104. 『アメリカ国旗への忠誠の誓い』違憲問題その後


杉田 荘治


はじめに
   最近(2003. 9月)、連邦最高裁は、この『忠誠の誓い』事件を取り上げることに決定した。
   それはこの事件の当事者であるElk Grove連合教育委員会が、違憲とした先の第9巡回裁(控訴裁)
   の判断を不服として上告していたからである。 わが国の場合と異なり、取り上げるか否かは最高裁
   の判断による。
   この問題については『77 アメリカ国旗の忠誠の誓い』違憲問題として、かなり詳しく述べたが、前述
   のような動きもあったので、ここで復習もし同連合教委の公式主張などの資料なども加味して要約す
   ることにする。

T 『忠誠の誓い』の歴史的経過

  1. 現在の文言
   前述の『77 違憲問題』で記したが再掲しておこう。
    私はアメリカ合衆国の国旗に忠誠を誓う。 そして神のもとで、分けることができず、正義と
    自由をもたらす一つの国、共和国への忠誠を誓う。
      なお原文はU.S. Code. Title 4, Chapter 1, Sec. 4  THE PLEDGE OF ALLEGIANCE
      I pledge allegiance to the Flag of Uninted States of America, and to the Republic for
      which it stands, one Nation under God, indivisible, with liberty and justice for all.

  2. しかし最初は"under God" はなかった。 1942年、第二次世界大戦の時、"my flag"が入り、
   その後"1954年6月14日、連邦議会が、この"under God"を追加したのである。 当時は、
   いわゆる『冷戦』期にあったが“神の下で”を追加することによって無神論の共産主義の
   国とは異なることを宣言しようとしたのである。

  3. 今どこでも同じような朝の風景である。 例えばCalifornia州では州法で定められ、
   「公立の学校では毎朝、教員指導による“忠誠の誓い”を斉唱して、その日の授業を始めなけ
   ればならない」とされている。 しかし昨年の第9巡回裁の判決以後はその管内にある九つの
   州では(生徒数960万人)、少し省略した誓いもあるようだが、他の州(生徒数3,700万人)では
   連邦議会の定めたとおりの誓いが斉唱されている。

U 連邦最高裁の一人の判事は忌避(除外)されるであろう

   連邦最高裁の判事は9名であるから、8名の判事で審議されることになる。というのはScalia
   という判事は最も保守的な一人であるが今年の1月12日、“宗教的自由の日”で演説して違憲と
   した先の第9控訴裁の判決を批判して、われわれの伝統とは違うと公言したからである。

   8名の裁判官のうち、4名は保守派で“神の下で”の入った『忠誠の誓い』を合憲とすると予想され、
   他の4名は進歩派で違憲と判断すると予想される。 従って4 : 4の評決になるが同数の時は
   下級審の判断のように決定されることが決まりであるので違憲ということになる。 もしその
   ようになればScalia判事のコメントは高価なものになるとWashingto Post(10/15/2003)が論評し
   ている。

V 事件の経過
  1. 訴えの発端
   前述『77. 忠誠の誓い』を参照してほしいが、関係部分を再掲しておこう。
    カリフォルニア州サクラメントに住む救急医療専門の博士で無神論者であるMichael Newdowさん
    
の娘が通う公立小学校で毎朝、教員指導のもとでアメリカ国旗に向かって、
神のもとでの文言が
    含まれている忠誠の誓いを朗読させられることは、政教分離を定めた憲法に違反する」
として提訴し
    たのである。

 
  2. 連邦第9巡回裁(控訴)の判決
   これについても前述『77 忠誠の誓い』を参照してほしいが、関係部分を再掲すると、
    昨年(2002) 6月26日、三名の裁判官よりなる第9巡回裁判所(控訴裁)は、2: 1 の多数決で、『忠誠の
    誓い』に
神のもとで一つの国という文言が入っているのは、政教分離の原則に反して違憲であるとした。 

  3. これに対して、その小学生が通うElk Grove連合教委やBush政府が上告した。 そして今回、
   連邦最高裁が取り上げると決定したのて゜ある。 2004年の始め頃、口頭弁論が開かれ、6月までに
   は最終的な判決が出されるものと予想されている。 
   事件名:Elk Grove Unified School Districts v. Newdow, No. 02-1624

W 訴えを起こした父親(Newdowさん)にその資格があるのか
   この点も問題になっている。 実はその生徒の母親が主たる保護者:primary parentであって、Newdow
   さんは保護者たる資格のない親:noncustodial parentと考えられている。 しかもややこしいことには、
   母親(Sandra Banning)は「私は娘のただ一人の保護者で、“忠誠の誓い”については支持している」と
   いっていることである。 従って連邦最高裁は、この点についても判断する必要がある。
   もし仮に父親であるNewdowさんには訴えの資格がなかったとされれば、また別の人の別の事件で訴え
   を提起することが必要となり、問題が先送りされることになるかもしれない。(Los Angeles Times 10/15/
   2003)号

X その他
  1. 連邦議会下院は圧倒的多数で違憲とした第9巡回裁判決を非難している。
   2003年3月下旬  440 : 7 その他15
  2. "under God" のかわりに"under Creator"としたらよいのではないかとの意見も出ている。
  3. 前述のように政府も上告人である。 従ってTheodore Otson司法長官は「Godという表現は過去の連邦
   最高裁の判決でも、少し表現は違い"In God We Trust"という文言で12件も認められている」と主張してい
   る。
  4. Elk Grove連合教委も公式的に主張を発表したが、内容的には今までここで述べてきたことと、ほぼ同じ
   である。

 2003. 10. 23記      無断転載禁止