218. 『アメリカのために教える』グループの活躍 その3


 杉田荘治


 
 はじめに 
  『アメリカのために教える』グループの活躍については第174編、
 第216編などで述べたきたが、最近Time Magazineが2008年度
 で世界に最も影響を与える100人の1人として、このグループの
 創設者であるWeddy Kopp女史を選んだ
ので、この機会に改めて
 彼女の人物と業績について概観することにする。
  なおこのグループの活動についての協力者であり、また夫でも
 あるRicahard Barth氏は、この他にKIPPといわれるチャータース
 クールの組織の最高経営責任者でもあるが、それについても触れ
 て理解を深めることにしたい。

                  Wendy Kopp 女史について

    彼女は『アメリカのために教える』グループの構想をプリンストン大學の学生のころに持ち、
   卒業論文のテーマ-にもして、1990年から発足させたのである。 全米で新たに大學学部を
   優秀な成績で卒業した学生たちが、それぞれの進路へ進み始める前、貧しい地域の学校で
   2年間だけ教える活動である。派遣される前には5ヶ月、事前研修を受け赴任すれば新任教
   員と同じ給料や手当てを受ける。
 その数は毎年3,000人以上。

    この運動の成果を高く評価されて、彼女は前述のように、Time Magazineが2008年度で
   世界に最も影響を与えた100人の1人として「科学者と思索する人」の部門から選ばれたの
   である。
 彼女はテキサス州の裕福な家庭の生徒たちの多い高校の生徒であり、また卒業
   生代表にも選ばれたが、大學で友人の1人はニューヨークの貧しい地区の出身者で彼女に
   アメリカの教育を変えるように説得した。
    そこで彼女は「貧しくても才能のある生徒たちが将来、ウォール街で働ける人になるように
   したい」と考えて、この運動を展開したのである。

    それが今や年間,1億2,000万ドルの予算規模で835人のスタッフを擁する大きなグループ
   へと発展させたのである。そしてGoldman SachsとかGoogleなど事業家とも連携して寄付も
   受けている。この春には全米の大學から2万4700人もの学部卒業生が志願して、そのうち
   3,700名が選ばれ、事前教育を受けて各地へ赴任することになる。

    創立から20年の歳月が流れ、今や彼女は41才で4児の母親でもある。 夫のBarth氏と
   ともに精力的にこの運動に取り組んでいる。 Bill and Milindaゲイト氏ほど知られていない
   が、教育における新しい方法を打ち立て、教育界において孵化器ともいえる存在になって
   いる。 この夫婦はマンハッタン地区に住み生まれたばかりの女の子と3人の男の子がいる
   が、彼等は地元の公立学校に通っている。 その躾も厳しく、宿題はきちんとやらせ
、計画
   も自分たち自身で立てて実行させているといわれる。 彼女自身も評判のビデオを買うさい
   には皆と同じように長い列に並んで買うような謙虚さを持ち合わせているし、夫のBarthさん
   はリトル・リーグの審判もやっている。

   【資料; The New York Times, 2008年6月19日号、Time Magazine 100 Most Influential
       People of 2008, USA TODAY, 2008年5月14日号】
    この運動の成功例や批判については第174編、第216編を参照してください。

 
                  夫のBarth氏の業績

    Barthさんは『アメリカのために教える』グループの協力者であるとともに、KIPPといわれる
   チァータースクールのネットワークの最高経営責任者
でもある。 そこでここでは主として、そ
   の組織について述べることにする。
    チァータースクールにはいろいろなタイプの学校があるが、KIPP:the Knowledge Is Power
   Programは大學予備校的な目標を明確に掲げて、早い段階から厳しい生活規範や学習を生
  徒と保護者に求めているチァータースクールである。


  ○ そのほとんどが5年生から8年生の中等学校である。 その他に高校が5校、幼稚園・小学
    校が約10校ある。 2008年には8校が開校されて今や19ヶの州と首都ワシントンで65校
    なっている。
  ○ 生徒の90%以上はアフリカ系アメリカ人である。 しかも80%以上の者が連邦資金による学
    校給食の補助を受けて減免されている。
  ○ 生徒は今までの学力や行動、社会的な背景を問題にされることなく、学校の規約を守れば
    受け入れられる


  特色
  ○ 教育目標   No short cut   優れた教員、多い授業時間、大學を目指すカリキュラム、
                        強い達成感など
  ○ 月曜日〜金曜日   授業 午前7時30分〜午後5時
     月に2回、土曜日  授業 午前8時30分〜午後3時
      また、サマースクールも2〜3週間は義務である。


  ○ 週末には生徒の成績や行為によって表彰金が与えられる。 学年末にはさらに多くの銭が
    与えられるが、それによって本や卓上コンピューターを買うことができる。
  ○ 修学旅行もある。 例えば7年生はイーストコーストへ、ブロードウェイ観劇、ウェストコースト、
    ヨセミテ国立公園や生徒にとって魅力的な観光や大學見学なども組まれている。

  ○ また教員や校長による家庭訪問もある。 「KIPP契約」を守らなければならない
    しかし生徒が卒業して後でもKIPPは支援し続けている。 奨学資金を得る方法やインターン
    シップ、仕事についてさえそうである。 例えば高校や大學で2,000万ドル以上の奨学金を
    卒業生のために得てやっているといわれる。

   沿革など
  ○ 1994年に『アメリカのために教える』グループのメンバーであったDave LeyinとMike Fenberg
    という2人が立ち上げた組織であるが、その運営は前述のようにBarthさんに任せている。
    資金としてはチァータースクールとしての公的資金のほかに例えば2000年にFishersとか
    KIPP財団から1,500万ドルを得ている。


   批判
  ○ 生徒や親に求めるものが厳し過ぎる。 また利己的、挑戦的な独立精神を養うような教育で
    ある。 非常に高い退学率も問題である。 しかしそれでも増え続けるところにアメリカにおけ
    る教育の現状があろう。

    【資料: 前記のほかWikipedia, the free encyclopedia,  www.kipp.org 】

 参考 
    チァータースクールについては第37-2編、第38編、第47編などを見てほしいが、その本部
   であるCenter for Education Reformの資料によれば、現在40州と首都ワシントンで4,200
   のチァータースクールがあり、生徒数は120万人とのことである。 公立学校に属するので
   財政的支出もそれによっているが、しかし一般の公立学校と較べて不公平であると述べてい
   る。

あわりに
    ご覧のとおり『アメリカのために教える』グループの創設者であるKopp女史とその夫である
   Barth氏の業績を概観した。確かにアメリカの教育の一つの大きな力といえよう。

 2008年7月23日記          無断転載禁止