番外編〜新春お年玉企画2!
季節はずれのクリスマスに大混乱!?〜


 昼なお暗き箱船高校“奥の間”。幹部しか入る事の許されぬその小部屋に 影法師が三つ揺らいでいた。教頭の玄真、理事の玄信、そして影の支配者である栞。 普段なら箱船高校の母集団である“影高野”の会議室として用いられるこの部屋は 今日は少々雰囲気が違った。

「お願い玄2ちゃんっ 栞のわがままを聞いてっ。」

 大きな瞳に涙を潤ませて、懇願する栞。渋い顔の玄玄ブラザーズ。 いつものキャラクターを覆してまで栞はぶりっ子を決め込んでいる。

「されど、我らは仏門に使える身・・・」

「固い事言っちゃいやんっ♪」

 巫女である栞はさまざまな霊を降臨させる事が出来る。 今も完璧な“まいっちんぐ”のポーズを取っているのは何か悪いものが 憑いているからかもしれない。

「どうしてもクリスマスパーティーしたいのっ!」

 伝家の宝刀、“えっちすけっちわんたっち”のテンポで子供の色気を 放出する栞、が、玄玄ブラザーズにその程度のまやかしは通じない。 カルロあたりだったら一発で引っかかりそうだけど。

「・・・仕方ありませんの。栞様のたっての頼みとあらば、多少の融通もやむをえませんな。」

「ああん、ありがとう玄信ちゃぁんっ♪ 任せてっ、イエスだってマリアだって、立派に降ろして見せるわ! あとは、サンタクロースお願いね♪」

 少々違う栞。しかし、玄真は猛烈に反発しはじめる。

「いっ、嫌じゃぁっ! 褌一丁になるならともかく、“さんたくろぉす”なんぞ恥ずかしくて嫌じゃぁ!!」

 裸はいいのか?玄信は逆に首をひねる。

「・・・“くりすます”とは切支丹伴天連の宗主の誕生日と聞き及んでおります。 なにゆえ、“たんさくろーす”なる存在が出現するのでありましょうか?」

「ひ・み・つっ♪」

 栞は可愛さで誤魔化そうとする。と言うか、赤い服のサンタクロースが定着したのは コカ・コーラのCM用ディスプレイだったと僕は記憶している。イメージの定着は結構新しいのだ。

「それにほら、天使だったら適任が居るじゃない。」

「そんなわけでエミリオ君、君には天使の役が任命されましたよ。」

「はいっ?」

 唐突に場面は変わって、一年A組一番奥の席。カルロから肩を叩かれてエミリオは困惑を隠せない。

「クラスの出し物に付いて話し合っているのです。居眠りをしてた君の不注意ですよ。」

 有無を言う暇も無く一年A組の出し物の主役にされたらしい。 そうか、僕の羽根がそんなに見たいか・・・頭の中で“めんどくさい” と言う答えが浮かび上がるが、次の瞬間“ウェンディー”が“めんどくさい”の上に上書きされた。

「ああ、僕で良かったら、やるよ。」

 クラスがざわめく、絶対にごねると思っていたエミリオが アッサリ快諾したので戸惑いを隠せないのだ。

 さて、準備の日々はあっという間に過ぎ去ってパーティ当日。 ホントは二十四日の終業式の後なのだが、まぁ固いことは抜きである。 校庭のど真ん中にはいつのまにか用意された高さ10メートルも有りそうな もみの木に、赤白のモールとさまざまな飾り。それに電飾がきらきらと光って非常に幻想的だ。 てっぺんには金色の星が付いているのだが、残念ながら下からでは見えにくい。 それと、一応高校の行事なので宿り木は排除されている。

 木を植えたのはブラドであった。集まって来る生徒達ににこにこしながら説明をする。

「このもみの木、素敵でしょう。ええ、昨日カルロさんから苗を頂いたのですが、あっという間に育ってくれましたよ。」

 木の周りに集まっていた生徒が、一気に散った。その頃、バーンとウェンディーは 白い服を着せられてどこから見ても“天使”以外の何者でもなくなったエミリオを囲んでいる。

「主役じゃねーか、がんばれよ。」

「エミリオかっこいい・・・」

 “可愛い”でなくて“かっこいい”。年頃の男の子ではなく、女の子に転化すると “可愛い”でなくて“奇麗”と言われたと思っていただきたい。 エミリオの心を揺さ振る言葉である。が、どうも釈然としないことがある。先ほどから何か足りない気がしてならないのだ。

「僕に誰も気が付かないとは、どういう事だ?」

 キースがもみの木の上で、呟いている。繰り返すが、下からではてっぺんは見えない。

 さて、A組の方が先にやってもいいようなものの、カルロがジャンケンに負けた為、 B組の出し物の方が先に行われることになった。一年B組の出し物はオーソドックスに合唱。 簡単ながら設置された校庭のステージに生徒達がずらりと並んだ。 もちろん、ソロで歌うのはパティ。

