244. アメリカの教員組合の最近の動き
    −NEAとAFTの政策の違いを中心にして


杉田荘治


はじめに
    アメリカ(U.S.A.)の教員組合については今もってAFT(アメリカ教員連盟)が闘争的であり、
   NEA(全米教育協会)は穏健であると考えている向きがあるが、実はその逆であるともいえ
   よう。

    確かに、歴史的には第51編で述べたようにAFTは1916年、一握りの教員によって結成
   され、アメリカ総同盟:AFL - CIOと同盟して教員組合運動の先導的役割を果たしてきた。
 
   一方NEAは1857年公立学校関係者の自由意志に基づいて結成された団体で、公立学校
   の教育を自分たちの職能成長を計りながら向上させていくことを目指すグループ活動で、
   “静かな教育協会”であった。
 その後の両者の変化については第51編、第235編などで
   述べたが、ここでは最近の動きの違いを中心にして具体的に見ていくことにしよう。

               戦術の違い

    AFTは“パンとバター”ともいえる教員本来の労働条件を重視して、例えば困難視されて
   いる教員評価についても、これを全米的な問題として現実的に対応していく方針であるが、
   NEAはこれを各州に委ねて州レベルで取り組ませる方針である。したがって處によっては
   法廷に持ち込もうとする傾向も強くなっているし、また政治的な動きも強くなる。


    次に、[教員の勤務評定に生徒の学習成績を反映させること]、これはメリット・ペイの問題
   でもあるが、この問題についての両者の取り組みの違いについて、また、チャータースクー
   ルの取り扱いの違いについて、さらには連邦補助金:"Race to the Top"の対応について、
   それぞれその違いを見ていくことにしよう。


      教員の勤務評定に生徒の成績を反映させることについて

    AFTの方針はWeingarten委員長の説明によく表れている。 すなわち、
     [教員評価については授業観察の結果、教員自身の自己評価、諸発表、レッスンプラ
      ン、生徒の学習状況などを総合的に評価して決める。 しかも生徒の成績については
     たんに昨年と比較するのではなく、今、実際の授業でどのように向上したかに重点をお
     くことと]している。(第238編参照)
   しかもことのことは今も変わっていない。すなわち、
     2010年8月19日号が報じているが彼女は[このことは教員の勤務評定を総合的な基準
     によるものとし、教員自身のみならず、教育関係管理職、親なども満足させるものにす
     る]といっていることからも理解されよう。 しかし彼女は勤務評定の資料公表することに
     は反対している。 このようにこの問題についてはAFTのリッダーシップによって取り組も
     うとしているのである。

     これに対してNEAはバラバラである。 その主力メンバーであるCalifornia, New Jersey,
    Florida などは[少しでもメリットペイの匂いのある勤務評定の案であれば断固として反対
    する]と声明している。

          チャータースクールへの対応について


     このことについては2010年の彼らの大会にそれぞれゲストが招かれスピーチをしている
    が、そのことに違いが表れている。

    AFTはシァトルで大会を開きBill Gateが招かれ[チァータースクールは真に教育改革に値
    するような成果を挙げている。 これは教育における大きな変化であり、その努力は生徒
    の成績にそのまま反映されている]と述べたが、多くのAFTのメンバーはこれを受け入れ、
    少なくとも真摯に聞こうとする態度であった。 

     これに対してNEAはニューオリンズの大会には前教育副長官のDiana Ravitchが招かれ
    たが、彼女は公然とチャータースクールを非難して[チャータースクールは公立学校より良
    い成績をとっていない]と語り賛同を得ている。なお彼女は教育評論家でもあるが、教員の
    勤務評定にメリットペイを導入することに反対している。 それは[生徒の成績スコアにつ
    いて教員の結果責任はせいぜい10%〜20%にすぎない]、[生徒の家庭の収入が大きく働い
    ていて60%の割合を占めている]、[しかも教員はクラスを選ぶことはできず指定される立場
    である。そして一年間の生徒のスコアだけで“高い指導効果を挙げた”とか“平均”だとか
    “平均より劣る”などと評定することは奇妙なことである]。 したがってこのような不正確、
    不確かな資料に基づいて評定することに反対しているのである。(この項、Daily News
    (New York) 2010年10月25日号)

