128. イギリスでは校長に麻薬検査の権限を
   与えようとしている


杉田荘治
Shoji Sugita


はじめに
   イギリスのBlair首相が「校長は、いつでも麻薬検査を実施することができるようにする」旨のガイ
   ドラインを創ることを提唱した。 これについて最近(2004. 2月末)、BBCニュースその他のいくつかニュー
   スが報じているので、まずそれらを要約して述べることにしよう。 その後、そのガイドラインの問題の個所
   やイギリス教職員協会について参考事項として述べたい。 というのはこの教職員協会は教員組合ではあ
   るが、綱領にストライキをしないことを謳って、職能団体としての性格を濃く持っているので、わが国にとって
   も参考になると考えるからである。

T BBCニュース(2/22/2004)号などから
    Blair首相は学校における麻薬検査を提唱する。
   「親たちは学校で麻薬が使われているような懸念がある時は、校長が随時、その検査をすることが
   できるようにする」ことを望んでいるので、そのような権限を校長に与える必要があると考えていると、首
   相はこの日曜日の世界ニュースのインタビューで答えた。
   そして来月、そのガイドラインを示すが、校長は麻薬にからむ生徒を処分したり、排除したり、また警
   察へ引き渡すなり随意に手段を選択することができる、とするものである。

   教育・技術省(次官級)は今年の初めにガイドラインを検討していたが、それが今月、出版された。その
   ねらいは、子供たちが麻薬を使うようにそそのかされた場合、「イヤだ」といえるような環境にしようとす
   るものである。 【註 このガイドラインについては後述するが、そこでは校長の権限は明示されて
   いない。 そこで今回、首相の提唱となったのであろう】

   首相は「校長たちに、この検査を強制するつもりはない。しかし彼らは自分達の学校で、このような懸
   念がある場合は選択として採るべきであろう」、「ある校長は、このような方法を推し進めると、自分の
   学校に麻薬の問題があると宣言するようなものだといっているが、しかし私の見解では既に地域社会
   は、その学校に問題があることを知っているはずだ」と語っている。
   さらに首相は実施したときは、そのことを総ての親に知らせること、また校内の警察によるパト
   ロールを強化すること、さらに“麻薬を嗅ぐ犬”を使うことも有効であろう、とも語たり、世論調査に
   よれば14才から18才までの若者で、10人に4人が違法な麻薬に関わり合いがあることも述べた。
   なおこの件とは別のことであるが彼は三選についても意欲を示した。

U 賛成論と反対論など
  賛成論
   ○ 全英麻薬防止同盟は賛成。 「この検査は生徒たちが誘惑されそうになったとき、ノーと拒否
     する口実になる」といっている。しかし「最後の手段」として使うことを求めている。
   ○ ICM調査によれば、82%の親たちと66%の生徒はこの検査を支持している。 また別の調査に
     よっても1,000名の96%の親は自分の子供が麻薬を吸っているかどうかを知りたがっているの
     で、それに役立つであろう。また学校に多い麻薬であるcannabisは、最近その危険度がCクラスに
     されてその対策が強化された。
   ○ 全英校長協会は賛成。 但し校長の支持が必要であるとしている。
   ○ このプランはアメリカの成功例に学ぶ点が多い。なぜならばアメリカでは、この方法によって学
     校における麻薬事件を大きく減少させた。(この項、New scotman紙 2/22/2004号)

  反対論
   ○ 市民権運動グルーフは、この提言は理解できない。 問題の学校は自ずからわかっていることなので
     敢えて随時・随意の検査をする必要はない。
   ○ 全英教員組合 反対。 校長権限拡大への第一歩となる。
     【註】この教員組合: NASUWT: National Association of Schoolmasters Union, of Women Teachers
        組合員 212,000名(223,500名ともいわれる)  2004年3月に賃金問題などで一日ストライキを
        計画している。【資料: 同組合ホームページから】

  その他
   ○ 中等学校長協会  麻薬防止教育のための予算がカットされるこの時期に、このような負担を校長
     に負わすのはフェアではない。
   ○ 全英教職員協会: PAT: Professional Association of Teachers
     Jean Gemmellさんは代弁しているが、「始めて聞いたとき、正直いって、ぞっとした。 教員が介入す
     ることによって訴訟が増えるであろう」、「提言の動機は良い。 しかし、さて実行するとなると、その意図
     から離れて複雑な問題を引き起こすことになろう。 また学校に新たな社会的責任を追加することに
     なる」。 「教育省が麻薬防止対策のための助成金を大幅にカットしているのに、このようなプランを提
     唱するとは皮肉なことである」などとしている。

