92. フィラデルフィア市のサマー・スクールなど


杉田 荘治

はじめに
   まずPhiliadelphia市教委ホームページから、これを見てみよう。その後、Philadelphia Inquire (7/3/2003)
   号の記事から、これを補足しておこう。

T フィラデルフィア市ホームページから
   われわれは連邦上院議員Arlen Spencerさんに感謝している。 彼が努力して2003年度のサマー・スクー
   ル計画のために1,400万ドル以上の予算を確保してくれ、さらに来年2004年度のためにも既に1,500万ドル
   を約束していてくれるからである。

   このSpencer助成金は大規模なサマー計画の費用の3/4以上にも相当し、46,000名にも及ぶ幼稚園への
   入学以前の児童から12年生までの子供に色々なすばらしいサマー・プログラムやキャンプを実施すること
   が出来るのである。従来から実施されてきたものの他に新しいプログラムもある。

   このサマー計画の最大なものは伝統的なプログラムで、その規模は4万人に及ぶもので、連邦レベルで
   リーディングや計算能力が劣る3年生から12年生の生徒に対する補充授業である。
   3年生から5年生までについては従来どおりFast Forwardプログラムとして10ヶ所で実施する。これは50ヶ
   所に分散して自学自習的な方法、インターネットを使って行ないます。

   新規なものとして、幼稚園に行けない子供1,500名のために教育を実施する。 また成績が最低10%以内の
   園児について補充授業を行なう。そのさいには健康面でもサポートし免疫予防やスクリーニングも行なうし、
   すべての参加者に朝食とランチが支給される。

   264校からの資質ある生徒のために特別のプログラムを新設します。 そのなかには民間経営方式の45校
   も含まれていますが、これを6月24日から始めて1週、4日、これを6週間つづけます。後述の一覧表を見てく
   ださい。

   身体不自由な1,000名の生徒たに対しては“学年の延長プログラム”を実施し、通常の学年(学期)について
   いけるように手に手をとるような教育を計画しています。それにはコミュニティ教委の協力も含まれています。

   放校されたり生徒行為規定にひどく違反した生徒、司法制度によって調整された後、教委に戻された者に
   たいしてオールタナティブ・サマープログラムを実施する。彼らは厳しいカウンセリングを受けることになる
   でしょう。

  スタッフ
   この計画には約2,600名の教員が必要ですが既に十分なスタッフは整っています。 勿論、教員にとっ
   てサマー・スクールで教えるかどうかは本人の自由ですが市内の学校から1,000名以上が喜んで参加して
   くれていますし、不足分は他の教委管内から、また大学生などの参加があるからです。 高校最上級生を助
   手としても採用します。(5/1日現在)
   さらにこの計画は15才から19才の若者1,000名に仕事を提供することにもなります。それはコミュニティの団体の
   リクリエーションサービスから指導するスタッフとして、それぞれの能力に応じて雇用しますが、彼らはこの
   経験を活かして“明日のリーダー”としての価値のある手腕を身につけることにもなるでしょう。

  以上のことを一覧にして再掲しておこう。

         2003年度フィラデルフィア市教委 サマー・プログラム

   プログラム
     学年
 参加人員       備考
 幼稚園キャンプ  幼稚園入学前から
 幼稚園児まで
 3,000名  幼稚園へ行けない
 児童1,500名については
 新設
 リーディングと数学の復習   3年生から8年生まで   35,000名   従来どおり
 数学、英語、生物、物理の補充    9年生と10年生   5,200名  従来どおり
 リーディング、文学、基礎数学   11年生と12年生   1,400名  従来どおり

         学力向上キャンプ

   プログラム  学年   参加人員       備考   
  設計とエンジニァリング   3年生から5年生まで    120名   新設 市内8ヶ所で  
  サマー・ロボットブログラム    6年生から9年生まで   150名   新設 選ばれた者
  7/1 - 7/31
  数学、理科、技術   6年生から9年生まで   200名   新設 10ヶ所で
  選ばれた者 7/7 - 7/17

