90. アメリカでは校長の解任・交代が増えている

     市内35校が校長交代   解任の例    校長候補者教育(その後)


杉田 荘治

T フィラデルフィア市の場合

  1 Philadelphia市内の264校の公立学校のうち35校が、この9月までに新しい校長になるで
    あろう。(資料:The Philadelphia Inquirer (7/16/2003)
    その内訳は12名は退職、14名は他の行政的な仕事へ転任する。 8名はまだ決まっていないが
    教育に関係のない仕事に移り、1名は教室に戻ることになろうと市教委の最高責任者Vallasさん
    が話している。 また16名の教頭も交代することになるが、うち9名は教室に戻る。

  2 交代の理由
   1 Germantown校は昨年、大変な騒乱があった。すなわち、ある少年は医学的な見地から体育が
    禁止れることが記録されていたにも拘わらず、学校の体育館でバスケットボールをやって死んだ
    事件があった。 Gratz校では昨年5月、校内でレイプ事件があったにも拘わらず誰も逮捕されな
    かった。しかもこの2月上旬に約200名の生徒が別々のところで乱闘して逮捕された。 ここの校
    長H.Pelzerさんは37才で最も若い高校長であるが、解任の理由は告げられておらず「レイプ事件
    や乱闘事件は巧く処理したはずである」といっているが異動される。

  2 またG高校の校長G.P.さんは女性としては初めて高校の校長になった人で、彼女には高校三年生
    の息子がいるが、大変な非行を犯したために特別な学校へ送られたことが理由であろう。 また
    Martin Luther King校も外部の管理者によって観察されることになろう。
    その他、一人の女子高校生が乱闘に巻き込まれて50針も縫わなければならなくなった校内事件
    や約50名の生徒が凶器発見のための金属探知機を避けてフロントドアをかけ抜けようとした事件
    の学校も含まれている。

    市教委のVallasさんは「校長はごまかしてきり抜けることはできない」、「交代は何も一つだけの理由
    によるのではない」、「大きな学校より小さな学校に適する人」、「学校や教職以外の仕事がよい人」
    などを理由に挙げている。

  3 管理の方式
    前記のMartin Luther King高校は非営利団体の学校であるし、Locke校、Ludlow校、Comegys校は
    Edisonスクール会社によって管理されている学校であるが、ここでも校長の交代があろうし、さらに
    これ以外でもあるだろうと、そのスポークウーマンが語っているがその理由は明かにしなかった。

    またVane中等学校はチャータースクールに変えられて南フィラデルフィア都市再開発グループとユニ
    バーサル会社によって管理されることになるが、ここでも新しい校長になろう。

  4 校長組合の見解
    校長組合のDiPilatoさんは「この校長交代や異動には賛成である。民間経営方式に変えて学校の
    雰囲気が良くなったところもあった。昨年はわれわれは丁度、潮の水攻めにあっている状態で、いた
    るところにゴミが溜まっていたが校長の解任はなかった」とコメントしている。
  
  コメント ご覧のとおり。校長組合の見解のように学校の混乱、生徒の成績の不振などの理由によって
       一挙に校長の異動措置がとられたのであろう。新教育改革法の影響も働いていよう。

U ロサンゼルス市の例

  1 解任
    Jordan高校長のD.Lalさんは冗談をよくいい何かと論議を呼ぶ校長であり、同校に2年半勤め学校の
    秩序を回復したが、この秋には再び学校へ戻ることはないであろう。それは同校の州の学力標準テスト
    の成績が依然として悪く改善されないためである。 すなわち、ここ4年間その10段階の最下位を続け
    て、しかも10年生の卒業認定テストでも79%の生徒が失敗した。

    このように、ここ2年、州は校長の交代を強化し始めテストの成績が一向に上がらない学校に対して
    管理を強化している。 「そのような学校の成績を押し上げ卒業する生徒の率を高める、リーダーシップ
    を発揮させる」とRousseau教育長は話している。 (資料:Los Angeles Times (7/2/2003)

  2 生徒・職員の評価
    Lalさんに対する生徒、職員の評価はまちまちである。指導力は貧弱で軽率な人のように思われている
    が、しかし多くの人は“先生”と呼び学校を向上させたといい、彼の解任を悲しんでいる。生徒を励まし、
    校内のギァングの問題を静め、進路について相談にも乗ってくれた。 解任に反対する陳情書にも100
    名の職員のうち50名が自発的に署名した。

    一方、彼のリーダシップに不満を懐く職員もいる。「彼には゛ベテラン教員の支持はなかった。また臨時教員
    免許状をもち経験の浅い若手を採用した」、「新米に囲まれ彼らに責任をもたせ、仕事の遅れが出てきた」、
    「よく法螺を吹き、このようなスラム街をすばらしい学校にしてみせる、といっていたがFマイナスからDマイ
    ナスの変っただけだ」などの批判もある。
 
