250 アメリカの教育判例を取り読む


杉田荘治


はじめに
    最近ある教育問題研究グループから、アメリカ(U,S.A.)の体罰、停学などの生徒懲戒に
   関する教育判例について講義してほしいとの依頼があった。
    確かにわが国の教育研究者で実際にそれらの判例を取って、読んでいる人は極めて少
   ないように思われる。 それは研究をはじめたころ、そのような経験をしないままに打ち過
   ぎているためであろう。 今は便利になって著名な教育判例はインターネットで容易に検索
   できるし、他の研究者のコメントなどを利用して自分の論文を書くこともできよう。
    しかしインターネットに流れているものは、その判例の概要であったり一部であったりして、
   そこから主旨の誤解や研究の浅さが生じることにもなる。 いやしくも生徒の懲戒問題の研
   究者であれば一度は実際にそれらの全文を取って読んでみることが必要であろう。

    今回はそのような趣旨から講義要綱を作成したが広く利用されることを期待している。

             アメリカの体罰判例


    今もって唯一の憲法問題の体罰に関する判例とされる『イングラハム』 Ingraham v.
   Wright (1977) 430 U.S. 651を例にとろう。

    名古屋大学中央図書館を利用する。 幸いなことにそこではその判例集は開架式であ
   り、ひとつのコーナーに纏められているので誰でも何時でも利用することができる。

    体罰問題は人権問題。従って連邦裁判所が取り扱うことになるが、その最高裁判決は
   総てU.S. Supreme Court Reporter に全文が載せられている。 しかも連邦最高裁が扱う
   事件は一年間に精精100件ほどであるから年度こどに一巻に収録されている。

    もっとも多少多かったり年度が跨っているものもあるが、いすせれにせよ大差はない。
    わが国の最高裁とは異なり、巡回裁判所(わが国の高等裁判所)に対して最高裁から
   その事件を最高裁に送るように命令されたものだけが実質的に審理されるので、年間そ
   れくらいの件数に収まるのである。 小法廷はない。 総て9人の裁判官の審理・判決で
   ある。

    目指す判例は前述のとおり1977年度判決であるから、その年度あたりのものを取れば
   よい。 実際には97巻Aにある
。 その巻のページをめくり上のほうに小さく記載されている
   430 U.S. 651を見つければよい。 651頁にある。


     開くと次のようになっている。 

     U.S. Supreme Court
     INGRAHAM v. WRIGHT, 430 U.S. 651 (1977)    430 U.S. 651

          INGRAHAM ET AL. v. WRIGHT ET AL.

 CERTIORARI TO THE UNITED STATES COURT OF APPEALS FOR THE
 FIFTH CIRCUIT   No. 75-6527.
       Argued November 2-3, 1976     Decided April 19, 1977  

            読む

    連邦最高裁 イングラハム(訴えた中学生) 対 ライト(校長), 第430巻 
     
連邦最高裁分 651ページ(1977年判決)

   イングラハムなど 対 ライトなど、   第5巡回裁判所に対して事件移送命令
   出されていた事件である。  No. 75-6527番、 1976年11月2日と3日に論点を
   議し、1977年4月19日に判決した。

   原告はフロリダ州のデイト郡の中学生。 学校職員たちが体罰を行なっていたこと
  に対して損害賠償と救済を求めて連邦地裁に訴えた。 フロリダ州の州条項が「校長
  どに相談した後、体罰する権限を教員に与えている」ことは憲法違反であるとして。

   前述のように体罰を受けたとして訴え出たのは、INGRAHAM ET AL
 とはフロリダ州
  デイト郡の中学二年生(8年生)とその友達の三年生(9年生)アンドリューという三年生(9年生)
  であり、訴えられたのはライトという校長と二名の教頭、デイト郡の教育長であった。

   このように親の参加なしに中学生でも訴えでることができるようになっている。もっとも法定
  代理人がついているが、この点がわが国の場合と異なる。 
しもか事件名としてINGRAHAM
   v. WRIGHT, 430 U.S. 651 (1977) として堂々と使われている。
 もっとも事件によっ
  ては秘匿される場合がある。 
後述する服装検査にかんする連邦最高裁判決のNEW
  JERSEY v. T.L.O. (469 U.S. 325 )
はその例である。
 この事件ケースではT.L.O.が
  生徒である。 しかしそのさいにも事件名としてはNEW JERSEY v. T.L.O.(469 U.S.
  325 )
として長く使われていることには変わりはない。 

