206 わが国の高校学力検定試験と参考例ーAPテスト


杉田荘治


はしめに
    文科省は高校での学習状況を評価するために、在学中に検定試験を実施する検討
   に入ったとメデイアは伝えている(朝日新聞2007年7月14日号など)。 そして「現行の大
   學入試センター試験をこのような資格試験にかえて、2級、3級などのグレードをつける」
   案も出ているようであるが、そのさいアメリカ(U.S.A)のAPテストが有力な参考例となると
   考えるので、それについて述べることにする。 もっともこのAPテストについては既に第
   198編第199編のなかでも記したが、ここでは改めてその本部資料や巻末参照資料な
   どによって要約したい。

T APテストとは
    AP, Advanced Placement Program、上級コーステストのことであるが、アメリカとカナダ
   などで実施され世界41ヶ国で利用されている。 これにパスすれば大學における単位など
   の特典がえられるのである。 科目は後述するが37科目、もっとも多少変動する。 
    1951年に著名大學の教育者グループによって発案され、1955年から非営利団体の大學
   委員会:College Boadによって実施されている。 今や全米で1万2000校以上の公立中等
   学校で、このコースの幾つかが設けられ、これを履修する生徒は270万人に達している。 
   2000年度より16%も増えていることになる。 もちろんこのコースを設けていない学校や私立
   学校の生徒やホームスクーラーも受験することができるようになっている。

U 試験の日程と科目
    2008年度について具体的に表示しよう。

 
2008 Exam Calendar - Week 1
Morning - 8 a.m.* Afternoon - 12 p.m.*
Monday, May 5 Government and Politics: United States Government and Politics: Comparative**
French Language**
Tuesday, May 6 Computer Science A**
Computer Science AB**
Spanish Language**
Statistics
Wednesday, May 7 Calculus AB
Calculus BC
Chinese Language and Culture
Thursday, May 8 English Literature**
German Language**
Japanese Language and Culture**
French Literature**
Friday, May 9 United States History European History
Studio Art (portfolios due)

2008 Exam Calendar - Week 2
Morning - 8 a.m.* Afternoon - 12 p.m.* Afternoon - 2 p.m
Monday, May 12 Biology**
Music Theory**
Physics B**
Physics C: Mechanics**
Physics C: Electricity & Magnetism***
Tuesday, May 13 Environmental Science**
Chemistry**
Psychology  
Wednesday, May 14 Italian Language and Culture**
English Language**
Art History  
Thursday, May 15 Macroeconomics**
World History**
Microeconomics  
Friday, May 16 Human Geography**
Spanish Literature**
Latin Literature**
Latin: Vergil**
 
 左表のように
 5月5日(月)には、
 アメリカ政治、政治、
 比較学、フラスン語

 5月6日(火)には、
 コンピュ-ターA, AB,
 スペイン語、統計学、
 5月7日(水)には、
 微積分AB, BC,
 中国語と文化

 5月8(木)には、
 英文学、ドイツ語、
 日本語と文化、
 フランス語
 5月9日には、
 U.S.史、ヨーロッパ史

 スタジオ芸術

 5月12日(月)には、
 生物、音楽理論、
 物理B, C、応用力学
 物理B(電気と磁気)
 5月13日(火)には、
 環境学、理科(科学)
 化学、心理学
 5月14日(水)には
 イタリア語と文化、
 英語、美術史
 15・16日 マクロ経済、
 ミクロ経済、世界史、
 人文地理、スペイン語
 ラテン語など
 

  ○ 上の表のように試験日は、5月5日(月)〜9日(金)  12日(月)〜16日(金)
  ○ 特別な理由のある者に対しては、5月21日〜23日が組まれている。 事前にAP調整官に
    相談すること。 
  ○ 受験料は各科目 84ドル ごく一部に例外あり。

V 採点の方法と評定(グレード)区分
  ○ APコースを設けている高校で試験が実施される。 しかし、それ以外の高校生やホーム
    スクールの者に対しても受験できるように組まれている。
  ○ 解答用紙などはAP Programという本部関係の場へ送られる。
  ○ 多岐選択解答:Multi-choice sectionはコンピューターで処理される。
  ○ 記述式解答は2週間かけて、AP Readingという基準によって区分され、その後、経験豊か
    なAP教員や大學教授によって採点される。