  3 その他
    彼はフィジィ出身で「アジア系は皆、同じような顔をしている」などと冗談をいって周囲を笑わせ、それを
    タイム紙が取り上げたこともあった。 13才のとき、あるアメリカ人がスポンサーになって教育を受けさせ
    Rousevelt中等学校で学んだ。 この学校の多くの生徒は白人で、彼の皮膚が黒く英語も遅れていたので
    人種差別にもあったが、しかしそれはまた自分をより良い人間にしてくれた、と語っている。

 【参考】ロサンゼルス統合教育区教委の公式ページによれば、Jordan総合高校については次ぎのとお
     りである。 http://www.lausd.k12.ca.us/   Searchで
    ○ ロス市の南中央部のWatts地区にあるが、この地区の失業率は非常に高く、常習的な麻薬、ギァング
      の問題を抱えている。親の高校卒業率は極めて低い。
    ○ 生徒数 2121名、 ヒスパニック.....76.3%  アフリカ系アメリカ人....23.2%  その他...0.6%
      409名が落第した(19.3%)
    ○ Englishで51% の生徒がD 又はF,  数学では73%の生徒か゛そうである。 また理科では55%の生徒が、
      社会では54%がそうであった。
    ○ コンピューターは152台 その生徒との割合は15 : 1  200台にまでにしようと努力している。
    ○ 卒業生の33%が4年制大學へ、 37%がコミュニティカレッジへ進学する。
 
  コメント 【参考】でみるように大変、困難な学校で2年半にわたり校内の秩序をかなり回復したように思わ
        れるが、生徒の標準テストの成績が向上しないことが解任の最大の理由であろう。なお卒業生の
        進学率は高いことに注目したい。

V ニューヨーク市の校長候補者教育(その後)

    この件については『84 アメリカの教育改革法:No Child Left Behind Act』その後1で述べたが、そ
    の後の動きについて資料 New York Times(/8/2003)によって補足しておこう。 すなわち、
    90名の校長候補者に対する市指導アカデミィにおける教育が昨日(7/7)始まった。Klein教育局長と市長
    代理が出席して記念撮影を共にしたが、Kleinさんは「今日はニューヨーク市にとって新しい日であるという
    ことをここにいる全員が共有することである」と挨拶した。

    このアカデミィに対してWallace財団が少なくとも1,500万ドル、最大で7,500万ドルの寄付を申し出ているが、
    当日そのうちの500万ドルを持参して記念撮影の後、手渡した。

   90名の内訳
    年齢は26才から66才まで。 そのうち79名はニューヨーク市内の教員、副校長、行政官、ガイダンス・カウ
    ンセラーとして働いていた人たちであり、残りの11名のうちの7名は市外の教育区の教育者、であり、4名
    は再び教職に就こうとする人であるが、なかにはLloydさんのように教職を去ってからロースクールに通っ
    ていた人、また地区の副検事をしていた人もいる。

    前記『84 教育改革法』でも述べたように、90名は30名づつのグループに分けられ、それぞれ小学校、中等
    学校、高校に予定される。そしてこの夏、八週間“模擬学校”のコースで研修を受け、未来の校長として多く
    の予想される事項、例えばいかに教員の職能性を高めるか、またいかにして学校財政を管理するかなどに
    ついて学ぶことになる。 How to solve day-to-day problems
    一人一人の机の前にはトップ級のコンピューターが置かれた教室で学び、テキストも併用される。そした9月の初
    めにベテラン校長の指導を受けながら実際の学校で研修することになる。

   校長組合の意見
    校長組合のJill Levy委員長は昨日「この校長候補者の教育は大変、必要なもので我々としても以前から
    期待していたものである」と評価している。 同時に教育当局との交渉で、教科に関することと良き指導者
    についてはっきりしないことが不満だと意見を述べた。

  コメント 予想される多くの校長の解任・交代に備えて、このように着々として準備が進められている。

その他 不正の疑いのある校長の調査

    Miami-Date郡のP小学校のP校長が教育区外から通ってくる生徒のうち、標準テストの点数の悪い生徒の
    得点を除外したのではないかとして調査されている。
    「この学校の通学範囲以外の生徒の分をリストアップしてください」と校長はホームルームティーチァにメモ
    を渡したが、それは「勉強を怠り、欠席の多い生徒、遅刻また問題行動の多いものなど」の分で、そのため
    に学校全体のテストのスコアを下げている生徒のリストアップであった。 そこで意図的に「成績の悪い生徒
    の分を除こうとしてのではないか」という疑念をもたれることになった。 しかし休暇に出かけて不在などの
    ため事実は未だ明らかではない。

    Pさんは一年半前から同校の校長であるがテストのスコアを上げるために大変、努力している。それは
    財政的な見返りも得られるし、学校の管理についての大幅な自由も認められるからである。 また
    通学区とその以外との境界線を定めるさい校長の権限が大幅に認められているので、この点を利用したの
    ではないかとみられている。 (資料:Miaami Herald 7/2/2003)

 2003. 7. 20記                  無断転載禁止