179. アメリカの教育判例を取り読む その3


杉田荘治


はじめに
   前回の停学、服装(持ち物)検査に続いて、今回は大學入試で黒人などのマイノリティ学生
   に対して優遇策を取れば、落第した白人学生から「それは逆差別」との訴えが起こされるこ
   とになる。 この問題については、2003年の『グルッタ』判決と『グルッツ』判決が典型的な
   判例であるが、先ずこれを取り読むことにしよう。次いで学習クーポン券その他について見て
   いくことにする。

T 連邦最高裁『グルッタ』判決を取り読む
   ロースクール志願の白人学生による『逆差別』の訴え

   前編などで述べてきたように、Findlawを利用して、そのby year で2003年を選ぶとよい。
   しかし巻番号はないので、by volumeを利用することはできない。 これは判決が2003年と
   比較的新しいので、その製本化が間に合わないためであろう。 しかし前述のようにby year
   を利用すれば足りるので、さして問題ではない。

   またYahooで、grutter v. bollingerとしても簡単に取れる。ミシガン大學法律スクールの件 
   その本文には巻番号は書いてはないが、その前のページの概要には、539 U.S. 306(2003)
   と書いてあるので、それによって巻番号を知ることもできよう。
   
                GRUTTER v. BOLLINGER et al.

certiorari to the united states court of appeals for the sixth circuit
No. 02-241. Argued April 1, 2003--Decided June 23, 2003

  グルッタ (訴えたロースクール志願の白人学生) 対 ローリンガー (ミシガン大學学長)
    第6巡回裁判所に対して、事件移送命令が出されていたケース
    Docket番号 02-241 2003年4月1日に論争点の審理、 2003年6月23日判決

  When the Law School denied admission to petitioner Grutter, a white Michigan resident
  with a 3.8 GPA and 161 LSAT score, she filed this suit, alleging that respondents had
  discriminated against her on the basis of race in violation of the Fourteenth Amendment,
  Title VI of the Civil Rights Act of 1964, and 42 U. S. C. §1981; that she was rejected
  because the Law School uses race as a "predominant" factor, giving applicants belonging
  to certain minority groups a significantly greater chance of admission than students with
  similar credentials from disfavored racial groups; and that respondents had no compelling
  interest to justify that use of race. The District Court found the Law School's use of race
  as an admissions factor unlawful. The Sixth Circuit reversed, holding that Justice Powell's
  opinion in Bakke was binding precedent establishing diversity as a compelling state interest,
  and that the Law School's use of race was narrowly tailored because race was merely a
  "potential 'plus' factor" and because the Law School's program was virtually identical to
  the Harvard admissions program described approvingly by Justice Powell and appended to
  his Bakke opinion.

  Held: The Law School's narrowly tailored use of race in admissions decisions to further a
   compelling interest in obtaining the educational benefits that flow from a diverse student
  body is not prohibited by the Equal Protection Clause, Title VI, or §1981. Pp. 9-32.

  学生グルッタ-の訴えは「大學側は入試要項に人種を有力な要素として使っている。 人種は必要
  べからざる要素ではない筈だ」、「白人はアフリカ系、ヒスパニック、アメリカ原住民の3グル-プとは
  違って入試では不人気な嫌われたグループに入れられているので、高得点を取ったのに不合格に
  なった」ということであった。
  これに対して連邦地裁は大學の入試要綱を違法としたが、しかし
二審の第6巡回裁判所は「その
  入試要項は人種を限定的にとらえ、可能性のある要素としているので合憲である」、「しかもハ-バ
  −ド大學のプログラムと同じような内容である」とし、平等保護条項には反していないとして合憲とし
  てのである。
 


  なおこの入試要項は一審判決後に改正されていたようであるが、グルッタが訴えたときには、
  マイノリティには100点満点のうち、20点を加点するとか、5分の1加えることが定められていた
  ようである。 しかし大學側はその後、改正して明かに加点とか割り当てすることはやめて、人種を
  "soft variables"なものとして、例えば高校卒、標準テストの得点、高校の資質、カリキュラムの程
  度、地理的な条件、卒業生との関係、リーダーシップなどと同等の扱うようにしたのである。

  したがって、この判決ではその改正要項が審理されたので、後に述べる学部の場合と違って、合
  憲とされたのである。 288 F.3d 732 affirmed

U 連邦最高裁『グラッツ』判決を取り読む
    文理学部志願の白人学生からの『逆差別』の訴え

   Tで述べたように、Findlawを利用して取る場合は、by yearで2003年を選べはよい。 殆ど『グルッ
   タ』判決と前後して出ている。 巻番号のないこと、その他前者と同じである。

  
         GRATZ et al. v. BOLLINGER et al.
         certiorari to the united states court of appeals for the sixth circuit
           No. 02-516. Argued April 1, 2003--Decided June 23, 2003

  グラッツ(訴えた学部志願の白人学生)など 対 ボーリンガ(ミシガン大學学長)など   
    第6巡回裁判所に対して、事件移送命令が出されていたケース 
    Docket番号 02-516  2003年4月1日に論争点審理、 2003年6月23日判決  
   