         連邦資金:Race to the Top fundの対応について


     AFTはアメリカ全体の問題しとて一括して検討し柔軟に対応しようとしている。
    NEAはこれについてもバラバラである。 Californoia州は反対の方向が強いが、Delaware,
    Ohio, Rode Island, Tennesseでは州教組の判断でこの補助金を受ける方向である。しかし
    多くの州教組は反対している。 もっともこの問題についてはミネソタ州では州内のNEAと
    AFTはmergeの動きがあり複雑である。 Tenesseeも同様である。
    [註] Race to the Topについては第238編を参照してください。
     [[トップを目指して競争]基金: Race to the Top Fund 連邦政府は35億ドルの
     資金をこのために準備している。
その後追加している。基準と評価を改善すること、
     効果的な教職員を多くすること、データーを活用すること、成績不振校をサポートし改善
     することの四領域での改善を求めている]


               その他
    AFT
     ○ 組合員数  88万9,000人 (2009年秋現在) このように少し減ってきている。
     ○ 前述のようにAFL-CIOと連携している。 どちらかといえば大都会、東部アメリカ
       にその地方教組が多い。
     ○ K-12公立学校の教員以外の人たちの権利を守るために真摯に努力している。
       すなわち、終身雇用権をもっていないトラック運転手、学部大学生の雇用者、看護士、
       州の役所に勤務する関係者、学校図書館司書、通学バス運転手、簡易食堂で働く人
       などである。
     ○ 2008年7月14日、Randi Weingartenが委員長に選ばれた。彼女はUnited Federation
       of Teachers(UFT)の委員長を12年間、勤めていた人である。

    NEA
      ○ 組合員数 320万(2006年現在)
  本部は首都ワシントンにあり、全米すべての州と
        1万4,000のコミュニティにその地方教組がある。
      ○ AFL-CIOのメンバーではない。しかしFederation International のメンバーである。
      ○ 民主党との関係が深いといわれるが、しかしその教育改革に反対しているという批
        判にもしばしば、さらされている。
      ○ NEAが拒んだのであるが、AFTとの合同には失敗した。しかし州教組によっては
        unified NEA=AFTとして連携しているものがある。フロリダ、ミネソタ。モンタナ、ニュー
        ヨーク州などである。

      ○ 政治活動は活発で州や連邦の教育関係法案に積極的に働きかけている。 たとえ
        ば、メリットペイ、
学校のバウチャ制度教員の終身雇用権を弱めるような案、カリ
        キュラムを変更するよな動き、教育に結果責任を求めるような改革案にはしばしは
        反対している。 また教員の能力を重視するよりは、むしろ教職経験年数を重視す
        る傾向が強い。
        [註 バウチャー制度については第189編を参照してください。  アメリカ(U.S.A.)で
          低学力校から私立学校へ転校する生徒への政府、自治体からの補助金のことで
          あるが、その支払いは現金ではなく、クーポン券でなされる制度である。一部、
          チューター等の個人指導のものも含まれよう。   しかし、この教育クーポン
          券の制度を広義にとって、『国は教育費を国民全員に公平、平等に配布すれば
          よい。そのためにクーポン券を支給し生徒・親が自由に学校を選択すればよい
          という趣旨のもとに、わが国でも一時検討されたが実現しなかった。 その他、
          第48編には憲法問題としてバウチァ制度についての連邦最高裁の判決を要約し
          てあるの参考にしてください。

      [この項、Wikipedia, the free encyclopesia 参照要約]


    [参照資料] 文中で記載のほか、AFT exoposed,com,2010年7月12日号、 Education
        Week,2010年8月30日号、Los Angeles Timies, 2010年8月30日号


おわりに
    ご覧のとおりNEAは全米的な諸問題について一括して捉え、教員本来の労働条件を重視し
   ながらも教育改革の実を求めて現実的に対応する動きであるが、NEAはバラバラである。州
   に委ねて取り組ませているので、より闘争的動きにもなる。 しかし、トップを目指して競争の
   連邦資金についてなど、いくつかの問題については州によってはmergeの動きもあり複雑で
   ある。
  なお杉田は個人の資格で公立高校教頭W氏とともにNEAの2002年次研究大会に
   参加した(第52-2編)。
 当時のアメリカ、NEAはそのような寛容さがあった。今どうなっている
   が知らないが、NEA, AFTの年次大会にその許可が得られれば参加し、意見交換されること
   を期待したい。


 2010年12月22日記                 無断転載禁