
杉田 荘治
はじめに
   最近(2003年7月)、New York Times紙はアメリカのチャーター・スクールの現状について、『マンハッタン
   研究所』の研究レポートを紹介している。 この研究は全米的な分析としては初めてのものであるから、
   その意義は大きいが、ここでは、その記事と原典である同研究所のレポートから関係個所をとって、その
   概要を述べることにする。
T New York Times紙から   “チャーター・スクールは学力テストで成功している”
  1. 調査方法
   チャーター・スクールは36州とWashington D.Cにわたって全米で約2,700校あり,生徒数は約70万で
   あるが、そのうちの11州、600校が調査対象になった。 2000年から2002年にかけてのテストの得点を評
   価したが、このような調査は今回初めてである。
  2. 全体として
   ○ チャーター・スクールは伝統的な公立学校(ここでは通常校といっておこう)よりは、かなり良い
     成績を収めている。 同じような人口統計上の分類や地理的条件で両者を較べると、100区分
     の50位より数学では3ポイント上回っているし、リーディングでも2ポイント上回っている。
   ○ 彼らは諸規則から大幅な自由を得て、そのために生徒のニーズに応える教育を柔軟にやることがで
     きる。 州や連邦からの諸要求や会議などの時間を少なくすることができる。
   ○ 通常校より貧しい家庭の子や落第生など問題児を多くかかえているので、学力テストの結果を単純に
     比較することは公平とはいえないが、よく健闘している。
   ○ 彼らは自由な意志で意欲をもって奉仕することができる。 親も子供のために活き活きとした役割を果
     たしている。
   ○ 臨時免許状をもった教員が非常に多いし、財政的にも9分類のうち8分類までが通常校より少ない。
   ○ また次ぎのような人種差別的な問題も残されている。
    【註】この件についてはHarvard大學市民権プロジェクトの調査によれば、チャーター・スクールの生徒
       はマイノリティが90%以上のところでは70%の生徒が黒人である(同じ条件の通常校では34%)。
       この比率は例えばTexas州の場合、『教育改革センター』:Center
for Education Reform によれば、
       黒人、ヒスパニックで約78% である。
   ○ チャーター・スクールは歴史も浅く多くは3年、4年前に開校したもので青二才的な性格をもっているの
     のはやむをえないことである。
  参考 その他、Boston Globeも7/20号で、South Florida Sun-Sentinelも7/20号て゜「チャーター・
      スクールは成功している」と報じている。
U マンハッタン研究所のレポートから(関係部分)      Manhattan Institute
  1. 調査方法
   われわれは11州について調査した。 最初、Arizona, California, Florida,
Texas, Michigan, Wisconsin, Ohio,
   North Carolina, Minnesota, Pennsylvaniaを検討しその後、Illinois, New York, New Jersey, Indianaを加えて
   検討したが、データ‐の関係でNew York, Illinois, Indiana, Wisconsinからは十分なものが得られなかったの
   で除いた。
   11州からは十分な資料が得られた。 そのなかで、
    ○ ごく最近、開校したスクールは除いて、テストの得点で2年間の資料が得られるものに限った。
    ○ 電話による聞き取り調査をし、その後すべてのスクールを訪問した。
    ○ “危機にひんした生徒”、落第した生徒、芸術などで特に優れた能力をもつ生徒、特殊教育を受けて
      いる生徒も考慮した。
    【註】“危機にひんした若者”: at-risk youth とは危険な少年非行、薬物濫用、若い母親生徒、ずる休み、
        落第からの回復途中の生徒などを意味する。
    ○ 入学について優先的に取り扱われている生徒の有無や逆に不利になる生徒などについて考慮した。
    ○ モンテッソーリ教育法 やコンピューターを基礎にした教育で、特にそれを有利にしたりするような特別なス
      クールは除いた。
    【註】モンテソーリー教育法: Montessori systemとはイタリアの教育者であるMontssori
Mariaさんの特別
        な幼児教育
    ○ 狭い範囲に限定するような地方のスクールも除いた。
  2. 結論
   ○ チァーター・スクールが多くの人に積極的に奉仕し効果を挙げていることがわかった。しかもその
     効果は控えめなものである。
   ○ 第一にいえることは、多くの州の規則という制約から自由を得て、その分、生徒のためにより多くのエネ
     ルギーを注ぐことができる。そして生徒のニーズに柔軟に対応することができる。
   ○ 次ぎに学校選択による結果であるといえる。
     子供を自分たちが選んだ学校へ通わせることができることは、その学校の能力に応じて子供のニーズに
     合った教育を期待できるからである。この「学校選択」という要素は生徒を惹きつけ、刺激や動機を与え
     る力になっている。
   ○ また住所という制約がある公立学校とは異なり、チャーター・スクールは生徒をかっ取くしなければならな
     いが、このことが生徒のニーズに応えようとする力になるのである。
 
   ○ 次ぎに通常校より生徒一人当たりの銭が少ないということである。建設費ゃ維持費のような資産
     的費用を全く支給されないというところもあった。 しかしそのことがテストの結果にどの程度、影響を与
     えたかにつ いては証明できなかった。
   ○ 次ぎに依然として実質的な規則の制約が残っているということである。
     例えば多くの州では自治を認めているが、その代わりに特別な免除規定を適用している。例えば、カリ
     キュラムの選択についての制約、スタッフの任用や解雇、スクールの構成や学校財政などについてで
     ある。
   【参考】このことについてLos Angeles Times紙(2003 Mathews)は詳しく報じているが、チャーター・スクール
        を認可する過程で、また構成体についての条件を付けるなどのために革新的な意欲を失わせている。 
        また認可を与えた機関から監視されているし、そのような機関が定義を定め積極的に権限を行使する
        ので、スクール本来の独立性は限られたものになっている。それらの荷が全くなかったならば、学力
        を向上させるタイプも違ったものになるだろうと述べている。
   ○ 次ぎにチァーター・スクールの生徒も必ず州のテストを受けなければならないということである。
     従って州のカリキュラムを事実上、無視することはできず、スクールのカリキュラムの革新性がそがれる。
     しかし、SAT-9テストのような全米的なテストの場合は、広くスクールの生徒の成績を評価することが
    できる。
   【参考】SAT-9のテストの成績を記述しておこう。 Stanford Achievement Test 9th ed.
