97. 12才の少年がシカゴ大學・医学スクールで順調に    学んでいる


杉田 荘治


はじめに
    Sho Yanoという名の12才の少年か゛今年(2003)8月にChicago大學医学スクールに入学し、順調
   に学んでいる。 以前、California州の11才の英才児の飛び級大學の件について『65. アメリカ・カリフォ
   ルニア州の英才児飛び級大学』として紹介した。 残念ながらそこでは法案は州知事によって拒否さ
   れたので実現しなかった。
    しかし今回の例はそれとは全く異なり、本人も順調に学んでいるし周囲も自然にこれを受け入れている。
   このことについてアメリカのメディアは最近一斉に報道しているが、そのうちBoston Globe/Associated
   Press(8/25/2003)号が最も詳しく、また要を得ているように思われるので、これを中心にしてその他、若干
   の記事を補足しながら紹介することにしよう。

 朝の光景
    彼のお母さんがターキー・サンドウィッチとクーキーを入れたランチボックスを褐色の紙鞄に入れながら「
   今日は骨はいらないの? 骨なし?」と静かで眼鏡を掛けた息子に尋ねている。 Sho君は「いらない」と
   アパートを出ながら首を振っている。彼は今日の解剖学の授業には背骨や頭蓋骨のサンプルはいらない
   と確信しているからである。
    このような若い生徒たちにとっての毎朝、家を出るときの光景は誰でも同じようなものであるが、一つだけ
   違っていることは彼は中学生ではなくて、既に大學を卒業して医学スクールへ通う学生であるという
   ことである。 彼はその専門コースの今までにない、最も若い学生である。

 彼の生活
    多くの子供たちは、この夏、キャンプやビーチで過ごしているが、彼は人の解剖用の死体を解剖したり、
   12ヶもある複雑な頭蓋の神経について学んでいる。しかも最初の幾つかのテストで“優”をとり、年長の
   クラスメートよりも良い履修振りである。
 
    最初はクラスメートたちは彼に対して用心深かった。 22才のLuka Pocivasekさんもそうであったが今や、
   彼と修士・博士コースの学生たちに大學が用意してくれている休憩所で生活を共にしながら打ち解けて
   いる。「彼は私の予想を遥かに越えて優れている。 初めは、恥ずかしがり屋で少し戸惑ったが、すぐ社会
   性にも富んだ奴だということがわかった。社会や政治についての問題意識も理解力も非常に鋭くて、よく
   観察している」と語っている。

    しかしある意味では、矢張り12才の少年である。 ペットとして兎を飼っているし、時には妹のSayuriとつ
   まらないことで口論するし、ハリー・ポッターのファンではないが、評判のブランアン・ジャックの「赤い壁の
   修道院」というベストセラーの本を熱心に読む少年である。 クラスメートたちも最も若い弟のように扱い、
   時々「恋人はできたか?」とからかっているが、しかし一緒に外出したり、バーや未成年者不適当映画へは
   行かないが、彼らの家で寛いでいる。

    このことをCNN EDUCATION(8/26/2003)号の記事から補足しておくと、クラスメートは「彼はよく気が
   つく。応える前によく考えるために間をおく。情緒的にも社会的にもよくわきまえている」と語り、病理学の
   教授のTony Montageさんも「時々、彼が他の生徒より年若いということを忘れさせるほどです」といってい
   る。  またその記事によれば、彼が3才の時、母親がショパンのワルツを教えようとしたが全く関心を示さ
   ず、汽車のおもちゃで遊んでいたので、彼女はいらいらして休憩するために台所へ行った。 しばらくして
   戻ってくると驚いたことに彼はそのワルツの一曲を弾いていた。

 彼の前歴
   彼はOregon州のPortland生まれであるが幼い頃はCalifornia州で過ごした。彼の父Katsuraさんは日本
  の船会社のアメリカ支店に勤めている。 Sho君は芸術を学ぶために韓国からやってきて今、大學の近くで
  母親と一緒に住んでいる。 母親の語るところによれば、小さい時から才能があり、4才で作曲し、7才まで
  に高校コースを履修してしまった。それから学校では彼に適応するものがなかったので親が直接、教えるこ
  とにした。

