263 『2年で高校卒業可能に』問題


杉田荘治


はじめに
    今年6月2日、各メディアは『2年で高校可能に』と報じている。 なにごとにも慎重なわが国にあっ
   て遅きに失っしたとまではいえないが、それでもやや遅かったように思われる。しかし良い改正で
   賛成である。 
   筆者はこの問題について約10年前から第60編、第97編などで論じてきたが、最近わが国で新たな
   動きがあったので、これらを要約し、若干のコメントなどを付け加えることにしたい。

私観

    ご承知のように[戦前]でも、旧制高校、陸軍士官学校、海軍兵学校など一部の学校について、
   『飛び級入学』が制度とし行われていた。
 通常5年間で卒業する中学校(旧制)をその一年前の
   4年生の終わりに上述の学校を受験し合格し、入学できる制度であった。 さして問題はなくスムー
   ズに行われていたように思われる。 そして彼らは“4修”とか“4修者”として、やや羨望の対象で
   あった。

    その制度を今の制度に充てはめて考えると、高校2年生の終わりに受験し、合格し、大学に入学
   することになる。 さして問題はなかろう。 しかし彼らが大学を中途退学した場合は、学歴は高校
   卒ではなく、中学卒になるという懸念から、高校卒としたほうがよいという考えがあるが、[高校二
   年終了]でよいように思われる。 もし彼らが大学を中途退学した場合は、[○○大学中退]と記載
   すればよい。 また必要に応じて、その理由を説明すればよいであろう。

    
したがって筆者はむしろ高校卒としないほうがよいと考えている。人口統計調査の区分について
   はよく知らないが、むしろ[大学中退]の項などで救えないだろうか。


    次に現行の大学センター試験との関係で、
なんらか認定テストの必要性についてであるが、余り
   複雑なものにしないほうがよい。 ただ学生確保、[青田刈り]の手段として、この制度を悪用する
   ことも考えられよう。 したがってかなり高いレベルにしたほうがよいと考える。

    そのさい、現行の大学資格検定試験とは異なるものになるが、思い切ってこのテストを都道府県教
   委に委ねることができないものであろうか。

   教員免許状も都道府県教委が発行し、全国的に通用する。 実際の採用には、都道府県が独自の
   採用試験によっているが、これと同じような考え方である。 全国一律の認定テストのみに、とらわれ
   る必要はなかろう。

   「そんな.X 県の認定テストなんか認めない」という大学があればそれは仕方がない。受験できない
   だけのことである。 またその認定テストに合格して資格を得た高校2年生が、「やはり自分は高3の
   生活をエンジョイしたい」というのであれば、それもよかろう。
    認定テストの問題についても各都道府県教委が、その難易度なども検討して次第次第により適切
   なものになっていくであろうし、制度も定着しよう。 
問題作成委員の主力は高校教員にする方法も
   考えられよう。 現職教育のひとつにもなるし、第一、意欲も沸こう。

                 アメリカ(U.S.A.)のいくつかの例

  例1 12才の少年がシカゴ大学・医学大学院で順調に学ぶ
      Sho Yanoという名の12才の少年か゛2003年8月にChicago大學医学スクールに入学し、順
     調に学んでいる。周囲も自然にこれを受け入れている。

      彼の生活
    多くの子供たちは、この夏、キャンプやビーチで過ごしているが、彼は人の解剖用の死体を解剖
    したり、12ヵもある複雑な頭蓋の神経について学んでいる。しかも最初の幾つかのテストで“優”
    をとり、年長のクラスメートよりも良い履修振りである。  最初はクラスメートたちは彼に対して
    用心深かった。 しかし今や、彼と修士・博士コースの学生たちに大學が用意してくれている休憩
    所で生活を共にしながら打ち解けている。 「彼は私の予想を遥かに越えて優れている。 初めは、
    恥ずかしがり屋で少し戸惑ったが、
すぐ社会性にも富んだ奴だということがわかった。社会や政
    治についての問題意識も理解力も非常に鋭くて、よく観察している」
と同僚は語っている。

