杉田 荘治:Shoji Sugita 52 NEAの2001年次大会
50 AFT とNEAのチャーター・スクールに関する見解
はじめに
昨年(2001) 12月中旬、友人のKさんから｢AFTとNEAはどう違うのか。 また日教組は毎年、
NEAの大会に招かれているようだが?｣と尋ねられた。
私も、それまではAFTはアメリカ労働総同盟(AFL-CIO) の一単組としての教員組合(労働組
合)であるが、NEAはそうではなくて、自分たちの教職員としての職能成長を図ることを主と
する教職員団体であると思っていたので調べてみることにした。
そこでWWW上に載せられている、それぞれの主張や行動、報告などを読んでみて、ある程
度、理解することができたが、今一つ肝心な点がわからなかったので、少し知っているアメリ
カの有識者にE-mailで質問したところ、後述のような回答が寄せられた。
そこで再び、資料を読んでみて、NEA の変容の様子を相当理解することができた。またBob
Chase会長の第２回『ナショナル・プレスクラブでの演説』が変容をよく表しているように思えた
ので、それをも詳述する。 その後、会長に就任した後の最初の演説について述べて、次に
『9月11日、同時多発テロ事件についての基金』についての両者の協力関係などについて述
べることにしたい。
なお、チャーター・スクールに関する両者の見解は第50編のとおりである。
【註】 NEA: National Education Association AFT: American Federation of Teachers
Ⅰ アメリカの有識者からの回答
１ 連邦生徒指導問題研究所のR.S.博士から
○ AFT, NEA ともに労働組合です( both labor unions )が、NEAが最大です。
○ ここ数年、両者は合併(merging) しようとする論議がなされていますが、まだ実現してい
ません。 しかし、いずれ将来、実現するでしょう。
２ Indiana大学のM.M.博士から
○ 最初は両者は大変、違っていました。すなわちAFTは労働組合でしたが、NEAは職業的
な協会として機能していました。 しかし両者は急速に接近して、今やNEAも組合と呼ば
れています。
○ 両者は団体交渉で、それぞれ教委管内で教員の代表として指名され、議題を交渉によっ
て解決しています。
○ ここ数年、合併しようとする提案がなされているようですが、ある理由のために実現して
いません。
３ Detroit市教委のL.L.博士から
○ NEA はAFTと同じように高い賃金、勤務条件の改善などで団体交渉をやっています。
ストライキもやりかねません。
○ NEAはAFTより、よりよくやろうとして自分たちを高揚させています。 ここ数年、両者は
区別できないほどになってきています。
○ 私の推測によれば、AFTは大都会でNEAよりも行動的です。
○ 一般的には、どちらか一方の組合に入っています。
○ NEAとAFTは、『9月11日の犠牲者』のために協力して、NEAFTという災害救済基金を
設けました。このことは両者の関係を表していましょう。
４ California州Y郡教育長のR.T.さんから
○ アメリカのある州では組合加入は自由ですが、ある州では強制的です。
○ 組合費はサラリーによって違いますが、１年間に700ドルー500ドルです。
○ AFT, NEA ともに全国的な組織で、州、地区をそれぞれ代表して、私のような雇用主と
交渉します。
○ AFTは他の労働組合と同様に労働組合として発展し、現在もその目的を残しています。
NEAは職業的な組織として発足しましたが、今やAFTと同じような組合に変わってきて
います。
○ AFTは今ではNEAより、ずっと小さくなり、国内における影響力は小さくなってきています。
その他、私の意見としては、今では教職の専門性は低下し、学校や生徒に対する献身や
意欲も低下しています。それでいて、サラリーもかなりよく、多くの権利をもつようになりました。
○ ある教委管内では多くの労働問題も起こっていますが、一方ではNEAと学校当局は子供
たちをルーズにするような教育を心配し論議しています。
Ⅱ Bob Chase NEA会長のプレスクラブにおける演説 1998. 2. 11
この演説は1997年に続いて２回目のものであるが、"new unionism"が強調されている。 新
しい組合主義、新しい組合の精神、あり方、目指すものなどといえよう。 ここでは『新しい組合
