238. アメリカ連邦政府は成績不振校の閉校を加速


杉田荘治


はじめに
    アメリカ(U.S.A.)のダンカン教育長官はここ五年間で約5,000校の成績不振校を閉校にし、
   再出発させるように州や各地方への働きを強めている。そのため[トップを目指して競争]
   基金を利用して競争させているのである。 以下、逐次見ていこう。

             [トップを目指して競争]基金: Race to the Top Fund

    連邦政府は35億ドルの資金をこのために準備している。前政権の2007年度では1億2500
   万ドルであったので格段に多い。 このため成績不振校をリストアップし、その校長と少なく
   とも半分の教職員を交替させること、そしてチャータースクールか他の教育団体に運営を任
   せて向上させることなどを求めているのである。


    このように領域としては基準と評価を改善すること、効果的な教職員を多くすること、デー
   ターを活用すること、成績不振校をサポートし改善することの四領域である。またその法の
   Docket 番号はID-2009-OE SE-0006, RIN 1810-AB07である。 また[基金]の50%は地方
   教委のために使うことや項目ごとの金額も示されている。

    昨年(2009年)4月に発表され、少なくとも30州からその申し込みがある。その支給金額につ
   いて連邦政府は言及していないが動いている。 さらに第一回分として各州からの申し込み
   期限は今年(2010年)1月20日である。 さらに政府は議会に対して来年度は10億3,500万ドル
   加えるよう要求している。次に述べるカリフォルニア州は連邦の求める条件によって申し込ん
   だ。


   批判
    しかし、連邦議会でも財政が厳しい今、このような多額の支出について反対もあり、州でも
   例えば、テキサスは過度な競争を嫌い、またチャータースクール化に重点を置くことに躊躇し
   て、この連邦資金を受けないといわれる。
またメリーランド州も第一回分は見送り、第二回分
   を検討しているといわれる。(この項、Washington Post, 2010年1月21日号)

                カリフォルニア州の例

    カリフォルニア州教育省から各地方教委への[通知]、2009年12月15日
    連邦政府[トップに向けての競争]基金への申し込み要件は次のとおりです。
    1. 閉校・再構築
      地方教委は次のようにする必要があります。そして教職員、カレンダー、学校財政、生徒
      の成績向上、高校卒業率を引き上げること。
    2. すべての教職員を精査し、その再雇用は二分の一までとし、新しい教職員を選ぶもとの
     する。

    3. その後、チャータースクールとして再び開校するか、CMOといわれるチャーター運営の団体
     またはEMOといわれる教育管理団体にすること。これは学校間の機能、資源など集約、共
     有する団体であり、営利団体であっても非営利団体であっても構わないが、地方教委はその
     運営を全面的に委ねるものとする。

    4. 閉校の生徒
      閉校になった学校の生徒は、他の良い学校に移すこと。だきるだけ近くの学校とするが、
      それはチャータースクールであっても新しい学校であっても構わない。
    5. これらのすべてについてはデーターを使い総合的に判断すること。 また有効な技術にも
      とづくサポートをすることも必要である。

               教員組合の態度はどうか

    このことについては第235編で述べたようにNEAの反対の態度は強いが、AFTはやや柔軟な姿
   勢である
ように思われる。それはWashington Post, 2010年1月11日号によれば、Randi Weingarten
   委員長は次のように語っているからである。
    ○ 今の教員評価の制度を見直すこと。 そのなかに生徒の成績(得点)を一部、使うことを
      認める。
    ○ 無能教員(ineffective teachers)を特定し措置すること。 その作業は丁寧に総合的におこ
      なって本当に無能であると認定すること。 その後、彼らの解雇ケースを迅速に進めるような
      プランつくること。

    さらにWashington PostのJay Mathews記者は彼女の発言を高く評価し[彼女は教員組合も教
   委もどちらも承認できるような新しい案を提案している。 教員評価については授業観察の結果、
   教員自身の自己評価、諸発表、レッスンプラン、生徒の学習状況などを総合的に評価して決める
   ことを求めている。しかも生徒の成績についてはたんに昨年と比較するのではなく、今、実際の
   授業でどのように向上したかに重点をおく案を提案している]、[すべての人を満足させることは
   難しいが、彼女は新鮮なアイディアや実施要綱を示している。若い組合員は子供の学習レベルを
   引き上げることが最も重要だと考えているが、彼女はこれに応えようとしている。]
    [教員解雇ケースについても彼女は組合員にアンケートをとったが、69%の組合員は良い教員、
   良い学習指導を優先的に考えるべきであると回答し、16%の者しか組合員の権利を優先すると
   しなかったことも彼女は活かそうとしている]と語っている。

    このことは、既に第273編で述べたようにAFTの傘下にあるボストン教員組合が“待機部屋”で
   待機させられている期間を一年間と限ったり、教委から委任され公立学校を開校させたりするこ
   ととも十分関係があろう。
なお彼女の提案に対してNEAは今のところコメントしていない。

    ところで第51編で述べたように
AFT(アメリカ教員連盟)は1916年、一握りの教員によって結成さ
   れ、教員の権利や賃金、労働時間などの労働条件を団体交渉、労働協約によって勝ち取るという
   路線を歩んで来た。アメリカ総同盟: AFL - CIO と同盟して教員組合運動の先導的役割を果たし
   てきたが、今や協調・現実路線をいく教員組合に変わりつつある。会員数 約130万

    これに対してNEA(全米教育協会)は1857年公立学校関係者の自由意志に基づいて結成された
   団体であり、公立学校の諸問題を自分たちの職能成長を計りながら向上させていくことを目指す
   グループ活動であった。 従って“静かな教育協会”であったが今や、その路線はAFTと逆転して
   いるのは興味深い。会員数約320万。


  [参照資料] 本文中で記載の他、Washington Post,2009年12月28日号、Google/The Associate
          Press,2009年12月3日号

おわりに
    五年間で約5,000校の成績不振校を閉校し再出発させるということであるから、これを多いとみる   
   るか否かは見解の分かれるところではあるが、しかしそれに伴って多くの教職員の解雇も発生する
   のであるから矢張り大きな問題であろう。教員組合の動きも注目される。    

 2010年2月1日記          無断転載禁止