    
申し立てによれば、
   Ingraham は教員の指導に対して反抗的であり応答が鈍かったので、校長室でパド
  ルで20回以上叩かれたといい、その打撃が大変きつかったため、血瘤で苦しみ医者
  の治療を受け、しかも数日間、学校に出席でなかったといっている。 またアンドリュ
  ウは、ちょっとした違反のために数回、バドルで腕を打たれ、そのために一週間、腕を
  満足に使えない状態であったと主張している。


    また当時、デイト郡の規則によれば体罰は長さ2フィート、幅4インチ、厚さ0,5イカチの木製
   のパドルで通常1
5回尻を叩くこととされていた。


    これに対して一審の地方裁は、生徒たちの証言に信憑性を見出さず、むしろ、かりに彼らの
   証言が信用できたとしても、なんら憲法上の救済は見出せないとした。 また事実認定につい
   ても、その程度は過度ではなく、野蛮なものでもなく、現代社会からみても許容できない程度で
   はなく「残酷で、しかも異常な刑罰」レベルには達していないと判断して、その訴えを退けた。

    二審の第5巡回裁判所も再審理の結果、結局一審の判断に賛成し、裁判所は、反抗的な子
   供にたいする叩きは、善い行ないを子供たちに促し、横着な生徒に責任感と正しい礼儀作法
   とを染込ませるために容認される方法であるとし、教員がある特定の非行について、10回の
   叩きより5回が適当であるかどうかを、われわれ司法上の決定として行なうことは間違っている。 
   われわれは、残酷で異常な刑罰や正当な法的手続き上の問題について一般的な基準によって
   判断すれば足りるとしたのである。

    最高裁は次のような判決要旨を述べた。

1 憲法修正8条関係について
 ○ アメリカは独立戦争以前から、体罰は普通法上、認められてきた。教員は正当な理由
   があり、しかも過度でなければ生徒の躾のために体罰を行なうことができる。 ただし
   その力が過度になり、あるいは正当な理由がない場合は民事上、刑事上の責任を免
   れることはできない。
 ○ 体罰を行なうにあたり、考慮されなければならないことは、非行の程度、生徒の態度や
   過去の行為、処罰の性質や程度、年齢、強さ、教育効果の大きいことなどである。
 ○ 23州の状況を調査したが、そのうち21州は、適当な体罰を公立学校において認めて
   いた。 またこれら21州のなかでも、ごく少数の州では次ぎのような制限を設けていた。 
   すなわち次のようなものがある。  ・親の承認や了知が必要なもの。  ・校長だけが
   行使できるもの。  ・他の大人の立会いが必要なもの。
 【註】 これらの州の一覧を載せているが省略する。

 ○ 生徒には憲法修正8条の保護規定を適用する必要はない。 というのは、生徒は学校
   へ行くことはそんなに勝手気ままにできるものではないにせよ、かなり自由に出席や欠
   席はできるし、公立学校は開かれた公共の施設である。1日の授業の終わりには必ず
   帰宅することができる。また学校にいる間でも絶えず友達家族に支えられており教員
   や友達と離れていることは極めて稀である。 そのことはいつも立会人がいるというこ
   とと同じである。
    このように公立学校の公開性と保護の状況は、憲法修正8条の趣旨を十分に含んで
   いるからである。
 ○ 反対意見は、この条文を運まかせのような広い読み方をしていることは明らかである。

