マイト2
赤い月が見下ろしている深夜の裏路地に、雷鳴が轟いた。
夜の闇に閉ざされてはいるが夜空には雲一つ無い。自然が喚んだ霹靂ではなかった。 その雷撃は彼の能力、サイキッカーハンター、マイトの能力。 雷の申し子は超能力者を見つけ次第、殺戮を重ねていた。それが何故だか彼には分からない。 彼の失われた記憶の中で、ただ一つ、名前と共にある彼の唯一の記憶。それはサイキッカーを狩る為の命令。 それは自分の使命、刃向かう事など思いも寄らない、悲しいさだめ。
今夜も彼は狩った。消炭と言うには余りに原形を留めていない 先程まで必死に抵抗していた少女のなれの果てに目をやっている。 彼女の短い生涯の最後に残ったのは人の来ない裏路地のアスファルトに付いた焦げ跡だけであった。
彼女に罪はない、罪があるのはマイトの方であろう。 しかし彼も苦しんでいる。しかし殺らねば自分が存在の意味が無くなる。 どうせならただ一撃で、苦しまないように殺したかった。
“殺さない”と言う選択は存在しなかった、出来なかった。 それが彼が“造られた”時に植え付けられた“本能”であるのだから。 しかし彼はそれを知らない、知る由も無い。実際知った所でどうしようもないのだ。 いつものように後味の悪さだけが残っていた。
「どうだい、マイト?」
ざっ、とっさに臨戦態勢にマイトは入る。サイキッカーの力は感じなかった。 しかし、人間でもない?気配も知らさずに自分の後ろを取るなんて並みの人間では出来ないはずだ。 いや、並みのサイキッカーと言うべきか。
「何者だ貴様!サイキッカーは全て斬る!」
マイトの、自らの悲痛さを切り離すがごとき啖呵も相手の姿を確認したとき、力を失った。 その姿は自らの写し身、その髪の毛、衣服にいたるまで瓜二つ。 しかし、自分よりも華奢であり、平たくあるべき胸元が軽く盛り上がっている。 腰のくびれもより美しく、エロティックに感じた。
マイト自身、本人は今まで意識したことが無かったが、改めて、 他人の顔としてみるとかなり美形であることを認識した。 それが女の顔だと、美人と言うに相応しいものであることに今更気が付いた。
今彼の前に居るのは、女、自分の女の姿。「君を慰めるために、ボクが贈られてきたんだ。」
女マイトは無邪気に微笑んだ。一瞬どきりと胸が高鳴ったが、マイトは警戒することを思い出す。
「何を言ってる!」
そう言いつつも、彼女のしなやかな女の線に目が離せない。 身の丈や体つきはほとんど彼と同じだった。
彼女は自らが付けているのと同じ肩当てを外し、ゴーグルを投げ捨てた。 間髪おかずに上着を脱ぎ去る。彼女の胸が、シャツの下からはちきれんばかりに女である事を主張している。 彼女のズボンが重力に従って地に落ちる。すらりとした足が露になった。
ほっそりとしているが決して痩せ過ぎず、適度に締まった挑発的な肉体が彼の前に無防備にあった。
「抱いて・・・良いんだよ。」
見とれていた隙を突いて、思ったよりも質感のある乳房が彼の胸板に押し付けられる。 自分の掌が彼女の手によって胸に導かれた。思わず握った指先に心地よい弾力が返ってくる。 彼の理性が後ずさりした。
衝動に任せて、震える乳房をもみしだく。女マイトはそれだけで狂おしい反応を示す。 身を打ち震わせ、声に艶が入る。吐息は次第に熱を帯びてきた。 その息を吸うように唇を合わせる。待っていたかの様に口を押し付ける。
彼女の息は甘い匂いがした。自分と同じ顔、それでいて柔らかだった。 舌を差し入れると、口の中でゆっくりと、それでいて深く深く戯れる。
「ああァん・・・」
嫌がるように顔を伏せて、ため息を漏らした。 彼女の瞳が潤んでいくのが神秘的に感じられた。瞳に、頬に、舌を這わせる。 マイトの顔にも同じように舌が這った。生暖かく、不思議な感覚を掘り起こしていく。
「この世界に・・・はぁ・・・送られ・・はっ・・・来たのは・・・ああっ・君だけじゃ・・・うぅっ」
「訳の分からん事を言うな。」
「はあんっ!」
