130. ワシントン州が新たにチャーター・スクール
   を創る41番目の州
しかし不成立


杉田荘治 Shoji Sugita


はじめに
   2004年1月現在、アメリカでは40州で2996校のチャーター・スクールがある。これに最近、
   Washington州が41番目の州として加わることになる。
   このことについてSeattle Times紙が報じているので、先ずその概要を述べ、その後、同知事の法案
   説明を、また最近のチャーター・スクール関係の統計などを加えて逐次、述べていくことにしよう。
   【註】標題ではWashington州は41番目としたが、Washington DC を加えると42番目になる。後述の
      各州一覧を参照してください。

T Seattle Times紙(3/11/2004)号から
     州議員はチャーター・スクールへの道をつくった
   州議会は昨日採決をしてWashington州がアメリカで41番目にチャーター・スクールを創る州になること
   を承認した。 今まで2回も失敗していたのであるが遂に支持者たちは報いられることになった。
   民主党が多数を占める下院、共和党が支配する上院のそれぞれにおいて、僅かの差で可決したが、
   会期は僅か一日しか残っていなかった。 (下院 51 : 46   上院 27 : 22)

   この後、法案はGary Locke知事のところへ送られるが、知事は熱心なチャーター・スクールの
   支持者であるから署名することは確実である。 今後6年で最大45のチャーター・スクールを創ろ
   うとするのであるが、それは主として成績不振の生徒のためのものであり、また新教育改革法によ
   るテストの得点が極めて低い学校をチャーター・スクールに転換することも可能にするものである。

   幼稚園児をもつ親の一人は「教育者がもっと自由に教育し、また親の選択が広まることは良いことで、
   子供が15才になる頃、スクールへ入れることを期待している」といっているし、また1995年以来、熱心
   に支持してきたD. Quallさんも「一月前は考えられなかったことです」、「こんな論議の多い法案で、し
   かも四つものものが一括して可決されなければならない議題であったので、一層悦ばしい」と語って
   いる。  
   なおその四つの法案とは次ぎのような内容のものである。 すなわち、
   ○ 今後6年間に45のチャーター・スクールを創る。 最初の3年は毎年3校、その後は10校つづ。
   ○ 主として成績不振な生徒、教育的に恵まれない生徒を対象にする。
   ○ 新教育改革法で3年間、成績不振が続いた公立学校をチァーター・スクールに転換できる
     ようにする。 またその他の補助を与える。
   ○ 地方教委はチァーター・スクールを援助するものとする。もしそうしなければ、チァーター・ス
     クールは公立教育担当教育長に訴えることができる。そのさい教育長は規則によって基準に
     合致するよよに援助しなければならない。
   ○ チァーター・スクールは授業料を徴収してはならない。また年齢、学年別以外は、すべての生
     徒を受け入れなければならない。もしその余裕がないときは、例えば抽選などの公平な選抜
     方式によって受け入れるものとする。
   ○ チァーター・スクールは新教育改革法の定める「結果責任」を負うものとする。

   ところでチァーター・スクールとは
   ○ チァーター・スクールとは公的資金を得て、しかも私的に学校を運営することができるが、
     1992年にMinnesota州で初めて創られたが今や、全米で約3,000校ある。 そのうち
     California州が最高で500校、Arizona州が僅差で続いている。 【註】その州別一覧表は
     後記する。
   ○ チァーター・スクールは州によっていろいろなタイプがあり、成功したかどうかについての
     結論を出すには少し早過ぎるが、ここWashington州では非営利団体によって運営され、
     教員の採用、教員組合との協約、カリキュラム、授業時間などは他の公立学校と較べて、
     かなり自由である。
   ○ しかし州学力標準テスト: WASLは受けなければならない。 また地方教委はこれを援助する
     必要がある。 これを拒めば、州教育長がこのことを指示する。

   賛成論と反対論
    賛成論としては前述のように学校選択の幅を広げ、高い学力をめざして刺激の多い学校を創る。
    また万能薬ではないが特に成績不振の生徒を助けるための良い手段になる。
    反対論としては、ここWashington州で最大の教員組合(組合員数76,000)はそうである。そのCharles
    Hasse委員長は次ぎのように批判している。
    ○ 私立学校を変装させたようなもので、公立学校を弱体化する。
    ○ 学校教育は地方自身によって選ばれた関係者のもとにあって責任をもって実施されるべきもの
      であり、私的なものにその権限を与えてはならない。 チァーター・スクールは公立学校を私的な
      ものにし暴利を貪る人たちを利する第一歩となる。
    ○ 今後、われわれは公立学校を発展させるためにクラス定員の減少や有能な教員の確保のため
      に戦い続けていく。 【註: 全米的な教員組合の見解については後記する】

U 州知事の賛成理由
   Washington州チァーター・スクール組織の2004年3月10日号に載ったGary Locke知事の賛成
   意見を下記しておこう。 もっとも内容的には前述Tとほぼ同じであるが、知事の説明ということ
   に意味があろう。 すなわち、
   Gary Locke知事は2004年3月10日、彼が提案した教育関連法案が議会を通過したことを賞賛して
   います。 この法案は今の議会の最優先議題でしたが、それは次ぎの四つの法案からなります。
  1. 法案2195号
    州学力標準テスト(WASL: Washington Assessment of Student Learning)を改正します。 教科の数
    を減らしリーディング、書き取り、数学について2008年までに実施します。 その後2010年までに
    理科を追加します。 また再試験や再評価についても認めることにします。