【参考】 修正第8条....過大な額の保釈金を要求し、または過重な罰金を科してはならない。
             また残酷で異常な刑罰を科してはならない。
2 憲法修正14条関係について
  この条項は後述のとおり、正当な法的手続きを経ることなしに、いかなる人も生命・自由・
 財産を奪われることがないことを規定している。  しかし学校当局が州の法律の下、生徒
 の非行について、よく考えたうえで処罰することを決定し、適当な身体的苦痛を与えること
 は、この修正14条の自由尊重の趣旨に反しないどころか、十分その趣旨を含んでいるの
 である。
○ 学校当局が目的に照らして正当なものであれば、それは間違っていないどころか、むし
  ろ当然であり合法的である。
○ フロリダ州は絶えず、立法措置によって子供の権利を過度な体罰から守ろうとし続けて
   きた。
  すなわち、フロリダ州法によれば、教員と校長は非行を行なった生徒に対して、教育指導
  上、体罰を行なうかいなかを第一次的に決定する。しかし彼らはこれを慎重に、抑制的に
  行なわなければならない。

○ 処罰が過度であったり、正当な理由がなければ、学校当局は損害賠償責任を免れること
  はできないし、悪意(malice)であったことがわかれば刑事責任を追及されるかもしれない。

○ しかし、体罰を行なう前に予め、正式の手続きとしての弁論の機会を設けるべきであると
  されれば、申し立て人は、どんな体罰であっても、またそれがいかに妥当なものであって
  も、また極めて軽微なものであろうとも、その手続きを要求するであろう。 
このように極
  めて広い憲法上の要求を認めれば、それは教育の手段としての体罰は大変な重荷とな
  ろう。
○ 口頭弁論ーたとえそれが非公式なものであろうとも、時間がかかり人手もいり、正常な学
  校の教育活動にとっては大変なことである。 また体罰実施まで間をおくことは、かえって
  処罰を厳しいものにするかもしれない。なぜならば、その子供の心配を倍加させることにな
  るからである。

【参考】 修正第14条 〔1868年確定〕
 第一節 合衆国において出生し、またはこれに帰化し、その管轄権に服するすべての者は、
      合衆国およびその居住する州の市民である。いかなる州も合衆国市民の特権また
      は免除を制限する法律を制定あるいは施行してはならない。またいかなる州も、正
      当な法の手続きによらないで、何人からも生命、自由または財産を奪ってはならな

      い。またその管轄内にある何人に対しても法律の平等な保護を拒んではならない。

     V 結論

 体罰を廃止することは社会的進歩として、あるいは歓迎されるかもしれない。しかし最高裁
である当法廷がそのような権利主張の意見に従って体罰禁止という政策を採用するならば、
その社会的損失は大きいといわなければならない。

○ 躾教育という観点に立ってみれば、体罰は学校における普通の位置を占めている。 体
  罰濫用の発生率の低いこと、学校の公開性、普通法上の安全保障がすでに存在している
  ことを考えれば、生徒の権利が侵されるという危険性は最小限に近いものと考えてよかろ
  う。 従って、憲法上の要請だとして、さらに保障条件を加えることは、危険を最小限にす
  るかもしれないが、しかし教育が責任をもって行なわれるべき領域にまで侵入することに
  なるだろう。

○ 当法廷は公立学校における体罰実施にあたり、前もって口頭弁論の手続きをする必要
  がないと結論する。 それゆえに控訴裁の判断に同意する。
  判決を確定する。
   なお、ホワイト判事は不同意し、これにブレンナン判事、マーシャル判事、スティーブン
  判事が加わった。従って、連邦最高裁の裁判官は9名であるから、5 : 4 の多数判決で
  あった。

 そして最後に少数意見が述べられている。 (1419頁〜1428頁)
 この場合、少数説も重要であるから下記しよう。 すなわち、
    少数説 ホワイト判事の意見
   ○ 私は公立学校における、いかなる体罰についても禁止されている、といっている
     のではない。
     それがどんな野蛮であろうとも、また非人道的であろうとも、そんなことに一切無関
     係に憲法修正8条が適用されないとする多数説の意見に反対しているのである。

   ○ 修正14条の適法手続についても、私は何も丹精こめた口頭弁論による正式手続
     を主張しているのではない。
ただ生徒と懲戒権者との間のやりとりや生徒のいい
     わけを聞く機会を与えることの必要であるといっているのである。 「非公式なやり
     とり」に、ほんの数分間、割くことが適切な措置を生むことになると考える。 生徒
     に対して告発されている事実を通知し、それを生徒が否認すれば当局の持ってい
     る証拠を挙げて説明し、また生徒側からの弁明を聞く機会を与える。 このような教
     育的適法手続が必要であるとして、多数説に反対しているのである。