運動』といっておこう。自信をつけてきているが、その要点を述べよう。
① 昨年、私はここで演説しましたが、再び“パンとバター”の問題に交渉を集中させることから、
教育の質に問題を集中させるときが来たといいたい。 子供の教育のために地域や学校管
理の側とも共同して、さらには、われわれ同僚の力量を向上させることに、もっと責任を負う
ということです。
② 『新しい組合運動』について、もっと詳しく説明しましょう。
それは、たんなる理論ではなく物事の基本を、きちっと実行することです。 学校当局と衝突
するのではなく共同することです。 教育の質を高めるために責任を負うことです。 また危
険を冒すことを恐れないことです。すなわち、難しいことに挑戦し創りだし、慣例にとらわれな
いようにすることです。
昨年ある教員が、｢Bob,あの演説を聞いて目が覚めた思いがした｣といってくれましたが、わ
れわれはこの運動は発作的なものではなく、恒常的なものですが、[共同すること]、[責任を
負うこと]、[危険を冒すことを恐れないこと]について説明しましょう。
③ 共同すること
最近、NEAは教委代表者、行政官、親、事業家のリーダーたちと高いレベルの協議を行い
ました。 この学習第１同盟は、大げさな言葉や音響だけのものではなく、実際に共同すべ
き事項を設定するものです。
先月、Nebraska州のkearneyでは、わがNebraska教育協会は、教委、行政官、親たちと学
校が必要なものについて会合しましたし、California州のSan Berardinoでは、わが地方NEA
は学習指導の技術、学校評価の改善、安全な学校について、親、事業家のリーダー、法の執
行官その他の人たちと一緒に行動することをきめました。 いかなる人も自分の強いところを
知るとともに弱いところも知らなければ改善はできないものです。
④ 責任を果たすこと
Ohio州のDaytonでは、地方NEAは生徒の成績向上のために、教委側と学校予算の決定権
が与えられることを含めて交渉し、生徒の利益のためにその決定権が与えられることを発見
しました。
Kentucky州では、正式採用前教育研修について困難な問題に応えてやる役割を担い、校長
などと共同して新任教員の知識や技能のためにも貢献しています。 Illinois州ではコミュニティ
とともに、また学習指導提携、事業主や市民グループなどの連立のリーダでもあります。
Wisconsin州のMilwaukeeでは、教員勤務評定と同僚教員を助け、また批評するシステムに
ついて地方教委と交渉しています。
⑤ 危険を冒すことを恐れないこと
NEAは全国的に多くのチァーター・スクールでその役割を果たしています。 すなわち、
ConneticutのNorwichの｢あらゆる人種に開かれたデイ・チァーター・スクール｣は教員による
改革のテストケースで、州NEAの3名の教員によって、生徒と一対一の個人指導方式で、まず
基礎クラスで、その後能力別によって創造的なプログラムに進ませる方法を採用しています。
年齢によるグループ別ではありません。 このようにして生徒、家族の中で強い連帯意識を育
て家族にも協力してもらう方法を模索しています。
以上のように“共同すること”、“責任を果たすこと”、“危険を冒すことを恐れないこと”の３要素に
総括しておきましょう。 NEAの“全米で読みを”キァンペーンも明日、出発します。今後｢われわれ
は何を言った｣かではなく、｢何をしたか｣を見ていただきたい。 “さあ、向こうところへ行こう”
Ⅲ Bob Chase 会長の第一回プレス・クラブにおける演説 1997. 2. 5
教職というものは職業というより使命です。 生徒の心の中に灯火をともし、彼らが卒業した後、
訪ねてきたとき感謝されるような人でなければなりません。 しかし今まで、教員は社会で見くび
られ侮辱されたこともありました。 私は若かったとき、聖職か教職か迷ったときがありましたが、
すばらしい先生に出会って教職を選び、そのことを全く後悔していません。
① ここ約30年間、NEAは伝統的な(従来どおりの)、狭いことにしか焦点を当てない組合でした。
すなわち、“パンとバター”や給付金を獲得することや教職員の勤務条件などの問題で、管理
側と頭を突き合わせ、そのことで成功してきました。
しかし今日、全米的にみたとき、この狭い伝統的な手法は依然として重要ですが、しかしより
良い公立学校教育についての公の関心、より良い教職の精神、アメリカの子供たちに奉仕す
ることを考えた場合、それは明らかに不適当です。
