203. 最近のアメリカ公立学校教員のストライキ


杉田荘治


   はじめに
  アメリカ・マサチューセッツ州のQuincy市の教員
  が、最近(2007年6月)、4日間のストライキを
  実施した。 その3日目に州の裁判所から差止
  命令が出されたので四日目に中止したのである
  が、これを巻末の資料によって詳述しよう。

   また併せて、マサチューセッツ州の地方教委間
  の給料格差についても言及する。

 

T ストライキの理由
   ○ 市当局は教員給料をこれから4年間で13%アップする案を提示しているが、組合は、ここ5年
     間で20%アップを要求している。

   ○ 健康保険料の市へ納付する率を、今までの10%から20%に引き上げることを、市は求めて
     いる。 これが今回の主なる交渉事項であるが、教員1人について、これからの4年間で
     2,000ドルの増額になる。
      これについてPhalan市長は「市の健康医療財政は6年前には1,800万ドルであったが、それ
     が今や4,200万ドルにまでなっている。 また20%案でも寛大なもので他の自治体と較べてもら
     えばわかることです」と語っている。 給料もボストン南部地方の他の地区と較べて高いはずで
     す、とも説明している。
    【註 確かに、Quincy市教員の給料は州の平均給料よりも高い。 このことについては後述する。】


    なお、マサチューセッツ州では教員ストライキは禁止されている。
 U 経過
     実はこれまで18ヶ月にわたって交渉が続けられていたが合意できなかったので、組合はこの
    6月11日からストライキを始めたのである。 その3日目にNorfolk Superior Courtという裁判所
    から、「どちらも交渉のテーブルに戻るように。 組合は6月14日、朝6時までにストライキを中止
    しなければ15万ドルの罰金を科す」との差止命令:Injunctionが出されたのである。

     今後、交渉は再開されるし、学校は年間180日、授業をすることが義務づけられているので、終
    業日を延ばして授業を続けることになる。
 親は夏休みのスケジュールが乱れるのでストに反対
    する者と賛成する者に分かれたが、大きな混乱はなかった。 また一部の生徒、約10名がストに
    合流したことも、わが国の場合とは異なろう。

   【資料: Boston Herald com.2007年6月14日号、13日号、12日号、 Ledger South of boston
       2007年6月12日号】


 参考1 差止命令とは
    ストライキが現実のものとなった場合、教委側が、それは一般の健康や安全について明白、緊急
   の危険性があると考えれば、巡回裁判所(州の司法権限のある)に対して、差止め命令を発しても
   らうよう要請することができる。  また教委側だけではなく関係公的機関からも、そのストライキが
   明かに且つ現実的に健全な学校教育を損なうと考えた場合には、裁判所に対して差止め命令を発
   してもらうよう求めることができる。(第182編参照)


 参考2 アメリカでストライキ禁止であり、しかも罰金、解雇、ときには刑罰もあるペナルティのある州は
     次ぎの12州である。Florida  Indiana  Iowa  Maryland  Massachusetts Michigan
       Minnesota  Nevada  New York  North Dakota  Oklahama  South Dakota
       その他、第155編を見てください。


 参考3 Quincy市とは
     マサチューセッツ州の東部にある人口約88,000名の都市で、公立学校は小学校11、中等学校
     5、高校2で、生徒数は約9,000名である。 教員組合員は約890名。 人口の約7.3%が貧しい
     層であるから比較的富裕な市といえよう。 【資料: en.wikipedia.org】


             マサチューセッツ州のなかでの教員給料の格差

    ○ 州全体の平均給料(年額) 56,352ドル、 しかしQuincy市のそれは58,815ドルである。

    ○ 州で最高の地方教委は、Lincoln教育区 77,541ドルであるが、最低はFlorida教育区の
      34,117ドルであるから最高の2分の1以下の額にすぎない。 このように同じ州のなかでも、
     その格差が大きいことがわかろう。 なおFlorida教育区はその名のとおりフロリダ出身者の
     多い貧しい地区であろう。 【資料】マサチュ‐セッツ州教育省のAverage Teacher Salaries
                      by District (2007年5月17日現在)  2006年度発表分

      なお、School Districtは学区と訳されることが多いが、わが国の学区とはことなり、小さい
     ながらも人事、教育財政、教員給料などについて独自の権限をもっているので、ここでは
     教育区、教育区委員会、また教委といっておこう。 現に上記のAverage Teachers Salaries
     by DistrictではLEA School Districtとして州のなかの200ヶ以上のそれらについて、それ
     ぞれ平均給料が記載されている。

      なお、州間の教員給料格差については、第140編、第89編などを参照してください。

 おわりに
    ご覧のとおり最近のアメリカの教員ストライキについて述べた。 また併せて州のなかの教員
   給料格差についても具体的に記したので、教育に関する一面を理解するに役立とう。

2007年7月4日記            無断転載禁止