58. 最近の日本の教育事情


          59. Recent circumstances of education in Japan
 杉田 荘治

はじめに
     今年(2002) 4月から、公立学校で『完全学校週5日制』が始まった。
    このことを中心にして、English-speaking peopleに、わが国の最近の教育事情について説明
    する予定であるが、ここではその概要を述べておこう。

T 完全週5日制
 欧米諸国では一般的なことであろうが、わが国では数年前から、週一回の土曜日休日、また週
2回の休日の制度であったが、全部の土曜日が休日となるのは公立学校では始めてのことである。
【註1】 公立小・中・高校では、1992年4月から週一回、また1995年4月からは週二回の休日で
    あった。
【註2】 私立学校には適用されない。その趣旨に沿うよう期待されるが、そのとおり実施する
    か否かはその私立学校に任される。
 すなわち、学校教育法47条には、公立小学校(公
    立中・高校も準用される)の休業日について、祝祭日、日曜日、教委の定める日とともに土
    曜日も規定されたが、[私立小学校の休業日は、その学校の学則で定める]とされているか
    らである。
1 長所と考えられる点
文部科学省が説明しているように、
○ 自然体験や社会体験など、体験する機会が多くなる。
○ 老人福祉・身体障害施設での介護体験や清掃、リサイクル活動などの青少年ボランティア
  活動に活かすことができる。
○ 芸術・文化の体験が、より多くなる。

○ 親や家族、ことに父親と接する時間が多くなる。
○ 地方自治体が、その受け皿を創るところも出てくるであろう。 例えば、市や区が土曜スクール
  を開き、希望する小学生や中学生に算数、国語、英会話などの補習を実施する。外部講師、
  大学生、院生によるボランティア。
○ 動物園、科学館などが、土曜日の入場を無料にする。
2 短所と考えられる点
○ 学力が低下する。 多くの親たちもこの『学力低下』を懸念している。 例えば、最近の産経
  新聞の調査によれば、『5日制』について、反対61%, 賛成28% とし、学力が低下し、子供た
  ちがダラダラと町中を歩き回ったり、ゲーム遊びすることを心配している。(298人の回答)
○ 都市、ことに大都会の私立学校の多くは、今までどおり、土曜日も出校日として授業などを行
  なうので学力は落ちないであろう。 従って経済的に余裕のある親の私学志向は高まるであ
  ろうが、その余裕のない親の子供にとっては、学力の点で不利になる。

○ 学習塾でも土曜スクールを開くところが増えよう
  【註】この学習塾とは、小・中学生の多くが下校後、あるいは夕方、週に数回、学力補充
    のために通う私塾で、入試対策としても、わが国では一般化している。 月謝もかなり高い。
    高校生についても同様で、わが国特有の予備校に期待するところが多くなる。
    その土曜スクール、また夏休みなどのものも強化されよう。

○ そこで公立学校にあっても、原則は『週5日制』であるが、希望する生徒に『特別授業』を実施
  するところも現れよう。
このため、『特別授業』を希望しない生徒の学力が落ちるのみならず、
  生徒間の学力格差も拡大したり、正規の授業についていけない生徒も出てこう。 これはは『ク
  ラス崩壊』の誘因にもなろう。しかも、そのことを生徒の責任にのみ帰せることができないとい
  うジレンマもあろう。
○ 『共稼ぎ』の親にとっては、よりつらい時間を生み出すことにもなる。 また[生活の乱れ]の誘
  因にもなろう。
○ とくに公立志向の強い地方では、全く勉強しない子供と勉強する子供、進学校とそうでない学
  校との二極化が生じよう。
○ ウイークデイの授業時間が多くなり、教員の勤務も“バタバタ”するようになる。
3 対策
  難しい。[改正の趣旨]を活かそうとすれば、[学力の低下]は避けられず、[学力の低下]を防ご
 うとすれば[改正の趣旨]を生かせない。 しかし、
○ 子供たちの『受け皿』を多くする必要がある。 例えば、土曜日だけのフリースクール。 学区
  や学年の枠を超えて子供たちが集まることのできるスクールである。
  それは彼らにとって楽しいところ、[単位に換算される]、[具体的に評価される]仕組みであれば
  良い。 [自分達だけが体験させられている]、[面白くないことを強制される]などの被害者意識を
  もたせることは避けなければならない。 コンピューター、外国人による英会話など、また看護
  体験も当面の入試対策にも活きたなどである。

