番外編〜二十世紀最後のクリスマス!
エミリオの鼓動はウェンディーに伝わるのか!?〜
「ガッハッハッハ!! 我ながらどう見ても、完璧にサンタクロースだな!」どう見ても人さらいだよ、とエミリオは思ったが黙っていた。 今日はクリスマスイヴ、偶々日曜日なのがチェックのやりどころであるが、 全国的な例に漏れず、ここら界隈の子供会もついでで催し物が企画された。 ガデスはそれに借り出されたというわけだが、コレだけ兇悪なサンタも珍しい。 コスチュームは正しい。赤い服と白い髭、大きな袋。 しかし左眼の大きな傷と彼の体格がサンタというよりサタンという雰囲気を振りまいていた。 袋から斧やチェーンソーを出しても不思議ではない。
「あれ? せつなは?」
「はっはっは! ここだぁ!」
せつなは赤鼻のトナカイらしい。元がハスキー犬であるが 角とピエロのような鼻をつければ誰がどうみてもトナカイ以外の何者でもなかった。 いや、ただの怪しい生き物かもしれないのだが。
年も押し迫った今日この頃、皆様如何お過ごしだろうか。久々の外伝である。 折角なのでクリスマスネタを振っておこうという魂胆であるが、 本編がいつの間にシリアスになったのか不思議で仕方ない次第である。 ちなみに、キリストよりもサンタクロースがでしゃばっているのは どうやら世界中で共通の現象のようである。 良いんだ、クリスマスなんてケーキ食べる日なんだから(遠い目)。
「・・・外行って来るよ。」
エミリオは盛り上がる二人を置いてキースの家へと出かけていく。 ジェントルマンであるキースはバーンやウェンディーを招いて クリスマスパーティーを催したのだ。もちろん、エミリオもキースに噛み付いて 招待するようにそそのかした。もちろん、バーンはキースにお守りをしてもらって、 自分はウェンディーと引っ付いて居たいから。
「はっはっはっは! どこへいくつもりだ。おまえはいつもおれさまとこうどうをともにしなければならないことをわすれたか!」
せつなが慌ててエミリオを追いかけた。もちろん鼻と角はつけっぱなしで。 エミリオはクルリとせつなの方へと振り返った。
「たまには良いだろ? 」
エミリオは低い声で答える。彼の殺気が尋常ではなかったので せつなは任務を忘れて内の中に飛び込んでしまった。 エミリオ・ミハイロフ16歳。恋する人のために少し勝負に出ようとしていた。
さて、ここで余所のクリスマス風景を覗いてみよう。まずは箱舟高校は開かずの間。 薄暗がりの中、ちゃぶ台を囲むのは我らが栞ちゃんと玄玄ブラザース。
「ねぇ玄信・・・これ、ケーキなの?」
「はて、お菓子と承りましたが・・・最中(もなか)では不満ですかの?」
巨大な最中に蝋燭が突き刺さっている、それを囲む栞と玄玄ブラザース。 不気味というべきか異様と言うべきか。 ちなみに、蝋燭は和蝋燭である。融点が低いのでその道のマニアの人が 好んで使うわけだが、まぁそれはよろしい。 モミの木の代わりに、玄信の松の盆栽にキンキラのモールが吊り下げられている。
栞がクリスマスパーティを所望したのだが 年の瀬の為何かと忙しい影高野、遊びに行くわけにもいかない。 せめて玄真と玄信と・・・と用意をさせたのが不味かった。
「飲み物も用意しておりますぞ。」
玄真が取り出したのはアツアツの緑茶である。 仏道一筋、いや世間から完璧に隔離された彼らにとって、 阿蘭陀渡りの常識など皆無であった
「フッ・・・クッ・・・ククククク・・・」
栞の目が怪しく光る。何か悪いものが降りてきたらしい。 以下、玄玄ブラザースが今世紀最大の危機を如何にして乗り越えたか 凄惨な話が続くのであるが余りも悲惨なのでここでカットする。
さて、これがオルトマン家になると・・・
「・・・・・・・(ケーキ食ってるゲイツ)」
「・・・・・・・(ケーキ食ってるティーナ(妻))」
「・・・・・・・(ケーキ食ってるシェリル(娘))」
君らちょっとは喋れ。
「キースの家ってここかァ・・・」