「・・・マイトは?」

 マイトの姿が無いので怪訝そうなエミリオ。マイトは実はパティの秘密特訓に突き合わされ、 現在保健室でうなされているのである。

「一年B組、出し物は『ホワイトクリスマス』」

 仏教系高校でさすがに聖歌はまずい。ピアノの前奏がながれ、そして一斉に歌いはじめる。

 ♪ほげ〜ぇ〜

 高らかに、そして明らかに歌ではない音が流れている。 音波、いや電波に近いそれはステージの前の方にいた生徒達の神経に大いに障り、次々と悶絶し、倒れていく。 パティから発せられるある意味宇宙語的な音調が常人の精神を破壊してるのだ。 と、無気味な音が木から発せられる。

 メキメキメキメキ・・・

「共鳴現象!」

 エミリオが叫ぶ。なんという事だろう、モミの木に吊るされた大きな飾りが 反響し、木の幹に大きな亀裂を生じさせているではないか。 モミの木は悶え苦しんでいる生徒達の上に、容赦なく被さって行った。

 ずどどどおおおおおんん・・・・・

 大きな音が鳴り響いた。小さな音は非常に聞くに堪えない、肉の潰れる音や 骨の折れる音、内臓の破裂する音、そして悲鳴が幾つも発生した。木の枝に突き刺さった生徒も居る。 即死した生徒は少ない。ほとんどはまだ息があり、苦痛に悲鳴を上げている。そして電飾から ショートする火花で木々に火が移る。電飾の供給源にされていたソニアもその中に巻き込まれていたのだ。 そして。

「バーン? ・・・あはっ・・・嘘だよね・・・バァン!!!」

 ウェンディーはかろうじて難を逃れていたが、バーンは巻き込まれてしまったようだ。 エミリオは彼女の所に駆け寄った。段々グラウンドが血に染まっていく。 向うにはキースが着ていたはずの青い服の切れ端がなびいていた。

 別の場所でも悲鳴が上がっていた。余りのショックでブラド(悪)が覚醒したのだった。

「♪真っ赤なお鼻の〜 ♪トナカイさんは〜」

 ブラドが、近くの学生の鼻を削ぎ落としている。歌が洒落になってない。 痛みとショックでもがき苦しんでいる生徒達と我先にブラドの狂気から逃げようとする生徒。 押し合い圧し合い、それこそ自分だけが逃げようとして余計に自分が混乱している。 人間の本性が良く出る一瞬である。

「血だ!もっと血をよこせぇっ!!」

 返り血を浴びて赤が栄えるブラドを全く無視し、ウェンディーはバーンの姿を捜し求める。 そうこうするうちに、自転車のブレーキ音が聞こえた。

「フリーズ! みんな動くな!」

 騒ぎを聞きつけたらしく、駐在のゲイツが登場した。デザートイーグルの 銃口をパニックに陥っている生徒達に向けている。それよりも救急車じゃないのか!? エミリオはちょっと腹が立った。 が、ゲイツの瞳がウェンディーの足元に向いた所でそれどころでは無くなった。

「シェリル・・・」

 たまたまウェンディーの足元には、エミリオと同じクラスの、ゲイツの娘である シェリルが二目と見れない無残な姿になって横たわっていた。怒りに燃えるゲイツは、 銃口をウェンディーに向ける。

「違う・・・私・・・じゃない・・・」

「動くな! 動くと撃つ!」

 動いても撃つ気だ!

「危ないっ!!」

 エミリオはウェンディーを庇うように、ゲイツの前にはだかった。 が、彼は引き金を躊躇いなく、引いた。

 ドギュゥゥゥン!!!

「うわああああああああああ!!!!」

「はっはっは! いつまでねているつもりだ!!」

 爆音に驚いて飛びおきたエミリオ。気がつくといつもの自分の部屋である。 違うのはせつながクリスマスの余りのクラッカー(使用済)を右手で振り回しつつポーズを取っている事であろうか。

 夢?。。。

 なんてこった! 初夢にクリスマスの夢見るか普通!! 夢オチとは言え、額や掌が汗でぐしょぐしょになっている自分。まだ心臓が どきどきしている。コイツは春から縁起が悪い。

『コイツのせいか?!』

「くくく・・・はーっはっはっはっはっは・・・」

 おお笑いした後、ぴたりと彼は制止した。 そして、思い出したように羽根をを広げる。その時のエミリオの表情は、 はしゃいでいたせつながぴたりとその動き止める程凄惨極まりない物であった。

「死んでしまえぃ!!!!」

 ガデスの談によると、みぞおちに一撃食らわせるのが遅かったら、 せつなはマジでやばかったそうな。ちなみに今日は1月2日、 前回正月番外の次の日だと思って結構である。 そうそう、初夢でクリスマスの夢なんか見る訳が無い。 初夢は1月2日の夜の夢だよ、エミリオ君。




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