U 州の事例
 
V Montana州    Baldridg v. Rosebud 県教委 事件
            Montana州最高裁 1997. 12. 30 判決    No. 97--230  870 P,2d 711
            
はじめに
 事件は 1988年に起こったものであるが、最終的に解雇と決定されるまでに 9年かかり、その
間、県の教育長や州の教育長、地裁を巻き込み、二転、三転したケースである。
1 事実
   B は高校で理科のいろいろな科目を教えている評判の良い教員で、いつも最高の勤務評
  定を得ていた。 しかし、教委や教育長からは、良い教員ではあるが問題を起こしそうな教員
  とも見られていた。
   1988年 高校長は生徒の親から、その後 [手袋事件]として知れ渡ることになる彼がクラス
  で起こした件についての苦情を受けた。
  それは授業中に実験室を掃除したさい、ある女子生徒に、自分の手と指にゴム手袋を嵌め
  てくれるように頼みながら 「女子のホ゛ランティア活動をしてもらえますか ?」といったことで
  ある。 しかも彼は、その日、いくつかのクラスで、そのようなことを言ったことを認めている。
○ 予備調査の結果、さらに調査をする必要があるとして、[有給の停職]となり、それ以外の
  不適な行為についても調べられ、聴聞会の結果、[無能力]、[不適任]、[教委規則違反]と
  して解雇された (1988. 5, 16)。
○ そこで彼は県の教育長に申し出て、聴聞会が開かれ、彼、教委、多くの生徒らが証言した
  が、それは例の[手袋事件]を含めて 9件あった。 ( そのうち特に問題になった7件を後述
  する )
○ 県の教育長は そのような事実はあったであろうし、彼の振る舞いは不適当で常識から外
  れていたが冗談の域を出ず、性的・男根の意図はなかった、また生徒も悪く影響されてい
  ないと判断し、解雇に相当する事由に当たらないとして、彼の解雇を取り消した。
○ この取り消し処分を不服として、今度は教育区教委が州の教育長に異議を申し立てた。
  すると州教育長は、県教育長の決定を覆して、彼はいくつかの間違いをおかしたとして、
  解雇を支持した。
  そこで彼は、地裁に訴えを起こした。
  地裁は、県教育長の判断は誤っていたとして、その解雇処分は正しいと判決した。


  そこで、彼が控訴してきたのである。
2 問題点
  県教育長は彼の 7件の非行について審議した。すなわち、
@  いわゆる[ 手袋事件 ]。 「女子のボランティア活動をしてもらえますか」など前述の通り。
  しかもその日、3クラスでそのように言った。
A  授業日以外の登校日に、ある女子生徒と言い争いをしていたとき、stop, drop and blow
  と言った。 彼によれば、stop は、その争いを止めよう、 drop は、その問題を止めようと
  いう意味であり、blow は女性の性器を膨らませる’という意味であるが、その時、そんなこ
  とは言わなかった。
B 彼は、よく冗談にクラスで、男の睾丸を意味するような言葉を使った。
C 生徒と話し合っている時、性交渉を意味するような指をチクリと刺すしぐさをして、時にはシ
  ンデレラもそうしたなどと話した。
D 同じように、授業日、校内で性行為を連想されるような指の使い方をしてみせた。
E ある女子生徒が 「月のもののため、立つことが出来ない」と言った時、彼は 「それは酷い
  月だなあ」と応じた。
F 数人の生徒に「小さな子供のようにキァキァと泣いたら、20ドル やろう」と言った。
 以上について審議した結果、そのいずれも教員が生徒に対してするには不適当な行為であ
る。高校生に教えることとは何ら関係のない行為であり、教員という立場を疎かにしている。
ことに男子の睾丸を意味することを、しばしば言ったこと、月経のこと、性行為を意味するよう
な動作などがそうである。
3 控訴審としての結論
 彼の行為は違法であり、解雇処分を正当とした地裁の判断は正しい。 従って、そのように
確定する。  他の 二名も同意見。 しかし、二名の判事は反対意見。故に 3 : 2 の多数説
4 反対意見の骨子          
参考になると思うので、反対意見の骨子を述べておこう。
・ 彼の行為の事実は認めるが、その言動の意味あいの取り方が、人によって異なる。 証人
 の証言も分かれているし、その与えた影響度も異なる。
・ 彼は学校でも地域でも、極めて評判の良い教員であり、勤務評定も優秀であった。