V 麻薬対策ガイドライン
          資料: 教育・技術省2004年2月 出版 : Drug:Guidance for Schools
  ○ 小学校、中等学校での「麻薬は危険です」という教育を徹底すること、また諸機関とよく連携することなど
    を詳しく記している。
  ○ 一時的に教職員が麻薬を生徒から取り上げることを認めているが、その身体検査は認めていない。
    疑いのある場合は、警察がタッチすべき事項としている。(第4節 7)
   
   そこで今回、Blair首相は、この個所を改正して、校長にのみその身体検査の権限を与えようとして
   いるのである。 なお関係個所の原文は下記のとおりである。
    The law permitts school staff to take temporary possession of a substance suspected of being
    an illegal drug for the purposes of preventing an offence from being committed or continual in
    relation to that drug.....
    It is not appropriate for a member of staff to carry out a personal search. (Section 4,10. 1)

 参考T イギリス教職員協会 PAT: Professional Association of Teachers
     はじめに述べたように、この教職員協会は教員組合ではあるが、綱領でストライキはしないこと
    を宣言している。職能成長を図りつつ活動を行なっていこうとする職能団体としての性格を強く
    もっているので、わが国の教職員による職能団体にとって参考になろう。そのホームページに
    よって関係個所を下記する。

    ○ 会員  公立、私立の幼稚園、小学校、中等学校の教職員、校長、校長代理、講師、大学など高等
           教育職員、保母、学校関係の看護婦なども含まれている。  会員数、約35,000名
    ○ 倫理綱領
           わが教職員協会は産業界の組合のような行動をとらない。 雇用主との間で生じた問題
           については、衝突ではなく話し合いによって解決する手段による。 賃金交渉その他の事
           項についてもストライキはやらない。 このことは決して、われわれを無力にするものでは
           ない。 ストライキに代わる手段として下記のような方法による(Alternative to strike action)。
            ・集団請願   ・メディアを活用する。  ・広く討論の場を設ける。 
            ・下院や上院議員に対してロビー活動をする。  ・勤務時間外に示威行動をする。
            ・政府や自治体の支持を得られるような方法をさぐる。 ・親の支持を呼びかける。
            ・地方教委や雇用主を説得して関係法規を適用することに賛成させる。
            ・地方教委などが行なっていることや効果を調査する。
            ・子供の教育、保育を巡って混乱していることに対して、与えられた権利を利用すること。

     このようにストライキは行なわず、その他の方法によって問題解決に当たることは参考になろう。
     その綱領の関係個所の原文を下記しておこう。
     The PAT Professional Code
     The Association believes that the quality of education and childcare is determined by the ideals, aspirations,
      training and conduct of the teaching and childcare professions.

     A Code of Professional Action  the Association do not take industrial action
     Alternatives to strike action:
       ・collect petitions   ・exploit local and national media   ・create public platforms   
       ・lobby MPs and Councillors  ・demonstrate outside working hours   ・invoke parental pressure and support   
       ・seek support from governing bodies
       ・persuade LEAs, and other employers, to declare their position on issues  
       ・use employment law to register official disputes   ・monitor the efficiency and performance of LEAs and
          other employers
 ・use your contractual rights to protest against LEAs or other employers which sanction
          disruption of the children's education or care.

 参考U 麻薬を嗅ぐ犬 : Drug sniffer dogs
     このことについて最近のBBC News(2/22/2004)号から述べておこう。 すなわち、
    南ヨークシァイアー州の6ヶ警察署は乗客輸送部長や学校と連携して、随時“麻薬を嗅ぐ犬”を使って
    通学バスを検査している。 これは規則によって実施され、またいつも教員が一緒に行動し警察の
    検査を見守っている。 親もこの検査に賛成しているし、警視正のM.Chiddeyさんも「われわれの行動
    は生徒を驚かすためではなく、学校では麻薬は許さないということを再保証することが目的である」と
    説明している。

    犬が麻薬があるかもしれないとの反応を示すと、その生徒の身体検査をし制御ドラッグが見つかれば
    逮捕する。17才以下の者についても法改正されたので慎重に取り扱いながらも逮捕し「青少年非行
    防止チーム」へ引き渡すことになる。

    なおBBC News(1/17/2002)号でも単科大學生4名が“嗅ぐ犬”によって逮捕されたケースが載って
    いる。大学当局は大學に広まったケースではなく、偶々それらの学生の個々の問題であったと弁明
    しているが、この方法は今後、増えていくものと思われる。

コメント
   ご覧のとおり、イギリス首相が提唱して、校長が随時、麻薬検査を実施することができるように
   しようとするもので、また地方によっては“麻薬を嗅ぐ犬”も導入されよう。なおストライキはしな
   いことを綱領で宣言し、その他の方法で問題解決に当たる教職員組合PATは、わが国の教員
   組合や教職員職能団体にとっても参考になろう。

   なお最近のイギリスにおける教育の動きについては次ぎも参考にしてください。
    126. イギリスは中等学校のデザインを一大刷新しようとしている

 2004. 3. 6記           無断転載禁止