番外編〜新春お年玉企画!
それぞれの正月・・・そして乱舞する年中元旦飾男“W”〜
「おうっ!今年も腹筋の調子バッチリだぜ!」とは言っても羽織袴を着込んだガデスの肉体美は拝見できないのが残念。 それにしても、どうしてここまで似合うのだろう?と言うぐらい和服の似合う男、ガデス。 どこぞの重役かと見まがう程の貫禄がある。その姿で雑煮を作るのはどうかと思うが。
説明しておこう。今回は番外編のお正月である。と言うのも、正編で正月ネタをやってしまうと もう数ヶ月で卒業式が来てしまうのだ。すると“マジカル☆せつな”は存亡の危機に晒されてしまう。 そんな訳で、これからも季節ネタ、時事ネタは番外編という事でご理解いただきます。
さてさて、エミリオとは言うと、レコード大賞と紅白を見たの迄は良かったのだが せつながいつまで経っても寝付かないのでさっさと就寝していた。 深夜帯でR指定な映画がやっていたのだが、まぁ若いって言う事はいいことだが、 昼過ぎてもまだ起きてこない。
せつなはせつなで、いち早くガデスからお年玉を貰っている。
「これがほんとのお年玉だぜ!」
と、飴玉を貰って、それで喜んでいるから世話が無い。と、ようやくエミリオが食卓に顔を出した。正月だからといって特別な格好はしない。 普段のラフな格好をしている。とりあえず、ガデスから小遣い(お年玉ではないらしい)を せびると食事もそこそこに出かける用意をする。
「おや、誰かと約束してたか?」
「かんけーねーよ。」
しかし、彼のうきうきした態度を見ていると、隣りのウェンディーと 初詣の約束であろう事はガデスにも予測できた。 実際その通りで、もうすぐウェンディーが尋ねて来るはずである。
「はっはっは、どこへいくきだ!」
新年早々、ポーズ(既に十五回目)をとるせつな。 ・・・こいつもやっぱり連れて行くんだろうな・・・と、見やった先に鏡餅。
「正月だし、これでもつけてな。」
エミリオはお飾りの橙をせつなの頭に載せる。 はしゃぎ始めるせつな。・・・何故落ちないのだろうと思っているうちに 玄関のチャイムが鳴り響く。にやつくガデスを振りほどき、 エミリオはせつなと共に外に飛び出す。
「若いねぇ。」
ガデスは一人、おとそを傾けながらごろ寝しつつテレビを見るのだった。
「ハッピーニューイヤァ! エミリオ!」晴れ着姿のウェンディー。なかなか良く似合う。 ピンク主体のその姿は楚々としつつもなかなか色っぽい。 エミリオにとって、ああ、生きていてよかったと思う瞬間である。 ま、惚れてしまうとそんなもんだ。
「よぉ!新年明けてめでたいぜ!」
やっぱり居たか・・・と、バーンの姿に分かってはいながらがっくりするエミリオ。 当然の事ながら喩え正月でもバーンはいつもの格好である。春夏秋冬を通じて、他の姿を見た者はない。 とりあえずせつなは落胆するエミリオを余所に、ウェンディーにじゃれている。
「そうそう、知ってる?一年生のパティ、テレビに映ってたのよ。」
神社へ向かう御一行様。実は箱船高校の裏山が影高野の管轄する神社に成ってたりする。 一応仏教系なのだが山伏の流れを引いている両部神道だったりするので、 系統の神社と同居しているのだ。この辺り適当でよろしい。
「たしかね、新春特番24時間耐久カラオケレースだって。優勝賞金100万円だったよ。」
「おおっ、優勝してたら絶対たかろうぜ!なっ?」
「・・・でも、絶対自分で使うよ、奴は。」
盛り上がるバーンに水を差すエミリオ。余談ではあるがマイトは彼女の付き添いにまわっている。 頑張れマイト、いけいけマイト。パティが既に海外旅行のチケットを入手して居る事に、彼はまだ気が付いていない。
「そう言えば、カルロとレジーナにも逢ったぜ。レジーナ、すげー奇麗だったぜぇ。」
先生を呼び捨てにするバーン。まぁ、エミリオもそうだが。 ベルフロント兄妹は有名神社巡り中である。スタイル抜群で赤が似合うレジーナの艶姿はそこらのモデルよりも美しく目立つ。 カルロは逆に地味な和服姿、これが却って彼のクールさを引き出して良くに会うのだ。 当然、二人並んだ姿は好対照をなし、似合いのカップルとしか映らない。 彼らは羨望の目を引きながら神社を練り歩く所存である。 こういうのが居るから、独り者が初詣に行くと辛い思いをするのだ。