 同僚教員も [彼は他の教員よりも長く学校に居残り、学校の諸活動をよく支え、模範教員
 である]と証言している。 唯一の批判的な評価は、教育区教育長との関係が悪い、という
 ことである。
・ いわゆる 手袋事件の後でも、余り生徒に悪い影響を与えていない。 Stop, Drop and Blow
  の件もある生徒と言い争っていた時のことである。 また [子供のようにキァキァ言ったら、
 20ドル やろう ]といったのも、一人の生徒をからかっていた生徒たちに言った言葉であった。
・ 男根を意味するようなことも、希には他の教員たちもしている。
・ [粗い月だなあ]と言ったことも、彼はすぐ気付いて、皆の前で謝っている。
以上の理由で、彼の行為は解雇事由にまではならない。
コメント】
 勤務成績も評判も良い教員であるが、平素から 問題を起こしそうな教員でもあるとみなされ
ていた高校教員が、ついに [手袋事件]を起こし、解雇決定まで 9年もかかった件である。 悪
質な、しかも性的な言動が習性になっているなら解雇もやむを得ないが、わが国では、厳重な
文書による戒告、一定期間の停職、自発的な辞職などの方法が模索されていくであろう。
W Conneticut 州     Appleton v. Board of Educ. of Stonington 事件
        730 A. 2d 88 ( Connecticut App. Ct. 1999 ) Connecticut 控訴裁 1999.5. 11 判決
はじめに
  A は情緒不安定についての偏見をもって、教委が自分を自発的な辞職に追い込んだとして
 訴えたが、地裁は教委側に立って、その措置を支持した。 そこで、控訴してきたものである
1 事実
控訴審にありがちなことであるが、事実は今一つ、はっきりしないが次のようである。
○ 彼女は放課後の生徒の取り扱いについて、うまく出来なかったとされるが、その一つは
  生徒をバスに乗せるさい、点呼がうまく出来なかったり、また、一人の生徒に理由もなく、
  放課後の行事に出ずに家に帰えるように言った。
○ また、同僚が [彼女の行動が変だ]といったので、副校長は学校の精神科医と相談し、
  [有給の休暇 ]と決定された。そこで、学校側の弁護士、組合の代表も出席して会合がも
  たれ、精神科医からは [復職可能]の意見書が出されたが、結局 [自発的に教職は辞職]
  するとの合意に達した。
   そして、カリキュラムの助手として勤めることになったが、その後、これを不満として訴
  えた。 ところが、地裁は教委の措置を支持たので控訴したものである。。
2 控訴審としての判断
 地裁は [自発的に教職を辞職する ]としたことを、もっと慎重に審理する必要があると考える。
しかし、偏見をもってなされた措置である、と彼女はいっているが、それは認めない。
 地裁は、彼女の行動が大人として、極めて非常識なものであるかどうかについて、よく審理
すべきであったのに、やや安易に教委側に立って判決した。
よって、地裁へ差し戻す。    全員一致による意見
【 コメント 】
  [自発的な教職の辞職]という合意があったにせよ、正式採用教員の権利を尊重して、地
 裁は、もっと慎重に解雇事由に当たるかどうか、審理せよとしたアメリカらしい判決といえよ
 うか。
X  New york 州  1 Mescall v. Marra 事件  No. 98 Civ. 0017 , 49 F.Supp.2d 365                           連邦地裁 S.D. New York 1999. 6. 11 判決
  上述のように連邦地裁のものであるが、それは組合活動の表現の自由にからめて、訴えを
 起こしたからである。 内容的には試補教員を正式採用にするかどうかの件で、複雑なもので
 はない。概要だけを述べておこう。
1 事実
   M は 1994年から 3年間、試補教員として、またガイダンス・カウンセラとして、早期幼児セ
  ンターと小学校に勤務していたが、車の事故にあって背中と首を痛め、1995年度は 5日間、
  また1996年度には 9日間、欠勤した。 その他で合計、21日 欠勤し、しかも休日の前にそれ
  が多かった。 彼女は、それは首が再び痛みだしたためだと弁明している。
   彼女は 「若い子供は苦手、拒否したい」といっていたが、それは以前、ある幼児から椅子
  を投げつけられたことがあったからである。 現に、その幼児がいるクラスに入るのを嫌った。
