W クラス担任はずしの判例
クラス担任を学年途中で、はずしたことを校長の裁量権濫用とされた例である。異例といえよう
横浜地裁  平成 10. 3. 27 判決       『判例時報』 1667号
1 事実
  X教諭は 一年生から二年生担任として持ち上がったが、彼女のクラスの生徒A は、一年
 生 (平成 5年 2月) から一時、登校拒否の状態になった。 二年生になっても、そうであったの
 で、母親は総合教育センターなどへ連れていったりしたが、「担任の指導が厳しすぎる」とし
 て転校を希望した。

  そこで校長は、その担任に相談せずに、5月 24日、その生徒を校長室登校にした。その後、
 「クラスへ戻したい」と校長がいったが、担任はこれを拒否した。

  そこで校長は、6月 17日に彼女を担任からはずしたが、彼女は絶望感に陥り、自律神経症
  になり休職した。 平成 6年7月に復職し、翌年度の始めに他の小学校へ転勤した。
  一方、その生徒も他校へ転校している。  
○ 校長側の言い分
  ・ 担任の問題について職員会議を開いている。
  ・ 事前に 「 登校拒否の生徒がおれば申し出てほしい 」 といった時にも 、その担任からは、
   なにら報告がなく、確認したところ 「 その生徒は登校拒否ではない 」と答えていた。
  ・ 2年 4組の緊急保護者会を開いている。 もっとも、それは[ 担任が病気になったので、担
   任を変える ]と説明しただけだった。
  ・ その後、校長室登校にしたことを詫びたが、彼女は興奮して 「その生徒は、もはや私の
   クラスの生徒ではない」といった。
  ・ 一方、生徒の母親も 「担任が会って謝罪したいといっている」と学校側が伝えたが、近く
   にいたにもかかわらず担任に会わない。  とにかく担任を変えてほしい」との意見を変え
   なかった。
2 判決理由の骨子
 ○ 生徒には他動性てんかん症があり、それが登校拒否の原因と思われる。
 ○ 校長が、彼女の了解を得ることなく、校長室登校にした。
 ○ その後、その生徒をクラスに受け入れるように要請したが、拒否されたので、担任をは
   ずした。 また、彼女が夫とともに校長を訪れたさい、「校長のいうことを聞かない者を処
   分して何が悪い」と言った。
 ○ 彼女の休職中、保護者の一部、クラスの生徒たち、他のクラスの生徒たちから、激励の
   手紙が相当寄せられた。
 ○ この問題のために、クラスに深刻な混乱が生じて、クラスの健全な運営が困難になった
   わけではなかった。
3 判決  校長の裁量権濫用とし、国家賠償法による慰謝料と休職中の給料の保障を命じた。
【コメント 誤解のないように述べておくならば、クラス担任の決定や、時には、担任はずしも校
      長の権限とされるのが一般的である。 次の判例も、すべて [校長の裁量権]内とされ
      たものである。

      ○ 広島地裁  昭和 61. 11. 19 判決   広島高裁  平成 2. 9. 13
      ○ 名古屋地裁  昭和 62. 4. 15      ○ 名古屋地裁  平成 2. 11. 30

  従って上記は珍しい事例であるが、保護者のエゴや “ 好き嫌い ”についても注意する必要
 がある教訓を含んでいるように思われる。

X 転任(転職)の判例
  幼稚園長を本人の意に反して、市立郷土資料館の一般職へ転任 (転職)されたことが認め
 られた例である。
 高松高裁  平成 5. 9. 16 判決         『 判例タイムズ 』 859号
1 経過の概要
  Xは 昭和 28. 5. 1 、村立幼稚園助教諭として採用され、昭和 57. 4 月から、市立幼稚園
  長に任 命され た。
  着任後まもなく、PTA会長に歓迎されず、また職員や保護者との間で、その園児の指導
  方針を巡って不和があった。
    運動会の忙しい時に、要点のない話しを 30分以上もしたり、また、遠足のさい、園児の
  首をつかんで並べて写真撮影をしたり、あるときは園児の前で先生を叱ったりした。

  その後、15項目にわたる嘆願書が、保護者から教委に出されたりしたが、遂に [ 他へ配
  置替えしてほしい ]との要望書(150名)が出された。
  その噂を聞いた他の幼稚園の地区の人たちから、[異動させないように]との要望が教
  委に寄せられた。
   ところが教委は、幼児教育について不適格と判断して、転職先を検討したが、教育職の
  まま転任させる先がなかったので、その経験を活かすことができる郷土資料館の係長相
  当職の[主幹補]の職を新たに設けて転任(転職)させた。 給料も同じとした。
2 判決     一審と同様に、この二審でも転任(転職)処分は認められた。
          なお、その前に市公平委でも同様の裁決。
【コメント】 今後、このような教育職から一般職への転出も増えることが予想されるが参考に
       なろう。 PTA会長との折り合いが悪いだけではなく、保護者からの要望などから
       やむを得ない措置と思われる。

  また別の例として、ある小学校で、担任とクラスの保護者との間で紛争が生じ混乱した
  ことから校長が、職務命令として、その担任に校外で [当分の間、研修 ]を命じたことを
  適法とされたものがある。( 最高裁 第二小法廷 平成 3. 4. 26 ) 『判例時報』 平成 5年版
  199, 金版 908,30
  2000年9月記                     無断転載禁止