25. 体罰問題そのニ 「理由のある力の行使」は
  体罰ではない



Shoji Sugita
.................................................................................................................................................................................................                             
       ー 騒ぎをしずめたり、暴力行為を排除するなどのために、学校の教職員が、
        力を行使することは、体罰ではない ー

                                

                                                  
はじめに
   わが国では、学校教育法で禁じられている体罰と生徒の暴力行為を排除したり、騒ぎを静めて クラス
  の秩序を回復・維持したりするなど、合理的な理由のある場合、教職員が[力を行使]する 正当な行為
  とを混同して、その行為を違法視するきらいがあるが、そうではない。

 

   文部科学省は平成19年2月、次のような通知された。 これを確実に実施することが校内暴力の対策
  として有効である。 また最近、懸念されてきている“いじめ”対策としても重要であると考える。さらにい
  えばこの『通知』の本文には規定されず、その『別紙』としての形をとられたのは主旨からみて少し迫力
  に欠けるように思われる。 本文に規定されたほうがよい。

        問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知)
            18 文科初1019号 平成19年2月5日

     
別紙 学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰に関する考え方
       2 児童生徒を教室外に退去させる等の措置について

       (3) また児童生徒が学習を怠り、喧騒その他の行為により他の児童生徒の学習を妨げ
         るような場合には、他の児童生徒の学習上の妨害を排除し、教室内の秩序を維持
         するため、必要な間、やむを得ず教室外に退去させることは懲戒に当たらず、教育
         上必要な措置として差支えない。


T アメリカの場合
  
全米体罰・オールタナティブ教育研究センターの一覧表によれば、26州が体罰禁止であり、 24州が容
  認である[後掲]。もっとも、全米小児科アカデミーの資料によれば、28州が体罰禁止、22州が容認であ
  る。  このように内容の取り方によって多少、その数は異なるが、しかし、全ての州に共通していること
  は、[理由のある力の行使]については、すべての州法・地方教委規則で、これを正当化していることで
  ある。


  その共通したタイプ は次の例の通りである。
  1 Pennsylvania 州教委規則 12.5
     次の場合は、たとえ親やある教委が体罰に反対していても、力を行使することができる。
     @ 騒ぎを静める場合
     A 武器ゃ危険な物を持っている場合
     B 自己防衛の場合
     C 他人や器物を護る場合
   ちなみに、原文は次の通りである。
  22 Pa. Code § 12.5. Corporal punishment.
     (d) In situations where a parent or school board prohibits corporal punishment, reasonable
       force may still be used by teachers and school authorities under the following
       circumstances:
      (1) To quell a disturbance.
      (2) To obtain possession of weapons or other dangerous objects.
      (3) For the purpose of self-defense.
      (4) For the protection of persons or property.

  2  Virginia 州は体罰禁止であるが、[力の行使]については同様である。更に、その際、少しの肉体的
    痛みや怪我についても問題視していないのが特徴的である。 その関係部分の原文を載せておこう

       Code 22.1 - 279.1
    This definition shall not include physical pain, injury or discomfort caused by the use
   of incidental, minor or reasonable physical contact or other actions designed to maintain
   order and control as permitted in subdivision (i) of subsection A of this section or the use
   of reasonable and necessary force as permitted ..

  3  Maryland も体罰禁止であるが、この点については同様で、しかも秩序を回復するためにも正当である
    と、追加明示している。 関係原文省略。

   4 その他[理由のある力の行使]について、その制限条項を定めている地方教委がある。
    ○ Idaho, Independent School District of Boise City 3270
      [理由のある力の行使]については次の点を考慮すること。
     @ 適度なものであること。
     A 長く続く傷害を与えないこと。
     B 生徒の態度や過去の行為が考慮されること。
     C その罰の性質と強さ
     D そんなに厳しくなくとも効果のある方法て゛あること。
     E 他人の安全・安定

    ちなみに原文を付記する。
      Reasonable physical force should be commensurate with the circumstances of the
     situation, should be moderate, and should not cause permanent physical harm to the
     student. The following factors should be considered in using reasonable physical force
     for the reasons stated in this policy:
       - the purpose for using reasonable physical force;
       - attitude and past behavior of the child;
       - nature and severity of the punishment;
       - age and strength of the child;
       - availability of less severe but equally effective means of dealing with the situation, and;
       - safety and security of others.
    ○ South Dakota州のSioux Falls School District Section A: JKAでも同様であるが、詳細は省略
      する。
 