さて、我らがエミリオ君は徒歩でエヴァンス邸に辿り着いた。 デカデカとした柵(ブロック塀なんて野暮なものではない)から覗き込むと 広々とした庭には芝生が敷き詰められ、その“イギリス貴族”をモロに感じさせる、 まるで怪物君でも住んでいそうな洋館の佇まいは 一般庶民の住宅街からかなり浮いていた。彼の性格もまた然りか。
エミリオは少々躊躇したが、意を決してインターホンのボタンを押した。 品の良い召使の声がして、少しのやり取りのあと彼は中へと招かれた。 バーンもウェンディーも既に着ているらしい。エミリオは少々、悔しい気分になった。 ちなみに、電柱の後ろからじっと家を覗いているソニアの姿も合ったが、 危ない電波を発していて誰も警察に通告し様とすらしなかった。
「全て斬るっ! 全て斬るぅっ!! 全て斬るぅぅぅっ!!!」
場所は変わって箱舟高校体育館、剣道場。 気合を入れて寒稽古中のマイト、そしてもう一人、鈴木正人(仮)・・・ 他の剣道部員は全員ヤボ用なのだが、取り残された野郎二人。 彼らは憤りを剣に託し、ただただ無念無想、剣の奥義を極めようとしていた。 鈴木正人(仮)も秘奥義“正の字斬り”の練習に余念が無い。 まぁなんだ。君らも頑張れ。
「うー・・・おぉぉっ!?」
エミリオはキースの部屋のドアを開くなり彼らしくもない声を上げた。
「やぁ、遅かったな。待ちくたびれたぞ。」
「えっ、エミリオッ! こいつ何とかしてくれぇ!!」
「やっほー、えみりおー!」
キースがバーンを押し倒している。 良く見ると一般ピーポーではとても手が出ない巨大なモミの木に吊り下げられている飾り物は柊ばかり。 すっかり仕組んでいたらしい。ウェンディーはソファーに座ってその光景を眺めていた。 彼女にはキースがまさか“本気”とは思ってないらしいのだろうか?いや、やけにハイだし、顔が赤い。
「あ、シャンパン開けたな・・・」
空になった壜が床に転がっている。キースとバーンも少し飲んでいるようだが、 ウェンディーにはちょっと強すぎたらしい。悲鳴をあげるバーンを無視して エミリオはウェンディーの隣に座る。すこしとろんとした瞳が いつにない子供っぽさを彼女に与えていた。エミリオ少しドキドキである。
「うんー、熱いなぁ・・・脱いじゃおうか。」
ウェンディーは自分の上着をするりと脱ぎ捨てた。彼女の滅多に見せない肩と二の腕があらわになる。 女の子としては普通の行為かもしれないが、男の側からするとそうではない。 エミリオ、当初の予定を忘れて鼻血寸前である。
「うおっ、エミリオ!?」
「えっ・・・うぁぁぁぁぁ!!」
メキ。バーンが暴れた拍子に蹴り倒したクリスマスツリーが、 エミリオの頭に思いっきりブツ当たった。油断していただけあって、 その一撃でエミリオは轟沈した。
「えみりおっ! えみりおっ!! しなないでぇ!!」
ウェンディーがエミリオにしがみついた。 キースが慌てて彼女を放そうとする。こういうときは下手に揺らすと危ない。 しかし、ウェンディーはエミリオに取り付いて離れない。 目を醒ましていたら、一発で鼻血ものだっただろう。
さて、我らがベルフロンド兄妹もクリスマスである。 カルロの部屋では足元に気をつけないと怪しげなところに吸い込まれそうなので レジーナの部屋で二人だけのパーティである。
「レジーナ、似合ってるじゃないか。」
カルロでなくても思わず笑みがもれるだろう。 今日のレジーナはクリスマスバージョン。 いつもの服がベースであるが衿には白のふわふわつき。 可愛らしく赤い帽子も頭に乗っけている。 微妙にミスドの今年の制服に似ているが、それは言ってはならない。
カルロはそんなレジーナの肩を抱いた。
「兄さん・・・」
「レジーナ・・・」
この後、18歳未満の良い子にはとても見せられない その模様の一切はパティが仕掛けたビデオカメラによって盗撮され、 裏で出回ったのは秘密である。