② NEAの新しい方向と投資
1960年代までは、われわれNEAは、どちらかといえば静かで穏やかな教育関係者の職能的
協会でしたが、60年代に方針を変更しました。 すなわち、伝統的な(従来からある)産業労働
組合の方法をモデルにしたことでした。
労働者と管理者は全く異なるもので、衝突するような役割や関心事で、それを繰り返すことが
運命づけられており両者は本質的に敵対関係にあるものとしたことです。
このような従来方式の産業界スタイルの組合は、1クラスの生徒数の減少、学習条件の改善、
魅力あるサラリーの獲得などを確かにやってきました。 しかしそのために、余りにも多く衝突
を繰り返し、極端な場合は激しいストライキもやってきました。 しかしこの産業界スタイル単な
る反対戦術だけでは、教育改革という次のステージでは適当ではありません。
③ NEAのなかで、NEAとは何かを探し求めること(soul-searching), 自己批判(self-criticism)
をしっかりやって、新しい組合ー協会( a new union - an association) として、われわれ会員
にも批判する人たちにも、また交渉相手の人たちにも全く新しい接近を計らなければなりません。
大多数の教員は有能で献身的ですが、しかし中には悪い教員(bad teachers)もいます。彼らを
助け、それでも失敗するような教員を教室から締め出すことも、教員組合としてのわれわれの
仕事です。
④ われわれは自分たちにとって心地よくないことを閉ざしたり、メンバーの狭い利益追求のた
めに、生徒や学校を進歩させないようなこともやってきました。
NEAはカリキュラムを作ること、財政面のこと、教員の採用や解雇はできませんが、学校の質
を高めることに責任を回避してはならない。 ｢あれは管理職側の仕事だ｣といっておらず、教
員組合としてわれわれの責任である、としなければなりません。
⑤ 郊外の学校では巧くいっていますが、都会の学校の情けない有様を見逃す過ちをおかして
います。そこで都市部子供たちのための緊急委員会を召集していますが、教育改革をリードし、
変化させ、指導権をとり先陣となって協会が働くときが来ています。
⑥ 高い学力水準、厳しい生活指導、社会の進歩のために官僚制を少なくし、各種の教材・資
源を利用するために、親やコミュニティと連携しなければなりません。 驚くほどに教員、教委、
行政官たちは、この改革議題に賛成しています。 公教育における“新しい組合側と管理側と
の連携”といえましょう。 また“学校の共同管理”、“新しい組合運動”:
new- unionism ともい
えましょう。
私も今まで、大きな間違いをおかしていました。 ｢自分たちのことに専念して、教育改革な
んか他人に任せておけばよい｣といっていました。
新しい方向は、学校の質の問題を前面に打ち出し、交渉のさいのセンターにおくこと、議題に
ついて管理側と共同すること、教員、教員以外を組織内に組み込むことです。 21世紀の教
育は、従来の契約方式を投げ捨てて、労働側と行政側とが一緒になってやる共同管理憲章
に置き換えるべきであると考えます (joint labor- management constitution )。
⑦ 従来の方法にとらわれる組合員は、これを異端者というかもしれません。 しかし、長年勤
務する教員の技能を再び良くするためにOhio州のあるNEAは援助していますし、また問題の
ある教員の学習指導能力を高めるための相談にのったりし、また時には解雇も勧告していま
す。
⑧ 19世紀終わりの労働界の先駆者たちは、いつも｢もっと、もっと、より多く｣を合言葉にしてい
ましたが、今や新しい時代に入り｢より良く｣を合言葉にすることです。
そこでNEAがやろうとすることを挙げておきますと、
○ 親や一般の人に向かっては...... NEAは、どの教室にも質の高い教員がいることを確実に
するため、皆さんと一緒に働くことを誓います。
○ 産業界に対しては、NEAは、生徒の学習成績を高め実際に効果のあるものとするために、
一緒に働くことを誓います。また高校の卒業率を最高にし、知的で良く装備されたものに
することも同様です。
○ 教委や管理者に対しては、NEAは学校の質を変化させるために交渉するという新しい共
同関係に入ることを誓います。
○ 心から教育改革を求める人たちに対して...... 緊急かつ必要な変化のために戦い、それを
不動のものとするために、一緒に働くことを誓います。
参考 Bob Chase 会長とは