 提言 二   
U [理由のある力の行使]ガイドライン( 試案 )

   今後、わが国にあっても、[理由のある力の行使]が正当な行為であることを確認し、文部省・各都道府
  県教委が、そのガイドラインを定め、これを受けて各地方教委が地域の実状その他を考慮して規則を定め、
  さらに各学校が小・中・高校などの学校種別、生徒の実状その他を考え、親や保護者などの理解を含めて
  規則を制定されることを望みたい。 
   その際の制限条項は次のようなことが考えられよう。
    @ 児童・生徒( 以下生徒 )の性別、年齢、身体的状況、違反行為の程度は考慮されていたか。
    A 事前に生徒から" 言い訳 "を聞いたか。
    B できるだけ頭や耳などを避けるようになされたか。
    C 叱責、警告が本人( 事情によっては親を含む )になされていたか。
    D 同僚教師の立ち会いがあったか、あるいは同僚教師が近くにいたか。
    E 教頭、校長への報告があったか。
    F 状況に応じて、親への通知や説明がなされたか。
    G 教職経験の浅い教師などについての配慮がなされていたか。
    H 長時間、昼食をとらせない、また用便にいかせないことなどがなかったか。
    I 生徒指導日誌への記載はあったか。
    J [生徒心得]等による一般的注意があるか。
     
   これまで見てきたように[理由のある力の行使]は体罰とは異なり、クラスや学校の良い学習環境を保
  持したり、そのように回復したり、また他の生徒に危害が及ばないようにするなど自己防衛的な手段であ
  るが、力の行使を伴うことは同じであるから、やはり予め、その制限条項を定めておいたようがよい。  

  V 提言 三  ...... 校内謹慎 [校内停学
アメリカにおいては、小学生・中学生に対しても、その違反行為によっては停学やオールタナティブ・
スクールに送られることも一般的であるが、わが国においても、校内謹慎 [校内停学 ]・In-School Suspension の制度を確立されることを望みたい。
国民感情からみて、アメリカなどにみられるオールタナティブ・スクールを作って、しばしば問題を起こす生徒を一時的に、そこへ移すことは、かなり難しいかもしれないが、校内謹慎の措置を有効にとられれば、懲戒手段としては有効であろう。 「先公、俺の体に触れてよいのか。それは体罰だ」、また“無能なクラス担任” 、“冷たい学校・校長”といわれることを心配するあまり、すべての生徒を“丸抱え”しようとすること事態、無理が生じよう。そのような生徒の学習を確保する積極的な意味でも必要である。

まず、校内謹慎 [校内停学]を各地方教委におてい確立し、それを受けて各学校の姿勢を示したほうがよいように思われる。
 終わりに
 [よく話してきかせれば、聞き分けてくれる]という子育てや教育の方法は、わが国の伝統であり長所である。 その基本は今も変わっていないと思うが、しかし技術的には日進月歩し、また多様な価値観など、教職員には苦労も多いことだろうと考える。 しかし、彼ら自身が研修を重ねるとともに、次代の国民・良い市民を育てるという使命を自覚し、自信をもって[理由のある力]や懲戒に対処されることを望みたい。
 また教委なと゛においても、悪意ある、恣意的、残酷、過剰な体罰や[力の行使]については、それ相当に対処されるとともに、私観ガイドラインのように、もう少し、どのような方法、どの程度の懲戒かなどについて具体的にガイドラインを示すなどして、教職員に自信をもたせるように施策されることを
期待したい。

 2000年1月記             無断転載禁止


               追記(2003. 6. 19)    Texas州の場合

     The Dallas Morning News (6/18/2003)号によれば、連邦教育省の調査では、現在Texas州
    を含め23州では体罰は『合法』である。 もっとも地方教委で禁止している場合は違法である。また
    親の同意が必要なところは代替の懲戒を含めてそれによらなければならない。

     例えばTexas州でも、Dallas, Lewisville, Mosquite 教委では『合法』:Allowedであるが、
    Duncanville, Grand Praira教委では『親の同意がある場合』:Allowed, but parents may opt out
    であるし、Richardsonは『禁止』: Not allowed である。 なお州教育局の調査によれば、Texas州で
    1999年に、約390万人の生徒のうちで、約74,000名がパドルによる体罰を受けた。 男子83%   
    黒人生徒人口は14%であるが、体罰を受けた生徒では24% になる。
    また現在、Dallas教委は体罰禁止を考慮している。

.... 続く..体罰問題 その三 アメリカの規則・判例[原典]