215. アメリカで得点が増えた生徒に市教委が現金を
   与える


杉田荘治


はじめに
    生徒の成績を上げようとする余り、アメリカで市教委そのものが標準テストやその挽回テスト
   で得点が上がった生徒に対して現金を支給するところが出てきた。
メリーランド州のBaltimore市
   やNewYork市であるが、これらを要約して参考に供することにしたい。

                    Balitimore市のケース

  概要
    メリーランド州のBaltimore市は州高校標準テスト(HSA)で低い得点に苦しんでいる生徒に
    次の方策をとることにした。
   ○ 州標準テストで前に失敗していた生徒が、次ぎの挽回テストで5%以上の得点が増えたと
     きは25ドル支給する。
   ○ 15%以上の得点増であれば、35ドル、 20%以上であれば、50ドル。
   ○ このようにして最高110ドルまで支給することができる。


   ○ これはアメリカでは州が承認した始めての実験的試みである。
   ○ 高校3年生と2年生が対象であるが、この計画(高校標準テスト挽回ブログラム: the High
     School Assessment Recovery Programm)に参加する学校は現在39校。生徒は5,793名。
     なお一部の報道は約44校、約5,000名の生徒と報じている。 今月から始まった。
   ○ 科目はリーディング、書き取り、数学である。
   ○ この計画に充てられる予算は93万5,622ドルである。

  理由
   ○ 現金こそ人を最もその気にさせるものである。
   ○ 同市が実施している高校改革5ヵ年計画の一環である。
   ○ そのような生徒は勉強より校外に出て、ときには違法なことさえして1時間で10ドルぐらいは
     稼ぐであろう。
   ○ この計画にはすでに高い得点を取っている生徒が悪い成績の生徒を助けた場合にも現金
     を支給することにしている。 その額は1時間に10ドルといわれる。

  批判
   ○ そんな計画は学びの喜びを与えるものではない。
   ○ 一時的に成績が上がるかもしれないが長続きするものではない。
   ○ 最初は悪い得点を取っておいて、次ぎのテストで得点増を図り、より多くの現金を得ようと
     する者も出てこよう。
   ○ またNew York市の場合(後述)は公金のほかに私的な基金も利用されるが、Baltimo総て
     公金で、支給される額は前述のように93万ドル以上である。
 そんなところに公金を使って
     もらいたくない。

  【資料】 THE JOHNS HOPKINS NEWS-LETTERS, 2008年2月14日号、WYPR News in
       Maryland, 2008年2月26日号、 THE HEARTLAND INSTITUTE, 2008年4月1日号

  【参考】 Baltimore市には44校の高校がある。従ってこの計画にはその殆どが参加したことに
       なる。 なお州標準テスト(High School Assessment)は代数、英語、生物、政治である
       が、この件については生物と政治は除かれている。
        また各校の学校評価も詳細に公表され、例えば総合評価として「10段階のうち7段階」
       などとして示されているし、また保護者による評価もいわゆる『五つ星』でその星の数が
       表示されている。

                   New York市のケース

  概要
    Michael R. Bloomberg市長が提唱し今年度から実施された。
    ○ 当初この計画に参加する学校は200校であったが、今実際に参加している学校は58校
      で、5,237名の生徒に支給されている。  公金の支出は約50万ドル組まれている。
    ○ 一例を述べると、ある学校の7年生には39ドル、またある生徒36.87ドル、34.5ドルなど
      と、その額は異なる。 標準テストの得点によって細分化されているらしい。
      生徒どおしはお互いに見せ合って「ビデオを買う」、「スパゲッティを買う」とかいったり、な
      かには「車を買う資金にしよう」、「家の購入に」などと話して喜んでいる。

      またこの制度を将来、「大學に入るさいの奨学資金制度に変更したらいかが」との質問に
     対しては生徒の多くは反対して「われわれ総ては大學へいくわけではない」と叫んでいる。
    ○ 今までも善行や出席率がよい生徒に対して報奨が与えられていたし、また私的基金から
      親に図書券が与えられたり、クラスのパーティにピッツァなどが提供されていたが、今回は
      これをさらに一歩進めようとするものである。


   理由
    ○ 学校をサボッて街に出て不法な仕事をすれば50ドルぐらいは稼ぐことができる。
    ○ 現に冬休みに一生懸命に勉強する生徒も現れてきた。
    ○ 生徒にとっては予期しない授かり物となろう。
    ○ スポーツのスター選手は銭を貰っているではないか。 など

   批判
    ○ 学びの喜びが教育の本質であるが、このプランは嫌悪の念を起こさせる。
    ○ 赤信号で止まることは市民としては当然の行為であり、そんなことに銭を与えるか。
      生徒が学ぶこともそれと同じである。 従って今回の計画は反市民的、反社会的、反民主
      主義的なものである。

   【資料】 New York Times, 2008年3月5日号、 USA TODAY,2008年8月1日号

おわり
    ご覧のとおりであるが、遂にここまできたかの感がある。 今のところ2市のみであるが今後の
    推移を見守りたい
。もっともUSA TODAY,2008年8月1日号によれば
全米ですくなくとも12州
    あるといわれるが、それにはSATやAPTテストのものが多く含まれているように思われるので
    このケースとは異なろう。

 2008年4月8日記         無断転載禁止