262 『アメリカのために教える』グループの最近の
   一例と全米の状況


杉田荘治


はじめに
    第239編などで述べたようにアメリカ(U.S.A.)には『アメリカのために教える』という大学学部を
   卒業したばかりの学生たちが全米各地に展開して、その地方の低学力校のレベルアップを図る
   ため努力しているユニークなグループがある。 その名のとおりTeach For America corpse.
    最近、フロリダ州のある地方の活動が報じられているので、まずこれについて述べ、その後、
   全米の動きについて、最近の数字なども加味しながら概観することにする。

             
             最近の例 (フロリダ州JACKSONVILLE教委)

    2011年8月、フロリダ州JACKSONVILLE教委が管轄するDuval地方の公立学校へ60名の『ア
   メリカのために教える』グループのメンバーが到着した。
 二年間の契約が済んだ後、今までの
   例から考えると11名の者しか、その地方に残ってくれて、せめて5年間だけでも働いてくれる者
   がいないことが教委にとっては少し不満であるが、しかし彼らを受け入れて以来、彼らが果たし
   た業績を考えて暖かく新メンバーを歓迎している。

    前述のように2008年に、はじめて55名を受け入れたのであるが
彼らはよく2年間の約束を果
   たしてくれた。 そのうち6名の者が今でも、われわれの地方で働いてくれているし、4名の者は
   JACKSONVILLE地方のチャータースクールで働いている。


    前年に来て今、働いている者を含めると2012年度には110名になるが、22校の公立学校で勤
   務している。
 Lee高校長、Dennise博士も[彼らは偉大である。私はここ3年間、彼らと接してきた
   が大変よくやってくれた。今後もできるだけ多く迎えたい。]と述べている。

     左 John Gravier 君 
   2008年から働いている。 

   [JACKSONVILLEは革新的 
   で日々興奮して働くことが
   できる。]と言っている。

 右 Anne Yoncha さん
   2010年から働いている。
   [毎朝、さぁ今日もやるぞ、という
   気分になる。]と話している。

            彼らが勤務するJACKSONVILLE 教委管内とは

    彼らの勤務している22校はフロリダ州のなかでも最も学力の低い学校であり、その生徒の学力差
   も非常に大きい。
 70%以上の生徒が学校給食費の全額免除や一部免除を受けている。
   93%以上の生徒が一回以上、学校に留めおかれたことがあるし、高校卒業率は65%である。ことに
   アフリカ系の者は23%にすぎない。


   参考1 彼らが勤めるDuval郡とは
       全米では15番目になる大きな単独郡教委である。 フロリダ州では第6位

        生徒 12万3,000人    教員 8,600名  スタッフ 3,380
       学校 171校


   参考2 教員組合はAFT傘下のDuval Teachers United     教員給料について年額300ドルUpで
        郡教委と21012年に合意した。 その新年額は4万7,740ドルである。(1ドル=80円 では
        362万円となる。 我が国の教員給料と比較しても少ないといえよう)


   参考3 財政     33%はその地方で。  27%は州から。  13%は連邦政府から。
                27%はtransfers and balancesといわれる調整金


   参考4 最高のサラリーを受けているベスト15人の教員名とその年額が公表されているのが面白い。
       因みに2010年度 William EDという教員が最高でその額は27万5,000ドル  
       15位の教員は12万
ドル


   参考5 合法的な体罰も存在する。 Duval郡では2004年度 1万500人の生徒が受けていた。
        フロリダ州全体についていは252編を参照してください。 2005-2006年度、フロリダ州で体罰
        を受けた生徒は7,185人であり、全生徒数の3%に相当する。


                    『グループ』の全米の状況

    本部   315 W. 36th Street  New York, NY 10018 マンハッタンに在る。
       ・ 1988年にWendy KoppというPrinceton大學3年生が発案し、翌年、発足し1990年にはすで
         に6地域の学校へ500名のメンバーを派遣するようになった。
       ・ 2012年には全米の43箇所に9,000名以上のメンバーが展開している。
       ・ 幼稚園前教育から12年生まで担当している。 教科も10以上

