245. アメリカの新学校給食法ー肥満対策


杉田荘治


 はじめに  
    アメリカ(U.S.A.)では国民の体重過重と肥満は今や国家的な問題である。
   子どもについても同様でその三分の一はそうであるといわれるが、この問題について
   は学校給食のあり方が大きく関係している。
    ところでこのことについては既に第74編、ことに第79-2編[スクールランチ法検討の
   動き
]でも述べたが、昨年(2010年)12月、オバマ大統領が首都ワシントン市内の小学校
   で新しい学校給食法に署名して成立したので、その法律の概要を述べ、その後、これに
   大きく寄与した大統領夫人の[Let's move, 体を動かそう]運動その他関連する事項につ
   いて逐次、述べていくことにしたい。

      新学校給食法: [子どもたちの飢えと肥満をなくす法]
    正式には、CHILD NUTRITION REAUTHORIZATION HEALTHY,HUNGER-FREE,
           KIDS ACT OF 2010       2010年12月13日 ホワイト・ハウス発表

   要旨
    わが国では3,100万人以上の生徒が学校給食を受けてが、しかし700万人以上の
   子どもが家庭で安全でない食をとったり飢えたりしているといわれる。 三人に一人は
   体重過重か肥満であり、学校は子どもの健康問題の最前線に立っていののでる。
    したがってこの新しい法律は子どもたちに健康的で栄養に富んだ食物を提供し、健
   康的な食習慣をつけさせるためのものである。    そのため、
    ・ 今後5年間の権威ある計画を策定する。
    ・ 今後10年間に45億ドルを新たに支出する。

 AFPBB News 2010年12月13日 Harriet Tubman 小学校 署名式

              何をなすべきか

   ○ 連邦農務省に学校で売られているすべての食物について栄養基準を設ける権限
     を与える。

   ○ その栄養基準に完全に合致した学校には追加助成金を与える。
   ○ 地方の農場と学校のとネットワークを創り、地方の食物を学校で使用することが
     できるようにする。 また学校菜園をつくることを促進させる。
   ○ 現在、連邦農務省から受け取っている食物関連の物質についても改善する。
   ○ 学校の食事時間のあり方についても改善する。
   ○ 現在、弾力的な運用が許されている栄養基準も厳格にする。
   ○ 現行の連邦助成の[子ども、大人ケア食物プログラム]も改善する。
   ○ WIC計画よるbreakfeedingについても改善する。

    また
   ○ メティアデーターによって行われている学校ミール計画も拡大する。
     また州がベンチマークによって助成している学校を増やすようにする。
   ○ 極めて貧困な地域の学校の生徒の食事を普通レベルにまで引き上げる。
   ○ 現行でも“危機に立っている子どもたち”の食事を支える権限を連邦農務省に与えて
     いるが、これを拡大する。

    以上について、
   ○ 各地方教委は3年こ゛とに監査すること。
   ○ 分析結果を重視し、親への情報を提供すること。
   ○ トレーニングや技術的援助も行う。

   メニュー
    メニューも曜日ごとに詳しく定められた。 例えば、小学校では、月曜日は、
  Submarine Sandwich(1 oz turkey, .5 oz low-fat cheese) on Whole Wheat Roll
  Refried Beans (1/2 cup)    Jicama (1/4 cup)   Green Pepper Strips (1/4 cup)
  Cantaloupe wedges, raw (1/2 cup)   Skim Milk (8oz)    Mustard (9 grams)
  Reduced fat mayonnaise (1oz)  Low Fat Ranch Dip (1 oz)

         小学校就学以前では、月曜日は、
  Bean and cheese burrito (5.3 oz) with mozzarella cheese (1 oz)
  Applesauce (1/4 cup)    Orange Juice (4 oz)   2% Milk (8 oz)      

    しかし、新学校給食法も連邦農務省が主管することは変わらない。 同長官は当日
   [今日は偉大な日である。子どもたちは健康でバランスのとれ、栄養に富んだ学校給食を
   食べ、飢えと肥満の問題に果敢に取り組むことになった]と声明した。 またダンカン教育
   長官もテネシー州では35.6%の子どもたちが体重過重であることを例示しながら、この超
   党派の法律はアメリカの次の世代を担う子どもたちの肥満を劇的に変えるものであると
   の声明を出した。