  そこで 管理職は ランチタイムの管理から彼女を外すなどの配慮をした。
   3年の試補期間を過ぎて、一年延長され、二名の評定者が授業を観察し続けた。
  この間、彼女は組合機関紙を校内に持ち込んでいたので、「そんなことをし続けるならば、
  不満足になる」と注意を受けた。 もっとも、そのことについて組合の委員長が管理職に質問
  したこともある。
1997年 7月 31日 正式採用教員にはされず解雇された。
理由
  ・ 欠勤日数、 ことに、それが休日前に多いこと。
  ・ 幼い子供を嫌うこと。
  ・ クラスルームの管理が恣意的なこと。
  ・ 時間についてルーズ
  ・ 提出せとする指示を無視すること。
 もっとも彼女は、欠勤は治療のため、またそれは、これから長く続くものではない、[ 指示に
従わない]は、校長の指示そのものが曖昧 または、仕事に関係のない要求にもとづくもの、
[私の組合活動]についての偏見である、などと反論していた。
2 判決
    教委の正式採用にしないとする処分を認める。 但し、表現の自由を侵されたとする彼
    女の主張を認める。  
【 コメント 】
   試補教員を正式採用にするか否かについて、教委の裁量が大幅に認められる。 交通事
   故による鞭打ち によるものではあろうが、欠勤の状態、幼い子供を避けることなどを勘案
   して、正式採用になれなかった例である。 但し、組合活動については[表現の自由]は認めた。
New York 州 2.   Forte v. Mills 事件
           New York 州地裁 1998. 5. 7 判決  250 A. D. 2d 882 , 672 N.Y.S.2d 497
 F は Nassar県 Manhasset 連合教育区の体育教員であったが、警告されていたにもかかわ
らず、4年生と 5年生のドレス・スリップの背中や胸の紐をパチンと鳴らすことを止めなかったの
で、不服従、不適格 として解雇された。 [ 生徒を動機づける手段として ] と弁明したが認めら
れなかった。
Y  South Carolina 州
          Hall v. Sumter 県第二教育区 事件     330 S.C.402 No.281
          South Carolina 控訴裁 1998. 4. 23 判決 499 S.E.2d 216    
はじめに

  同僚教員に頼まれて、臨時の修学旅行の付き添え教員になったが、旅行先で、他のホテ
ルに泊まったために、生徒の管理を怠ったとして [ 不適格 ]として解雇された。
しかし、教委や校長の事前の指示が明確でなかったとして、地裁は解雇を取り消したので、こ
れを不服として、教委が控訴したものである。
1 事実
   Hは Sumter 県のFurman 高校のメディア教育担当の教員として 15年、勤めていた。
  1996年 同僚教員が引率責任者として、Floridaへ修学旅行 ( クラス )へ行くことになり、付
 き添えの協力をしてくれないかと頼まれた。 そのさい、仕事としては Florida への旅行中の
 生徒の管理と旅行先の商店街での生徒の管理 ということであった。
   ところがHは Florida で、他の友達と別のホテルに泊まった。
  このために教委は [ 不服従 ][ 不適格 ]として解雇した。
○ しかし地裁は、それまで学校では、校外行事や修学旅行の付き添えの仕事についての文
  書化された規定はなかったこと、校長が彼ら同志の取り決めを知らなかった落ち度などを
  理由に、その解雇を取り消した。
2 結論 (控訴審の判断)
 ○ 前述の理由の他に、不服従とは意図的に法律や指示を無視することであるが、Hには、
   そのような意図はなかった。 面接のさい、動転し興奮して、声高に話したとしても、それは
   不服従ではない。
 ○ その後、メディア スペシャリストとしての職務に影響を与えていない。
従って教委の控訴を退けて、地裁の判決 (解雇の取り消し)のとおり確定する。
【 コメント 】 付き添え教員としては、やや非常識であり、また面接のさい、大声で話したことを
       不服従とされたものであろうが、わが国では、この程度のことでは解雇しないてあろ
       う。 むしろ、校長や管理職を含めた事前の打合わせが不十分であったことが問題
       視されよう。
  2000年8月末 記                 無断転載禁止