146. 富裕な地方教委が州の教育財政について
   訴えを起こす


杉田荘治


はじめに
   奇妙な話しであるが、テキサス州で富裕な地方教委が州の教育財政について裁判所へ
   訴えを起こしている。
   貧しい教委が低学力の最大の理由は貧弱な教育予算のためであるとして、裁判所にそ
   の改善を求めて訴えを提起することはよくあることであるが、ここテキサス州では富裕な
   教委が訴え出ているのである。 それは何故か。
   テキサス州ではRobin Hood制度という特殊な教育財政制度があって、富裕な地教委は
   貧しい地教委に対して応分の寄付をしなければならないことになっているが、その額が
   増え、富裕な教委といえども余裕がなくなってきているので、その制度の廃止を求める
   動きになったのである。

   このことについて富裕なCoppell 独立教委などの関係ページからみていくことにしよう。

T Coppell Grazette Star(2004年9月20日)号
  Sunnyvale School News(2003年12月)号から

    わがCoppell教委では600万ドルの財政不足が生じたため、富裕な教委から貧しい教委へ
    寄付することを義務付けているRobin Hood制度についての不満が噴出している。

    また新たに原告側に参加することになったSunnyvale教委の主張によっても、ここ10年、州
    の教育に貢献する程度は70%から約40%までに減少してきている。その穴埋めとしてわが
    教委は貧しい教委に寄付し続け、ここ3年間だけでもその額は200万ドルに達している。
    そこで我々は財産税を増額しなければならなくなった。 このように州政府は教育カットの
    穴埋めをわれわれに転化し責任逃れをしているので、今回原告側に参加することにした。

    また同じ理由から、ここ数週間のうちにDallas, Austin, Houston教委も訴訟に参加し、その
    原告側の数は100以上となっている。それらには富裕な教委、貧しい教委が共に含まれて
    おり共同して州の教育財政制度や貧弱な教育予算についての改善を求めているのである。

   Robin Hood 制度とは
    前述のようにテキサス州の教育財政プランのニックネームで、富裕な地方(教委)の税収入
    の一部を取り上げて貧しい地区(教委)へ再分配する制度である。 その分類はWADAとい
    われる方式によってなされるが生徒一人当たりの費用が30,5000ドル以上か否かが基礎に
    なり、それに優秀な生徒数、また特殊教育の必要な生徒数などを勘案して決定される。
    ちなみに富裕なところはChapter 41といわれ、貧しいところはChapter 42とされている。
    (Cedarcreekpilot.com, articlesから)

U Robin Hood財政制度が廃止された場合
    この制度によって116の富裕な教委から950ある貧しい教委へ寄付されている総額10億ドル
    の穴埋めをどうするかということが問題になる。 例えば寄付を受けているBexar郡の諸教
    委では7,600万ドル不足するので、売上税を引き上げなければならなくなる。その平均は
    100ドルの売上について24セントになるが、これは大変なことである。

    それでは州の税を増額するか。 その場合、売上税は6.25から7.25に引き上げなけばなら
    ないし、また財産税についても100ドル評価価格の75セントを教育に振り向けなける必要が
    あろう。
 従って州政府はジレンマに陥っている。 議員のなかには州売上税の増額はやむ
    を得ないとする者もあるが、今のところ州議会には改正の考えはない。 Robin Hoodという
    富の再分配の原則を維持しようとしている。 しかしRick Perry州知事は先の州最高裁の意
    見もふまえて、これに代わるべき制度を2005年9月末までに創りたいと考えている。

   州最高裁判所は今後どのように判断するか。 実は下級審が退けてきた訴えを取り上げ(5月
   29日)ているので、その判断も注目される。

 参考1  訴状  CAUSE NO GV-100528
     原告は本文で記載したSCHOOL DISTRICT COPPELL教委ほか4教委であったが、その
     後多く参加し今や100地方教委になっている。
     被告はテキサス州教育委員長、教委、会計委員会である。
  
     また理由は州はこのような財政制度をとっているにもかかわらず適当な教育効果を挙げて
     いないし、今までの判例の趣旨も実現していない、としている。


 参考2 貧しい地方教委から、低学力の最大の理由は教育予算の不足であり、そのために良い
     教員は得られず、施設・設備も劣悪のままに放置されていることであるとして訴えについて
     は第137編を参照してください。 そこにはカンザス州の裁判官が州議会を非難し、その予
     算の執行を一時差し止める
 すなわちShawness郡地方裁判所判事が担当する事件に関
     連して、州の予算執行を6月30日まで停止するよう命令を発した。 このためサマー・スクー
     ルや来年度の学校教育に混乱が生じるおそれが出てきた、ことが述べてあります。

     また134. 州最高裁の裁判官が「教育予算は不充分」との意見書を提出し波紋が広がって
     いる
も参照してください。

コメント ご覧のとおり富裕な教委が州の裁判所に大挙して訴えを起こしている珍しい事例であるが、
      それはRobin Hoodという制度の廃止を求めているのである。今後の動きを見守りたい。
      

 2004. 10. 1記               無断転載禁止