と、四人が裏山までやって来ると黒山の人だかり、もっと早く来るべきだったか? と一同思ったが、たかっているのは何故か鳥居だったりする。高野大社の 大鳥居は有名であるが、ここまで人がたかってる様なものではない。 それには即ち訳があった。一同、顔を覆う。
「ふっ、遅かったな。待ちくたびれたぞ」
待つな、一同そう思った。他の人々も色めき立つ。 大鳥居のてっぺんで直立不動で待っていたのは、キース=エヴァンスその人、と言うか彼以外に居ない。 紳士の国の人らしく、タキシードで決めているが、やはり変だ。 彼の連れだと思われて、せつなを除く三人は恐縮する。
「予想通り、エミリオ君とウェンディーも来たな・・・時に、冬休みの宿題は終らせたかな?」
鳥居の上で説教たれはじめるキース。しかし、エミリオもウェンディーも 普段勉強はちゃんとしてるので頭を縦に振る。一名だけ、大いに慌て始める。
「宿題・・・なんて有ったのか・・・??」
そんなバーンにふっ、とキースは微笑む。予想通りの展開に、エミリオもウェンディーも少々あきれ気味だ。 せつなだけ、現在注目を集めている状況を喜んでいる。
「僕の奴を写して遣ってもいいが・・・それには条件がある!今すぐその女と別れろ!」
「馬鹿な!そんなやり方は間違っている!!・・・な?ウェンディー?あれ?」
「ふっ、やはり愛想を尽かされたようだな!」
と言うか、彼らの痴話喧嘩の渦中にて衆人環視に晒されっぱなしな訳はない。 既に神社の境内まで避難していたエミリオ&ウェンディー。そして名残惜しそうなせつな。 さっさと初詣を済まして、裏から帰る魂胆である。
「ウェンディーと・・・その・・・」
小声で祈願するエミリオ、ウェンディーの横顔がそこにある。 せつなはハトと遊んでいる・・・チャンスかもしれないな・・・と思った。
「ハッハッハ!その願い叶えてあげましょう!!」
ずぎゅーん、奇妙な音と共に聞きたくない声が耳に入った。 謎の中国人“W”が目の前に、神社の奥から出現する! 慌てるエミリオ!・・・しかし、隣りのウェンディーは微動だにしない。 いや、ウェンディーだけではなかった。その外全てのものが止まってしまっている。
「今、時を止めました。今この世界で動けるのは私と貴方だけです。」
・・・え?
「さぁ、今こそ望みを成就するのです!!ウェンディーさんの唇はすぐそこですよ!!」
・・・なんて地獄耳なんだ、この男は・・・エミリオは戦慄した。 しかし・・・こんな風なのは駄目だよ・・・あ・・・でも、ウェンディーは気づかないんだよな・・・ とりあえずやってた方が得かも・・・あーでもそれは駄目だよ・・・
と、心の中では葛藤しつつ、彼女の頬に手が行っているエミリオ=ミハイロフ、16歳。 体が勝手に動いてしまうお年頃なのだ。努々、若い男性には気を付けたまえ、女子諸君。 そうしているうちにも彼はウェンディーの顔を正面に向かせている。柔らかな彼女の肌がエミリオの心を狂わせる。 少し濡れた唇が悩ましい。肌よりももっと柔らかいんだろうな・・・とエミリオは思った。 もう少し。二人の距離が縮まっていく。それをいつもの細い細い目で見守る“W”・・・?
「いつまで見てる気だー!!」
「おや、失敬。見てると気恥ずかしいものですよね。後ろを向いて差し上げます。」
エミリオの罵声にくるりと背を向ける“W”、が、次の瞬間再び前を向く。
「申し訳ありません、タイムリミットです。」
あ、ウェンディーの目に光りが戻る。真っ正面で、両肩に手が回っている状態で驚かない方がおかしい。
「何すんのよ!!」
真っ赤に頬を染めたウェンディーから突き飛ばされるエミリオ! 既に時は動き出していた。当然、“W”の姿は忽然と消えている。焦るエミリオ。
「もう!油断も隙も有りゃしないんだから!!私もう帰る!!!」
ぷりぷりしながらウェンディーは去っていく。忽然と残されたエミリオ・・・ そして、その隣りでポーズを取るせつな。橙はいつのまにかエミリオの頭に乗っていた。
「くくく、ぶざまだな!」
せつなの声も、エミリオの耳には届かなかった。
ただ、鳥居から飛び降りたキースを運ぶ救急車のサイレンの間抜けな音階が、 エミリオの頭を痛くした。