  ○ それらの合計点(Composite Score)によって評定される。 評定区分

 5   秀  Extremely well qualified  
 4   優  Well-qualified
 3   良  Qualified
 2   可  Possibly qualified
 1  不可  No recommendation
 参考
  アメリカ合衆国史、2002年度では
 180点〜115点(評定5) 114点〜94点(評定4)

  93点〜 76点(評定3) 75点〜46点(評定2)
  45点〜  0点(評定1)

W 評定の送付
  ○ 評定は7月上旬に受験者本人と解答用紙に記入した受験希望の大學、高校宛て送付される。
    それには受験した科目のすべての評定区分も添付されている。
  ○ しかし本人が「大學へ送らないように」と要請した場合は送られない。 また「取り消し」を
    求めた場合は削除される。

  ○ なお成績優秀者に対してAP Scholar Awardが授与されるが、秋に通知される。

X 複数受験も可能
  高校の最上級生で受験する者が多いが、その前年などで同じ科目を受けることもできる。
  この場合は2つの評定がありうるが、その場合は両方とも大學へ送られる。 しかし本人が一つ
  を取り消したり、また「送らないように」と求めることができる。

Y 特典
  ○ 前述のように大學での単位(sophomore standing)を得ることができる。
  ○ 新入生クラス分けその他の特典を得ることができる。
   詳細は各大学の募集要綱や問い合わせによること。 一般的には評定3以上のようであるが

   例えば、マサチューセッツ州のBoston Collegeは評定4と5を要件としている(同大學のAP
   Policy参照)。

     なお大學委員会では一般的な利益として次ぎのようなことを示している。
    ○ 大學での優勢・優位(edge, head start)   ○ 研究の習慣、問題解決能力の向上
    ○ 知識の視野を広める。   ○ いろいろな自分の前途を探ることができる。
    ○ 学校にいるAP教員やAP調整官に相談することができる。
    ○ APコースを設けていない高校の生徒やホームスクールの生徒、身体不自由者に対して
      も適切に対応している。 SSDを利用すること。 またインターネット上でも手助けしている。
    ○ なお科目『AP英語』では予め読んでおく必要があるものが示されているので、これらを
      よく勉強しておくこと。

Z その他
  1. 評定報告サービス(Grade Reporting Service)の活用
     今まで述べてきたように受験生が希望する大学を追加したいとき、また自分の評定を大學
    へ送らないように要請するとき、評定そのものを取り消したいときは、この『サービス』を利用
    ことになっている。
  2. APテスト以外のテストの利用
     勿論、各大学はAPテスト以外のテスト、すなわちSAT. ACT, CLEPなども利用している。
    例えば、サクラメント市立大学(Sacramento City College)はSAT Critical Reading, Math,
    Writing も利用している。なおSATについては第152編を参照してください。

                 問題点 
    1. わが国では高校の学習要領の教科・科目との整合性が大きな問題であろう。APテストで
     は前述のように37科目にすぎない。
    2. APテストは同じ科目を例えば高校2年時でも受けることができるので、自分の適性・進路
     を早めに決めることができる利点がある。 しかもその一つの評定を「大學へおくらないよう
     に」したり、取り消したりすることができる柔軟性もあろう。
   
   3. しかし評定・グレードを付けることが大きな問題となろう。 これはAPテストにかぎることでは
    なく、すべての高校生を対象にするテストで起こる問題点であるが、その本人のみならず学
    校の評定にもなるからである。
   4. 従ってわが国では、このAPテストにせよSATテストにせよ、大学入試のための試験にして、
    これらとは別に独自の学力検定試験を設けるほうがよいと考える。 そして評定は5、4.,,, 1な
    どの評定はつけず、合格/不合格、適当/不適当などの区分によるほうがよいように思われる。
    
おわりに
    ご覧のとおりアメリカのAPテスト(上級コーステスト)について述べたが、わが国で実施すると
   なると巻末問題点で指摘したように、高校学習要領との整合性や,ことに評定(グレード)が大き
   な問題になろう。 従ってすべての高校生を対象にした学力検定試験は独自なものとし、また
   合格/不合格、適当/不適当などの区分によるほうが妥当のように思われる。


参考資料
   1. CollegeBoard.com, AP Grade-Setting Process, Getting College Credit, Late Testing,
    AP Grade Report, Callendar & Fees etc.
   2. Wikipedia, the free encyclopedia, Washingtopost.com March 9, 2007, Sacramento
    City College:STA, AP, ClEP.

 2007年8月30日記            無断転載禁止

   追記(2009年3月2日) なお、第227編を参照してください。