98. 教員給料についてのギァラップ世論調査と   「指導力十分な教員」


杉田 荘治


はじめに
   アメリカの新教育改革法:NCLBは、2005-06年度の初めまでに、総ての教室に「指導力十分な
   教員」を配置することを各州や各地方教委に義務づけている。
   「指導力十分な教員」については次ぎの項で説明するが、主要科目についての免許状を持っている
   だけではなく、その指導力が十分にあると証明された教員のことであるが、このような良い教員を確保
   することはかなり困難であることをギァラップ世論調査の結果が示している。 まずここではその最大
   の原因である教員給料に関する部分を見てみよう。 次ぎに「指導力十分な教員」とはどんな教
   員のことかについて、最後に低学力校への配置の例について述べることにする。

T 教員給料についてのギァラップ世論調査  2003年8月20日発表 The 35th Annual Phi Delta
                Kappa/Gallup Poll of the Publics Attitudes Toward The Public Schools

        2003年%  1990年%  1985年%  1984年%  1983年%  1981年%  1969年%
教員給料は高すぎる      6      5      6      7      8     10      2
       低すぎる     59     50     33     37     35     29     33
      丁度よい     33     31     43     41     31     41     43
      わからない      2     14     18     15     26     20     22

  ○ 教員給料が「低すぎる」と答えた者が増えてきている。  従って別の表でも、教職をもっと魅力あ
    るものにするために「もっと引き上げるべき」と回答した者が65% あった。

 付記 学習評価の区分について
    生徒の学習成績区分については、ギァラップ世論調査(2003年度)によれば4段階が適当との意見
    が多い。すなわち、AとBとをくくって一つの段階とし、以下C, D, Fail とするものである。
    Advanced, Proficient, Not Improved, Failed とするような評価方法である。 すなわち、、
   AとB ...48%   A...11%   B...37%   C...31%   D...10%   Failed ...5%   分からない..6%

    なお、学校そのものの評価の方法についても、ほぼ同様な回答(世論)であった。

 【備考】ギァラップ調査は、どの項目につていも回答者が面接などを含めて1,500名から2,000名程度あるものを
    使用しているとのことであるから、その信頼度が高いのであろう。

U 指導力十分な教員: highly qualified teachers

   前述したように新教育改革法は総ての教室にhighly qualified teachersを配置することを求めて
   いる。資質の高い教員、資質に富んだ教員などと訳すことができようが、それでは抽象的すぎるの
   で具体的な定義や規定を見ることにするが、指導力が高い教員、指導力が十分ある教員の意味
   合いが強いので、以下「指導力十分な教員」として述べよう。

   しかし連邦教育省は、この定義を明示していない。 主要科目について、その能力が十分にあることを
   示す(demonstrate)ことができる教員であるとしているが、その肉付けは各州に任せている。 そのプラン
   は連邦に届け出ることを求めているが承認を得る必要はない。 従ってある州は厳格に定義づけ、ある
   州は緩やかに規定するなど混乱が見られる。

  各州の規定
   Stateline. org(7/11/2003)のページとEducation Week(9/10/2003)号から、そのポイントを述
   べよう。
  ○ Illinois州の場合  現職教員は有効な教員免許を持っていることと五つの選択から自分が選んだ
                領域について十分な能力があることを示すこと。新任教員については教科のテスト
                に合格し、大學での主要科目でメジャー修得またはそれ相当の証明があること。
                なお、後で詳述する。

   現在、10州が規定しているが、非利益団体でしかも超党派的な組織で、いろいろな教育関係の
   指導者も含めた全米教育委員会の資料を参考にしているので、それらの規定はほぼ同じと思わ
   れるが、そのなかでも特徴的な部分を下記しておこう。
  ○ Kansas州の場合   新任は免許を受けるさい、テストできめられた以上の得点を得ている者に限る。
                  また現職は四つの選択の一つで自分の指導力が十分であることを示すこと。
  ○ California州の場合  臨時免許状やテニァーを持たない現職を保護するために彼らに新しい資格を
                  得させるようにトレーニングすることにした。
  ○ Tennessee州の場合 現在教えている生徒の得点が高い教員については「指導力十分な教員」と認
                  定することにした。
  ○ Wisconsin州の場合  州が実施するオールタナティブ教員トレーニングに登録された教員は例外的
                   に「指導力十分な教員」とみなされる。
  ○ Alabama州の場合   ここ3年のうちに州のいろいろなテストで認定された現職の既特権を認める。