        http://www.manhattan-institute.org/html/ewp_01_appendix_table_2.htm
付録表2
| 州 | 数学 | リーディング | 調査件数 | 
| Arizona | 100区分で50位より +1ポイント | 同左 +1ポイント | 641と643 | 
| California | 同上 +2ポイント | 同上 +2ポイント | 175と174 | 
| Florida | 同上 +6ポイント | 同上 +3ポイント | 293と293 | 
| Texas | 同上 +7ポイント | 同上 +8ポイント | 319と319 | 
   ○ 最後に重要なことは彼らの歴史が浅いということである。圧倒的に浅い。もっと時間が経ち古くなれば、
     その成果はもっと印象的なものになろう。 調査に無作為指定もよかった。
 コメント さすがにマンハッタン研究所の調査だけあって、できるだけ客観的に分析し、見通している。失敗例は
     あろうが全米的にみて、浅い教職経験やスクール財政、資産などのハンディを乗り越えてチャー
     ター・スクールが健闘していることは確かなことであろう。
参考T  カリフォルニア大學Berkley News(2003.4. 8)号によるレポート
   チァーター・スクールについて同大學の研究成果を報告しているが、それも同じような内容である。
   ○ 1999-2000年度についてStanford大学と協同して調査した。
   ○ チァーター・スクールは平凡で安全でない公立学校に不満をもつ者に希望を与えた。
     48%のスタッフは正式教員免許状をもっていないし(通常校は9%)、その資産は貧弱であるが、よくやって
     いる。 毎日の授業についても通常校より、20%多く担当している。 また教員一人当たりの生徒数:ratio
     は30: 1で、これは通常校の約2倍である。
   ○ 1991年以来、今や36州にわたり2,600校以上あり、その生徒数は70万以上である。
   ○ 生徒は低所得層が、多い。 また公立学校で人種的に孤立している黒人が多くスクールに通って
     いる。  http://www.berkley.edu/news/media/releases/2003/04/08_charter.shtml
参考U 全米のチァーター・スクールの生徒の人種 % 連邦教育省2001年1月1日発表
| 州 | 白人% | 黒人% | ヒスパニック% | アジア系% |  アメリカン・インディアン アラスカ原住民%  | 
      その他% | 
| Araska | 70.7 | 2.6 | 2.6 | 1.6 | 22.4 | 0.1 | 
| Arizona | 55.1 | 7.8 | 23.4 | 1.3 | 12.1 | 0.4 | 
| California | 54.5 | 10.8 | 26.6 | 4.4 | 2.5 | 1.1 | 
| Colorado | 76.6 | 6.0 | 14.0 | 2.0 | 0.9 | 0.4 | 
| Delaware | 56.2 | 39.0 | 2.6 | 2.2 | 0.3 | 0.3 | 
| Florida | 48.8 | 40.3 | 9.6 | 0.5 | 0.2 | 0.6 | 
| Georgia | 69,6 | 23,4 | 3.4 | 2.4 | 0.2 | 1.3 | 
| Massachusetts | 58.0 | 20,1 | 13.8 | 2.0 | 1.1 | 4.2 | 
| Michigan | 50.0 | 41.4 | 4.6 | 0.8 | 2.1 | 1.1 | 
| Minnesota | 51.9 | 26.7 | 3.4 | 10.3 | 7.0 | 0.7 | 
| New Jersey | 20.6 | 62.1 | 13.5 | 1.3 | 0.1 | 0.6 | 
| North Carolina | 48.4 | 47.3 | 1.6 | 0.6 | 1.3 | 0.8 | 
| Pennsylvania | 25.1 | 59,1 | 13.8 | 1.8 | 0.0 | 0.1 | 
| Texas | 23.1 | 33,9 | 39.5 | 2.5 | 0.6 | 0.6 | 
  【註】この表には、その他9州が記載されているが上述のデーターで全米の傾向を知ることができよう。なお
    この表には全米の合計平均値は示されていない。また2001年のものであるが生徒の%は今と殆ど違って
    いないと思われる。Average of School Racial % Across Charter Schools
コメント
 ご覧のとおり最近の客観的なデータ‐や分析資料をまとめたものであるから、各分野で利用できよう。
 2003. 8. 15記