   8才までにSATT、Uテストで1,600満点のところ1,500点を取り、9才で大學へ入学した。 このことについ
  ては彼が学んだLoyola大學(シカゴ)の新聞:New Releaseが今年の4/22号で「彼は3年前にわが大學に
  入り、生物の部門で最優秀賞を得て、4月に卒業した。 この8月からChicago大學の医学スクールで学ぶ
  ことになろう」と報じている。 そしてIQの高いこと、社会性などの成熟度の高いこと、親は初めから彼に特
  権を与えないように要望したこと、また彼自身も在学中、はみ出さないように努力していたことなどの主任
  教授の談話も載せている。 とはいってもメディアの“呼び物”になり「60分放送」や韓国の映画会社が陰
  のようにつきまとっていたことも併せて報じている。

  【参考】SATテストは大學委員会が実施するテストで、多くの大學の入試には、それを受けてくることを必須
     要件にしている。SATUは専門科目であるが、SATTは広い意味での英語(Verbal)と数学である。
    Verbalは批評的なリィーディングのことで総合的な文章理解力、論理的思考力が問われる。 年7回
    実施多くの高校生は3年生(4年制の) または4年生で受けている。 なお各大学はこれらのスコアの他
    に、高校での記録、エッセイ、推薦書、面接、課外活動などの資料を併せて合否を決定している。
   付記
    ○ College Board Test,  SATT  3時間のテスト  英語と数学で200点〜800点満点
       前述のように多くの大學は受験のさいの要件としている。 数回受けることができる。
       本人の最終回の得点をみる。しかし前回がそれより良かった場合は、その得点が参考
       にされる。

    ○ SATU   1科目、一時間のテスト   配点多少差あり。 科目は次ぎの22科目。 
             多くの大學は1科目以上受けてくることを要件としている。
       Writing  Literature  U.S. History  World History  Math Level IC
       Math Level IIC  Biology E/M  Chemistry  Physics  French
       French with Listening  German  German with Listening  Spanish
       Spanish with Listening  Modern Hebrew  Italian  Latin  Japanese
       with Listening
  Korean with Listening  Chinese with Listening  
       English Language Proficiency Test

 彼の今後
    両親は「彼の人生は彼の望むように、彼のしたいようにさせる」と明言しているし、父親も仕事の関係
   で離れ離れになるが、彼の希望どおりにChicago大學へ進むことを許してくれた。 またメディアに会うこ
   とも彼自身に任せてあるが、数ヶ月前Oprah Winfreyのトークショーで「研究者や教授のような何か大き
   いことをしたい」と語った。 また最近「何か人を助ける仕事をしたい」と丁度、癌の治療をする時のような
   しぐさで、眼を少し広げながら話した。

    なおギネスブックによれば医学博士号をとった最年少者は、1995年にNew Yorkの医学スクールを卒
   業した17才の人であるが、彼は全くそのような記録には興味を持っておらず「神童だ」とか「極めて稀な
   天才」とかいわれることを嫌っている。 なお参考までに妹の7才のSayuriさんも才能が優れ、将来、心
   臓関係の学者になろうとしているとのことである。

 コメント ご覧のとおり12才の天才少年の話題であるが、社会性などの成熟度も高いので周囲に自然に
      受け入れられている。 「神童」とか「天才」とかいわれる人たちの問題点はその点にあるが、彼の
      場合はその心配はなさそうである。 わが国でも、このような「神童」はいるであろうが、今の学校
      教育制度や大學入試制度では如何ともし難い。 今後の課題の一つであろう。
      なお参考までに前述『65. アメリカ・カリフォルニア州の『英才児飛び級大学入学』法案 −わが国
     の場合は?』の【コメント】 わが国の場合を含めて、で述べたことであるが、その一部を再掲してお
     こう。すなわち、

     現行のように大学入学資格を18才またはそれ以上とすることは余りにも硬直的といわなけれな
    らないであろう。 もっとも極く一部で例外的に理数系の大学院を持つ大学について[一本釣り]のよう
    な飛び級入学が行なわれているが、これでは不十分である。 最近、文科省が指定する学校について、
    これを拡大する動きがあるが、[一本釣り]的な方法に留まっている。
     制度として広く高校2年生について、標準学力テストで高い得点を得た者に、その資格を与えるよ
    う施策されること望みたい。そのさい、現行の大学資格検定試験のレベルでは低すぎるので、別
    途施策されることが必要だと考えるが、このテストを都道府県教委に委ねることができないものだ
    ろうか。教員免許状も都道府県教委が発行し、全国的に通用する。 実際の採用には、都道府県が
    独自の採用試験によっているが、これと同じような考え方である。 全国一律の認定テストのみに、と
    らわれる必要はなかろう。  (この項は2002年8月28日記)

         2003. 9. 3記          無断転載禁止