114. 話題 : アメリカにおける外国人教員の採用


杉田荘治


はじめに
   2002年現在でアメリカの公立学校には1万人の外国人教員がいるといわれる。 そのうちHouston
   市教委が2,400名で最多であるが、その採用会社: USA Employmetのことを含めてDallas Morning News
   (11/28/2003)号が伝えているので、ここでは、その会社の広報なども含めてまとめておこう。

T 採用の理由
   数学、理科、2カ国語などについて指導力十分な教員が不足している。 またそれらの教科の教員
   の給料が低い、勤務条件もよくない、またベビーブーム世代の教員が一時に退職したことなどが挙げられ
   る。NEA(全米教育協会)外国人採用研究によれば、テキサス州とそのHouston教委がリーダーシップを
   とっているがテキサス州では3,000名、Houston市では前述のように2,400名いる。
   またスペイン、メキシコ、ラテン・アメリカなどからの移民の増加に2カ国教育について十分な指導のでき
   る教員の不足に急遽、対応しなければならなくなっている。 なおインドが数学、理科などの「指導力十
   分な教員」の供給源である。大英帝国の1国であったし、多くのインド人教員は英語を話すことが決定
   的な要因でもある。

U 一例  Agarwalさんの場合

   彼は故国であるインドの私立学校で数学を教えていたが、教員採用会社: Company USA Eemployment
   という会社の企画に乗りアメリカへやってきて今、Houston市にあるSimiley高校で化学と数学を教えている。
   36才の彼は「今、大変おもしろい」と語っているが月給もインドでは300ドルであったが、ここでは2,800ドル
   である。
   彼の生徒も幸せである。「彼は良い先生です」と17才のT.J君もいっているし教委の担当官も「彼のような
   教員はわれわれが向上させようとしている学校にピッタリです」と悦んでいる。 しもかAgarwalさんは先日
   実施されたテキサス州の教員認定試験で100点満点をとり表彰された。 6年間の滞在ビザであるが、「将
   来、故国へ帰ることになっても、ここで学んだことを活かして校長や教員のガイド役になるチャンスはきっと
   やってくると思う」といっている。

V アメリカ教員採用会社: Company USA Employmentとは

   前述のAgarwalさんの例のように、この会社が海外からの教員を見出して教員不足を助けている。すなわち、
   教委のスタッフがインドを行って教員候補者の面接を行なうさいには、この会社がその費用を負担する。 そ
   こへ行けない場合にはインドのデリーにも事務所があるので、ビデオを使ったり、電話などで面談したりする。
 
   候補者が教員になると渡航費は自分もちだが、非移民ビザで滞在し、見出してくれた費用として毎月
   500ドルの報酬を会社に支払う仕組みである。 なお、これについては会社の広報によって次ぎの項で補
   足する。

W アメリカ教員採用会社についての補足
   この会社の広報から。 http://www.usaemployment.org/4_0_company.htm
  ○ アメリカの本部はテキサス州Houstonにある。インドの事務所はデリーに。
  ○ アメリカの普通の公立学校へ「指導力十分な教員」を充当することをめざしている。
  ○ 6年生 − 8年生の教員については、英語、数学、理科、社会、特殊教育などの教員
     9年生 − 12年生については、英語、数学(代数、幾何、微積分、三角法など)、理科(化学、物理、
                        生物など)、社会科(歴史、政治、経済)、コンピューター、ビジネス、
                        特殊教育
  ○ 10名以上の教員を採用したいとする教委については、その校長、担当者などをインドへ案内する。
    その採用費用は全額、会社が負担する。渡航費、ホテル代、若干の観光など。 またデリーの事務
    所は五つ星のホテルを面接会場として設定し新しいパートナーを見出すように努力する。

X 批判
  ○ アメリカ人の教員への道を狭めることになる。
  ○ Philadalphia州教員組合の委員長も「彼らは問題を持ちこんでくる。一旦そのような教員を採用し始めると
    しめしがつかなくなる。世界的な採用については結構だが、彼らが組合に入り他と同じような勤務条件に
    なるならば」と語っている。 これに対して教委側は「指導力が十分ある教員の不足を解消するための唯一
    の現実策である。関係の教科でこの秋には800名の空席があるし、そのようなことは既に組合との交渉で
    も説明したことである」と反論している。
  ○ インドでは教員は尊敬されるが、ここではモラルは低い。しかし彼らは一様に努力している。
  ○ 生徒とのコミュニケーションにも始めは少し欠ける。というのはインドの英語とてテキサスのスラング英語
    とは相当違いがあるからであるが、しかしこれとてもお互いに努力してその解消を図っている。

Y 外国人教員の採用状況

   2001年度分であるが最近Philadelphia Inquire(3/26/2003)号が載せているので、これを概観しておこう。
  1. Philadelphia州では三つの教委が「指導力十分な教員」の不足を補うために外国人教員を発掘しはじめた。
   人材豊富なインドへチームを2週間、派遣したし、スペインで高校のスペイン語教員も探している。20名の
   スペイン語教員が不足しているし、数学でも20名、理科でも20名について外国で探している。

   また州のChester Upland教委の低学力校に5名のインド人教員が12月の着任したが評判は良い。 44才の
   K. Rajamaniさんは「生徒の振る舞いをもっと良くしたい」と意欲的だし、40才のインドで二つの修士号を取った
   U.R. Seshachalanさんもリーディングと理科を教えているが、注意散漫な生徒たちも彼女の質問に答えてく
   れている。13才の一人の生徒も「私は先生が好きです。 彼女は教材を噛み砕いて説明してくれるので、よ
   くわかる」といっている。 コンピューター指導のS.Sharmaさんについても同じである。
   なお採用に際して「インドでは体罰は認められるが、Philadelphiaでは禁止されているから、その違い
   に注意するように」との忠告も与えている。

  2. テキサス州のHouston市教委も12月のモスコーを訪問して12件について良い約束を取りつけたし、フィリピ
   ンやスペインからも100名の教員の約束を得ている。
  3. Los Angeles市教委は今、フィリピン、カナダ、スペインを開拓している。
  4. New York市教委はオーストリヤで優秀な数学と理科の教員を採用した。 というのはそこでは定員過剰に
   なっていたからである。 彼らはいずれも英語を流暢に話す優れた人材である。さらにカリブ海方面やカナダで
   も探しているしイタリアでもそうである。 インドやハンガリーでは既に少し採用した。

   このように全米的に各教委は数学、理科、特殊教育、外国語の教員不足に積極的に取り組んでいる。

コメント
   ご覧のとおりであるが、本文記載以外でも小さい『教員紹介会社』があるようであるが、このような方法
   で公立学校教員の採用についても民間会社と連携しているのは面白い。

 2003. 12. 8記           無断転載禁止