         特別プログラム

 プログラム    生徒     人員        備考   
 特に劣っている生徒対象 
 インターネット使用
 早く追いつく必要生徒
 は総て 
 必要な生徒すべて   10:ヶ所が中心に
 なって 
 学期延長プラン  身体不自由生徒に活き
 る力を
  1,200名  各コミュニティ教委が
 中心
 オールタナティブ・サマー  放校、重大な違反行為、
 裁判所から調整された
 生徒
   600名   従来どおり

U Philadelphia Inquire (7/3/2003)号からの補足

   前述のフィラデルフィア市教委のサマー・スクールについてPhiladelphia Inquire (7/3)号がその様子を伝え
   ているので、以下その概要を述べておこう。

   三万人以上の市内の生徒かせサマー・スクールに登録されているが、彼らには休暇はない。
   今年のサマー・スクールは市の公立学校にとっては歴史始まって以来の最大規模のものである。 
   市教委の最高責任者のPaul G. Vallasさんは「標準テストで低い得点の生徒や欠席の多い生徒は出席しなけ
   ればならないし、さらにこの冬には大規模な放課後補充授業も始める」といっている。

  サマー・スクール
   全米的にみると、サマー・スクールは同じような趣旨で実施されてきたが、なかにはDenver市のように財源
   のカットを受けて計画が後戻りしたところもあった。 Philadelphia市も同様で1990年には25,000名の生徒に
   教育を施したが、その後、財源不足のため取りやめになっていた。 しかし1999年にはHornbec教育長によっ
   て復活したが12,000名規模以上にはならなかった。

   しかし今年は新しいプログラムは90ヶ所で実施され、連邦からの助成金も大きく寄与して、1,860万ドルも充て
   るような大規模のものになった。
   ○ 朝9時から午後4時まで   月曜日から木曜日まで  6週間
   ○ 1年生と2年生を除くすべての学年の生徒で、主要科目で失敗した者、または10月に実施した
     Terra Novaテスト、これは全米的なテストであるが、それで底辺から1/4の範囲内にある者。 従っ
     て約56,000名の生徒がサマー・スクールに出席する義務がある。
   ○ このスクールで、4日以上欠席すると単位はもらえない。
   ○ 100点満点で70点とこことが求められる。それは宿題、質問、出席状況、毎日の学習ぶりなどで
     評価される。選択科目は学年が進むにつれて多くなっているし、カリキュラムは標準化されたもの
     によっている。

  生徒
   サマー・スクールに通うことに生徒は結構、楽しんでいるように思われる。C校では幼稚園入学前の子供と3年
   生から8年生までの生徒がレッスンを受けているが彼らは「このようなクラスの人数も少なく一人一人に注意を
   払ってくれるようなレッスンは好きだ」とそれぞれ話している。
   例えば14才の少女は「ここでは他の学校より多く学べる」といい、9年生に進級しようと11名のクラスメートとと
   もにインかとマヤの文明について勉強していた。 幾人かは暑いことに少し不平を言っていたが、しかしどの部
   屋にもエアーコンディショナーか扇風機があった。

   母親の一人もサマー・スクールに満足している。 しかし中には住所の関係で歩いては通えないので、週30ドル
   かかる通学パス代を節約するために、9才の娘を学校まで送り迎えすることに少し不満である。

  効果
   サマー・スクールの効果については意見が分かれているが「実際に次ぎの学年(学期)に進んだとき、役に立
   つかどうか」であるが、余り効果的ではないとの意見もある。しかし通常の学校での質の良い授業に取って代
   わることはできないにせよ前述のような効果があることは否定できない。

  平素の学校の授業が大きく変った点
   昨年までは教員は自分のレッスンで独自の基準をつくってやっていたし学校によっても基準は異なっていたが、
   今年は違う。 市教委が3年生から8年生までの標準リーディングと標準数学を購入して、総ての生徒が同じ
   ようなレッスンを受け、共通の基準で評価されるようになった。この意識はサマー・スクールでも十分に働い
   ている。

コメント ご覧のとおり。 教育改革法施行以来、何とかして成績の悪い生徒の学力を押し上げようとする意気込み
     をサマー・プログラムでも見ることができる。

 2003. 8. 4記            無断転載禁止