1965年からConnecticut州の中等学校の社会科教員
1979年 同州教育協会のリーダーに選出される。
1989 - 1996 年 NEA副会長
1996年 NEA会長に選出される。
その他、世界各国訪問 日本も訪れた。
アメリカ陸軍の軍歴あり。 1985年、Washigtonの南アフリカ大使館の人種差別に反対し、
逮捕されたこともある。 ( National Press Club における紹介記事から)
なお、前述のプレスクラブの演説のみならず、多くのステートメントも発表している。例えば、
『学習クーポン券』( 1998年), 『latino教育』( 2001年), 『いじめについて』(2001年),
『安全な学校』
(2001年) などがある。
Ⅳ 最近のAFT との関係
昨年(2001) 7月、Los Angelesで開催されたNEA年次大会( 別稿で詳述予定)で、AFTと提携
することを決議した(partnership agreement)。 7月11日までAFTは賛成したものと思われる。
その具体的な現れとして、NEAとAFTは、9月11日のテロ多発事件の後、『NEAFT
9月11日基
金』を設け、そのなかに犠牲者の子供たちの大学進学への援助も含めている。 その額はNEA
執行委員会だけでも20万ドルで、各州、地方の両組合から続々と援助金がWashington D.C.の
本部に送られた。
AFTとは
1916年、一握りの教員によって結成され、教員の権利や賃金、労働時間などの労働条件を
団体交渉、労働協約によって勝ち取るという路線を歩んでいる。 アメリカ総同盟:
AFL - CIO
と同盟して教員組合運動の先導的役割を果たしてきた。 会員数 約100万
NEAとは
1857年公立学校関係者の自由意志に基づいて結成された団体であり、公立学校の諸問題を
自分たちの職能成長を計りながら向上させていくことを目指すグループ活動であった。 従って
“静かな教育協会”であった。 その後の変容については前述のとおりである。
会員数 260万
Volunteer-based organization composed of public educators. Founded in 1857, the group
works to advocate the cause of public education.
【コメント】 会員数260万のNEA、これに対して100万のAFT、この両者の関係は『NEAFT 基金』
の名称に象徴されるように、今やその力関係は逆転している。
しかし、教員組合の先駆者としてプライドや合併( MERGING ) すれば飲み込まれてし
もうかもしれないという懸念などから当面、連携( partnership) して個々の問題につい
て協議、決定していくものと想われる。
【コメント】
ご覧のとおり。 NEAはAFTに対抗する意図もあり、また“静かな職能団体”だけではメンバー
を繋ぎ止めるめることができないためか次第に教員組合化し、1960年代に入って一段とその
傾向が強くなったのであろう。しかし、Bob Chase会長が選ばれる1996年前後から、内部で激
しい論争があり、公立学校教育の荒廃、教育改革のうねりのなかで、副会長の彼が選出されて、
前述のような『新しい組合運動』への転換を計ったのであろう。
それは教育改革には歓迎されるものであろうが、しかし行政側、教委側にとっては、教育財政、
教員人事、勤務評定など自分たちの管理運営事項の領域にまで踏み込まれるという懸念もあ
ろう。 また、NEAにも一旦、身についた従来の手法を簡単に変更できないというジレンマも地
方によっては根強いのではないかと考える。
最近また、大都市の公立学校のすべてを民間委託して、その改善を計る動きが活発化して
きている。これは教委を解体して首長の直轄におくこととも連動しているが、『新しい組合運動』
は、その間にあってどう動くのであろうか。
2002. 1. 29 記 続く.. 52 NEA 2001年次大会 無断転載禁止
【追記】 2002. 7. 3
NEAは2002. 6月下旬、ダラスで研究大会と代議員大会を開いたが、その30日、9.000名の
代議員の投票によって、Reg Weaverさんを新たな会長に選んだ。彼はアフリカ系アメリカ人、
62才、理科教員、llinois州出身。この9月から3年間、会長職を務めるがその経歴からして親
たちのとの連携をより強化するものと思われる。なお、会員数は270万と称している。
