番外編〜というか、むしろ電波に他ならないのだが
折角なのでお披露目しようかな、『サイキッカープリンセス』〜
「お兄様・・・怒らないで聞いてくださる?」「なんだい、レジーナ。 話してごらん?」
カルロはレジーナの部屋にお泊り状態。少しいちゃついた後に普段なら“兄さん”と呼ぶレジーナが改まって“お兄様”と呼んで来た。何だろうと少し訝るが、それはそれ、妹には滅法弱いカルロ兄さんである。そんなことを考える前に妹の声に耳を傾ける。
「実は・・・いままで秘密にしていたんだけど・・・」
恥らうような、困ったような、レジーナの表情は、普段よりも初々しく、カルロはイケナイ興奮をしてしまう。だが、意を決したようにレジーナが言葉を発したとき、さすがのカルロもひっくり返りそうになった。
「お兄様の妹って、私だけじゃないの」
「・・・どう言う事でしょうか?」
ずりこけそうになりながらも、思わず敬語になってしまうカルロ。レジーナの説明では、カルロには生き別れの妹が、まだ他にもいるらしい。
「レジーナっていうのも・・・本当は嘘・・・咲耶って言うの」
非常に日本的な名前にカルロは少々当惑しながらも次の言葉を搾り出す。
「・・・それで、後、何人居るのですか?」 「私を含めて・・・驚かないでね。 12人・・・」
ぶーっ、と吐血するカルロ、慌てるレジーナ、いや咲耶はそれが鼻血であることを見切れなかった。
「いや、大丈夫だよ、レジーナ・・・いや、咲耶だったか」
「それで、実はもうみんなを呼んであるんだ。紹介していくけど良いかな?」
「もちろんですよ」
世紀も改まって間もないというのに、いきなり今世紀最高級の爽やかな笑顔を見せるカルロ。それは歓びがまさり、ハァハァ的な気持ちを覆い隠す効果があった。
「じゃぁ、最初は可憐ちゃんからね」
「パトレシア・・・」
「お兄ちゃん!」
その一言で、カルロの疑念その他を含む理性は吹き飛んだ。強力な妹属性を持つカルロにとって、その言葉は猫にマタタビ、犬に骨、ドラえもんにどら焼である。妹だといわれれば、それは妹ある。何を迷うことがある、歓ぶべきことではないか!
可憐(パティ)は恥じらいながら、カルロを上目遣いで見あげている。
「お兄ちゃんに逢えて・・・可憐嬉しい」
可憐の瞳にカルロが映った。キラキラと輝く自分自身をカルロはじっと見据えていた。目が離せない。離してしまうと折角のご馳走が逃げてしまうような気がしたからだ。ここら辺の意識がちょっと普通とは違う。
次第に恍惚の表情を浮かべ始めたカルロ。しかし、目の前を影が過ぎった。咲耶は彼女とカルロの間に割って入ってきたのだ。そしてカルロに耳打ちする。
「お兄様、可憐ちゃんの目を見すぎると、ちょっとマズイから…」
カルロ的には全く構わないのだが、これから多くの妹達が堪能できるのだ。ケチらずに次に行くことにした。
「じゃ、次は花穂ちゃん」
そそくさと可憐を押し出す咲耶。そうは言いつつなごり惜しそうなカルロであるが、次に飛び込んできた姿に心を奪われた。後の事よりも今の事の方が重要なのである。
「お兄ちゃま!」
「エミー?」
甘えたようなその声に、カルロの心、羽化登仙の域にある。平たく言えば吹っ飛んでしまっているわけで、いつもの冷静な観察力とか分析力とかはあっちの世界に行ってしまっている。
「花穂ね、お兄ちゃまのこと、いつも頑張れ頑張れって応援してるんだよぉ」 花穂(エミリオ14歳)の、ちょっと舌足らずな所がカルロのツボというか、属性というか、そういうのをまるで北斗神拳の伝承者の様に遠慮なく突いていく。カルロは無防備の状態でダメージを受けまくる。
