74. 最近のアメリカの教育の話題

    ニューヨーク公立学校の総点検、スナック菓子等の校内禁止、『学級定員』を増やす案、
    白人教員の離職率、教員の健康保険制度


杉田 荘治

話題T ニューヨーク市長は公立学校を総点検する

    New York市長のMichael R. Bloombergさんは今年(2003)1月27日、「32地区の学校のリーダーの後任
    になる10地方区教育長」を発表すると語った。 それによれば市長は公立学校を総点検するために、新
    たに10名を指名するが、そのうち少なくとも5名は地区の教育長に、4名は広範囲に学習成績を挙げるよ
    うに監督するポストに指名される筈である。
    このような教育行政の再構築はカリキュラムや各学校の監督について地方区の教育長(regional
    superintendents)の権限を強化することになろう。

    例えば、Ms. Harwayneは8年間、Upper EastサイドにあるM.N.S.校の校長で高い評価を受けているが、
    2000年6月から第二地区の教育長に指名されている。今回更に幾つかの学校を監督する立場に立つ
    ことになった。また広範囲な教員研修についても助力することにもなろう。
    Ms. Fattiも今まで3ダースにも及ぶ学校を監督していたが、そのなかで僅か1校しか州の基準に照らして
    みて失敗校とされただけの実績がある。今回、更に成績か゛悪く貧困家庭の非常に多い地区の学校に
    ついても監督する立場を兼ねることになる。
    Cashin博士の場合も同様である。1998年度から低成績で貧困な地区で実績を挙げてきた。

    このように『教育長を選択する』と市長は宣言し市の公立学校再集中化の第一歩を踏み出した。地方区
    の教育長を指名するのはその一つのステップである。ここ数年、地区教委(community school boards)
    は教育長を任命したり解雇する権限が与えられていたかが、この新しい制度はその教育長までも精査する
    ことになろう。

    他の40地区の教育長は6月に任期が切れるが、この新しい制度のもとで幾人かは他の行政の仕事に
    格下げになることも十分考えられる。
     【資料: The New York Times (1/27. 2003 & ABCD SmartBrief 1/27. 2003】
   
コメント  ご覧のとおり。ニューヨーク市長は公立学校を総点検し、幾つかの地区の教育長を監督するポスト
    を強化して成績の挙がらない地区の教育長を更迭するなどの新療法で公立学校の活性化を図ろうとし
    ている。

話題U 校内で清涼飲料水やスナック菓子を禁止する

    San Francisco教委は2003-04 学年度から学校で清涼飲料水とスナック菓子を禁止しようと、今、委員会
    で検討している。すなわち、114校に及ぶすべての学校で、栄養政策として、これら太り、糖分、塩味の多
    い不健康な食物を朝食、昼食から削るのであるが、しかし費用の点からも検討がなされている。

    現代の子供は30年前と較べて、少なくとも10ポンド重くなっているが、このことは3分のTの生徒は
    「体重過重」ということになるとアメリカ食料サービス協会が発表している。

    しかし問題はそう簡単ではない。 それはその他にもいろいろな食べ物が学校にはある。いわゆるインスタ
    ント食品自動販売機: Fast-food vendors が多くの高校にあるし、スクールクラブ、スポーツクラブにも備
    わっている。またPTA もそのような菓子や飲料を売って収益を挙げている。このように自動販売機は特別
    なプログラムのために銭を生み出すものにもなっている。 San Francisco教委管内で清涼飲料水とスナック
    菓子、パイなどのペストリーを校内で禁止するだけで学校財政に一年間で546,000ドルの穴があく。 その他、
    スクールクラブなどの分を加えると果たしてどれくらいになるか、わからないと関係者は言っている。
    “食べ物選択の自由”、財源確保の手段、子供達の満足度など検討課題は多い。

    それでも栄養・健康委員会で決定されれば、自動販売機の扱いも含めて推進されることになろう。「財源的
    には厳しい、しかし待つことはできない」と関係者は語っている。

    同州では、54,000名の生徒を擁するOrkland教委が最初に実施し、これにLos Angelesが8月に続いたが、
    今度はSan Franciscoが検討するなど、同州が先導的な役割を果たしている。
     【資料: San Francisco Chronics (1/14)】

コメント ご覧のとおりであるが、これが全米的な流れになるかどうかはわからない。しかし子供のみならず『肥満
     人口』の増大は大きな問題であろう。偶々、この1月30日、朝日新聞が報じたように、アメリカでは『肥満
     人口』が最近20年間に倍増し、全米の空港で小型機の客の体重調査を始めるなと゛『国民的肥満』につい
     て早期に対策をとる必要からも、この措置は意義深いものがあろう。

話題 V 『学級定員』を増やす案

    『学級定員』を減らせ、という要求は多いが、これは逆で増やすという案である。珍しい。
    California州上院予算委員会は昨日(2003.1.23)、幼稚園から3年生までの『学級定員』を現行の20名
    から22名に増やす案を承認した。 これによって一年間に2億5000万ドル節減できるといわれる。

    州議会と州知事の判断は今後の問題であるが、各地教委は一様に、厳しい財政事情のなかなので歓迎
    している。州学校事業協会も、ここ2年間、現行の定員を押し付けられてきたが経費が節減できるとともに
    現行のように20名定員を続けると、例えば1名でもオーバーしていると規則違反として州からの銭が引
    き戻されていたが、そのような罰がなくなり都合がよいといっている。
    Sacramento市でも、この方法は歓迎されている。実際にどれくらい経費が節約できるかわからないが、しか
    し20名を越えたとき、生徒を他の学校へバスで送迎しなければならず、その費用も莫大で第一、その生徒
    自身がそれを喜ばない。自分の地区の学校で楽しみたいにきまっているから、このように弾力的に対処で
    きることはよいことだとしている。