【註】このようにTのロースクールの事件と最初は別々であったが、その後統一
      して審理され、同じ日に判決された。 
 

  Petitioners Gratz and Hamacher, both of whom are Michigan residents and Caucasian,
  applied for admission to the University of Michigan's (University) College of Literature,
  Science, and the Arts (LSA) in 1995 and 1997, respectively. Although the LSA considered
  Gratz to be well qualified and Hamacher to be within the qualified range, both were denied
  early admission and were ultimately denied admission. In order to promote consistency in
  the review of the many applications received, the University's Office of Undergraduate
  Admissions (OUA) uses written guidelines for each academic year. The guidelines have
  changed a number of times during the period relevant to this litigation. The OUA considers
  a number of factors in making admissions decisions, including high school grades, standardized
  test scores, high school quality, curriculum strength, geography, alumni relationships,
  leadership, and race. During all relevant periods, the University has considered African-
  Americans, Hispanics, and Native Americans to be "underrepresented minorities," and it is
  undisputed that the University admits virtually every qualified applicant from these groups.
  The current guidelines use a selection method under which every applicant from an
 underrepresented racial or ethnic minority group is automatically awarded 20 points of the
  100 needed to guarantee admission.

  グラッツとハマチァという白人学生が1995年と1997年にそれぞれミシガン大学文理学部に志願
  し、高得点であったにもかかわらず不合格になった。 当時、大學側は入試要綱にいろいろな要
  素を取り入れていた。 すなわち高校卒、標準テストの得点、高校の資質、カリキュラムの程度、
  地理的な条件、卒業生との関係、リーダーシップなどであるが、人種もその一つであった。
  しかもその人種についてはアフリカ系、ヒスパニック、アメリカ原住民の3グループは白人やアジア
  系志願者とは異なり、今まで低く処遇されてきたことを考慮して、100点のうち20点をボーナス
  として加点されていた。

   この後の英文は字句にとどめるが、最高裁は人種の多様性は大學についても認めるが、
   それが余りにも極端に加点するとか、特別の枠を設定していくような入試要項は違憲とした

   のである。 not narrowly tailored to the interest といっている。 すなわち、他の要素と同じ
   ように扱うなど、限定的に人種を考慮することはよい、とするのである。
   したがってこの判決は一部破棄となっている。  Reversed in part and remanded.

V 学習クーポン券の連邦最高裁判決を取り読む
   一向に[成績が挙がらない公立学校]から、生徒が私立学校へ転校するさいに授業料を補助しよ
   うとする制度のことである。 しかし、転校先の私学には宗教系の学校が多いことから、『政教分
   離の原則』に反し、公金をそのようなことに支出してもよいかどうかが問題になった。
   具体的にはOhio州の『学習券』プログラム: バウチァ・プログラム: Voucher Scholarship Program
   と呼ばれるものである。  それはCleveland市教委が成績を挙げず、巧く管理できないために州
   教委の直接の管理下におかれる状況で起こったケースである。 これについては第48編を参照
   してほしいが、ここではその判例の取り方を中心にして述べよう。

   ZELMAN, SUPERINTENDENT OF PUBLIC INSTRUCTION OF OHIO, et al. v. SIMMONS-HARRIS                                                        et al.
         certiorari to the united states court of appeals for the sixth circuit
         No. 00-1751. Argued February 20, 2002--Decided June 27, 2002*

  ゼルマン(オハイオ州公立担当教育長)等  対 サイモン(クーポン券政策に反対の親たち)
  第6巡回裁判所に対して事件移送命令が出されていたケースである。
   00-1751番  2002年2月20日 論点の審理、 2002年6月27日判決
   【註】二審である巡回裁判所で敗訴したので、教育長が上告人になっている。

  Ohio's Pilot Project Scholarship Program gives educational choices to families in any
  Ohio school district that is under state control pursuant to a federal-court order.
  The program provides tuition aid for certain students in the Cleveland City School
  District, the only covered district, to attend participating public or private schools of
  their parent's choosing and ..............Respondents, Ohio taxpayers, sought to enjoin the
  program on the ground that it violated the Establishment Clause. 
  The Federal District Court granted them summary judgment, and the Sixth Circuit affirmed.

  前述したように、このクーポン券ブログラムは州のコントロール下に置かれたクレバランド市
  教委の生徒たちに学校選択の自由を与え、そのための授業料補助計画であった。
  しかし、納税者の親たちが、これに反対し『政教分離の原則』に違反しているとしてて訴えを
  起こし、地裁もそれを認めて違憲とし、さらに第6巡回裁判所もそれに同意して違憲である
  と判決した。  そこで最高裁で争われることになったのである。

   これに対して最高裁判所は最終的にHeld: The program does not offend the Establishment
   Clause. Pp. 6-21............ Because the program was enacted for the valid secular
   purpose of providing educational assistance to poor children in a demonstrably failing
   public school system, ..........234 F. 3d 945, reversed. と述べて、その巡回裁判所の判決
   を破棄して、合憲としたのである。

コメント
   ご覧のように『白人による逆差別』の不満と大學といえども『人種の多様性』の尊重との
   兼ね合いは今後も“旧くて新しい”問題として問われていくであろう。 また『学習クーポン
   券』の問題も最高裁の判断が出て、しかもアメリカの新教育改革法(NCLB)の一つの選択
   肢ともなっているので、その流れは変らないが、しかし依然として「自分たちの税金をそのよ
   うなことに使ってほしくない」とする親たちの抵抗が地方によっては再燃しているようである。

   わが国では、私学に対する政府や自治体からの助成金は、それが宗教系であろうとなか
   ろうと一律に支給され、『政教分離の原則』に反するか否かは問題にはならない。 ここに
   も日米の違いを見ることができる。

 2006. 1. 20記         無断転載禁止