コメント
   ご覧のとおり、この判決は、5 : 4 の多数判決であったが、これを『体罰賛成 5』、『体
  罰反対 4』と誤解している論説があったがそうではない。

   多数説も州法や教委規則などで体罰禁止とされているところでは、勿論、体罰は違法で
  あるし、また禁止ではない場合でも、いろいろな条件が付けられている時は、それに拠ら
  なければならない。  また逆に体罰禁止の代替措置として停学などの処分が定めれて
  いる場合は、それを確実に実施しなければならないとした。
   従って教員による体罰は合衆国憲法修正第8条に定められている『残酷で異常な懲罰』
  には当ないとし、また修正第14条に規定する『厳格な適法手続き』を経て行使するほどの
  ことではない、とされたのである。

   一方、少数説も体罰によっては残酷で異常なものもありうるとし、従って厳格な適法手続
  は必要ないかもしれないが、何らかの体罰行使に至るまでの手続きは必要である、として
  いるのである。  従って両者の間にそれほど大きな違いはない。

参考 
  

二審(巡回裁判所)『イングラハム』判決を取る方法

    論説などには『イングラハム』事件の二審判決について、525 F.2d 909 (1976)と書
   かれていることがある。 また前述の最高裁判決のなかでも3ページあたりに、同じよ
   うに書かれている。

     第5巡回裁判所 1976年1月8日判決 No.73-2078 Ingraham Plaintiffs-
     Appellants, v. Wright, Individually, Deffendants-Appellees  

   一審の地裁はthe Southern District of Floridaが生徒と親の申したてを退けた。 

   また生徒たちは繰り返し木の定規で叩かれていたこと、クラスを混乱させたので連れ
   出され、8回〜10回叩かれたこと、あるときはWright校長は20回叩き、そのためアザ
   ができたり、母親が医者へ連れていったことなどが述べられている。

   それに対して裁判所は、反抗的な子供にたいする叩きは、善い行ないを子供たちに
  促し、横着な生徒に責任感と正しい礼儀作法とを染込ませるために容認される方法で
  あるとし、教員がある特定の非行について、10回の叩きより5回が適当であるかどうか
  を、われわれ司法上の決定として行なうことは間違っている。 われわれは、残酷で異
  常な刑罰や正当な法的手続き上の問題について一般的な基準によって判断すれば足
  りるとして退けたのである。


   これらの判決文を見ようとするさいは二審についてはFederal Reporters 2nd シリーズで
  1976年分の525. 909頁を探せばよいし、地裁についてはSuplement 298巻 248頁に載って
  いる。
そのいすれも名大中央図書館が所蔵し、また開架式である。


              アメリカの停学判例

     体罰と同様に、アメリカの生徒指導や停学に関する論文には、よく『ゴス』判決、
   Goss v. Lopez (1975), Goss v. Lopez (419 U.S. 565)などと書かれている。 それは
   これも今もって、連邦最高裁の停学についての唯一の判例であるからである。

 取る
    名大中央図書館   開架式   背表紙 Supreme Court Reporter 1975
   とにかく上のほうに小さく記載されている
 419 U.S. 565 を探していけばよい。 
   95巻 729頁〜749頁に載っている。
   −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   U.S. Supreme Court
   GOSS v. LOPEZ, 419 U.S. 565 (1975)  419 U.S. 565
         GOSS ET AL. v. LOPEZ ET AL.
  APPEAL FROM THE UNITED STATES DISTRICT COURT FOR THE SOUTHERN
  DISTRICT OF OHIO.   No. 73-898.
   Argued October 16, 1974.    Decided January 22, 1975.

   ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    ここではゴスとは教委生徒問題担当部長、またロペッツは停学になった高校生である。
     ロペッツが地裁へ訴えて出たのであるが、地裁はそれを認めたので教委側が
     これを不服として直接、最高裁へ上告した事件である。 したがってここでは上告した
    のは生徒指導担当部長、受けて立つのは生徒である。

 読む
  連邦最高裁 ゴス 対 ロペッツ、 第419巻 最高裁分 565ページ (1975年判決) 
  ゴスなど  対 ロペッツなど、 Ohio州南部地区連邦地裁からの上告 No. 73-898
  1974年10月16日に論点を審議し、1975年1月22日に判決した。
 

 1. 事件の概要
   Ohio州Colubus地区の公立高校生9名が、1971年2月から3月にかけて最大10日の停学
  になったが、処分に先だって、いいわけなどを事情聴取される機会は与えられなかった。

    
   その一人は授業が行なわれていた講堂でデモ行動をしていたが、校長の退去命令を拒
  んだので直ちに停学になった。 またある生徒は彼を講堂から連れ出そうとする警察官に
  体当たりの攻撃を加えたので直ちに停学になった。 その他の4名についても同様な経過
  である。
   また、ロペッツは学校のランチルームの器物が破壊された混乱に巻き込まれて停学に
  なったが、彼は「自分は破壊行動には加わっておらず、全くの傍観者である」といっている
  が、この事件の記録は残されていない。 その他、ある女子生徒は他の高校生のデモに参
  加し逮捕されたが、翌朝告訴されずに釈放された。しかし登校する前に10日間の停学に
  なった旨の通知を受け取った。 また9番目の生徒の停学についても記録は全く閉ざされた
  ままである。


 2. オハイオ州法 3313.66節
   この規則は校長に生徒の非行によって「10日間までの停学と退学」の権限を与えていた。 
  その場合、校長は24時間以内に親に通知し理由も述べなければならないと、とされている。 
  そして退学については、その後、教委による事情聴取の機会が与えられ、場合によっては
  復学も可能であるが、停学についてはそのような救済規定はなかった。

 3. 一審判決
   オハイオ州南部地区連邦地裁で3人判事による審理が行なわれ、次ぎのように判決した。
  ○ 緊急の場合を除き違反行為の事実、停学の予告と24時間以内に停学手続きを進める
    旨の通知をする必要がある。
  ○ 停学にした後、72時間以内に生徒も出席して事情聴取の機会を与える必要がある。 
    その際、違反行為の具体的事実、生徒に防御の手段与えることが必要である。
  ○ しかし本件についてみると、このほうな『適法手続き』は与えられなかった。 したがって
    州法は憲法違反である。


    そこでこの判決を不服として教委・学校側が上告したのである。
  【註】前述のように3人の判事によるものは、その一人は控訴裁判所判事であるが、その際
     は直ちに最高裁へ上告することができる。 この点、わが国とは異なる。


 4. 最高裁判決
   10日程度の停学は生徒の人生にとって重大なものである。 
     停学によって教育を受けるという利益が一時的にせよ拒否され、また本人の評判と
     いう「自由」の利益も損なわれる。
  ○ そこで基本的な要請としては停学以前の何らかの通知と何らかの事情聴取が必要で
    ある。 懲戒権者は、ほとんどの場合、信頼できる手段ににって職務を遂行しているが、
    それでも時々、事実を確認しないままに他人の報告やアドバイスによって処理すること
    がある。 その際、誤りを犯す危険性がないとはいえない。
     
  ○ しかしすへての停学について丹精こめた事情聴取の機会を与える必要はない。 しか
    し同時に生徒に違反行為について反省させ、今後不正はしないことを誓わせながら本
    人の話しも聞いてやることも大切である。 そのような機会が全く与えられず両者の間
    にコミュニケーションがない、というのも奇妙なことで、つたない生徒指導のあり方であ
    るといえよう。
  ○ 従って10日間やそこらの停学処分についての『適法手続き』とは、生徒に口頭または文
    書で違反の事実を示し、もし、それを生徒が否認すれば、当局のもっている証拠を示し
    て説明する必要があり、また生徒側に釈明の機会を与えるものでなければならない。
  ○ 一般的には、カウンセラーと相談すること、不服があれば反論すること、学校側の証
    人に反対尋問すること、自分の釈明を証明するための証人を確保することなどが考え
    られる。
  ○ なお、簡単なしつけのための停学については、ほとんどこれを問題視する必要もなか
    ろう。