「お兄ちゃま、花穂のこと見捨てないでね?」
見捨てるわけが無い。というか、唐突にそんなことを言われてもかなり問題があるのだが、カルロはそんな細かいことは気にしない。イチャイチャ感が高くなってきたので、咲耶は花穂を追っ払うように部屋の外に出した。
「で、次が雛子ちゃん」
「おにいたま!」
雛子(栞)の“たま”発言の破壊力は、バリア破壊直後に結界外に吹き飛ばされるようなそんな感じだった。
「ヒナね、おにいたまのことだいだいだーいすきなの!」
不自然なまでに幼い喋り方である。普段の彼なら何か変な事に気が付いていただろうが、今のカルロには何を言っても無駄である。表装には辛うじて出して居ないが、内面はかなりもう、ダメかもしれない。目がすっかり行ってしまっているカルロに一方的に雛子は喋りたてるが、咲耶は雛子を制して、次の妹を部屋に招き入れる。
「えっと、次は白雪ちゃん」
「にいさま! 白雪ですの!」
白雪(ウェンディー)はお下げをクルクルと靡かせながら部屋にはいってくる。その後にのっそりと、何か得体の知れないものも付いてきた。
「…えっと…それは?」
「ハニワですの!」
「ハニワ…ですか」
あくまで元気よく応える白雪。ハニワ(鈴木正人(仮))はハニワ的(└|‥|┐)な格好のまま固まっている。マッドなカルロはむしろハニワに興味を持ち始めたが、白雪が頬を膨らませ始めたので、咲耶は次の妹の紹介に移る。
「次は鞠絵ちゃん」
「兄上様・・・」
「あれ? 鞠絵ちゃん、眼鏡は?」
「今日はちょっと」
どうやら鞠絵(ソニア)は普段は眼鏡をかけているらしい。カルロは彼女に眼鏡は、少なくとも自分以上には似合わないと思ったが、とりあえず黙っていた。それ以上に気になる物体がちょこまかと付きまとっている。
「で、そっちの生き物は?」
「はっはっは、いぬのみかえるさまだ!」
“みかえる”と名乗ったそれは、明後日の方向にポーズをとっている。鞠絵は弱々しく、うつらうつらとしかけていたが、急に目を見開いて喘ぎ始めた。
「薬が・・・」
まっどさいえんてぃすとである所のカルロも偶にしか見かけないヤバイ表情を、鞠絵は浮かべている。唸るような声を発しながらまるでバイオハザードに感染したかのごとくである。
「いけないッ! 発作だわ! えっと、お兄様、ちょっと待ってね・・・」
犬のみかえるが持っていた救急箱を引っ手繰る咲耶。
「先ず右腕・・・で、お薬・・・左腕・・・。はい、コレで大丈夫」
注射器二本分の紫色の液体と、色とりどりの錠剤が鞠絵の中に流し込まれた。彼女の発作は収まったらしいが、引きつったままの表情は元に戻らない。というか顔ごと身体ごと硬直している。犬のみかえるとやらが、彼女を引っ張って退場した。
「次は、衛ちゃん」
今の事は無かったかのように咲耶は、次の妹を呼んだ。扉が威勢良く開く。
「や、あにぃ!」
カルロは一瞬ギョッとした。自分よりも背の高い。衛(バーン)は屈託の無い笑顔を見せた。
「スポーツのやり過ぎで、背が伸びちゃったんだ」
かなり嘘っぽい、が、まぁ良い事にする。12人も居ればたまにはこう言うのも居るだろう。
「じゃ、どんどん行くよ。次は千影ちゃん」
「やぁ、兄君」
何処からとも無く千影(キース)が現われた。既に部屋に居たのだろうか?これまた、何かを従えている。
「それは?」
「俺、ハゲタカの役らしいぜ」
よく分からないが、とりあえず頷くカルロ。
「影千代だ………気を悪くしたかい? 少し………口が悪いが良い奴だ」
影千代(マイト)はそっぽを向いている。口はよく分からないが、外見も良く分からない。が、ふと気がつくと彼らの姿は現われたときと同じく音も無く、掻き消えていた。