○ その『受け皿』の組織がしっかりしていること。地方自治体を中心にして学区、地域、教員など
  から構成されるのが良いように考えるが、予算もたっぷり組まれることを望みたい。ボランティア
  を強調することは控えたい。、
○ 事故防止は大切であるが、極めて厳格に解釈・適用しないこと。むしろ委託する親に責任を自
  覚させるような社会通念を創りあげていくこと。

 以上述べてきたように、『それぞれの家庭での有効な方法』、『公立学校での有効な方法』、『地方
自治体・地域などによる有効な方法』をしっかりさせながら、時にはその組み合わせも弾力的に考
慮されることも期待したい。
U 民間校長
 今までは、公立学校の校長・教頭は、教職に関する経験(小・中・高校・大学や少年院などで)が5年
以上あり、専修免許状または一種教員免許状を持っていなければならず、私立学校の場合でも、教
員免許状はなくても、少なくとも教職経験は5年以上あることが必要であった。(学校教育法8条)
しかし、昨年度から改正・適用されて、公立学校の校長については、次ぎのようになった。
 @ 10年以上の教職経験がある場合
 A あるいは都道府県教委が@と同等の資格・経験があると認めた場合

 これが、いわゆる民間(人)校長の誕生になったのである。 この4月現在、全国で、東京都、埼玉、
大阪、岐阜、広島などで20名前後であるが、検討されているところもあるし、今後次第に増えよう。勿
論、数を増やせばよいというものではないが、しかし教育改革の一つの柱として望ましいといえよう。
中核都市程度の管内で1-2名程度はよいのではないか。 従来からの校長と利点を交流、利用し
あって研鑚を進めることが期待される。
V 科学技術・理科離れ
 平成13年度 文部科学白書『21世紀の教育改革』に載せられた国際数学、理科教育調査(国際教
育到達度評価学会:IEA)によれば、1999年度、
○ 日本は、中学生でば数学......世界で5位 / 38ヶ国、  理科4位 / 38ヶ国
○ OECDのPISA調査でも上位

 しかしその一方で「数学や理科が好き」、「将来そのような職業に就きたい」という者の%が低い。
また以前と較べても下がっている。 1995年 53%,  しかし1999年 38%
従って、学力の充実、大学入試の方法、実験・実習の時間を多くする、科学館などの見学など早いう
ちから興味を持たせることなどを着実にやっていくことが必要であろう。
W その他
上述の教育白書によれば、2000年度、
1 教員の長期社会体験...... 実施県市 49、 人数 956 (内訳 民間会社656, 社会福祉施設163,
                  社会教育施設60, その他77)

○ 大学院修学休業制度も2000年度から教育公務員特例法の改正によって創設された。
   現在 155名
 【註】 教育公務員特例法20条の3 .. 大学院修学休業制度
    @ 任命権者の許可  3年間を限度
    A 身分は保有するが給与は支給されない。退職手当は、その休職期間は二分の一算定。

2 大学への『飛び入学』制度......... 千葉大、名城大などごく僅か。
【コメント】

     ご覧のとおり。大きくいえば、『学校週5日制』も生徒の受け皿を多様にする『学校選択』の多様化の
    流れといえよう。 ところで最近、全国で44校が文科省から指定されて、スーパー・サイエンス・ハイス
    クールやスーパー・イングリッシュ・ハイスクールとして特別の予算を受けて、例えば大学への飛び入
    学や大学の講義の単位を認定したり、人間工学入門という独自の科目を創ったり、TOEFL 550点、英
    検一級を目指すなどの『エリート』教育が始められることになった。 喜ばしい。 まさしく多様な『学校
    選択』への教育改革である。
    これらの『エリート』教育とともに、全国で苦戦しているホームスクールへの公的予算の配分やチャー
    ター・スクールへの『学校選択』も進められることを望みたい。 また教育評論家といわれる人たちや教
    員の職能団体からの具体的な提言も期待したい。  
 
 2002年4月28日記              
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