64-2 マイノリティ(少数派)優遇入試についてアメリカ 大統領の見解ー“割り当て”は不公平と非難

   追記 : しかし大統領の公式見解とは反対の意見書も提出された


杉田 荘治

はじめに
    最近(2003. 1. 15)、Bush大統領は、大学入試で少数派学生に直接的な優遇策をとることを徹底的に
    認めないことを表明し、そのような政策をとるMichigan大学の方式についての意見書を連邦最高裁へ
    提出した。
    「私は高等教育でも人種の多様性を含むことは強く支持するが、しかしMichigan大学か゛採っている方
    式は根本的にこの目的から逸脱していて欠陥がある。 その“割り当て”方法は他の人種にとって不公
    平であり、あるいは見こみのある学生達に罰を与えるようなものである」と述べた。この見解発表は15日当
    日、全米で報道されたが、ここではNew York Times紙、1月15日号、Washington Post紙、15日号と16日
    号から要約しよう。 まず問題になっているMichigan大学法学スクールの事件を復習しておこう。

T Michigan大学法学スクール事件

   Grutter v. Bollinger  ( 288 F. 3d 732 ) 第6巡回裁判所 2002. 5. 14 判決
    @ このケースは、白人女子学生Grutter が、1997年にMichigan大学ロースクールを受験したが
      大学側が人種や少数民族のために『プラス要素』として割り当数や加算点をを加味していたため
      に、その余波を受けて不合格になった。
    A これに対して、一審は大学のその『入試要項』を違憲とした。 2001年3月27日判決
    B しかし、この第6巡回裁判所は、それを覆して5: 4 の多数決で、大学も多様な学生の
      共同体であり、その『入試要項』もそれに合うように厳格に仕立てられているので合憲である。

U Bush大統領の見解の要旨

   ○ Michigan大学の方式は人種的な“えこひいき”であり他の誤りを作り出すことになる。
     不公平で不和が生じ人種的分割を長く続けさせるものになる。
   ○ しかし“人種的中立”: race-neutral factor 、すなわち社会的経済的な背景や地理的事情といった
     要素という面からは考慮すべきことと考える。“含み”を持たせている。
   従って、大学においては人種の多様性は「必要欠くべからざる統治の利益」かどうかについては踏み込
   まなかった。 しかし長い大統領選いらい避けて通ってきたこの問題について見解を明示したことは強い
   影響力を与えることになろう。

V 反応
   ○ 最近メキシコ系アメリカ人や黒人の有権者にも増えてきているが、保守派の人々や共和党は歓迎
     している。 もっともEdward Blumなど、ごく少数の保守派は「大統領は正面きって少数派学生優遇策
     に反対である」といっているが大部分の保守派は「必要欠くべからざる統治の利益」とまでは言わない
     など、政治的に巧いやりかたで、われわれを勇気づけるものと評価している。
     憲法学者のBruce Feinも同じような意見で将来の方向を示すものだとみなしている。

   ○ 公民権グループはすべて「全米で大学の人種の多様性、少数派学生人口は減るであろう」と非難し
     ている。
   ○ Michigan大学長Mary Sue Colemanも直ちに声明を発表して「不幸にも大統領は、われわれの入試
     手続きを誤解している」と肘鉄砲を食わせ、「現在、大学学部の入試でも150点のテストで、少数派学
     生は社会的経済的に不利益を受けてきた者として20点を余分に与えているにすぎない」、「しかし他の
     要素であるグレードに重点を置いているので、この得点の比重はそんなに大きくない筈である」といい、
     また法学スクールの少数派学生の数は10%-12% 減ってきていると説明している。

W 参考

   ○ このMichigan大学法学スクール事件のこれまでの経過は次ぎの通りである。
     Grutter v. Bollinger   連邦一審判決 2001年3月27日
                    控訴巡回(二審)2002年5月14日
     しかしこれで終わらせず、裁量上告のケースとされて連邦最高裁に持ちこまれている。そこで今
     回の大統領の公式見解、意見書の提出となったのである。

   ○ なお、少数派学生入試については既に連邦最高裁の判例があったのであるが、若干曖昧な点
     あったので今回再度その判断が求められているのである。
      California大学v. Bakke 事件  University of California v. Bakke   438. U.S. 265 (1978)
     これについては前編で述べたが、その一部を再掲しておこう。
      1. California 大学医学大学院の入試要項には、定員100名の合格について、二つの方式がとら
       れていた。その一つは通常の方式で、他の一つは『特別な方式』で、しかもそのために16%
       確保されていた。