「おや? 何処に…」
「千影ちゃんらしいわね。 次は…」
と、言いかけたところで壁がぶち破られた。カルロは飛びのいた。
「ハッハッハッハ! “アニキ”・・・と、呼びにくいですねェ」
「鈴凜ちゃんと鈴凜ちゃんお手製のメカ鈴凜ちゃん」
鈴凜(ウォン)とメカ鈴凛(ゲイツ)はカルロの方をじっと見つめている。たじろぐカルロ。
「唐突で申し訳ありませんが、現在『研究資金』が底をつきまして、是非アニキにご支援願いたいのですが」
カルロは恐る恐る、財布を取り出すと、財布ごとメカ鈴凜が引っ手繰った。鈴凜は成れた手つきで財布を広げ、福沢さんが何人いるか数えていく。
「『明朗会計』ですね。 やはり持つべきものはアニキです。『血は水よりも濃い』と申しますしね! それでは失礼しますよ!」
金だけ奪い去ると、サッサと逃げ出した鈴凜&メカ鈴凜。唖然とするカルロ。
「鈴凛ちゃんは忙しいから。」
そういう問題でもない、と心の中でカルロは呟いたが、邪魔な奴が退いてくれたと思うと全く問題は無い。ここら辺の打算でカルロの上を行くことは難しかった。
「次は春歌ちゃん。大和撫子って感じかな」
「ワタクシ、春歌と申します」
というか何歳だーっ!と歯茎まで出かかったが、唇でカバーした。
「兄上殿をお守りするのが我が使命」
春歌(玄信)は深々とお辞儀をする。その前に自分を大事にしてもらいたい。
「また来世。」
台詞がキャラと違いつつも、ある意味ピッタリな台詞で春歌は去った。
「次はドイツ・・・は春歌ちゃんだ、フランス帰りの亞里亞ちゃん」
「ニィーヤー」
まるでフランス人形の様に飾り付けられた亞里亞(ブラド)は半音高い感じの声で話し掛けた。ただ、横についているごっついオヤジが気にかかる。
「あ? 何、そんな面してんだよ。 俺? 俺様がじいやってわけだ」
じいや(ガデス)はカルロを見下ろしている。亞里亞は先から「ニィーヤー」としか喋らない。さすがのカルロも、少々不機嫌になってきた。可愛ければいいというものでも、無い。
彼らはカルロの、さすがに飽きてきた表情を見て先に鈴凜の空けた穴から抜け出した。
「じゃ、次で最後ね。イギリス帰りの四葉ちゃん!」
「兄チャマ、チェキィィィィッ!」
今度は窓が破壊された。四葉(玄真)のマッチョな身体にカルロはたじろいだ。むしろ国技館帰りではなかろうか。
「四葉は兄チャマの秘密をぜーんぶ、暴いちゃう! チェキィィィっ!」
四葉の野太い声と張り手がカルロ襲う。Check it.と言うよりむしろ、KONISHIKI PUSHである。
「それ! チェキチェキチェキチェキィィィィィい!」
プッシュするするプッシュする。四葉に取っては兄との他愛の無いスキンシップのつもりであるが、その強力(ごうりき)に、カルロは声さえ上げることなく、顔は次々に赤く青くなっていった。
「はっ!? ・・・夢ですか。」
カルロはプレイステーションのコントローラーを握ったままの自分に気がついた。ゲームの途中、寝入ってしまったらしい。
「妙な夢を見てしまった・・・“萌え”を極めるのは難しいですね。」
どうしてまっどさいえんてぃすとがそんなもの極める必要があるのか、それは判らない。 まっどさいえんてぃすとの事はまっどさいえんてぃすと、のみ。
「次は本気で行きます。」
コントローラーを握り締めるカルロ。夢に見ると言う事はある意味かなり極めた印である。その分アチラの世界が開かれつつあるともいえるのだが。今日の夢は悪夢だったけれども、転んでもタダでは起きない彼の脳裏にはアブナイ妄想が駆け巡っていた。
・・・弟も良いかもしれませんね・・・