228. アメリカ連邦政府はデトロイト市の教育改革に着手


杉田荘治


はじめに
    デトロイト市の教育改革はダンカン教育長官の任期中の大きな仕事のひとつになろう。
   このことについて、Detroit Newsなど巻末に記した資料によって概観し、若干のコメントも付し
   ながら述べることにする。

1 デトロイト市の現状
 ○ 高校生の落第率はひどいものである。 とくに9年生は明年は、その2/3〜3/4は落第しそう
   な有様である。
 ○ 親たちは子供をチャータースクールへ入れたり、校外に住居を移したりすることが増えてきて
   いる。
 ○ そのため教育財源も不足し、何十校も閉校にしなければならなくなっている。 また2008年度
   には1億4,000万ドルの財源不足になるので、州の教育長はこの財政危機と管理責任者をリー
   ドするため、州による直接管理をすることを検討している。

 ○ 教育環境も悪化している。 例えば11年生の母親は「学校の安全性の欠如が学ぶための大き
   な障害になっている。通学途上でガンによって生徒が殺された事件も起こっているし、いくつか
   の高校ではガンと喧嘩の“疫病”が増えている」と語っている。
 ○ 教員組合はどうか。 Johson委員長はダンカン教育長官には賛成しているようであるが、その
   非難は市教委や各地方教委に向けられ「教育予算の使い方を誤って多くの負債をつくり、教育
   に必要な本や備品、設備に資金を廻していない。教育のことより自分たちのつまらない問題に
   ついて議論し合っている」と語っている。

2 改革の方向性
 ○ ダンカン教育長官はデトロイト市の教育を助けることになる。 すなわち、最近、ミシガン州のトッ
   プと話し合ったが、州が指名した管理者によって主としてその財政面について直接管理すること
   になろう。 このことに合意すれば、再び直ぐにでも協議することになろう。「デトロイト市の問題に
   深入りするつもりはないが、しかし今の状態を放置できない」といっている。

 ○ そこでRobert Bobbという以前、首都ワシントンの教育委員であった財政コンサルタントを指名
   してデトロイト市教委の財政を直接管理させることが構想されている。 そして必要とあれば、財
   政面だけではなく学力不振問題についても管理する立場になるであろう。 このように教育長官
   は「生徒の問題というよりはリーダーと政策の問題として教育改革をしなればならない。」と語って
   いる。

 ○ またデトロイト市は連邦新政権が新設した“トップに向けて競争”:Race to the Top"Fund 基金
   へ申しこむ必要があろう。というのは劇的な変化を遂げた地方教委にその資金が与えられるから
   である。しかもその資金は限られた州に対してのみ支給されるので、デトロイト市にとっては良い
   チャンスになるからである。 また既存のTitle T予算も併用して改革を進めるべきである。

 ○ またデトロイト市は今市長選の最中であるが、ダンカン教育長官はデトロイト市の次期市長が市
   の教育について責任を負うことになろうと語っている。 このようにダンカン教育長官は以前、2001
   年からシカゴ市の教育長として実績を挙げたが、その経験を活かして、今度はデトロイト市の改革
   に州知事や市長と連携しながら進めるが、それは当然、市教育委員会の権限を越えて実施されて
   いくことを意味する。  なおデトロイト市の前のConnia Callway教育長は解任されて、今、法廷闘
   争中である。

                   州による直接管理とは

    これについては既に第156編で詳述してあるので、それを参照してください。 その関係個所を
   下記しておこう。 すなわち、
     問題の多い地方教委を州政府が直接的に管理することであるが、市教委の決定について、リー
     スすること、契約すること、交渉、カリキュラムや法の執行のすべてについて十分な権限が与えら
     れ、またその責任を負うことになる。 このようにして州政府が財政的に健全になったと認めるまで
     州政府から直接監督を受けることになる。

      理由
       ・学力低下など    ・財政悪化のため   ・問題の多い不適切な教育行政
       ・破壊してしまったような統治の基礎構造を再構築するため
      方法  そのための特別法を州が制定すること、など

    なお、最近の資料としてワシントン州教委のものがあるが、それによれば、(The National
    Picture of State Intervention Authority in Lower Performing Schools and Districts,
    7 Aug.2008
       ・2/3の州で一つ以上の理由で直接管理が実施されている。
       ・25ヶの州で地方教委そのものが直接管理の対象になっている。
       ・16ヶの州で個々の学校が直接管理の対象になっている。
       ・20ヶの州で学校再建について管理の対象になっている。

   【資料】Detroit News, 2009年2月14日号、26日号、27日号。 

おわりに
    ご覧のとおり、ダンカン教育長官はシカゴ市での経験と実績を活かして、いよいよデトロイト市
   の教育改革に着手した。 注目したい。

 2009年3月26日記          無断転載禁止