  2. 法案5877号  
    学力的に不振の生徒を助けるプランです。 そのために地方教委の学習援助プランを確実に実施
    するよう求めます。

  3. 法案6211号
   住民が学校のために集めた銭は、州や連邦の予算が削減された場合にそれを使えるようにする法
   案です。これは学校を向上させていくために役立ちましょう。

  4. 法案2295号
   これは公立学校をチァーター・スクールに転換できるようにするものです。また新しい学校へ変える
   こともできます。これによって学力的に苦しんでいる生徒が州の学力水準に達することが可能になり
   ます。
  このように知事はこの法案を受け取りましたが20日以内に行動をとります(署名の意味であろう)。
   
 参考1 州別チャーター・スクールの数と生徒数
            資料 教育改革センター 2003年度

     州         スクール数        生徒数     
  Alaska         20      2,682
  Arizona         491     73,542
  Arkkansas         11      1,486
  California        500     153,935
  Colorado         93     25,512
  Connecticut         16      2,526
  Delaware         13      5,262
  Florida        258     53,350
  Georgia         36     15,117
  Hawaii         26      3,301
  Idaho         13      2,694
  Illinois         30     10,309
  Indiana         17      1,275
  Iowa          0         0
  Kansas         31      2,568
  Luisiana         16      4,631
  Maryland          0        0
  Massachusetts         50     14,013
  Michigan        210     60,236
  Minnesota         95     12,269
  Mississippi          1       334
  Missouri         27     12,130
  Nevada         14      2,851
  New Hampshire          0        0
  New Jersey         52     18,081
  New Mexico         37      4,234
  New York         51     10,954
  North Carolina         94     21,030
  Ohio        142     28,446
  Oklahoma         12      2,197
  Oregon         43      2,107
  Pennsylvania        103     33,656
  Rode Island          8       914
  South Carolina         19      1,235
  Tennessee          4         0
  Texas        241     60,562
  Utah         19      1,259
  Virginia         9      1,440
  Washington         0         0  
  Washington, DC         43     11,530
  Wisconsin         147     26,797
  Wyoming          1       110

 参考2 チャーター・スクールのランク表
     チャーター・スクール教育改革センターは独自の方法で、自治の程度や住民参加、予算の自由度、
     地方教委との連携ぶり、申し込み生徒の多様性、規則の自由度などを総合して、州ごとのランクを
     つけている。 それによれば、 2004年1月現在
   ○ 全米で 2996校
   ○ AとBにランクされる州
      Arizona; California; Colorado; Delaware; Florida; Indiana; Massachusetts; Michigan;
       Minnesota; Missouri; New Jersey; New Mexico; New York; North Carolina; Ohio;
       Oregon; Pennsylvania; Texas; Washington, DC; Wisconsin
   ○ CからFにランクされる州
      Alaska; Arkansas; Connecticut; Georgia; Hawaii; Idaho; Illinois; Iowa; Kansas; Louisiana;
       Maryland; Mississippi; Nevada; New Hampshire; Oklahoma; Rhode Island; South Carolina;
       Tennessee; Utah; Virginia; Wyoming
   ○ 最近つくられたのでランクがつけられない州
      Washington
   ○ まだチャーター・スクール法が制定されていない州
      Alabama; Kentucky; Maine; Montana; Nebraska; North Dakota; South Dakota; Vermont;
      West Virginia

 参考3 教員組合のチャーター・スクールについての見解
     これについては次ぎの論述を参照してください。
     50. アメリカ教員連盟(AFT) と全米教育協会(NEA)のチャーター・スクールに関する見解
      とりわけAFTは次ぎのような見解を示している。 すなわち、
     ○ チャーター・スクールの生徒は州や地区の他の生徒と同じテストを受けること。
     ○ チャーター・スクールには免許をもった教員を採用すること。
     ○ チャーター・スクールの職員には地教委と団体交渉する権利が与えられること。
     ○ チャーター・スクールは地教委の認可が必要である。
     ○ チャーター・スクールは公開を原則とすべきこと。

     またNEAもWashington州教育協会(WEA)は本文で述べたように、反対しているが全米的に
     みれば一概に反対しているわけではない。むしろ予算、生徒の受け入れ、学力標準テスト、
     生徒の安全や健康面などについて多の公立学校と同じように扱われることを条件として、
     チァーター・スクールを支持している。
     NEA のCharter Schoolsについての見解
    The National Education Association supports public charter schools that have the
   same standards of accountability and access as other public schools. The Association
   believes that any publicly funded school must be accountable to the general public

    as well as parents for budgets, health and safety standards, academic standards and
   access for students.

コメント
   アメリカのチァーター・スクールの現状を統計を含めて理解することができよう。 またWashington
   州は後発組の41番目であり、それだけに慎重に学習援助プランや住民の集めた銭の使途につい
   ての法案も同時に成立させたことも注目してよかろう。わが国にとっては参考になるものが多い州
   法である。

 2004. 3. 23記          無断転載禁止

追加 しかし、2011年3月登載の第246編をみてください。 ワシントン州は結局、州法を成立させること
    ができなかったので、その一覧ではワシントン州は除かれている。