     8才までにSATT、Uテストで1,600満点のところ1,500点を取り、9才で大學へ入学した。 このこと
    については彼が学んだ生物の部門で最優秀賞を得て、4月に卒業した。

   
コメント 
     現在わが国における改正案とは大きく異なるが、しかし本人の社会性も問題ではないことが参
    考になろう。 
     なおSAT Tテストとはアメリカ大學委員会が実施するテストであるが正式にはStanford Assessment
     Test
Tのことである。正確にはSAT Reasoning Testと呼ばれる。 SATUテストとは正しくはSubject
     Testといわれる。
専門教科の能力を問うテストで各大学はその一つ以上を受けてくることを義務づけて
     いる。
 Harvard大學へ毎年約10名、高校の成績証明書なしに
SATT、SATUテストの高得点
    のほかエッセイ、面接、推薦書によって入学している。その他多くの大學がこれに準じている。
    従って年齢制限も、緩やかであることが、わが国と大きく異なる。

     その科目その他については第152編 アメリカのSATT・SATUテストとわが国の
   『センター試験』
を参照してください。


   例2 
テキサス州の飛び級高校卒制度

     テキサス州では、地方教委が夏休みに開くサマー・スクールで高校生が一定の単位を取れば、1年
    早く高校を卒業することができる。 このことについて、質問したところ、Texas高等教育調整委員会
    のRay Grasshoff さん(政府と連携担当副部長)からの回答があった。
     このように夏休み中に、どれくらいの単位を取るか、また各地方教委による認定テストの難易度に
    ついてはわからないが、とに角これだけの高校生が1年早く飛び級し、しかも一時金としての奨学金
    を得ていることに驚いている。  その他、第60編をみてください。

   例3 
 カリフォルニア州の『英才児飛び級州立コミュニティ・カレッジ入学』法案
     その法案は次ぎのとおりである。
       『極めて優秀な生徒』 (Exceptionally gifted pupils)
     現行では16才またはそれ以上の生徒で、しかも10学年の課程を修了し、州教育省のテストに合格
     した者、およびそれと同等程度と証明された者にのみ大学受検資格が与えられているが、これを
     改正して『極めて優秀な生徒』と認められた者は、
16才以下でもコミュニティ・カレッジ(州立2年制
     大学)への出願資格を認める。


   ○ この例外的な措置は
州コミュニティ・カレッジの入学についてのみ適用される。
   ○ その生徒は、大人の学習環境で独立してやっていけることを示してみせるか、あるいは親や保護
     者が、その生徒が大学キャンパスで安全で幸福にやっていけるようにサポートできることを示さなけ
     ればならない。
   ○ その生徒の担任または学校管理職が、学力的に十分やっていけることを証明すること。

     これに対する賛否
    法案の提出者である議員は「非常に優れた能力を持っている生徒に障壁を設けているのは間違って
    いる」といっている。
     しかし、これを批判する人たちは、「これでは多くのコミュニティ・カレッジを一層複雑なものにしてし
    もう。またなるほど学問的には極めて優秀であっても、社会的、情緒的に年長の学生たちと交わって
    いくことは難しいかもしれない」として反対している。

     結果    法案成立せず
      やはり「幼稚園児でも大学へ飛び級入学ができる」とマスコミが報じたように、余りにも若い年少者
    の成熟度や州教育省の反対意見、コミュニティ・カレッジの否定的態度などを考慮しての結果であろ
    う。

 おわりに
    高校2年生の終わりに受験し、優れた者は合格し、大学に入学することに賛成のこと、その際 [高校
   二年終了]でよいように思われること、また認定テストかなり高いレベルにしたほうがよいとこと、その
   さい、現行の大学資格検定試験とは異なるものになるが、このテストを都道府県教委に委ねることがで
   きないものであろうかなどについて述べた。 1998年に初めて千葉大学で実施されてから、今までに
   6大学で僅か101名しか『飛び級入学』をしていないとのことである。 
    アメリカではSATT、SATUテストを重視するなど、わが国の場合とはかなり異なるが、しかしそれら
   も参考にしながら広くこの制度を検討され、拡充されていくことを期待している。

 平成24年(2012年)6月23日記        無断転載禁止