    しかしラテン系アメリカ人団体は「最も必要とする生徒たちには有害である」とし、メキシコ系も不平等を生み
    出すことになるとして反対している。

    州知事は今までは『学級定員』を増やすことには反対してきたが、しかし「再検討すへき時期」になったので
    はないかと考えているに違いないと有力者たちは憶測している。なお、San Jose Mercury News (1/31) 号
    によれば「この法案は州議会で可決されるに違いないが、その後、Gray Davis州知事が、それに署名するか
    どうかはわからない」とある。

    教員組合の意見は分かれている。ある組合はこのような形で予算をカットすることに反対しているが、他
    の組合は、このような方法は各教委・学校に柔軟性を与えるものとして評価している。すなわち、基本的には
    学級定員を減らす方針を支持するが、しかし州教員連盟の代表者は「現行のルールは常識を度外視した点
    がある」、「もし20名のクラスにもう1人生徒がやってきた場合はどうするの? 教員をもう1人採用するの? その
    クラスに入れるの?」。このような場合は兵站学の問題のように考えるほうが妥当であると言っている。
     【資料: The Sacramento Bee (Calif.) (1/24)】

コメント ご覧のとおり。一部の組合に賛成意見があるのは興味深い。現実路線をいくアメリカらしいといえよ
      うか。

話題 W Goegia州では黒人生徒の多い学校から白人教員が去っていく

    Geogia州立大学の調査によれば、白人教員の黒人の非常に多い学校からの離職率は、1994-95年度では
    18% であったが、1999-2000年度には31% に上がっている。黒人の非常に多い学校とは、この調査ではア
    フリカ系アメリカ人が70%以上の学校であるが、Atlanta郡やDekalb郡に多く、しかも近年このような学校が増
    えている。

    その理由ははっきりしないが、次ぎのようだと考えられている。 すにわち、
    ○白人教員は自宅の近くや安全な近在で働くことを希望する。
    ○居住のパターンが変わったこと。   ○白人のなかにある人種的偏見
    ○白人を白人地区の学校へ、黒人を黒人地区の学校へバスで通学させるように裁判所から命令が出たこと。

    このように高い離職率は生徒の学習によくない影響が出ている。というのはそのために経験の浅い教員を採
    用しなければならなくなる。特に2年以下の教員が増えているので毎年その離職が繰り返されると、益々その
    影響は大きい。黒人教員については、このような高い離職率は見られない。
 
    例外としてAtlanta Slate小学校では、98%が黒人生徒であり、教員30名のうち5名が白人教員である。しかも
    彼らは5年以上この学校で教えているが、校長のE.Harrisさんによれば、「私はその教員の資質、私と同じビ
    ジョンを持ち責任を分かち合えるかどうかで、教員を採用している」とのことである。
     【資料: Journal and Constitution (Atlanta)(1/12)

話題 X 公立学校教員の健康保険制度について

    アメリカでも公立学校教員の健康保険制度は大きな問題になってきているようである。
    そのために幾つかの組合を統合しようとする動きが出てきている。Sacramento Bee (Calif)(1/9)によれば、
    Sacrameto地域の三つの大きな地方教委は職員の健康保険について合同して問題に対処しようとしている。
    「この問題は“眠れる巨人”のようなもので、もはやコントロールできないほどになってきている」と彼らは口々
    に語っているが、確かに今まで受けたメンバーのメニューが、それぞれ違うのでそれを克服する必要があろう。
    統合すれば会員は全体で15,000。 医療費支出は10億ドル

    なお他にPennsylvania州北東部の地区も1999年から13の地方教委が同盟して、8,500名のメンバーに対応
    している例がある。

    少し以前、アメリカのある連合地方教委の教育長からE-mailで「日本の場合はどうなっているか」と尋ねられ
    たことがあった。私なりに調べて答えたが、今回あらためて英文で次ぎのように載せたのでそれを参照されると
    よい。
    71-2 Health Care Insurance System of Public School Teachers in Japan and the Pensions
    勿論その内容は『日本の公立学校教員の健康保険と年金』のことであるが、『公立学校共済組合』のこと
    を中心にして述べた。2000年度で組合が約120万人と多いこと、掛け金 ...月給の・短期 45.45/1000 、
    長期 103.5/1000 と全国一律のこと、平均月給、約40万円、また保険給付、休業給付、災害給付、その他、
    さらには、これを補完する意味で、各県などで『互助会』を創って高額の医療費などに対処していること、その
    掛け金は月給の約1%、例えば岡山県では0.8% 、しかし退職後もそれを望むならば0.5% 追加のことなども
    述べてある。
    また退職した教員については一時期を除いて国民健康保険制度へ移行していくことも参考になるだろうと考え
    て触れ、年金については長期掛け金との関連で記した。勿論これは前述のようにEnglish-speaking の教育
    関係者に役立つだろうと考えて書いたものである。それにしてもわれわれは各種の情報を彼らから得ているか゜
    しかし彼らに与えようとする努力に欠けるように思われる。英語で発表せざるをえないと障害が常に付き纏う
    が、教育の領域にあっても一層の努力を期待したい。

コメント ご覧のとおりであるが制度としては、わが国のほうが優れていると考える。しかし今後、より高度・高額の
     医療費と掛け金の比率の問題、また特に年金と掛け金の比率は退職教員の益々の高齢化、それとは
     逆に現職教員数の現状維持または減少と相俟って、わが国でも大きな問題になりつつある。このことも
     英文では付記してある。

2003. 2. 2 記         無断転載禁止