    新しいガイドライン 
     関連して2011年1月11日に次のようなガイドラインが農務省から発表された。
    1. 学校給食などでのカロリーの限度を示すこと。
    2. これから10年間、ソーダー類を減らすこと。 そして最終的には半分以下にすること。
    3, 高い脂肪分のものは禁止する。
    4. 果物や野菜をもっと提供すること。
    5. 低脂肪または脂肪なしのミルクにすること。 また風味をつけたミルクは脂肪なしに
     すること。
    6. 次第に穀物の量をふやすこと。しかも精白していないものにすること。
    7. 朝食では今出されているものに代えて穀物や蛋白質のものにすること。

                大統領夫人の貢献

    はじめに述べたようにこの法律にはMichelle Obama夫人も大きく貢献している。
   飢えと肥満撲滅運動として2009年に“Let's Move”運動を創設し精力的に、この問題に
   取り組んできた。 成人病といわれる高血圧や糖尿病が子どもたちにも増えてきているこ  
   と、三人に一人が肥満とされること、一方貧困にためにしばしば食事を抜かざるをえない
   子どもたちのことを懸念しての運動である。 そのために彼女は、
     ○ 子どもたちの食習慣を変えること。   ○ 運動の習慣をつけること。
     ○ 良い栄養の食物を与えること。     ○ これらは頭脳の力も高めることになる。
       などを提唱し具体的には次のようなことも求めている。

     ○ 次の三年間で6,000校にサラダ・バーを創る
     ○ 各地方教委はシェフやその地方の果物や野菜をつくる人たちとの連携を確立する
     ○ 学校に野菜農園を創ることを促進する。

    このような貢献振りについて新法成立に当たり、ホワイトハウス報道官も繰り返し述べて
   いる。

            従来の学校給食とその問題点

    アメリカでは193年代に学校給食に対する援助が始まったが、これは余剰農産物を処理す
   る農業政策のひとつであった
。 1946年に学校給食法: The National School Lunch Act
   が制定され[子どもの健康と福祉を保護し栄養価の高い農産物などの国内消費を促進する]
   とされた。 また無償、減額などの受給基準も定められた。
     
   問題点
    ○ 生徒が食べ物を選ぶ選択の自由がかなり大幅に認められていることである。
      牛乳だけの者、サンドイッチとフライドポテトだけの者、弁当持参なども認められ、また
      嫌いな物を残しても注意されることもないなどである。 教員も離れたところで食事する
      など、学校給食を教育の一環とするわが国あり方とは異なる。

    ○ 在米保護者の声や不安からみても、ジャンクフードといわれる脂肪分の高いハンバー
      ガーやピザ高カロリーで栄養価の低いファストフードなどが多いこと。 また、スナック
      や炭酸飲料がカフテリァや自動販売機で普通に売られていることである。 
      第79-2編で述べたように生徒に人気のある上位五つは、 @ビザ  Aチョコレートチッ
      プ・クッキー  Bコーン Cフレンチフライ  Dチッケンの塊である
が、このようなことが
      放任されていることである。

            わが国の学校給食
 
     敗戦後の混乱や食料難が続くなかララ物資が贈られてきて政府は学校給食を普及する
    通達を出し、1947年1月には全国都市部の300万人の生徒に学校給食を実施した。
    その後。全国の小学校に脱脂粉乳、パン、おかずの三つがそろった[完全給食]が呼びかけ
    られ、1954年には学校給食法が制定された。 その後、学習指導要領の改訂で[学級指導]
    に位置づけられ[教育]に変わった。  また、食生活の知識ゃマナーの指導も明記されるよ
    うになった。  共同調理場、いわゆる[センター方式]も取り入れられるようになった。
     このように、わが国でも最近、加工品ばかりを食べる傾向が強くなっているが、悪い生活
    習慣病にならない栄養バランスのよい食物を生徒たちにとらせるために、学校給食の役割
    は大きいといえよう。(この項、2011年1月15日 朝日新聞(夕刊)参照)

  参照資料: 本文記載のほか、フリー百科事典[ウイ]キペディア]、APP BBNews 2010.12.14号、
         The Palm Beach Post, NEWS,11月22日号
おわりに
    ご覧のとおりアメリカでは、新しい学校給食法でも連邦農務省が主管することは変わらない
   が、しかし学校で売られているすべての食物について、厳格な栄養基準を設ける権限を与え
   た
ことは大きな改善である。 しかし同時に[教育]と位置づけられているわが国のように、そ
   のあり方、すなわち生徒に大幅に認められている選択の自由をどの程度制限するか、また教
   員が一緒に食事し、どのように指導するかかについては今後の課題であろう。

    アメリカの課題をみるにつけ、わが国でも今後、生徒によい食生活を続けさせるための知識
   やマナーを含めて学校給食の果たす役割は益々大きくなっていくように思われる。

 2011年2月9日記           無断転載禁止