さて、気を失ったエミリオ君がふと気が付くと、 そこは奇妙に歪んだ空間であった。驚いて立ち上がる。 自分だけではない? 向こうにもう一人、自分と同じぐらいの背丈で、 自分と同じように羽を生やした誰かが居た。 エミリオは、自分の知っているような気がして、少し背筋が凍る。
「誰だ?」
「フフフ、僕は僕さ。」
近づいてくる彼の顔が明らかになる。 自分、カラーリングは今の時期にピッタリであるが、 その顔は紛れも無くエミリオ自身である。 赤エミは少しもったいぶって、再び何かを話そうとした。
「何調子こいてんだよ。」
ボキ、いきなりエミリオの正拳が彼の頬にヒットした。
「なっ!」
「『キン肉マン』って漫画知ってるかぁ?」
驚く赤エミにサイキッカーというより新手のスタンド使いのような面持ちで すごむエミリオ=ミハイロフ16歳。かなり怖い。 どうやら、むちゃくちゃ気が立っているようだ。 赤エミは少し計算が狂ったように、焦り始めていた。
「僕はテレビは再放送でしか見てないんだけど、ほら、僕って一応ロシア人だからさぁ、 ソビエト出身の超人って親近感沸くンだよね。」
訳の分からないことを言いながら、赤エミの後ろを取る。 逃げようとする赤エミの頭を片手で掴む。異常なパワーだ。 赤エミは思わず立ち上がった。それが彼の命取りに成った。
「好きなんだよぉ、ウォーズマンが!」
「イタタタタタタタタタタタタタッ!!!」
ある程度以上の年齢層ならば一度は真似をしたパロ・スペシャルが赤エミに決まる! ご存知無い方に説明するが、背中から相手の両足に自分の両足を絡め、 相手の両手を自分の両手で逆手にねじり上げるという荒業である。 両手と背中、腰にダメージのいく技なのだが、 作者の稚拙な描写力では恐らくイメージが湧かないと思われる。 どうしても知りたい方は少々年上の人に聞いてみることをお薦めしよう。 ただ、良い子は真似をしてはいけないことを言い添えておく。
赤エミが暫く悶え苦しんだ後、エミリオはゆっくりと技を外した。 地に崩れ落ちたすこし怯えながら赤エミは彼を見上げた。
「おやぁ? コレで済んだと思ってるのか?」
冷血な表情で、今度は赤エミを抱え上げようとしていた。 彼の悪い予感ゲージは一気にMAXへと達する。後は、体力ゲージを残すのみ。
「やっぱり、必殺技ってたらこれっきゃ無いよなぁ!!」
「なんてこったぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!」
説明の余地の要らないキン肉バスターが炸裂した! 相手の腰股首にダメージが行く技であるがなぜだか吐血を促す。 凄くむかついていたエミリオの気持ちが、幾分すっきりした。
「・・・あれ?」
「大丈夫かい。エミリオ?」
ふと気が付くと、キースのソファーに寝かされていた。 すでにバーンとウェンディーの姿は無い。 キースの説明によると、ウェンディーが余りに取り乱すので バーンがつれて帰ったらしい。エミリオは落胆の気持ちで一杯になった。 キースはそんなエミリオの肩を叩いてやる。
「仕方ない。寂しい者同士だ。僕と君とで甘いヒトトキを・・・」
「やめんかぁっ!!」
「ヒッ!? キース様?」
外でストーカーしていたソニアに、キースの想いが伝わった。 しかしそれはすぐに、ソニアの妄想で着色され、その意味を失った。
「・・・こんなもんかな。」
迫るキースをボコって、帰路につくエミリオ。 ポケットの中には、ウェンディーへプレゼントしたかったブローチが残っていた。 それを未練げに弄くっていたが、そのうち、渡すのは今日でなくても良いやと思うことが出来た。 気が少しだけ、楽になった。
全く蛇足な話ではあるが、ガデスは乱入してきたブラド(悪)と 袋から取り出した斧とかチェーンソーで奮闘し、チビッコたちから正義のオヤジとして 一目置かれるように成ったことを付け加えておこう。 ちなみにそのとき、せつなはオネムの時間だったことは言うまでもない。