    給料・手当て
        派遣された地方の新任教員と同じ待遇であるが、年給は3万ドル〜5万1,000ドルと差がある。

        その他に健康保険、退職手当、またアメリカ・グループ褒賞金、二年間ローン返済猶予、無
        利子ローン、奨学金1,000ドル〜6,000ドル、教育ディスカウント。大学院や雇用主からの優先
        的奨学金の保証などもところによってはある。
         このようにたんなるボランティア活動とは異なり、現実的な策が保証されている点が優れて
        いる。 長続きする理由であろう。

      『コメント』 上述のように彼らが派遣された43地域の新任教員の給料(年額)は3万ドル〜5万1,000
           ドルと差がある。 このことは全米的にみれば、もっとその差が大きいということを意味し
           ている。 因みに1ドル=80円とすると、240万円〜408万円となる。


            我が国の新任教員の年額はボーナスを含めて、月給20万円としても330万円、22万円
           とすれば363万円となる。 東京都と場合は月給23万4,500円といわれるので、その額
           は415万円となる。

            なおアメリカの二大教員組合も全米の新任教員の給料(年額)を発表している。2005年度
           でAFTでは、2万6476ドル、NEAでは2万9733ドルである。 1ドル=80円では約220万また
           は229万円となる。 このように新任教員の給料や現職教員の給料を比較しながら、アメ
           リカ公教育の問題点を探っていく方法も有益であろう。 第140編などを参照してください。


    現職教員との学習指導上の差
        第216編を参照してください。 例えば代数については、経験のある教員に教えられた生徒で
       は、優の成績をとる者が多いが、しかし良の成績は、このグループ教員に教えられた生徒が圧
       倒的に多い。 しかも不可の成績は、このグループ教員による生徒では少ない。 生物でも同じ
       ことがいえるが、地学では教職経験のある教員による指導が効果を挙げている。
        また体育では大差はないが、しかし教職経験のある教員に教えらている生徒に不可が多い。
       英語ではさすがに教職経験のある教員に教えられた生徒に優をとる生徒が多い。しかし良では
       逆である。

    批判
        不況のため退職教員が少なくなり、その補充教員も少なくなっているのに、このグ
       ループのメンバーがそれに取ってかわっているとの批判が最も強い。

    卒業生
        2年の活動を終えた“卒業生”は5万2000人といわれる。 校長、教育行政管理職が1,650名と
       のことである。 その他、第239編によってください。
    財政
       これについても第239編を見てください。 年間約1億8,900万ドルといわれるが、連邦からの支援、
       民間からの寄付、また勤務した地方からの寄付金などに拠る。その約4分の1を使って募集活動
       を行なっている。 そのためトップレベルの141大學にスタッフを置いて、募集のための行事や勧
       誘をしていることも強みである。

    参照資料  本文で記載の他。SUNSHINE REVIEW, 2012年2月8日号、 TENTATIVE BUDGET
           BRIEF DUVAL COUNTY PUBLIC SCHOOLS 2010-2011, Jacksonville.com, 2012年
           4月27日号、Wikipedia Teach For America.Inc

おわりに
    ご覧のとおりであるが、わが国では都市部や僻地に学力不振校や問題校が特に多いという事情もな
   いので、このような『グループ』の活動が生まれる余地は少ないであろう。  しかし
例えば愛知県が
   産業労働部労政担当局 就業促進課が主管して、昨年度、就業の機会を得ていない大学等の若年卒
   業生に対してNPO法人と連携して一ヶ月ほど事前研修を施して、小・中学校へ研修生として派遣し四
   月間、学校の仕事に従事して教育現場の研修を行うという事業で、相当の成果を挙げたと聞いている。 
   そのさい筆者の意見も参考にされたことを嬉しく思っている。

    なお本文で述べたように新任教員の給料や現職教員の給料を我が国のそれらと比較しながら、アメ
   リカ公教育の問題点を探っていく方法も実証的な研究の一つであろう。

平成24年(2012年)6月14日記        無断転載禁止