      2. Bakke(白人)は1973年と1974年の二回、志願したが、彼には通常の方式のみが適用され
       た。 1973年には、500満点のところ468点を取ったが、通常の方式コースの470点以下であったの
       で不合格になった。1974年に再び志願して、600満点のところ549点を取ったが、やはり不合格に
       なった。 しかもこの年も『特別な方式』で合格した者の得点は彼よりも、ずっと低かった。

      連邦最高裁判決で唯一人、つっこんだ意見を述べたのがPowell 判事であった。従ってその意見
      が実質的な最高裁の意見とみなされ今日に至っている。 すなわち、
      「教育の場においていろいろな人種、少数民族その他の人が含まれる多様性のある共同体・社会
      (diversity student body) は必要欠くべからざる原則(compelling interest) であり、これは大学
      の入試要項についても正当化されなければならない。 しかし今回の白人志願者のように不当に
      拒否されることは修正憲法第14条に規定するの『平等保護条項』に照らして容認することはでき
      ない」。

コメント
    ご覧のとおり。今回大統領は公式見解を発表し意見書も提出したので、後は連邦最高裁の判断を待つ
    だけである。判決は今年の7月頃か。なお、わが国のメディアも1月17日前後にこのニュースを報道して
    いた。

 2003. 1. 21 記          無断転載禁止

  追記(2003. 2. 21)  しかし大統領の公式見解とは反対の意見書も提出された

    今まで見てきたように、Bush大統領は公式見解でMichigan大学方式には反対の意見書を提出したが、
    最近になって、これとは逆に次ぎのような機関からMichigan大学の方式を支持する意見書か゛連邦最
    高裁に提出された。 すなわち、The Boston Globe (2/18/2003)号などが報じたところによれば、
    Massachusetts州司法長官Thomas F. ReillやNew York州、Maryland州など11州の司法長官が連
    邦最高裁宛てに「Michigan大学が行なっている大学入試要項の少数派学生への優遇策:affirmative action
    policiesを支持する」との意見書を本日(2月18日)、提出した。 それによれば、
    ○人種は入試でも積極的に考慮しなければならない要素である(positive factor)。
    ○憲法にも合致しているし、教育的にも有益である。 教育者が教育の使命をより追求するようになるし、
     生徒の教育的経験も強化される。

    また、Harvard大学、Massachusetts工科大学やIBMなどの大きな会社など300以上の機関、30の
    軍関係のトップ
もこれを後押ししている。「学術的に資質があれば、人種、宗教、背景などの違いを超えて
    一緒になって事をなすべきである」という意見である。

    しかし、少数派優遇策に反対するStephen Thernstromなどは次ぎのように言っている。すなわち、
    ○修正憲法第14条の『平等保護条項』からみて、それは馬鹿げている。(参照: 前編)
    ○何故、黒人学生の落第率がそんなに高いのか。 Michigan大学でも成績の低い1/4に彼らが集中している。
     彼らが失敗したままでいたり、またそれは始めから予想されることであるが、彼らにとっても不健康なこであ
     る。   

コメント Michigan大学の『入試要項』を巡って、大統領とここで述べた機関の見解が全く反対である。
     しかし私は前にも述べたように、入試要項に「○名合格」とか「○%合格」と明示して少数派を優遇すると、
     白人から『逆差別』とされ、修正憲法第14条の『平等保護条項』に反し違憲とされよう。 従って今まで
     社会的、経済的、地理的などで資質がありながら不利な条件下におかれてきたという少数派を“含み”を
     もたせた要素の一つとして取り扱うことによって、憲法問題をクリアすることができると考えるがどうであ
     ろうか。
     先にテキサス州で、どの高校からでも、その上位10%に入る生徒を州立大学に合格できる要項では、
     例えば殆ど黒人生徒の学校からでも必ず幾人かは合格できるのであるから、自然に人種の混在を果たせる。
     またBoston市教委がとっている『入学方式』のように、その学区から半分の生徒を、それ以外から半分の
     生徒を受け入れるという方法でも、必ず人種の混在ができて、しかも憲法問題をクリアすることができるで
     あろう。
     いずれにせよ本文で述べたように、この7月に連邦最高裁の最終判断が出るものと思われる。