     
   以上のように理由を述べ、さらに他人や器物に危害を与え学習環境を脅かすものなど、
  例外的な場合についても言及しているが骨子は上述のとおりである。 そして本件のどの
  停学についても事実は不明瞭であり、州法も憲法違反であるとした。  よって一審判決
  に同意しそのように確定した。

   パウエル判事は多数説に反対し、それに主席判事、グラックマン判事、レンクィスト判事が
  加わった。 従って5 : 4の判決であった。 
  パウエル判事に代表される少数説の理由は、司法による教育への介入の道を開く惧れが
  あり、1日の停学といえども『適法手続き』を求める惧れが出てくることを挙げた


コメント
  ご覧のとおり『ゴス』判決は「10日程度の停学」については『適法手続き』が必要であるとし
 たのであったが、その後、この判例は一人歩きして、例え「1日の停学」でも、また「居残り」の
 ようなちょっとした懲戒についても『適法手続き』を求めるような風潮を生み出してきたところ
 に問題がある。 
    
  停学のみならず生徒の懲戒について、生徒の権利尊重はよいとしても、実態は必ずしも
 判例の趣旨のようにはいかないという教訓を示している。 幸いなことには、わが国では停
 学については、生徒に対して説明したり、言い訳を聞いたり、また関係委員会や職員会議に
 諮ったりして慎重に行われているので。この判例の趣旨は十分に活かされていると考える。


  生徒の服装検査についての連邦最高裁判決

       
New Jersey v.T.L.O. 469 U.S.325 (1985)

取り方   これも名大中央図書館でSupreme Court Reporter 1985年版を検索していけば
      容易の取ることができる。


読み方  令状なしに学校職員が、このような状況のもとで生徒の服装検査ができるか否か
     が争われた事例であるが、連邦最高裁になってようやく[この服装検査は、いかなる
     点から見ても不合理なものではなく、ニュージァージ州最高裁の判断は間違っている。
     よっそれを破棄する]とされたものである。  詳細については筆者のホームページ
     第14編を見てほしいが、概要を下記しておこう。


   1980年3月7日、ニュージャージー州のある高校の便所で、二名の女子生徒が喫煙して
  いるのを 発見された。そのうちの一人が T.L.O.で、彼女は一年生であった。便所で喫煙
  することは校則違反で あったので、先生は二人を校長室へ連れていき、そこで副校長の
   C先生が取り調べに当たった。 一人は、すぐ「自分は校則に違反していた。」と認めたが、
   T.L.O.は「自分は今までも便所で喫煙したことはないし、今も全く喫っていなかった」と言
  い張った。

   そこで、C先生は、自分の部屋へ連れていって「財布の中を見せるように」といいそれを
  開いたところ、 一包みの紙巻きタバコが見つかった。 さらに調べていくと、一箱の紙巻き
  タバコの容器が見つかった。 彼の経験から判断すると、紙巻きタバコを持っているような
  生徒は、マリファナを持っていることが 多いので、麻薬を使用しているかもしれないと疑
  い、徹底的に財布の中を調べることにした。すると、 少量のマリファナとパイプ、空になっ
  たプラスチックの容器、1ドル紙幣で包れた相当のお金、T.L.Oに借金し ている者のリスト
  カード、そして、Tがマリファナ売人であることを示唆するような二通の手紙が出てきた。

  そこで、C先生は、彼女の母親と警察に通告し、麻薬売買の証拠を警察に手渡した。

   しかし、彼女は「学校での、C先生による服装・持ち物検査は法律にもとづかない違法
  のもので、それによって自分の事態が悪くさせられた」と主張した。 以下省略する。
  生徒名はT.L.Oと秘匿されているが、このように事件名としては堂々と使われている。

おわりに
  ご覧のようにアメリカの教育判例の取り方読み方について述べた。わが国の場合と比較し
 ながら活用されることを期待したい。
 なお後日、わが国の体罰判例や通知について述べる
 つもりである。

 平成23年(2011) 9月13日記        無断転載禁止