ!」
「・・・見たいとは思わないな。」
心配いらない、作者である私も書きたいと思わない。 ただ、13歳の少女とゴツいオヤジと骨と皮だけのジジイが、一緒に談笑し、 砂でお城を作ったりしてるという異様な光景がそのビーチで見られた事だけ報告しておこう。
彼らとはちょっと離れた場所でふらふらと歩く女性が一人。
「ああ、見られている。殿方の視線が私に釘付けになっている・・・ 見ないでっ、そんな目で私を見ないでっ・・・いやっ、胸から腰にかけてのラインを なぞっていかないで・・・」
ソニアさんの美貌はビーチでも際立ってはいるが、彼女の水着自体は白一色のワンピース。 特に露出部分が多いという訳でもないのだが、衆人環視にさらされているお陰で妄想の展開速度が普段より著しく速い。
「・・・ああ、キース様・・・」
何故かキースの名を呼びながらうっとりした表情で、 再びふらふらと徨い始めるソニア。端から見ててかなりヤバイ。 と、そこに一閃。ソニアもはっと気がついて避ける。
「ビーチでボーっとしてる奴は全て斬る!」
訳の分からない事を叫ぶ、マイト16歳。彼の華奢な体は エミリオよりもまだ細い。髪の毛と同じ赤いパンツで木刀を持ったまま凄んでいる。 多分、西瓜割の途中なのだろう。と言うか、硬派な彼は妙齢の女性が 無防備なままうろついているのが気に入らないらしい。
「何やってるのマイト?」
が、パティから声を掛けられてさっと彼女の所に戻ってしまう習性はどうにも抜けないらしい。 ちなみにパティはちびシャツに膝迄ある長めのパメオで決めている。 胸の無さをフォローするさすがのコーディネートだ。面と向かって言ってしまうと、それこそ血を見るであろうが。
ソニアは暫く、そこに突っ立っていたが、また元気を取り戻した。「・・・あの子・・・もしかして私が妄想に耽ってしまっているのに 気がついたと言うの?まさか私の心を読んだと言うの!?と言う事は 私がキース様に対して想いを寄せている事を知っているのね!・・・え、 待って、と言う事はあの子も私のキース様を狙っているの?だから さっき私に仕掛けてきたのね?きっとそうよ!」
そしてまた、ふらふらと海岸を徨う。全く、何しに来たのだろう? しかし、彼女の想いが通じたのだろうか、空が騒がしい。
バララララララララララララ・・・・・・
「やぁ!僕のバーン!!!」
ヘリコプターから吊るされたはしごにしがみ付いているのは キース=エヴァンスその人である。青いトランクスとキラリとこぼれる白い歯がまぶしい。 さすがにプロペラの上に立つような無謀な事はしなかった。 こう見えても彼は常識家なのである。
実は朝から灯台の上にスタンバっていたのだが、灯台は海水浴場から 少々離れた所に有ったのでぜんぜん誰も気がつかなかったのだ。 そのため、多少の無理を承知でヘリでのご登場と相成った。 彼の高い所に対する執念は生半可な物ではない。
キースはニコリと、渚のバーンに微笑みを浮かべる。当然バーンは 穴があったら入りたいぐらいだろう。せつななら喜んで掘ってくれるはずだ。「今そちらに向かうぞ!とうっ!!!」
キースはいつものように景気よく飛び降りる。 鮮やかなダイビングだ。バシャ、と水面に飛沫が飛び上がった。
が、彼の飛び込んで出来た波紋が徐々に勢いを失い、 それが全く波に飲み込まれても彼自身は浮かんでこない。「・・・奴、泳げなかったはずだぜ。」
バーンはぽつりと呟いてようやく事の重大さに気が付いた。と同時にその時誰かが海に飛び込んだ! ゲイツだ!グラサンをつけっぱなしで(もしかしたら水中眼鏡を兼ねているのかもしれない) 無表情にキースの飛び込んだ辺りまで一気に泳ぎ、そして彼を連れてまた戻ってくる。
「ライフセービングも趣味だ。意識は無いが、多分大丈夫だろう。」
ゲイツはぼそりと呟いて、その場を後にした。 ぐったりとしたキースの他に残されたのはエミリオ、バーン、ウェンディー。そして遠くから見つめるソニアである。 ウェンディーはキースを突ついてみた。
「・・・でも、目を覚まさないねー・・・」
「もしかして、これって人工呼吸を待ってるとか?」
エミリオがバーンに、意地の悪い指摘をした。真っ青になるバーン。 それを聞いたソニアは私、私、私、と念を送っていた。
「わっはっは!それならばこれをつかうのだ!!!」
せつながおねーさんから借りてきた、浮き輪用の空気入れを持ってきた。 皆の目がきらりと光る。
「わはははは、心配を掛けたようだな、僕のバーン。」
危険を肌で感じたキースは慌てて起きたが、そこにはただせつなだけしか残ってはいなかった。
余談であるが、次の登校日、 一部の目ざとい生徒達の間で日焼けしたレジーナに水着の跡が無い事が密かに囁かれていた。 まぁ、噂を流したのは例によってパティであるが。