   このように各州は共通した規定と独自の規定とを併用させているが、ベテラン教員についての問題があ
   る。それは大學でのメジァーレベルでなくて長く自分の科目を教えている教員をどのように扱うかと
   いうことである。連邦政府は彼らも指導力が十分であることを示してみせる必要がある、としているが
   どのようなテストが適当であるかについては明かにしていない。
   そこで各州は全米教職基準委員会:National Board for Professional Teaching Standardsの得
   点を利用する方法が良いかもしれない。 3領域で満足であること、21単位になる課程ワークを履
   修すること、あるいは7学期コースを終了することなどか゛「指導力十分な教員」と合致しよう。  

         Illinois州の例       Illinois州教委 6/17/2003発表

   Illinois州での現職教員とは、2002年6月30日以前の同州で教員免許を取得した教員のことである。
   従ってそれ以降、取得した者は新任教員ということになる。
  ○ 現職教員が「指導力十分な教員」とされるには、
    有効な教員免許をもっているとともに、次ぎの五つのうちから一つ選択して、それに適合している
    とされること。 すなわち、
   @ 教えている領域について小学校教員/中等学校教員テストを受けて合格すること。
   A 教えている科目のメジャーレベルまたはそれ相当と認定されること。
   B 修士号または他の上級レベルと認定されること。 専門科目についても同レベルと認められること。
   C 全米教職基準委員会:National Board of Professional Teaching Standardによって認定されること。
   D 教職年数の長い教員については、その実績により州の最低基準を充たしていると認定されること。
     なお、このことについては後で補足する。

  ○ 新任教員が「指導力十分な教員」とされるには、
    テストに合格し具体的に指導力があることを示してみせること。 または修士号をもっているか他の上級
    レベルでの証明書、メジァーレベル相当との証明がある者。

  問題点 上記Dの教職経験の長い教員で、大學での専攻科目のメジァーを持っていない者について、
       連邦政府は「指導力が十分にある」ことを示してみせることを求めている。そのさいは前述のように
       全米教職基準委員会の定める3領域で満足であるか、21単位の課程ワークを修了するか、あるい
       は7学期コースを終了することがよいかもしれない。

      Title Tの連邦の交付金を受ける地方教委や学校について
   貧困家庭の多い地区や学校に対して連邦政府は特別の交付金を支給しているが、今後は「指導
   力十分な教員」を配置しなければならないようになる(2005 - 06年度の終わりまでに)。 
   この点について親もよく監視し、もし主要科目にあって4週間以上、そのような教員でない者によって授業
   が行なわれた場合には告知しなければならないとされた。 但し特殊教育については身体不自由児法など
   別の法律による。
  【コメント】この連邦の定めは関係教委や学校にとっては厳しいものになろう。なんとしてでも貧困層の
       地域の教育を押し上げようとしていることがわかるが果たして成功するであろうか。

V 低学力校へ「指導力十分な教員」を配置すること

   このことについて、Constra Costa Times(Walnut Creeky, Calif.)9/5号が一例を挙げているので、これを紹介
   しておこう。
   Tad ToomayさんはSan PobloにあるHelms中等学校へ最近採用された専門性の高い教員の一人である。
   彼は経験豊富で生徒にもよく気を配りギターを取り出して英語の授業で歌を歌いながら教えているが、生徒
   たちはうっとりしてこれを聞いている。 このように彼は音楽を巧く利用しながら英語の授業を進める。

   今年はHelms校のような低学力の学校でも良い教員を見出すことが大変容易になった。 Glenbroo校
   も同じような学校であるが「指導力十分な教員」が77%から87%に増えた。
  理由
   教員に対する特別ボーナスの支給や学生時代に貸与された奨学資金の減免措置が大きく働いている。
   そこで2年間勤務すれば13,500ドルのボーナスが支給されるし、例えば5年間勤務すれば5千ドルまでの
   減免が受けられるのである。 そこでPitsburg教委管内でも多くの志願者が低学力校へ喜んで希望するよう
   になり、93名の定員に対して1,000名以上の志願者があった。

   一方、「指導力の劣る教員」は排除されることにもなる。 Helms校の校長も「悪い教員はたとえ免許状を
   もっていても追い払う。彼らは授業プランにも気を配らないし、時には書きもしない」といっているが事実、最近
   8名が退職した。 このようにToomay校長は悪い教員を排除するとともに良い教員を探し、他の教育区で一時
   解雇された教員でも良い教員であれば採用しようとさえしている。「学校の文化、雰囲気を変える」と語っている。

  低学力校でも懸命な努力がなされているが予算カットとの懸念もあり、これを続けることの困難も予想さ
  れるように思われる。

 【コメント】ご覧のとおり。現職教員についてもすべて「指導力十分な教員」かどうかを再確認し、“悪い教
      員”を排除しようとする連邦の取り組みは大変なものである。しかしわが国教員給料のように全
      米的にこれを引き上げ、しかも低学力校や貧困家庭の多い地区の教員に対する特別な配慮を続
      けることができるかどうかも、厳しく問われることになろう。
      

 2003. 9. 14記           無断転載禁止