70-2. アメリカの教育改革法のその後ー各州は悪戦苦闘している


杉田 荘治

はじめに
    今(2003. 1月)、アメリカでは各州がそれぞれの教育改革プランを連邦教育省へ提出しなければ
    ならない期日が近づいている。 すなわち、各州はこの1月31日までにその予備的なプランを示し
    て連邦の承認を得、さらにその最終プランをこの五月までに提出しなければならない。 その内容
    は2014年までの教育改革の年次計画である。 しかし今までに5州(Massachusetts, New York,
    Indiana, Colorado, Ohio) しか予備プランを提出しておらず各州は悪戦苦闘しているが、その問題
    点をEducation Week 1. 15日号、Star Tribun 1. 13日号、Boston Globe 1. 13日号から要約してお
    こう。

T 連邦の定める方式に合致すること

  1 連邦教育省は各州や教委に対して『適当な進歩の年次計画』: "adequate yearly progress" として
    の基準を定めているが、これがかなり難しい。 すなわち、
    ○ 州の標準テストで向上したことを% で示すこと。 そして12年後、すなわち2013-14年には、総て
      の学校で総ての生徒が数学とリーディングで『良』レベル: proficient に達すること。
    ○ 学校全体、教委内全体でもそうでなければならないが、その内訳としての小グループでもそう
      であること。すなわち、人種、貧しいなどの経済的背景、英語が不自由なグループ、身体的不自
      由な生徒などの小グ‐プを指すが、それらの結果も公表すべきこととする。
    ○ その年次毎の内容は、基礎である(basic)、良好である(proficient)、上級である(advanced)として
      卒業(進級)の%、教員の資質・資格、テストを受けなかった生徒の%、『改善を要する』学校の確認
      である。
    
  2 これらを公表することによって、親、教員などが協力し合う方法を探り、また親が新しく選択することが
    できるようにするためである。 また連邦資金Title Tも有効に使うこともできる。

U 財源


  1 連邦議会は今年、222億ドル支出したが、それは昨年度より32億ドルの増である。
  2 しかし例えば、Massachusetts州では117百万ドルの割り当てになるが十分ではない。 しかも今後
    新しいシナリオのもとでは一体、いくら受けることができるのかはっきりしない。
  3 多くの州は莫大な予算をつくらなければならないだろうと、不平を唱えている。 例えば、New Hamphire
    州では連邦から生徒一人当たり77ドル受け取るだろうが、しかしその総ての要求に応えるとなると、
    一人当たり575ドル必要となるであろうといっている。従って州予算のカットや教員の解雇の問題を
    引き起こす懸念も出てこよう。 Massachusetts州はまだよいほうである。 というのは1998年以降、
    そのMCACは連邦の基準に合っているし、過去10年間、教育予算を何百ドルも増額してきたからで
    である。
    しかし同州出身のKennedy議員は、もっと連邦の支出を増額すべきだといっている。 

V 生徒の成績を小グループ別に公表すること

    新法は生徒の成績について、今までやってきたような学校全体の成績だけではなく、その内訳である
    人種的少数派、特殊教育を受けている生徒、貧しい家庭の生徒などの小グループの結果も示さなけれ
    ばならなくなった。
    例えばMassachusetts州では現在の方法では194校が『改善を要する』学校になっているが、この小グ
    ループ別に過去のMCASの得点を調べると約1900校のうちの半分が少なくとも一つのグループで『改善
    を要する』学校に入ることになる。 これが厳しい。なぜならば、
    2年間続けて『改善を要する』学校:needing improvement という学校になると、生徒を他校に転校さ
    せることも認めなければならず、またその学校に残っている生徒に教委の費用で家庭教師をつけ、さらに
    次ぎの年も同じような状態であれば州の直轄に取って替わられることにもなるからである。

    連邦教育省: DOE(U.S.Department of Education) は適当な進歩があれば、といっているが今後どの程度
    弾力的に評価するのかが課題であろう。

W 懸念と決意


    例えばNorth Dakota州の広い校区の小さな片田舎の学校が『失敗校』になれば、生徒を何マイルも離れ
    た学校へ転校させなければならないが、これが悩みの種である。 教員についても同様。小さな学校では
    多くの教員は4ないし5教科を担任し、その準備に追われて再訓練も受けられず、習熟した力をつけること
    は非常に困難である。 Nebraska州やVermont州でも同じような状態である。  

    このように全米的な反抗が起こるかもしれないと、ある有識者がいっているが、他方で権利放棄できる部
    分や修正できるところを探りながら適当に適合させていくかもしれないという意見もある。現にNorth Dakota
    州の学校管理者協会でもそのような意見が出ていた。
 
    しかしCalifornia州やNew York州では、例え多くの学校が『失敗校』とされようとも、もっとよい標準テストを
    創っていこうとしている。それは結局「多くの人種、経済的な背景などを越えて総てのアメリカ人に極め
    て有利になるからである」と決意している。

コメント

    ご覧のとおり。 当面、多く学校が『改善を要する』学校に指定されることは避けられない。 懸念と決意
    にあるように、このような荒療法が成功するのか挫折するのかもわからないが、今後のアメリカの国力に密接
    に関連していることは事実で、今、イラク問題、北朝鮮問題に多くの世界の目が向けられているけれども、この
    教育改革の行き先も見守りたい。

 2003.1.17記          無断転載禁止