切れ切れの言葉が喘ぎに挟まれる。自分自身が嬌態を演じているようで、マイトは複雑な気分であった。 男好きする締まった肉体。小猫のようにじゃれながら、雌豹のように隙が無い。 愛撫もそこそこに、野獣のように彼は彼女を押し倒す。
彼女から全てを剥ぎ取った。倒れても全く揺るがない丸い乳房に直に顔を埋める。 彼女の腕が頭を押さえつける。息が出来ない程、強く強く。痛くはない、むしろ心地よかった。 その間に、彼女のもう片方の腕がマイトの衣服を脱がしていった。 切なげに、彼の体をなぞる。体に電気が走った。
陰影の良く付いた身体が浮かぶ。白い肌と黒い影が交差する。 ぬぐっても止まらない汗がきらきらと踊る。その表裏の全てを彼は味わい、彼女もそれを享受する。 似ているからと言って同じではない。それでも、相手の秘密を自らの内に発見した気がした。 己の身体に潜む、性という秘密。
叢から男を引き付ける、若草の香りがする。マイトは狂ったようにそこに顔をうめた。 くすぐったそうに嫌がる彼女の太股を押さえつけ、彼はあらゆる攻めを試みる。 女マイトの下半身に熱気が篭り、小さな泉から愛のエキスが湧き出してくる。
「あああああああああんっ!あっあっあっあっッ!!」
耐えられなくなったのか、嬌声が上がる。小さなアクメに達したようだった。 マイトはため息を一つつき、彼女の様子を伺った。 挑発するような瞳の光は恍惚としたものに変わり、可愛らしさを感じさせた。 今の自分も、こんな表情なのかもしれない。愛しさを湛えて彼女を見つめる。
しかし彼自身の欲望は凝固しつつあった。 固く、そして狂おしいほど熱くなる自らを持て余す。 花弁を何度かなぞるとひくひくと可憐に痙攣した。そのまま深く、挿れる。 ぬるり、良く濡れたそこは優しく、それでも貪欲に彼のこわばりを吸い込んだ。
「あん、あん、あん、あん、あん、ああん、あああん、」
マイトの腰がゆれるたび、同じペースで吐息が漏れる。 熱が冷たさに取って代わる、そして同じ温度に馴染んでいく。次第に早く、そしてゆっくりと。 運動は新たな熱を産み、互いの肉体を火照らせた。
「ああっ、上手いっっ、気持ちいいよぉっ。いイっ。いいよぉッ!」
息を詰まらせながら女マイトは体を押し付ける。腰を遊ばせる。 マイトは柔らかな肢体に食らいついた。残された理性を保つために。 少しでも気を抜くと果ててしまいそうな、危うい遊戯が始まった。 楽しみは長い方が良い、お互いに焦らし、そして責めぎあう。
「あああああああああんっ!あっあっあっあっッ!! くぅっ!」
マイトの眉間が深く刻まれる。苦悩に近い感覚が溢れるほどの快楽と混ざっている。 一瞬後、全てが投げ出されるだろう。その寸前まで、ぎりぎりまで絶頂を引き伸ばす。 何処が自分の限界か、二人とも分かっていた。不思議なほど、それは一致していた。 お互いのタガが外れる瞬間、マイトは唸った。
「ああっ、いいッ!死んじゃうっ死ヌっ!!ああンあああっ!イクぅッっ!!!!!!!」
彼女の叫びは耳には届かなかった。自分も何を叫んだか分からないだろう。 とめどないうねりが2人を包んでいく。白濁した混沌が渦を巻いた。 意識が細い糸になって、絡み、もつれる。 マイトは自分が抱いているのか抱かれているのか、肉体の区別がつかなくなった。
彼らは確実にその時、一つに戻っていた。
「もう行くのか?」しばらく、二人は動けなかった。心地よいけだるさに身を任せ、余韻に酔っていた。 しかし、程なく女マイトの方が、服を拾いはじめた。声をかけられ、ふと彼の方を向く。
「自分でもよく分からない・・・何故君を狩ろうと思わなかったのだろう。」
どうして抱いてしまったのだろう、言わなかったがそのことが一番気になった。 女子供でも容赦しない自分。当然、いちいち性欲の処理をする訳でない。獲物は狩る、それだけだった。
「覚えていて、君は君だけじゃないって事。」
にこりと、彼女は笑った。マイトは言葉の意味は理解できなかったが、なんとなく納得した。 同族、そんな言葉が頭を過ぎった。そして、闇に消えていく彼女を惜しいとも愛しいとも思わず、 何の感情も無しに見送った。